FOLLOW US

CONTACT

どうすれば公式にサンプリングできる?~意外と知らない、法律からみたサンプリングの権利処理方法とは(後編)

楽器が弾けなくても音楽は作れる! サンプリング・ミュージックは、既存の音源を「元ネタ」として自身の楽曲に取り込み制作できるようにした楽器「サンプラー」の登場によって実現した、まさにテクノロジーが生んだ革新的な音楽です。

しかし権利意識が高まるにつれ、様々な問題が出てきたのも確か。ただ、サンプリングが今までにない手法だったが故に、その問題に対応していくことで、むしろ互いが互いの創造性をリスペクトできる環境・仕組みが徐々に整ってきたとも言えます。

どうすれば公式にサンプリング・ミュージックを発表できるのか? 意外と知らないことが多い法律の知識。

普段よりサンプリングを使って楽曲制作をすることの多い二人のトラックメイカー「TOMOKO IDA」(以下「TOMOKO」)と「ちばけんいち」が、サンプリング・ミュージックと著作権にまつわるあれやこれやの疑問を、著作権法に詳しい大原法律事務所・齊藤圭太弁護士にズバリぶつけてみました。

後編では、サンプリング用音源販売サイトやタイプビートなどの制作面を法律で紐解きます!

前編はこちらです。

サンプリング用音源販売ショップと、海外と日本のマインドの違い

TOMOKO サンプリング用に発売されている音源や素材についてもお聞きしたいなと。

昔のソウルやファンクっぽい音をサンプリングして使いたいなと思った時に、今だとSplice(著作権フリーの音源素材を扱うサブスクリプションサービス)などが出てきています。そこで取り扱われている音源は、難しく考えずにそのまま使ってもいいんだよ、と皆さんに伝えられたらいいなって思うんです。

海外のクリエイターとのセッションに行くと、ほぼ全員がSpliceを使ってるんですよ。 

ちば そう。規約をよく読むと「音源素材だけをそのまま使ってはいけない」みたいな注意書きが書いてあったりするものの、僕らは「このショップは大丈夫だろう」と思いつつ使っているんです。 

齊藤 その例では、ドラムを演奏した人や曲を作った人から許諾を得ているならば、問題なく使っていいことになります。

法律における「許諾」は、権利を持っている方が自分で条件を決められます。ダウンロードした音源をそのまま利用するのはNGと、その権利者が許諾の条件として決めている訳ですね。

例えば100円払ったらOKというのが許諾の条件であれば、払わなかったら当然使えない。同様に、例えば「4小節のドラム音源単体で使うことには許諾しません、何か別の音を足せばOK」といったものも、その権利者が決めることができます。その条件を満たせば、第三者も使うことができる。

販売されているもの、流通しているものは、複雑な権利関係の問題でひとつひとつ許諾を取っていくのは難しいんですけど、最初からサンプリング用に販売しているというケースの場合には、それは権利処理されているものとして使えるんじゃないでしょうか。

TOMOKO 海外のクリエイターとセッションすると、いい音源があれば切り刻まずにそのまま使って当たり前というイメージです。

日本のクリエイターは、素材のままでは使わないというか、素材から作るイメージ。そのまま使うのは独創性がない印象を持たれるので、それを避けたいのかもしれないですね。国民性かな。 

齊藤 それが、日本でのサンプリング・ミュージックの整備が進んでいない理由なのかもしれないですね。海外では、使えるものを使って売れるものを作った方がいいだろうというマインドですね。ユーザーがいるならば権利の許諾を取って提供しましょうというサンプリング音源のストアや会社が出てくる。

日本では頑張って許諾を集めて商品として販売をしても、それはかっこ悪いよねっていうマインドがあって売れないとなると、「整備して収益を上げよう」という発想になりづらい。 

ちば そういうサンプリング素材を販売しているサービスや、許諾が取れている音源を使って創作していくことが、日本でのサンプリング・ミュージックへの考え方が変わるきっかけになるかもしれないですね。

どんな罰則や罰金がある?

