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映画『サヨナラまでの30分』音楽担当・Rayonsインタビュー

若くして命を落としたバンドのフロントマンと、ふとしたきっかけで彼と交流を持つことになったDTMを趣味とする大学生――ひとつの体を共有する2人の不思議な交流を軸とした青春音楽ラブストーリー、『サヨナラまでの30分』が劇場公開されました。人気上昇中のフレッシュな若手俳優陣が競演していることに加え、複数のバンド・トラックメイカーが提供した劇中楽曲にも話題が集まっています。

もちろん、映画の中ではずっと演奏シーンが続くわけではありません。そうではないシーンを音楽によって際立たせる、「劇伴」制作という工程があります。
バンドがフィーチャーされる作品だからこそ、その工程に迫ることで音楽家の映像作品に対する関わり方が、立体的に浮かび上がってくるのではないでしょうか。

今回は『サヨナラまでの30分』で音楽を担当したRayonsさんにインタビューを実施。作品における音楽の使われ方の狙いはもちろん、アーティストとしてソロ作品も発表している彼女の、劇伴制作と自身の作品制作を両立させる作曲家としてのあり方についても、意義深いお話を伺うことができました。

映画『サヨナラまでの30分』本予告

映像を介したやり取りの中で、音楽が生み出されていく

今回、映画『サヨナラまでの30分』に参加された経緯について教えてください。

音楽プロデューサーの安井輝さんとは、以前に劇伴を担当した映画(『ナミヤ雑貨店の奇蹟』)やアニメ(『サクラダリセット』)でもご一緒していて。聞いた話なのですが、今回の劇中でバンドが演奏する音楽はカッコいいバンドサウンドな方向性に対して、それとは差をつけるために、劇伴は女性的というか、柔らかい雰囲気がほしいということで、安井さんが私のことを提案してくださったらしいんですね。それで監督も「それ、いいかも」と思ってくれたらしくて。

なるほど。作曲される際には、すでに劇中で流れるバンドの音楽はあったんですか。

そうですね。ラッシュ(ラフで編集された映像)が上がってきて、それに対して劇伴をつけるという順番なので。観た時にはあのカッコいい音楽が全部流れていましたね。

劇中バンド・ECHOLLのオリジナル楽曲「もう二度と」MV

こういった「音楽映画」ではある意味、バンドサウンドが登場人物の心情を代弁している部分もあると思います。そういった「音楽が鳴っている映像」に対して作曲をしていくということに、今までにない難しさはありましたか。

あまりバンドサウンドがあるからどうっていうことは考えなかったですね。劇伴の音楽とその劇中で使われている音楽って、基本的にぶつかったり競ったりする関係じゃないと思っているんです。自分が音楽を当てないといけないシーンがあるので、そこに対してどうアプローチするかっていうことだけを考えて作っていきました。

じゃあ、バンドのやっている音楽性だとか、そういったものにも影響されなかった。

そうですね。ただ、ここでバンドっぽいサウンドの劇伴にしちゃうとこの劇中のそのバンドが演奏してるみたいに聴こえちゃうといけないから、ここでは外そうみたいなことはありました。

監督とは何回かやり取りをしつつ進めていったんですか。

してますね……結構何回も何回も(笑)。最初にひと通りデモを作って提出したんですけど、「もっと振り切ってください」とすごく言われて。楽しいシーンだったらもっと楽しく、勢いがつくところだったらもっと勢いよく、というように。その方向性が見えたらだんだんはまってきて、最終的には「大丈夫そうだな」となったので良かったです。

映像面では全体的に、(キービジュアルになっている)プールの色に象徴的な、青を基調にした無機質で幻想的な色彩感覚が印象的でした。こうした映像面の特徴から音楽に反映された部分はありましたか。

そうですね。今回はファンタジーの部分が大きかったので、そういうファンタジックなシーンには上手くシンセや少し無機質な印象のものを使えないかなと思って作っていきました。あと映画前半部分は颯太が結構感情に乏しいというか、そういうスタンスなんですけど、そこに当てる音楽をちょっと無機質な感じにしたらどうか、と監督がおっしゃって。言われたように、無機質なものをイメージさせる言葉があったことは確かですね。

そういったシンセサウンドと、生演奏の使い分けに関してはどうでしょうか。映像面でも、たとえばカナの実家の縁側で颯太とカナ、バンドメンバーたちが交流するシーンでは自然光が取り入れられていたりと、要所要所でファンタジー的な世界観とのコントラストが光っていました。

弦楽器やアコースティックな楽器は、人物の心理描写やドラマチックな場面で特に映えますね。でも、ファンタジーかそうでないか、いつもはっきり色分けできるわけではないんです。映画後半のロッカールームのシーンは、ファンタジーゆえの悲しさ・やるせなさがにじみ出るシーンです。静かで悲劇的な雰囲気を出しながらも、少しファンタジー感を出すにはどうしたら良いか考えました。

デモ制作からレコーディングまでのプロセスについて

映画の中でも描かれているように、バンドだとやっぱり同じ空間で一緒にセッションして……という時間が長いと思います。Rayonsさんのような作曲家の場合、制作工程においてどういった時間配分で作業されることが多いでしょうか。

今回に関して言えば、ポストプロダクションにあたる作業はほとんどしていなくて。レコーディングをしたらすぐエンジニアさんにミックスしてもらって、その間は1週間くらいだったと思います。レコーディングする前に、一ヶ月ぐらいひとりで作り込んでという感じですね。

