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諭吉佳作/menインタビュー 2枚の初CD作品をきっかけに、「感覚的にデジタルを乗りこなす」制作スタイルにせまる

2003年生まれ音楽家・諭吉佳作/men。インターネット上で発表される、音と歌詞が意味を越えて一体となる音楽は瞬く間に注目を集め、気鋭の音楽家として注目を集めるようになった。でんぱ組.incへの楽曲提供、テレビ出演などでも話題となった諭吉佳作/menが5月26日にリリースしたのは、初のEP作品『からだポータブル』と『放るアソート』の2作。ソロ楽曲集とコラボ楽曲集の2作同時発売をした気鋭の音楽家に、音楽を通して言葉を操り、また他人とつながるようになるまでの道のりや楽曲制作について話を聞いた。

楽器の演奏が得意でないからこその表現形態

諭吉さんが音楽をはじめたきっかけについて教えてください。

最初はただ歌うのが好きだったんです。それで、小学校6年生くらいのときに「音楽も作ってみるか」と思い作曲を始めました。ただ、そのときはDTMとかではなくて、少しピアノをやっていたので、なんとなく弾きながら歌って作ったものを、iPhoneのボイスメモとかに誰に聴かせるわけでもなく録っておくという感じで。そこから、中学二年くらいの時に音楽をちゃんとやりたいなって思うようになって、母がiPhoneのGarageBandを見つけてくれたので、それを使うようになってからはトラックもちゃんと作るようになっていったという感じです。

「歌うのが好き」というところから曲を作ろうという動きになったんですね。既存の曲を歌って満足するのではなく。

歌うこと自体は別に他人の曲でもよかったし、実際に他の人の曲を歌うためにカラオケによく行っていたときもありました。でも音楽に限らず、例えばアクセサリーだったり、自分が好きで身に着けたり使ったりする物は自分で作りたいという感覚が昔からあって。それと同じような感覚で軽い気持ちで音楽を作り始めたんだと思います。

音楽活動のきっかけとしてはオーディションを受けたことだったそうですね。

そうですね。そんなに深く考えていなかったんですけど、地元でオーディションがあるからと母が教えてくれて。そのために楽器をいちから他人に披露できるようになるまで頑張るよりは、DTMの方が早いんじゃないかなという軽い考えでGarageBandを使いはじめました。

では、楽器経験としては少しピアノをやっていた程度なんですか?

はい。ピアノをやっていたのと、あとはドラムも小学校高学年……記憶があいまいなんですけど、そのくらいにはやってはいました。でも、特にピアノは練習が本当に嫌いで。楽譜があまり読めるようにならなくて、全然練習もしないから上達もしないし、ずっと簡単なのを弾いているみたいな状態でしたね。

予備知識なしでGarageBandを扱うのは苦戦しませんでしたか。

例えば、新しいゲームやそのソフトを買ったとき、説明書がついていてもあまり読まないじゃないですか。ゲームも最初はそんなにできないし、なんとなく覚えていく段階がある。それと同じような感じで、なんとなく触りながら覚えていくみたいな感じでした。iPhone自体は(作曲以外の用途で)使えるから、感覚的に覚えていくみたいなことをしていたんだと思います。

楽器ができてしまうと、「弾いたほうが早い」となりがちですし、今の諭吉さんの音楽のようにはならなかったかもしれないですね。

そうですね。崎山蒼志さんとそういう話をしたことがあるんですけど、崎山さんはギターを弾きながら作っているから、自分の動きの癖とかもあったりするっておっしゃっていたんですよ。自分にも、体の動きを介さないような癖はたくさんあると思うんですけど、なにも考えずに音を探すところから始めていて、毎回打ち込んで、それを聴いてみるところからはじまるので。そもそも楽器ができていたら、こんなに音楽を続けていたかわからないですしね。弾き語りとかができるんだったら、作る音楽も全然違っていたと思うし。