TOMOKO 音楽を作り始めた最初の頃は、いろんな素材を使って作ることに無邪気に楽しみを覚えて作っていたんですけど、プロの道に進んでいくと、楽しいだけではいけない。やってはいけないこと、どんな罰則や罰金があるのかとか、改めてちゃんと知っておきたいです。 

ちば 元曲の権利を持っている人から、勝手にサンプリングするなと訴えられる話などですね。

齊藤 著作権を侵害してしまった場合には、2つの法的な責任というものがあり、民事上の責任と刑事上の責任に分けられます。

民事上の責任は、一つは損害賠償請求といって、金銭を支払う責任があります。お金を払ってくださいと訴えられるパターンですね。

もう一つは差し止め請求といって、権利を侵害されてしまった方が「その音楽を使うな、販売するな、公開を中止しろ」という形で請求することがあります。

また名誉回復措置といって、例えば「私は誰々の権利を侵害して音楽を作って配信してしまいました、申し訳ありません」といった謝罪文を掲載してもらうとか、権利を侵害されてしまった方の名誉を回復するための措置もあります。 

TOMOKO 刑事上の責任って、(図の中の)「十年以下の懲役もしくは一千万円以下の……」というものですよね。これが一番気になるんですけど、実際にあるんですか? 

齊藤 音楽のサンプリングに関する事例では、ありません。

著作権の侵害は親告罪といって――違法アップロードの事件がイメージしやすいと思いますが――被害を受けた方の申し立てがあって初めて捜査が進んで、刑事裁判になって、判決が言い渡されるという流れになります。

サンプリング・ミュージックに限らず音楽を制作して、意図せず誰かの著作権を侵害している場合でも、すぐ警察がやってきて逮捕されることにはならないと思います。

合法的なサンプリング用音源販売ショップを見極めるには?

ちば (Spliceなどのサービスが)販売している音源が更に違法にサンプリングしていたものだったり、有名曲のメロディを使った音源が売られている場合、そこで買った音源を使って新たに曲を作った場合の責任について怖がる人もいて。

実際そういう事故もあったみたいです。使った人がどんな罰を受けるのか、どんなことが起こりえるのかについても気になります。

昨年全米で最もヒットした「Lil Nas X “Old Town Road」のビートは、ビート販売サイト「Beatstars」で30ドルで売られていたビートを元に作られていたが、実はそのビートにNine Inch Nailsの“34 Ghosts Ⅳ”が使われていたことが後日判明。

齊藤 損害賠償請求と言って、その元々の権利を持っている人から訴えられてお金を払ってください、というケースが一番考えられるでしょうね。 

ちば 違法に売られていたサンプリング音源の元の権利者が、新しい曲を作った人に請求する。 

TOMOKO 何も知らずに(違法な)サンプリング音源を使った人も賠償金を払わないといけないんでしょうか。 

齊藤 ショップで違法な音源が販売されているのを知ったのであれば、そのショップを訴えると思うんですよね。元曲の権利者がどこで知ったかによって、誰を相手にするかが変わってくる。 

TOMOKO でもショップの前に権利者の耳に届くのは、リリースされた楽曲ですよね。 

齊藤 ちばさんが元曲の権利者からまずクレームを受けて、ちばさんとしては、「自分はこのショップから素材を買ったんだから問題ないと思ってます」ということになる訳ですよね。その場合、ちばさんが損害賠償責任、お金を払う義務を負うかどうかは、故意または過失で権利を侵害してしまったかどうかによるんです。

故意とは、誰かが権利を持っていることを知っていたけれど、意図的に使った、知っていて権利を侵害した場合です。

過失かどうかは、「そのショップを信用するのは仕方ない」と皆が思うかどうかによります。「ショップから買ったからOK」ではなくて、そのショップが正しく権利処理をして販売していると皆が思って当然というケースであれば、過失はなくなります。 

ちば 「これはあの曲のイントロ……?」みたいな音源も売っている怪しいショップに、それを知っている状態で買いに行って使うのはだめだと。 

齊藤 あるいは、怪しいエージェントと仕事していて、「この音源を使って大丈夫なの?」と思ったりとか。どこかのタイミングで、権利処理ができていないことに気づけたはずじゃないかとなったら、これは過失なんですよ。元曲の権利者から訴えられた場合に、ショップから買ったからお金を払わなくてもいいかというと、ケースバイケースです。

最終的にちばさんが元曲の権利者にお金を払いました、となれば、その後にショップが訴えられると思いますが。 

ちば 「何でこんなもの売ってたんだよ!」みたいな。 

齊藤 ショップが販売していた音源を買って使ったために訴えられて、10万円払うことになったのはショップのせいだと言ってちばさんがショップを訴えることは、後々としてはあるかもしれませんけれども。 

ちば 最初に訴えられたら、それ自体は対応しなければいけない? 

