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「ファンの97%が海外」! 劇伴作家・林ゆうきが語る「海外ファンベースを強くする方法」と「チームでの音楽制作」(インタビュー後編)

『僕のヒーローアカデミア』、『ハイキュー!!』、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』、『プリキュア』シリーズ(2017〜2019年)、『ガンダムビルドファイターズ』といったアニメ作品、『ストロベリーナイト』、『リーガル・ハイ』、連続テレビ小説『あさが来た』、『あなたの番です』といったテレビドラマなど、多数の劇伴音楽を手掛ける林ゆうきさん。

作家として多忙を極める中、Twitterやnoteなどの個人メディア、Spotify for Artistsなどミュージシャン向けの分析ツールも駆使して積極的にファンに向けた情報発信をされているほか、最近ではTuneCoreを使い、自主原盤の作品の配信にも取り組まれています。

「Spotifyのフォロワーの97%が海外のファン」など驚くべきデータを教えていただいた今回のインタビュー。日本で活動しながら海外にアピールしていくためのヒントも満載の内容となりました。

後編ではリモート・レコーディングの日々によって気づかされた、「チームでの音楽制作」と各種テクノロジーの相性のよさ、作家業を続けながら海外のファンベースを強化する戦略とアイデアなどについて教えていただきました。

▼前編はこちら▼

テクノロジーが加速させるチームでの音楽制作

今回お邪魔させていただいているスタジオには色々な物が置いてありますね。

「もっとガチガチに防音したら?」と言われることもあるんですけど、自分が楽しいなと思えることを追求したほうがいいなと思って……秘密基地みたいにしたかったんですよね。

林ゆうきさんのスタジオ

なるほど。

もちろんケーブル周りを整えたりはしていますし、あとはハリウッドでのマクロの組み方や、どういう機材を使っているかなどの情報を教えてくれる人を探して、オンラインレッスンを受けたりはしています。日本の劇伴制作に完璧にフィットするかというとそうでもないんですけど、知ると知らないとでは全然違うと思うので。

機材回りはシンプルにしつつ、楽しく制作できることを重視されているわけですね。

そうですね。エンジニアさんに渡す前の最低限のミックスとかはできたらと思うんですけど……機材系にはあまり興味がないんですよ(笑)。それより快適に作れることを優先するというか。

(作曲家の)横山克くんはワーケーションの先駆けみたいな人なので、よくリモート・レコーディングならぬリゾート・レコーディングをやっていますね。今は状況もあって海外に行けないから多分辛いんだろうなと思いますが(笑)、楽しく仕事をするって全然良いことだと思うんですよ。

アシスタントの方とチームで制作されているということで、作業工程について詳しく教えてください。

例えば僕がメロディーを作って、「こうやっておいて」とディレクションして、出来上がったものに対してさらにディレクションをしながら詰めていく……といった流れです。

人に委ねられるところは委ねて、その間に原作をもう一度読んでみたり、メロディを見直したり、「この曲とこの曲は似通っているから、こっちはギターじゃなくてピアノにしよう」と全体のバランスを取ったり……チームで制作するようになって、自分が集中すべきところを限定して選べるようになりました。

自粛期間中は、どのように作業をされていたのでしょうか。

リズム録りを含めAudiomoversのLISTENTOを使って、Zoomも併用しつつ各々の家にいながら作業をしました。画面共有をしていればリモートでアシスタントの画面を操作することもできるので、向こうで鳴っている音を聴きながら向こうのパソコンを動かして作ることができたり。チームで制作する自分のような場合には、リモートは凄く良いなと思いました。

あとZoomが浸透して嬉しかったのは、打ち合わせに行かなくて良くなったこと(笑)。「打ち合わせに行く1時間で何曲作れるんだろう?」とか思っていたこともあったので。ファイルのやり取りもできるし、子供が後ろで遊んでいる時でも打ち合わせできますからね。

ただ、音声や画像が悪くて表情が伝わらなかったり、ニュアンスが分からなかったりといった問題はあるので、そこは一眼のウェブカメラを買ったり、音声をコンデンサーマイクで投げるようにしたり、そういった工夫はきちんとしないとなと思いました。5Gが普及すればより快適になるんでしょうね。

外に出られない日々が続く中、気をつけられていたことはありますか?

