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窪田ミナさんが語る、考えて抜いて音楽を作ることの大切さ(インタビュー後編)

『ARIA』シリーズ、『マクロスΔ』『ももへの手紙』などのアニメ作品、また『ゲゲゲの女房』や『山女日記』『ラスト・ドクター』『隠蔽捜査』などテレビドラマの劇伴も手掛けてきた作曲家の窪田ミナさん。

作曲家の窪田ミナさん

高校卒業後英国王立音楽院に留学し、作曲科そして商業音楽科修士課程を卒業後、イギリスにて音楽制作コーディネートなどの仕事に従事したという経歴をお持ちです。

アーティストとしても『モーメント』などのアルバムをリリースし、現在ソロ・ピアノ・アルバムを準備中の窪田さん。インタビュー前編では、音楽院での厳しい教えや、留学当時・1990年代~2000年代初頭のイギリスという国の空気・文化から学んだ大切なことについてお話を伺いました。

後編は、映像のための音楽を作る姿勢、インプットとアウトプットのバランス、また権利意識との向き合い方などについてお届けします。

▼前編はこちら▼

「頭の中で考えた方が広がるよ」

仕事として実際に楽曲制作に参加し始めたのにはどういったきっかけがあったんでしょうか。

コーディネートの仕事をしているときに、アレンジで困っている現場に出くわしたことがあって。そこで「音大なんでしょ? 手伝ってよ」みたいに言われて手伝ったりしたのがきっかけですね。また別の現場では「アレンジできる人を探してるんだけど、誰か知らない?」って聞かれて、同行していたコーディネーターの人が、「彼女、ロイヤルアカデミーなんですよ、しかも作曲科」みたいに紹介してくれて、「え、できるの? やってよ!」って頼まれたり。

さっき(註:インタビュー前編で)話をした聖歌隊のプロジェクトもそうですね。作品を重ねる毎に作風にも煮詰まってきていたらしく、「ピアノも弾けるよね? 弾いてくれるよね」って感じで……頼まれる量がどんどん増えて。

そんな風に、最初はピアノとか、プロジェクトに足りない部分だけ手伝っていたのが、「ここからここまで全部やってね」みたいな感じに任せられる量が増えていったんです。

その頃から「作曲家として生きていきたい」と思われていたんですか?

できればそういう仕事をしたいな、と思ってたかな。ただ、そう簡単にできないだろうなとも思ってました(笑)。

その後日本に帰られたわけですが、日本での仕事が増えたからでしょうか?

いや、いつかは帰らなきゃと思ってたので20代のうちに帰ろうと(笑)。実家が福岡なので実家に帰ったんですけど、当然福岡には音楽の仕事もあまりなかったですし、帰国当初は結構暇でしたね(笑)。

「イギリスではこれだけ勉強したけど、どうやったら仕事に結びつくかな」って思いながら、ピアノを教えることとかも考えてました。そういう仕事をしつつ曲作りする感じかな、と最初は思ってましたね。自分自身を売り込むのができないタイプなので(笑)。

でもコーディネートの仕事で知り合いになった方々に「日本に帰ってきたよ」って連絡してたんです。そうしたら「ちょっとこういうのがあるんだけど、手伝ってくれる?」とかお声がけいただけるようになって。そのうち「もっと仕事すれば? 東京に引っ越した方がいいよ」って言われて。

で、マネージメントが決まって東京に引っ越してきて。そんな時にたまたまドラマの劇伴仕事の企画が持ち上がって、「合いそうだから監督とかに会ってみたら」みたいな感じになったんです。

ストーリーと音楽がどういう風にマッチすればいいか一番いいのかをすごく考える

アニメ・ドラマ問わず劇伴を多数手がけていらっしゃいますが、通常はどのようなプロセスでデモを制作されているのでしょうか。

最初に1曲デモを作ってくださいと言われることが多いですね。求められてるイメージや質感、そしてストーリーと音楽がどういう風にマッチすればいいか、っていうのを考えながらデモを作ります。

どういう風に映像と音楽が交われば一番いいのかなっていうのをすごく考えるので、コンセプトを考えている間はあまり音を出しません。なるべく頭の中で構築してあとに五段ぐらいでスケッチして。それを何パターンか作って、弾いてみたり、少し打ち込んでみたりして……そうしてできたデモを聴いて、“私オーディション”で残ったものを最終的なデモとして制作していく感じです(笑)。

音を聴いてしまうと、判断がぶれたりしてしまうんでしょうか。

手癖とかが出ちゃうので。これもイギリスで言われたんですよね、「あまり音を出すな」「頭の中で考えた方が広がるよ」みたいなことを。

生で録る楽器と録らない楽器はどのように決めているんでしょうか。

最初の打ち合わせで「これとこれとこれは絶対入れたいです。あと何人呼べますか?」みたいに確認する感じですね(笑)。基本的に木管と金管が3、4人ずつとかで。あとはハープ入れるかとか、パーカッション呼ぶかとか、その辺りを最初に相談して、それを踏まえた上で曲を書いています。

弦も何型か……10型なのか14型なのか、カルテットなのか、型で曲の書き方が変わるので、それを最初に相談しますね。

ちなみに今使っていらっしゃるDAWは何でしょうか? 好きなシンセなどはありますか。

Cubaseです。基本ソフトシンセを主に使ってるんですが、Spectrasonics社やNative Instruments社のを結構使うかな。暇な日は一日中いじってますね(笑)。

作曲はDAWで作り始めていらっしゃるんですか?