齊藤 そうですね。皆が信用しているショップから買っているか、というところが焦点になりますね。 

TOMOKO ネット上にはサンプリング可能な音源を販売するショップがたくさんあります。その中には違法のショップもあるかもしれないですが、マーケット自体に責任があるのかを知りたいです。「ショップを信用して料金を払っているのに自分が訴えられるの?」みたいな、それが一番の不安要素で。

「ここで販売している音源はちゃんと作られています、権利処理しています」という利用規約があれば、安心して使っていいということなんでしょうか。 

齊藤 そうですね。刑事上の責任について言うと、これは故意だけに限られます。意図的に権利を侵害しても構わない、もしくは侵害してやろうと意図的にやった場合にしか、10年だ1千万だっていう刑事罰はないので、例えば誤って使ってしまったケースで刑事罰が下るという事は基本的にはない。 

ちば 必要以上に怖がる事はないと。 

齊藤 繰り返しになりますが、ちゃんとしたところから買ったものであれば。

サンプリング利用するためのショップから買う場合については、過失がどこまで認められるか、皆が信頼しているショップから買っているならば、それは仕方ないよねってことになるのかなと。

怪しげなところを使うのはやめた方がいいと思います。

「タイプビート」を法解釈すると

ちば 最近出てきた「タイプビート」というムーブメントに関しても、法律的な視点でどう考えられるか、お聞きしてみたいなと思いました。 

TOMOKO 有名なミュージシャン、例えば「T」という名前のミュージシャンがいたら、「Tタイプビート」として売り出してるんですよ。トラックだけ……メロディや歌、ラップがない音源を。中にはフック ( 曲のメインフレーズ部分 ) だけ入ってるものもあって、アンダーグラウンドで活動しているビートメーカーとかが、有名プロデューサーやラッパーの名前を使って、似たようなタイプの音源を作るんですね。

YouTubeチャンネル「Genius News」による、「タイプビートがいかにヒップホップ曲制作を変えたか」動画

有名人の名前を使って商売しているんですけど、でもサンプリングはしていない、似たように作ってるだけ……っていうのが主流になってきている。その時に「俺の名前を使って商売するならば金を払え」と訴えられるようなことも考えられるんですか? 

齊藤 音楽については、「そのタイプビートがどう作られたのか?」という、見えない部分が非常に重要だと思います。

例えばTさんならTさん風の音楽とした時に、そのTさんの曲を1曲だけ聞いて、それをアレンジしてタイプビートですと言っているようなケースは駄目なんですね。元々のTさんの曲があって、そのアレンジをするというのは「二次的著作物」というんですけど。ただし、Tさんの曲を100曲聴いて、自分の中でのTさん像を作り上げて、それで作ったものであれば大丈夫かもしれない。

著作権の中ではアイデアは保護されないんですね。アイデアを元に作られた音楽自体は保護されるんですけれども。

TOMOKO アイデアとは具体的にどのようなアイデアのことを指しますか?

齊藤 例えば「バラード」とか「冷たい音楽」といった雰囲気とか、テクニックとか、そういった要素は保護されない。「Tさん風の音楽」がどのTさんの既存曲をアレンジしたものでもないねということになれば、そのタイプビートを作った人の著作物となることはあるかもしれない。

ちょっと難しいのは、そのタイプビートの曲を聴いて「これはTさんのあの曲だ」というのが分かっちゃうとダメなんですよ。あくまで「Tさん風」ならばいいんですけれど。

音楽以外の例で置き換えれば……冒険的なテーマの小説を100冊読んで、自分なりの冒険の本を書くのはいいわけです。だけど、その冒険の本の中の100冊のうちの1冊だけを参考にして、ちょっとだけ変えて発表したと。これではダメになってきてしまう。

ちば 太宰治の『人間失格』1冊だけ読んで同じようなストーリーを書くのはNGだけど、太宰治を全部読んで、ああいう暗い作風っぽいのができたね、は創作として認められると。

もし裁判に発展した場合、パクったのか・それとも独自性があるのかという判断は誰がするんですか? 

齊藤 最初にTさんの元曲があって、それを参考にして同じように作りましたという場合には、「そもそもTさんの原曲を聴いて作りましたか?」という点と、「似てますか?」という点が問題になります。元曲を聞いて自分なりに創作して新しい曲を作りましたという場合には、その新しい曲を第三者が聴いた時に「Tさんのこの曲が元になってるよね」と感じられる場合にはNGということになってます。

例えばTさんの元曲をコピーしましたという場合には「依拠」というんですけど、「参考にしていたこと」と「似ていること」の2つが必要なんですね。だから極端なことを言えば、山奥に篭って誰の音楽も聴いていませんっていう人と、東京で生活しているTさんがいたとして、「2人が作ったのが全く同じ音楽でした、しかし山奥にいる人はTさんの曲は聞いたこともありません」ということであれば、侵害にはなりません。それが本当に証明できるか、という話になるとは思いますけれど。 

TOMOKO 「Tさん」という名前を使うという部分についてはどうなんでしょうか? 

