FOLLOW US

CONTACT

こだわり続ければ海を越える!「同人音楽の鬼才」bermei.inazawaの仕事術とルーツに迫る(インタビュー前編)

コミックマーケット、M3などの同人即売会で自主リリースした作品のクオリティーが反響を呼び、「同人音楽界の鬼才」として世間に発見されたbermei.inazawa(ベルメイ・イナザワ)さん。今では同人の枠を超えて「ぼくのりりっくのぼうよみ」や「やなぎなぎ」などのアーティストへの楽曲提供や、TVアニメ『ひぐらしのなく頃に 解』『ヨルムンガンド』『世界征服〜謀略のズヴィズダー〜』などのテーマ曲の作編曲、そして最近では中国発のノベルゲーム『Christmas Tina ‐泡沫冬景‐』の劇伴なども手掛けています。

Annabel + lasah「送葬と再生」(bermeiさんが作編曲を担当)

「世界はイナザワを知らなすぎる」……2011年にビクターよりリリースされていた商業ベスト・アルバムに書かれていたキャッチコピーですが、一旦彼の音楽世界に入り込むとそこは“沼”。同人即売会でbermeiさんファン制作のアンソロジー本が出るほどの強固なファンベースを持ち、キャリアのスタートから20年間、一貫してフリーで活動しています。

そんなbermeiさんに、インタビュー前編となる今回はフリーでの活動を始めた経緯や現在に至るまでの軌跡、そしてクリエイティヴを発揮させるための自宅スタジオのセットアップなどについてお話を伺いました。

自分が作りたい音楽を作り続けることが次の仕事につながっていく……海外からも直々にオファーが来ているbermeiさんの実績を振り返るとともに、クリエイターとしていかに音楽にエゴを詰めていくのか、を考えるきっかけになるかもしれません!

自分の写真の代わりに、とbermeiさんより頂いた「ノワ」ちゃん近影

同人シーンならではの良さと、「プロ」として作曲するということ

同人活動からキャリアをスタートされていますが、初めから作曲家になろう、アーティストのような活動をしようという明確なビジョンがあったんでしょうか。

音楽で食べていく=「アーティストになる」ということなのか? ということは、本当に悩んだことですね。僕は昔から性格的に目立ちたくないんですよ(笑)。アーティストは目立たなきゃいけないし、目立つことに対する責任感も必要になってくる。でも、それをやりたくもないことが分かっていて事務所やレーベルのお世話になる、自分を売ってくださいって言うなんてできないですよね。かといって誰かに指示されて作るのも嫌だなと思っていて。

小学校ぐらいの時に曲作りの楽しさに目覚めて、こういうことをやって食べていけたらいいなと漠然と思い始めるわけですが、それを「仕事」にするとはどういうことなのかというイメージが湧かなくて。まずは単純に「プロ」と呼ばれるに相応しい実力をつける……「いい曲」を作るためにどういうことをやればいいのかだけを、高校生くらいまでずっと試行錯誤してたんです。

高校を卒業する頃には「そのプロって一体何なんだよ」といったことを考えて鬱々としてたんですが、19歳くらいのとき、ネットで知り合ったクリエイター志望の人たちと――作家志望や写真家志望もいました――シェアハウスすることになったんですよね。

そこで一緒に住んだ友人の影響で始まったのが、カムパネルラっていう自主サークルなんです。「ゲームのアレンジCDを作るっていうのが今とても盛り上がってるからやってみない?」って言ってきたので、じゃあやってみるかっていう感じで。

なるほど、そんな経緯が。

初めはアレンジCDを作ってたんですけど、ある時「アレンジはもうやりたくないな」と思うきっかけがありました。

『ぼくらのうた』っていう、「みんなのうた」のアレンジCDを作ったんです。童謡とか、子供の頃に聴いた曲を自分が今持っているツールとかセンス、人生観で表現したらどうなるかなってモチベーションがあったので。

そうしたら結構それが人気を得て。1000枚くらい作ったんですけど、1ヶ月も経たずに全部売り切れちゃったんです。そこで「あ、これお金が入ってくるな」っていう、自分発信で作って、お金が入ってくるんだなっていう手ごたえを得て。