譜面から書き始めることも多いですね、いまは半分半分ぐらいかな?

DAWで作るときも、音が増えすぎないようには気を付けてます。なのである程度作ったら、ミュートとかでなるべく音が少ない状態で聴いて、最終的に必要なものを生かしたりしてますね。でも、ほとんど聴こえない音でも、なんで必要なのかって自分で説明できれば、それは必要なものなので。そういう音は残しますよね。

打ち込まない楽器ってありますか?

ストリングス、木管、金管などオーケストラの楽器と、ピアノは基本的には打ち込まないですね。でもリズムがガツガツ入っているような曲で、むしろピアノを打ち込んでいるほうがいいものもあります。機械的に聴こえたほうがカッコいい時はピアノでも打ち込みでやりますね。

(シンセソフトの)音源は、どうしても生演奏には勝てないんですよね。どんなに良い音源を使っても、人が弾いているのには勝てない。生の楽器っていうのもあるし、その人が技術を持って弾いてるっていうのが大事で。そのニュアンスっていうのは絶対に出せないので、オケの楽器は生の方がいいですね。

なるべくフォーマットを作らないようにしている

エレクトロニックな要素とアコースティックな要素を混ぜることに気を遣っていらっしゃるとお聞きしました。

そうですね。熱を持ってる生の人間が弾くものと、なんとも言えない機械的な人間じゃないものを組み合わせた時の美しさっていうのは、すごくいいと思うんです。突き詰めれば詰めるほど深いので、混ざり具合というか、生のものとプログラミングのバランスっていうのは作品によって違いますけど、その度にすごく考えながら作ってますね。

窪田ミナさん選曲による、エレクトロニックな要素とアコースティックな要素が上手く混ざっている作品(オリジナル・バージョンにも参加したクレイグ・アームストロング氏による、マッシブ・アタックのカバー)

毎回新しい発見があるようにしているというか、なるべくフォーマットを作らないようにしていますね。作っちゃうと毎回同じ感じになってしまうので、毎回新しい何か、新しい課題を持ってやろうと思ってます、全部の仕事で。一個でも新しいことをやるって決めていて。

例えばどのような課題を課していらっしゃるのでしょうか?

作曲に時間がかけられそうな時は、すごく不思議な編成で録ったりとかですね。現代音楽でよくあるんですけど、変な楽器が一個入ってたり、弦とギターとフルートだけの編成とか。

マイケル・ナイマンとかもやってたりするんですよね、こういう不思議な編成。あとは、普通だったら四声……全部四つで積み重なっているものを、四じゃないところから始めるとか。そうすると新しい音にもなるし、自分も試す機会にもなるし。

毎回似たようなことをやるのはちょっと嫌だなと思っていて。なるべく毎回挑戦する感じにしたいし、あと演奏する人も聴く人も、もちろん私も、何か面白いと思えるようなものにしたいというか。

演奏する人が面白いと思ってもらえる曲ができれば、演奏も良くなるんですよね。自分が気に入っていて来てもらいたいミュージシャンってもう固定されていて、毎回その人たちを呼んでるんですけど 、めっちゃ練習してくれます(笑)。来れない時も「残念です、でも次回絶対呼んでくださいね」と連絡をくれたり、終わった後で「面白かったです」と連絡をくれたりも。嬉しいですね。

隅々まで考えて作られているものって、説得力がある

普段はどのようなインプットをされていますか?

映画はよく観ますね、家でですけど(笑)。あとは本とか、なるべく音楽以外のものに触れるようにしてるかな。そのほうがインスピレーションが刺激される気がするんです。

旅行行くのもいいなと思いますね、こないだベトナムに行ったんですけど、すごくリフレッシュできたし、船で湾を廻るツアーに行ったんですけど、そこで船を漕ぐ現地の人が小さい声で歌うんですよ。

有名な歌らしいんですけど、すごく独特で。すごく静かで、波もふわっとしてて、そこで独特な節回しで歌ってるんですよね。上手いとか、そういうのと違う次元というか。こういうのは現地でないとなかなか聞けないので。

小説家だとポール・オースターとか、パウロ・コエーリョっていうブラジルの作家とかが好きですね。本もそうだし映画もそうだし、違うものの方がインスピレーションが刺激されるかも。

「この人がこの作品を作ろうと思った背景ってなんだろう」とか、そういったことを考えることが刺激になるんです。むしろそっちの方が多いかも。もちろん小説の中身に動かされて読んでいるんですけど。

そういった考え方のベースには、やはり大学のレッスン(インタビュー前編参照)の影響もありますか?