僕らの仕事ってずっと夏休みで何してもいいけど、宿題の提出期限は決まっている、みたいな感じなので、普段から気をつけていることになるんですけど、欲望との戦い方を工夫するということですね。

例えばFreedomというソフトがあるんですけど、時間を指定するとインターネットを一切遮断してくれるんです。Freedomとは皮肉な名前ですけど、SNSなどの魔の手を断ち切ってくれるのでオススメです(笑)。

その日やるべきことなどのスケジュールを組んだ上で作業に取り掛かるタイプですか?

そうですね。なんとなく朝やることを決めて、あとはポモドーロ・テクニック……25分集中して5分休憩を続ける、みたいな感じでやっています。

徹夜したりといったことはなく。

子供が産まれてからは全くすることがなくなりました。子供は大人の言うことを聞いてくれないので(笑)。早寝早起きになりましたし、子供が寝ている間に作業を進めたり、静かな時に集中的にクリエイティブな作業をしたり。スタジオの後ろのスペースでワチャワチャしている時は、事務作業をしたり、明日やることについてまとめたり……タイムスケジュールの作り方が上手くなりましたね。独り暮らしで深夜まで起きて仕事をしていた頃より全然効率的になったと思います。

ポジティブな変化があったんですね。

結果的にそうなりましたね。アシスタントを入れてのやり方に切り替えたのも、仕事量が増えてきたタイミングで「いままでのやり方で仕事をしていたら、体調を壊すか家族に影響が出てしまう」と思ったからなんです。

「自分ひとりで、こだわって作っている」と言うと聞こえがいいけど、踏み込み過ぎてしまっているということがあったんですよね。全体を見て、いま最も時間を使うべきことは何かを俯瞰で捉える意識を持たないといけないと思って、数年前にガラっと切り替えたんです。
そのおかげでいま子供と一緒に普通に過ごせているし、メンタルヘルスも保てているんだと思います。

アイデアを生むためのインプットについてはどのように工夫されていますか。

例えば朝、犬と散歩する時にSpotifyで新しい音楽に触れてみたり、あと移動は基本的に全部タクシーを使うようにして、インプットの時間を作っていますね。

徹底されていますね……!

電車で「乗り過ごさないようにしないとな」と思いながら音楽を聴いたり本を読んだりするのが苦手なんですよ(笑)。移動している間にインプットの時間を作らないと他に使える時間がないので、そういうスキマ時間をどう使うか意識しています。

劇伴作家の林ゆうきさん

Spotifyで新しい音楽を探す際、特に活用されているプレイリストはありますか?

Discover系のプレイリストで新しい音楽を聴いたりします。ストリーミング・サービスが使えるようになって、リファレンス曲を探しやすくなりましたよね。

ただ一個悩みもあって。Spotifyでは、オススメの曲の通知が来るじゃないですか。その時に少しダークな作品に関わっていたりすると、仕事でダークなリファレンス曲を探したりしているので、プライベートでもダークな曲を薦められて(笑)。プライベートで聴きたい曲と仕事上で聴きたい曲と、切り替えられると良いんですけどね。

ファンの97%が海外!