ちなみに、最近はパソコンも導入されたということでしたが。

MacとLogicですね。単純に画面が大きくなったというのはあるんですけど、そんなに感覚自体に変化はなくて。割とグラデーションで来たな、という感じです。

楽曲を作るときのアイデアは、どこから浮かんでくるんですか。

自然に出てきたなというときと、パソコンを開いてソフトを開いて、とりあえず楽器を選んで、めちゃくちゃひねり出したなというときと両方あって。いずれにしても、「アイデアをもとに曲を作る」というものではないのかもしれないです。日頃から楽曲に関するネタを集めてとかもないし……好きな言葉を書き留めておいたりはするんですけど。

軌道に乗り始めたら自分の好きな展開のさせ方だったり、癖みたいなものの流れだったりで作れるんですが、他人の曲を聴いてなにか思いつくというわけではないし、音楽じゃない、例えば映画を観てなにか思いつくというのも経験としてはなくて。もしかしたら自分が気付いていないだけであるのかもしれないですけどね。

抑揚に合わせて言葉を選ぶ作詞方法

今回初のCDリリースということですが、配信のみで楽曲を発表することとの違いを感じることはありましたか。

単純にモノが好きで、CDを作りたいなという気持ちがすごくあったんです。音楽ってそれ自体はモノではないわけだから、絶対にCDじゃなきゃいけないとは思わないですし、CDがずっと後世に続いてほしいみたいな強い信念があるかといったらそうでもないんですけど……単純にモノとしての満足感というか、かわいい、おもしろいみたいな気持ちは他人のCDにも感じていて。それが自分の作品でも実際にできて「やった」という感じです。

今回発売した2枚のCDに収録されている楽曲の中で、お気に入りだったり、思い出深かったりする曲はありますか。

うーん。「くる」は単純に一番最近作ったので、なにを考えていたか他の曲よりは覚えているというのはあるんですけど、どの曲も作ってしまったらあまり自分ごとではなくなってしまうというか、なにも覚えていなかったりするんですよね。

ではそういう風に、いわば無意識的にできた曲を聴き返してみると、ご自分ではどういう風に感じますか。

作っているときも感覚とか勢いみたいなところが結構大きくて、転調とかもやりたくなったらやる、というところがあるんです。それに作り終えて通しで聴ける状態になると、すべての音が設定された音量で一緒に聞こえてくるから、すごく自然なものに思える。例えば「ずっと4拍子できたけど、そこに2拍子が挟まって一区切りついている」みたいな展開があったとしても、そんなに意識してやったことだと自分ではあまり思えないんです。

けどプロジェクトファイルを開いてみると、「ここでわざわざ2拍子の設定にしてるということは、ここで切り替えるぞって思いながら作ってたんだな」と思うんですよね。

視覚的に確認することで、客観視できるということですよね。そこで得た気づきが次の制作にいかされることはありますか。

作っているときは「無茶なことしてるかもな」と思いながら作っていたけど、終わってから聴いてみたらそれがいいスパイスになってるなと感じたりすることはあって。「今度からは結構やっちゃっていいんだな」みたいに思うきっかけにはなっていますね。

いろいろなクリエイターの方の制作についての話を聞くと、いかに手癖から自由になれるかというところで皆さん試行錯誤されていて。諭吉さん的にはいかに手癖から自由になるか、ということで気をつけていることはありますか。

逆に自分には「癖しかない」というか、全部癖でやってしまっているなと思っていて。いろんな方がおっしゃっているのって、自分が考え出したわけではない理論というのが前提としてあって、その上でどう新しいものをつくったり加えたりしていくかという話なのかなと思うんですけど、自分にはその理論の土台の部分がほとんどないし、自分の感覚とか好き嫌いとかでしか曲を作ったことがないんです。自分が知らないだけで、癖だと思っているものに理論として名前がついていたりもすると思うんですが。

なので、むしろ癖がだんだん更新されたりだとか、「癖の種類が増える」みたいなことなのかなと。もちろん「これ、前に同じことやったな」って思っちゃうし、同じことをやろうとは思わないんですけど、あまり「前と違うことをやらなきゃ」みたいなことを思っては作っていないかもしれないですね。