そうすると「カバーでお金をもらって暮らしていくのは違うだろうな」という気持ちが出てきたんです。当時はコンビニで深夜のバイトとかをして暮らしてましたけど、そのコンビニのバイトもやめて、音楽で入ってくるお金だけで暮らしていこうってなった時に、オリジナルを作らなきゃだめだよなと。

「音楽で食べていく」ということはどういうことか、自分なりに考えた上でオリジナル中心へと移行した。

作品表現をするモチベーションとして二次創作は全然いいと思うんです。だけど、それで暮らしていけちゃうくらいお金が入ってくるんだとしたら違うよな、儲けるんだったらオリジナルでやるべきだよなっていう風に思いますね、個人的には。

同人シーンの良さとして、横の繋がりが大きいこともあると思います。

自分の曲で歌ってもらったボーカルさんに逆に頼まれるとか、そういうことは本当に、持ちつ持たれつじゃないですけどよくありますね。

今はそれぞれ商業でも活躍されていますが、当時は「しもちゃみん」と呼ばれていた、茶太さんと、霜月はるかさん、片霧烈火さん……烈火さんが「みん(様)」ってあだ名なので「しもちゃみん」ってなるんですけど、その3人との絡みが本当に多かったですね。

bermei.inazawa feat.霜月はるか「echo」

そこからアニメのタイアップ曲などを手掛けていくようになったきっかけは?

その辺はVoltage of Imaginationというレーベルの高橋和也さんっていうプロデューサーのおかげです。彼がコミケに来て色々な音楽サークルをあたった中で、自分に声をかけてくれたんです。

そこから始まって、「しもちゃみん」を絡めて作った音楽作品シリーズとかラノベのイメージアルバムとか、色んな他の会社さんとの繋がりが生まれて。一番大きいのはアニメ『ひぐらしのなく頃に 解』のエンディングテーマ(「対象a」)ですね。

商業はやっぱり自主制作とは違うやり応えがあるんですよ。自信を持って答えを出せる感じが楽しいし、色んな人に聞いてもらえるし。自分のサークルで作品を作るっていうのも、あくまで自分の中で当然の軸としてあるんだけども、やっぱり案件というか、大きな枠組みの中に自分が参加して作るっていうことの楽しさってのは確かにあるような気がしていて。

やなぎなぎ「Ambivalentidea」
悠木碧「アールデコラージュ ラミラージュ」

僕の場合、自主制作、自分発で作るものって、良くも悪くも自分の中にある疑問や挑戦に向き合って自分なりの形を出すだけのことであって、それって苦悩と達成感のコストパフォーマンスで言うと極端に悪いんです。20年そうやってきて一旦出尽くしたのか、最近のモチベーションとしては、よその枠組みの中で作る方が楽しいなっていう気持ちになってきたのはあるんですよね。

外からの刺激というか、色んなインプットがあった上で音楽を作ることが楽しいと。

はい。「こういう条件で、こういう曲が欲しい」っていう課題を提示されて、それに対して自分が答えを出す努力をする。そういうモチベーションがあるとやっぱり音楽の出力がしやすいなっていう気持ちの方が最近勝ってきちゃったところがあって。

だから最近は劇伴作品もやれるように勉強したり、自分なりに研究していて、体制やツールを揃えたりしています。自分の新しい形を探したいっていう、新鮮な気持ちになれていますね。

劇伴で好きな作品・作家はいますか?