齊藤 そこは著作権ではなくて、肖像権などに近くなってきますよね。法律的にはその名前を出して「顧客を誘引する」って言うんですけど。 

ちば プロモーションに名前を使っているのは、著作権とは別の問題だというわけですね。 

著作権を理解しつつ、「真似て学ぶ」ことも創作スキルを高めるために重要

TOMOKO Twitter、Instagram、TikTok、YouTube等の中で既存曲の音源を使う際に気を付けた方がいいことはありますか?

自分で勝手にリミックス音源を作って、動画に貼ってアップしたら凄いバズってしまったみたいなケースがあるとして、マネタイズしていなくても、それで法律を犯しているみたいなことがあるのかなと。 

齊藤 それは、音源を作った段階で権利処理されているかによります。有償や商業用だからNG、無償だからいいっていう考え方はないんです。

教育で利用するとか、私的利用と言って自分で楽しむだけとか、そういう例外を除いて、無料だからとか販売しないからというのは理由にはならない。 

TOMOKO Twitter、Instagramに投稿したけれど、私的利用です! というのはOKですか? 

齊藤 私的利用はそこまで広く考えられていませんね。既存曲の音源を使ったリミックスは難しいのではないかと。 

ちば 今はすぐに発表できてしまうから、ややこしいですよね。 

齊藤 著作権には考え方が2つあって、一つは最初に創作した方の権利を守ろうという方向性があります。でもそれを厳しく言いすぎると、全ての作品が誰かの権利を侵害してますといって、がんじがらめになってしまう。

反対の方向性として、音楽に限らず、何かを真似て学ぶのは創作の意欲やスキルを高めるために重要だという考え方もありますので、この2つのバランスを取っていくのが難しいのかなと思います。

ちば オマージュのスタイルが評価されているアーティストや、コピーバンドという文化もありますしね。

齊藤 もちろん良いものを作りたいと思ってサンプリング・ミュージックを作っている方が大半だと思うんです。今回お話しした内容は、最終的な法的な責任という意味での説明になるのですが、幾つものステップがあってそこに行き着く話ですので。

クレームが入ったとしても「わかりました、やめます」とか、そういう話でまとまることがほとんどだと思うんですね、特に日本であれば。

仮に権利を少し侵害したケースがあったとしても、リカバーは後でできる。なので創作意欲を高めて、良いものを作っていただきたいなと思います。

■ TOMOKO IDA
東京都出身。日韓ダンスミュージックシーンのトップアーティストをプロデュースする女性プロデューサー。
また、国内ドーム・アリーナツアーなどの大規模プロジェクトでインストゥルメンタル・ダンストラックを多数手がけるビート職人としても活躍中。
(トラック提供アーティスト:SUNMI, EXILE, THE RAMPAGE, GENERATIONS, CRAZYBOY, SWAY, MARIA, ちゃんみな, ASOBOiSM etc.)
Official website https://www.tomokoida.com/
Twitter https://twitter.com/djtomoko/
Instagram https://www.instagram.com/tomokoida/

■ ちばけんいち / Kenichi Chiba
12歳から楽曲制作を始め、現在はポップス、アニメ、ゲーム、ダンスミュージック、CMソングなど幅広く楽曲の作詞、作曲、編曲、Remix、制作ディレクションを手がける。
(提供作品:DANCERUSH STARDOM(KONAMI), CROSSxBEATS(CAPCOM), 俺の妹がこんなに可愛いわけがない, バンドやろうぜ! etc.)
Official website https://chibakenichi.com
Twitter https://twitter.com/chibakenichi/
Instagram https://www.instagram.com/chibakenichi/

■ 齊藤圭太
東京弁護士会所属。中小企業から上場企業に対する法律顧問業務を中心として、
主な取扱業務は、不動産取引法務、エンターテイメント法務、情報管理・情報漏えい対応等。
ホームページ:www.ohhara-law.jp/

NEW ENTRIES 新着記事

Ujico*/Snail's House Kawaii Future Bassのパイオニアが語る自身のルーツとイ…

ボカロP・Mitchie Mが考える、「音楽で食べていく」ハードルを越えるために必要なこととは(インタビュー後編)

「embrace the technology」感情をもってテクノロジーと接するということ【編集部コラム】