普段はどのような順序で楽曲制作を進めていくんですか。

最近はトラックから作り始めて、メロディを乗せてみて、そのあとメロディに歌詞を載せてみるという順番が多いですね。

言葉が一番最後なんですね。

そうですね。昔は言葉先行だったんですけど、最近はメロディのリズムや抑揚に沿って言葉を載せる方が自分の中で自然になってきました。

いまおっしゃったようなことも含め、諭吉さんの楽曲は言葉の選び方が意味ありきじゃないところがあると思うんです。音楽にとって言葉はどのような存在だと考えますか。

最近は本当に、言葉を音で捉えているというか。例えば(机の上に置かれたものを指しながら)ペットボトルだったら、「水を入れるもの」とかっていう情報は抜きにして、ただ「ペットボトル」という言葉の響きを組み込んでいることが多いですね。自分は単語と単語の間になんの関連性もないし、文章になっているのか、なっていないのかもわからないといった歌詞の書き方もしていると思うんですけど、音になってリズムがある中だと、意味合いとしては繋がっていないかもしれないけど、なんとなく成り立っているように感じられる……音によって関連させられる、みたいなことがあると思っていて。最近はそういう捉え方で歌詞を書いていると思います。

なるほど。ちなみに、諭吉さん的に響きが気持ちいい単語ってありますか。

とっさには思いつかないですね(笑)。でも、それこそ「ペットボトル」とかは好きですね。小さい「っ」の位置とか、「わ・を・ん」の「ん」の位置とか……自分の中で形式ができているというか、こういうリズムのときは絶対にここに「ん」を入れなきゃいけない、みたいな感覚が出来上がってきていて。例えばこうやって取材で話しているときも、言いたいことを正確に伝えるために言語を選ぶということもありますけど、やっぱりなんとなく好きな言葉があったりもしますし。

文芸誌などで文章も発表されていますが、音ありきの歌詞の書き方をしている諭吉さんにとって、文章とはどいう表現のツールなんですか。

元々文章を書くのがすごく好きで。普段から結構長々とiPhoneのメモに書いたり、ブログも上げたりするんですけど、言いたいことが明確にあるなら音楽ではなくて文章でいいやって思うことも結構あって。

ただ、他人の文章でも、口に出して読むことが多いんです。なので自分が文章を書くときもリズムを意識しているかもしれないですね。なにか使いたい言葉があっても、ここはこのぐらいのリズムで切った方が気持ちいいからこの言葉を使うのはやめよう、みたいなことがあるかもしれないです。

句読点とかの位置も重要になりますよね。

そうですね。単純に文章が伝わるようにというのもあるけど、「ここに句読点がついていた方が気持ちいいな」というのもありますね。

自分のための楽曲でないからこその距離感

『放るアソート』では様々な音楽家とコラボしていますが、それぞれどのように繋がった人たちなんですか。

崎山さんは地元(静岡)が同じなのでそれで出会っていて、根本凪さんはそれ以前にでんぱ組.incさんに楽曲提供をさせていただいて以来のご縁なんですけど、そのほかの繋がりとしてはインターネットが多いですね。abelestさんは最初にTwitterのDMで声をかけていただいて、曲を聴いて「なんとなく知ってる人」みたいな感じになったときに、一緒に曲を作りませんかって声をかけていただいて。直接会った人としか曲を作れなかったら、もっとジャンルも狭かったかもしれないし、ネットを介した繋がりだからこそ、いろんな人と作れて、いろんな方向の曲ができているなと思います。

楽曲提供をされる際と、ご自身の曲を作るときとの気持ちの違いはあるんでしょうか。

提供させていただく場合は、相手の普段のやり方があったり、テーマを与えてもらったりということもありますし、そもそも歌うのが自分じゃないというのもあります。なので自分の曲の雰囲気も入れつつ、なんとなくバランスを取りたいと自分では思っています。例えばでんぱ組.incさんに曲を書かせていただいたときは、自分の感じを出しつつ、なんとなくでんぱ組.incさんが踊って歌うことを想像して作ったりはしていて。でんぱ組.incさんを通して発信できる言葉みたいなものもあると思っているので、そういうところは考えたりもしました。

自分一人で作るときは、本当に自分の好きなようにやっているだけですし、歌詞も、メッセージっぽいものを書いたとしても自分がすごく伝えたいと思っているわけではなくて、受け取った人がなにか感じてくれたらいいなくらいの距離感で作っています。