それもあると思います。「コンセプトがないものをあんまり作らないほうがいいな」っていうのは、大学ですごく思ったんです。考えられているものと比較すると、漠然としているものが放つエネルギーって、やっぱり敵わないんですよね。

漠然としてるものってベースがないので。(感情が)出てきちゃったみたいなものが良い時もありますけども、隅々まで考えて作られているものって、説得力があるという意味でもすごいと思うんです。

作曲家で今お好きな方とかいますか?

ちょっと前まではアレクサンドル・デスプラさん。フランスの方で、たくさん劇伴を手掛けてらっしゃる方ですね。音の広がり方というか、曲の構築の仕方がちょっと独特というか。

窪田さん選曲によるアレクサンドル・デスプラさんの「Beirut Taxi(映画『シリアナ』より)」

その広がり方とはどういうことでしょうか?

メロディーの作り方っていうんですかね、そういうのもあるし、和声的な組み合わせが面白いなと思いますね。ちょっとクラシカルなものも良いですし、現代的な曲も面白いですね。

著作権を財産として、皆が大事に思ってくれたら

作曲家として、作品についての権利を意識されることはありますか。

それはありますね。権利意識は持っておいたほうがいいんじゃないかなと思います。

著作権に関しての勉強もされましたか?

最初は私も全然その辺が勉強不足で、色々と後悔したことも(笑)。そこは積み重ねですよね。あの時はこうすればよかったなとか、もうちょっとちゃんと聞けば良かったなとか。そういう経験から少しずつ学んで、繰り返さないようにしてるというか。

最初に著作権契約書にサインする時に教えてくれる人がいないんですよね。初めて著作権契約書にサインする人って、多分権利意識を持たずに、準備ができていなくてもサインしていると思います。

優しく教えてくれる窓口があればいいな、と思いますね。家庭教師というか(笑)。こういう契約を結ぶのですが説明してもらえますか、他にどういう選択肢があるんですか……とか、ちょっとした質問を聞ける窓口のような。

作曲家は基本的に著作権使用料でしか収入を得られないわけですよね。もちろんアレンジしたりする場合は編曲料とかもありますけど。

そこから僅かでも、一回使われたら何十円か入ってきて、それが何年経ったら幾らになるっていうことですからね。そう考えると、たとえ安くても(権利を)守りたいってみんな思ってると思いますね。特に作った曲が多い人ほど思ってると思います。

曲を作ったらこれだけの権利を持てるんだ、ということを知るのは大事かもしれないです。例えば1曲作る毎に財産が増えているという風に考えられれば、1曲1曲作る時の気持ちの入れ方も変わると思いますし。自分の作ってるものをさらに大事にするというか。

権利を預かるほうも、それを財産だと思うことが大事ですよね。

そんな風に思ってもらえると、お互い幸せだと思いますね。1回使って終わりのものでも、何か可能性は秘めてる訳ですよ。何年か後に何か起こるかもしれないって思うと、忘れた状態にしないっていうのが大事だと。財産としてみんなが大事に思ってくれているというのが良い形だと思います。

作業に集中「しすぎない」ことも大事

若いクリエイターが今後この業界で生きていくために、窪田さんが考えるやっておいたいいことってありますか?

私が聞きたいです(笑)。うーん、何かありますかね…無駄にしないことですかね。

チャンスとか、時間とかでしょうか。

もちろんチャンスもそうですし、時間もそうですけど、一つの仕事が次の仕事につながるわけですよね。うまくいけばまた次につながる可能性もあるとか、今まで知らなかった人に知ってもらえる可能性もあるとか。

そういう意味ではチャンスを無駄にしないのと、あとはなるべく作業に集中「しすぎない」ことも大事じゃないですかね。自分の部屋とかスタジオだけで作ってると、本当に何も見えなくなっちゃうから。

ありがとうございます。最後に今後のご予定を教えてください。

基本に戻ってピアノだけで作ろうと思って、ピアノ・アルバムを作っています。ピアノ一本でできる表現を探しているというか。

曲は録り終えていて、ミックスをそろそろという感じです。ベーゼンドルファーというピアノで録ったんですけど、このピアノは「応えてくれる」というか。大きい楽器だけど、私みたいな小柄な人でも表現しやすくて……なかなか出会えないですよね、自分に合うピアノって。

「あそこのスタジオのベーゼンドルファーがなくなるらしい」と聞いて「やばい、あのピアノで絶対録りたい!」って急いでレコーディングしたんです。結局残ったんですけどね(笑)。でも「やった! これからもあそこで録れる!」って思いました。

Interview & Text: 岩永裕史(Soundmain編集部)

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