まだあまり詳しくないですけど、いいなぁと思ってクレジットを見た時に「やっぱり」と思うのは、岩崎琢さんとか出羽良彰さんとか。あとは小中学生の頃に劇場版パトレイバーの薫陶を受けて育ったので、川井憲次さんの音使いに抗えません。

最近では中国発のノベルゲーム『Christmas Tina ‐泡沫冬景‐』の音楽を手がけられていましたが、こちらはどういったきっかけがあったんでしょうか。

『Christmas Tina -泡沫冬景-』オープニング動画

そうですね、丁度いいタイミングでのお話でした。実は劇伴やBGM制作という作業に対しては昔、自分とは相性が悪いなと思ってずっと興味が持てなかったんです。それが何となくこの少し前ぐらいから、やってみようかな、っていう気持ちになっていたんですよ。興味が持てるようになってきたので、その中でツールを整えなきゃいけないなと思って色々考え始めている時に、ゲーム1本全部の曲をやってくれという話があったので。じゃあもう腰を上げて環境を整えて作ろうかなと。

「泡沫冬景」は80年代後期の日本が舞台のノベルゲームで、音楽も80年代感や往年のノベルゲームっぽさとのバランスを探ったりという感じだったので、ジャンルやカテゴリーを意識した楽曲作りに苦手意識のある自分にとってはいい経験でした。

『Christmas Tina -泡沫冬景-』オリジナルサウンドトラックPV

中国の方から直接オファーがあったと伺いましたが、どうやってbermeiさんのことを知ったんでしょうね。

普通に突然メールが来ました。自分のサイトのウェブフォームから、「あなたが作ったこういった曲のイメージが欲しいのでお声かけしました」みたいな連絡をくれたんですよね。

その曲が、僕がそれこそ20年ぐらい前に作った同人のカバーアルバムに入れた曲なんですよ。『かがやくもの天より堕ち』っていう、21、22歳の頃に作った『AIR』というゲームのカバーアルバムに入れた曲です。インタールードのようなものとして作ったトラック……確か「Falling」だったかな。

中国の人達もアニメとか大好きだし、僕も知らないような日本のノベルゲームや恋愛アドベンチャーゲームとかを詳しく知ってるんですよ。古いタイトルまで知ってるので凄いなって思いますね。日本のオタク文化は確かに向こうに影響を与えていたんだなと如実に感じるし、向こうでこうした文化が今盛り上がって、それがまた日本に巡り巡ってくるんだとしたら本当に面白いなと。

今後トライしてみたい作品や作風はありますか?

最近はアニメ映画とか、映像作品の劇伴はやっぱり楽しいんだろうなって思うようになりましたね。機能的な、記号として作られた曲じゃなくて、シーンに対してちゃんと必然性をもって当てられている曲というか。

今までも映像に対して曲を付けるっていうような仕事は何度かあったんですけど、凄くちゃんと表現してる手応えがあって。自分でも写真とか画像を見ながら作ることが結構あります。

目的ごとに2部屋+ブース! こだわりの作業部屋と機材環境

ゲームの劇伴を作るにあたって環境を整えたということですが、どういったバージョンアップをされたんでしょうか。

具体的に言うと、パソコン1台だと厳しいので3,4台で分散処理させながらソフトウェアを走らせています。メインで使っているのはCubaseで、分散処理がVienna Ensemble PROですね。

色んな音源……オーケストラの音源とかを他のマシンで立ち上げて、最終的な音の出力のイメージ、ミックスとかのイメージも作りながら、作編曲を進めていくということができるので。自分の場合、必ずしも生楽器至上主義ではないというか、打ち込みから漂うクローズドな音の世界観が実は欲しい物だった、みたいなことが多いので、鳴らしている音がそのまま最終形として使えるか確認しながら進めたいところがあります。

あとは作曲と簡単なアレンジの作業をする部屋/精密な作業をする部屋と目的に応じて部屋を分けて、気分を新鮮に保ちながらできるようにしてみたりとかもしています。

リビングの方でピアノを弾いて作曲のイメージを膨らませておいて、作業部屋のマシンからリモートデスクトップ的なもので全部のコントロールをしたり。「このピアノのパートはちゃんとピアノの鍵盤で弾きたいな」っていう時に、作業場のマシンのプロジェクトを開いたままリビングの方でピアノを弾いたりとかもできるようにワイヤリングも出来ています。どちらかの部屋でやった作業をもう一方の部屋でも同じように進められるようにしているんです。

それはすごい! リモートワークを20年続けているような状態なんですね。「どんな場所でも同じパフォーマンスを発揮する」ということを意識したきっかけや狙いはあるのでしょうか。

ずっと同じ部屋で作業していると気が滅入ってくるからですね……5年10年単位で同じっていうのは嫌気が差すというか、ストレスが染み付いて、そこで作業をするのに拒絶反応が出てきたりしますから。かといって外に出るのも面倒くさいタイプなんです。

最近良いと思ったプラグインはありますか?