コラボのときはどうですか。

『放るアソート』に収録されている曲のコラボは、自分が作詞作曲をしているものもあれば、分担しているものもあったり、編曲もしていたりしていなかったりするので、曲によって感覚は違いますね。

歌詞については、「こういうことについて書きましょう」というときもあれば、そうじゃないときもあって。abelestさんとの「動く物の園」は、前作(Maltine Recordsからリリースの「運動」)からテーマに制約がある中での作詞で、その続きみたいな曲を書きましょうというところから始まっていたので、「こういうことだよね」とすり合わせる時間が結構ありました。崎山さんとの「むげん・」とかAFRO PARKERさんとの「Lucid Dream」とかは先にテーマがあった感じで。歌詞も共作だったので、意識を共有する言葉のやり取りもありましたね。

今後、コラボや楽曲提供で挑戦したいジャンルはありますか。

ジャンルとかも実はあまりわからなくて。ただすごくわかりやすいところで言うと、ラップはちょっとやってみたいなと思いますね。一人だとあまりやらないかもしれないんですけど、コラボで巻き込まれるような形ならやれるんじゃないかな、と。

先ほどおっしゃっていた、小さい「っ」の位置、言葉のリズム感のお話もラップと通じるところがありますね。

そうですね。ラップのやり方と近いことをやっているのかもしれないと思うことは自分でもあります。

この先、活動する上での目標や挑戦したいことなどを教えてください。

自分の曲はもちろん作りたいし、コラボや楽曲提供もちょくちょくやれたらいいのかなと思っています。いろいろなことをやれたらいいなと。

今はご時世的に難しいかもしれないですけど、ライブ活動とかも?

そうですね、いずれはやれたらいいのかな。でも、これまで自分だけしか出演しないライブってやったことがないし、基本的に舞台の上でやっていることって歌うことだけだったんです。自分がライブをするということはどういうことなのかずっと考えているんですけど、まだ答えが出ないですね。

Interview & Text:村上麗奈

プロフィール

諭吉佳作/men
2003年生まれの音楽家。
2018 年、中学生の時に出場した「未確認フェスティバル」で審査員特別賞を受賞。
iPhoneのみで楽曲制作をスタートし、次世代の新しい感覚で生み出される唯一無二の楽曲センスと、艶のある伸やかな歌声で注目を集める。インディーズバンド音楽配信サイト「Eggs」では年間ランキング2位を獲得。
2019年、崎山蒼志とのコラボレーション楽曲「むげん・(with 諭吉佳作 /men)」は 90万再生を突破。
でんぱ組.inc へ「形而上学的、魔法」「もしもし、インターネット」の楽曲提供を行い話題に。
2020 年、日本テレビ「マツコ会議」や E テレ「前山田 × 体育のワンルーム☆ミュージック」などテレビへの出演、雑誌「文學界」や「ユリイカ」への寄稿。
2021 年、坂元裕二朗読劇 2021「忘れえぬ、忘れえぬ」の主題歌およびサウンドトラックを担当。
音楽活動以外にも、執筆活動やイラストレーションなどクリエイテ ィブの幅は多岐にわたる。

リリース情報

『からだポータブル』

  1. ムーヴ
  2. まま
  3. ショック
  4. 外B
  5. この星にされる
  6. くる
  7. はなしかたのなか (坂元裕二 朗読劇2021主題歌)
  8. 撫で肩の…………

TFCC-86756 定価:¥2,200(税抜価格 ¥2,000)

『放るアソート』

  1. 「動く物の園」
    abelest + 諭吉佳作/men
  2. 「巣食いのて」
    長谷川白紙 + 諭吉佳作/men
  3. 「むげん・ (with 諭吉佳作/men)」
    崎山蒼志
  4. 「Lucid Dream feat.諭吉佳作/men」
    AFRO PARKER
  5. 「たべられる♡/たべられない?」
    ミドルエステート(根本凪+諭吉佳作/men)
  6. 「すなばピクニック」
    Kabanagu + 諭吉佳作/men

TFCC-86757 定価:¥2,200(税抜価格 ¥2,000)

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