Twitterやnoteなどを使いながら、ご自身で積極的に情報を発信されていらっしゃいますよね。

ファンの人に喜んでもらいたいというのが根底にありつつ、海外に向けたセルフ・プロデュースも兼ねているんです。Spotify for Artistsで見ると分かるんですけど、僕のファンの97%が海外の人なんですよ。なのでCDのブックレットに情報を載せるよりも、SNSで海外のメディアで見てもらえるような情報の出し方をしたほうが良いなと思うようになって。

過去の作品をサブスクリプションで聴けるように、レーベルにお願いして解禁してもらったりもしています。そうすれば海外のファンの人も嬉しいし、解禁された作品から過去作も聴いてみようと思ってくれたり、プレイリストに入って継続的に聴かれることもありますし。それが結局出版社やレーベルの収入にもなるんだから、悪いことはないでしょうと。

noteの記事には英語で書かれているものもありますね。

あれは、作品愛の凄いファンの人が好意で勝手に翻訳してくれているのを掲載させていただいてます。本当にありがたいですね。

この間アシスタントをSNSで募集したときも、60~70人ほどの応募者のうち3分の2ぐらいが海外の人だったんですよ。もしアシスタントで海外の人に入ってもらったとして、そうするとディレクションとか説明を英語でせざるを得ない。そうしたら英語も覚えられるのではと思い始めています(笑)。

海外のファンが多い理由は、やはりアニメの音楽を手がけられているということが大きいですか。

そうですね。最初はSpotifyの再生数も全然伸びていなかったんですよ。でも海外で人気がある『僕のヒーローアカデミア』と『ハイキュー!! 』の音楽がストリーミング解禁された時に、Spotify for Artistsで見れるフォロワーの数値がバーンと跳ね上がった。

日本のアニメコンテンツの音楽をやらせてもらっていて、海外の人に知られているというのは凄く貴重なことだと思います。言語の問題がないインストの劇伴で、作品と一緒に海外に出られるチャンスがあるんだったら、それを生かさない手はないなと。こんなに海外の人が喜んでくれるものを作れているんだったら、曲を作ることは当たり前として、もっと楽しんでもらえるコンテンツの提供の仕方を考えたほうが良いなと思うようになったんです。

Spotify for Artistsの数値以外で、海外ファンの熱量を感じることはありますか。

YouTubeを覗くと、自分の作った曲が使われたUGC作品(ファンベースで制作される二次創作の動画など)が物凄い数あるのがわかります。

Boku no Hero Academia – Hero Too(権利処理済み)

でも、そういう作品の中には何千万回と再生されているものもあるのに、権利処理が全くされていなくて、作家の収入には繋がっていないというケースも多いんですね。そこで音楽出版社に管理の方法を変えることを提案してみたりもしています。どこが管理の実務を担当しているのか、JASRACなのか、NexToneなのかでも収入が変わってくると思いますから。

作り手として、出版社に直接働きかけていらっしゃるんですね。

新しい曲を作るのも大事ですけど、同じくらい権利処理も大事だなと思っていて。新しい作品を作って100万円もらえますというのと、過去作品で同じく100万円もらえますというのを比較した場合、労力が全然違うのに同じ額をもらえるということですよね。過去作品の権利で得た収入で、新しい作品を予算かけて作れたりもする。いわば、作品の権利でお仕事ができているとも言えるわけで、ちゃんと勉強したいなと。

なるほど。

海外のファンの人のおかげでSpotifyでもリスナーを増やせているので、それをもっと増やすために何ができるか。元Spotify所属で、現在はデジタルマーケティング会社arne代表の松島功さん(@komatsushima)に関わっていただいて、せっかくだからSpotifyの日本の劇伴作家で一番のアーティストになれるよう、どういう風にSNSを使って情報発信していけば良いかなども、戦略を立ててやっています。

あとは齊藤耕太郎さん(@kotarosaito1211)という、インディペンデントなやり方でSpotifyのリスナーを増やしている方がいらっしゃるんですけど、そういう人たちと情報交換をしたりコラボをしたりしながら、劇伴以外のところからファンを作れないか試しています。アーティストや作家同士で、お互いのファンが行き来できたらいいなと思いますね。