ちょこちょこ毎月のように何かしら入れてますけど、最近入れたのはWAVESのOVoxっていう、ボコーダーの出たばかりのプラグインです。いわゆるEDM的な声ネタが簡単に出せるやつなんですけど、自分なりにエッセンスを消化するとどうなるかっていうチャレンジがしやすいプラグインなので、ちょっと遊びたいなって気はしてますね。今作ってる曲でも使っています。

マウスやキーボード、鍵盤、メモ帳など、効率化のために欠かせないものがあれば教えてください。

スウェーデンのTEControlというメーカーが出しているブレスコントローラーで、USB MIDI Breath and Bite Controller 2というのを何年か前から使うようになって、これのおかげで楽器の表現がすごく楽で速くなりました。

オリジナル作品はCDとダウンロード販売がメインのようですが、ストリーミング配信に興味はありますか?

やらなきゃいけないと思ってはいるんですが、あまり積極的じゃないんですよね。自主制作の方は変な話、中学生の夏休みの自主研究みたいなものの延長線上みたいな感じなんですよ。自分の中で「こういうことかな?」って調べて、作ってみて発表して、それを聴いてくれる人がいてありがたい、出会いと共感が嬉しいっていうことなので。

それをより多くの人に聴いてほしいとか、そういうモチベーションって実はあんまりないんですよね。かと言ってまったく聴いてもらえないと暮らしていけないので困っちゃうんですけど(笑)。ずっと習作を作ってるような気持ちなので、それが理由かもしれません。

同人即売会のような場所でCDを手渡しで売っていくっていうところに十分感動がある、という感じでしょうか。

そうですね、自分には本当それで十分というか。聴いてくれる方に直接感謝を伝えたいし、(同人即売会を中心に作品を発表しているのは)そういう部分とのバランスが自分にとってとてもいいって感じですね。作品を出したということの手応えも目に見えて得られるので。

外出もままならない状況もあり、bermeiさんのように自宅でとことん音を詰められたらと思っているクリエイターも多いのではないかと思います。フリーランスで活動する、または自分でミックスまで手掛ける自己完結型クリエイターの方々に、自分の経験を踏まえ、アドバイスがあるとすれば、どのようなものでしょうか。

そうですね……自分に言えるとしたら、大きなスピーカーで常に大音量を出すようなことをしなくても、小さくていいから3,4種類のサイズ違いのスピーカーを用意すると客観的な判断がしやすくなって良いんじゃないかなと。

ディティールはヘッドホンで詰められますが、他人が聴いてすぐ分かる大枠の部分はスピーカーじゃないと描いたり調整したり出来ないんですよね。ちなみに自分は自主制作の場合はとことんディティール偏重なので大体このへんがダメですね。

■ bermei inazawa
1979.7.18 横浜生まれ。同人レーベル「Campanella」を主宰しオリジナル作品をリリース、リスナーから“同人音楽界の鬼才”と言われる。自身の作品の他、他アーティストへの楽曲提供や、アニメ・タイアップ曲なども手掛ける。
(提供アーティスト:やなぎなぎ、ぼくのりりっくのぼうよみ、悠木碧、Annabel、茶太、 etc.)
Official website https://www.studio-campanella.com
Twitter https://twitter.com/bermei_inazawa

後編はこちらからご覧ください!

LATEST ARTICLES 新着記事

契約書やメンタルヘルスについて、クリエイターが自ら学ぶ大切さ。プロデューサー/DJ・Hideo Kobayash…

粉絲中97%來自海外!《排球少年!!》《王牌大律師》人氣配樂作曲家林友樹長篇專訪——音樂製作與日常工作大揭密!

ポイントは7つ! アーティストのためのワンランク上のインスタグラム活用術