Love Song (AUDIO) – Kotaro Saito feat. MAYUMI, Asuka Ouchi, Shota Ishizaka

海外のマーケットを意識しつつ、求められている「日本らしさ」と両立させていくのは現代ならではのチャレンジングなことだと思います。

そうですね。日本特有のものを作るにしても、世界でどう売るかをちゃんと考えないといけない。この先日本のマーケットを相手にした仕事だけでは、作家業だけで暮らしていくのは難しいとも思っていますし。

なので最近はTuneCore経由でオリジナル曲を出して、参加してもらったミュージシャンにスプリット(ディストリビューターから直接クリエイターに分配する機能)で分けられるようにしたり、実験的に色々とトライしています。

スプリットがちゃんと機能するようになったら「ごめん、予算はこれだけしかないけど、あとはスプリットで出せるようにするから」みたいに、制作予算が少なくても好きなミュージシャンに参加してもらえるような環境を作ることができる。デジタル環境の使い方次第で、収益を最大化することは可能だと思うんです。

UGCの活用がサントラ市場の未来を拓く?

今後の劇伴のサウンドトラックのリリースについて、こうなったらいいな、という希望やイメージはありますか?

いつも思うのは、商品としてリリースされるのが遅すぎるんじゃないかということ。サウンドトラックが放送後にリリースされるのは、CDをプレスするのに時間がかかるからだとこの業界に入ったときに聞かされたんですが、出来たての熱々の音楽は放送中に配信とかで出したほうが、より跳ねるんじゃないかと思うんですよね。映画とかは一緒に出したりしているわけで、できないことはないんじゃないかと。

確かに。

実は、そこで一番可能性があると思っているのがUGCなんです。ユーザーに自由に作品を作ってもらいつつ、そこから公式も利益を回収できる仕組みを作るのが理想的だなと。

なるほど。

例えば、プロジェクトファイルなどを開放して、良い作品はアニメのオフィシャルチャンネルで紹介しますよと企画を打って、どんどんリミックスなどを作ってもらう。

あるいは海外で人気が出ている曲に関して、ドラム抜きとか、ギター抜きとか、キーボード抜きのトラックをダウンロードできるようにしておいて、「弾いてみた」とかに自由に使ってもらえるようにしておくと良いのでは、という提案もしています。視聴者・リスナーに仲間意識を持ってもらえたら凄くいいなと思うんです。

聞いているだけでワクワクしてくる話で、実現するのが楽しみです。最後に、今後のご予定をお聞かせください。

10月から放送のアニメでは『ハイキュー!! TO THE TOP』『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の劇伴を担当しています。来年以降は『僕のヒーローアカデミア』の新シーズン、『SHAMAN KING』などを担当していますので、ぜひ音楽も楽しみにしていただければ。

僕個人としては、劇伴作家と違う形で、アーティスト寄りな作品をひとつリリースしたいなと思っています。新体操から劇伴に移る時に作ったデモのように、自分がやりたい音楽を一回やってみたいなと。取りあえず今年中にSpotifyのマンスリーリスナーを100万人にして、それをきっかけに新しい活動の告知をしたいなと考えています。

あとは今年やろうとしていたコンサートが昨今の情勢もあってできなくなってしまったので、またどこかのタイミングでやれたらいいですね。

林ゆうきさんの愛犬

Interview & Text:岩永裕史、千葉智史(Soundmain編集部)

プロフィール

劇伴作家の林ゆうきさん

林ゆうき

1980年生まれ / 京都府出身 元男子新体操選手、競技者としての音楽の選曲から伴奏音楽の世界へ傾倒していく。 音楽経験は無かったが、大学在学中に独学で作曲活動を始める。 卒業後、Hideo Kobayashiにトラックメイキングの基礎を学び、 競技系ダンス全般の伴奏音楽制作を本格的に開始。 さまざまなジャンルの音楽を取り込み、元踊り手としての感覚から 映像との一体感に重きを置く独自の音楽性を築く。

Twitter https://twitter.com/hayayu1231
Youtube https://www.youtube.com/channel/UCYGw6NczdNmVgBWHQStQgxw

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