作り込んでいたというのは、デモを作って譜面なりに起こしていくという……

そうですね。デモはPCで作るんですけど、その時点で生音にするものと打ち込みのままでいくものを想定して作っています。

ラッシュが上がってきてから、作曲作業に移られるというお話でしたが、最初に他のスタッフさんと顔合わせをすることはあまりないのでしょうか。

今回は撮影前に劇中バンドの楽曲のレコーディングをしていらしたので、その時にお邪魔して顔合わせをして、しばらく待ってるとラッシュが上がってきて、そこから本格的にスタートするっていう流れでしたね。

なるほど。脚本なども資料としていただけたんですか。

はい。音楽担当に決まった段階でいただいて、読んでいます。この映画は最初に脚本を読んだ時から面白いなと思いました。

いまカセットテープがフィーチャーされているというのも面白いですよね。作品の中で、カセットテープに入れた音は実は消えないで残ってるんだ、積み重なっていくんだ、みたいな時間についての考え方が語られるじゃないですか。こういういった考え方に対して、音楽的にアプローチした部分もあるのかなと思ったのですが。

それについては、これも監督のアイデアだったのですが、アキがカナたちに最初に会った時を思い出しているシーンがあるじゃないですか。

みんなでフェスに一緒に行ったところを思い出しているシーンですね。

そうです。そこにつける音楽は、いろんな音が層になって聞こえるような感じにしてほしいって言われて。知り合いにそういうのが上手な子がいて、歓声とか雑踏みたいな音をうまく混ぜ合わせてもらいました。私は弦の主体になる音楽を作って、そこにそれを組み合わせて作りました。

いわゆるフィールドレコーディングの手法を使って。

まさにそうですね。

そのようにある分野に強い人の力を借りるといったことも、劇伴作家としては必要になってくる能力だったりしますか。

劇伴だからそうなのかはわからないですけど……劇伴制作は期間がすごくタイトということもあって、その協力者とディスカッションしてる暇がないとか、やり直しをお願いするのも難しいとか、監督とやりとりする手前ある程度自分でコントロールしないといけないとか……そういうことを考えると、私の場合はあまり人に頼むっていう感じじゃないんですけど。今回は「この人なら出来るな」ってすぐに思い浮かんだ人がいて、監督ともディスカッションして方向性も決まっていたのでお願いしました。得意なことをお互い補い合って作るっていうのも、それはそれでいいなと私は思いますし、何より楽しいです。

ソロアーティストとしてのキャリアについて

これまでの活動についてもお聞かせください。キャリアのスタートはRayonsというソロ名義での作品リリースからですよね。

そうですね。もともと映画音楽の仕事をさせてもらうなんて全然思っていなくて、当時はもう単純に音源を出したいと思って作っていました。

1stアルバムリリース時のインタビュー(※1)では、「映画の音楽を作ってみたい」というきっかけで音大に進まれたとありました。

ああ、そんなこと言ってましたか(笑)。そうですね。作曲全体を勉強しようと思ったのは、中学生ぐらいの時に映画を観ていて、オーケストラってどうやって書くんだろうなみたいな興味からで。

じゃあ大学にいた頃からデモをDTMで作って、演奏家を集めてある種の監督的な立ち位置で演奏してもらって……という形でやられていたと。

そうです。ソロ名義の作品も同じような作り方ですね。

現在はFLAUというレーベルから作品をリリースされていますが、こちらとの関係はどのように始まったのでしょうか。

私が最初のアルバムを作っている時に――その時は違うレーベルだったんですけど――そのレーベルの人がFLAUの代表のフクゾノヤスヒコ君(aus名義でアーティスト活動も行っている)と知り合いで。私はリスナーとしてずっとausが好きで、ちょうど「何かやってもらいたいな」と思う曲が出来て。そのレーベルの人にお願いして、1曲参加してもらったんです(※2)。その縁があって、それから時々フクゾノ君がFLAUで開いてるライブに私を呼んでくれるようになって。次のアルバムを出そうってなった時に、「ちょっとお願いできないかな?」って相談して出させてもらいました。

FLAUは10年以上の歴史がある、独自のカラーを持ったインディー・レーベルだと思います。そこから作品をリリースするにあたって作風に影響はありましたか。

それはあまり意識してないですね。結果的にそのカラーに染まってもいいやと思っていたんですけど、全然そんなことはなかった。フクゾノ君自身も、アーティストがやりたいことをやってほしいって感じのスタンスなんで。

※1: 音楽系才女によるガールズトーク Rayons×Predawn対談 – インタビュー : CINRA.NET
※2: 『After the noise is gone』収録の楽曲「Take me to the fairyland」。

アニメと実写、双方で劇伴制作に携わって

2017年に放送されたアニメ『サクラダリセット』のサントラは、Rayonsのソロ作品のような形で、昨年FLAUからリリースされました。アニメのサントラがこういった経緯でリリースされるのは、非常に珍しいケースだと思っていて。オフィシャルサイトに出されたご自身のコメント(※3)を見ても、今回は本当に音楽ファーストの発想で実現したんだなというのが伝わってきたんですが、これはどのように実現したのでしょうか。

『サクラダリセット オリジナル・サウンドトラック』視聴動画

もともとなぜこの作品の音楽を担当することになったかというと、監督の川面真也さんがRayonsのファンでいてくださって。「Rayonsさんの世界そのままでいいから作ってほしい」と言ってくださったんですね。
それで出来上がった音楽を監督もすごく気に入られてて。製作委員会の決定で、アニメのパッケージレーベルからは出せないことになったんですけど、どうにかして出してほしいってことを(監督が)アニメのプロデューサーに言ってくださったんです。そうしたらその方が、「Rayonsさんのレーベル(FLAU)から出すということだったらできるかもしれない、それが一番スムーズかも」とおっしゃって。それでフクゾノ君にも作品を聴いてもらって……元々サントラとはいえ「Rayonsさんの世界で作ってほしい」って言われて作ったものだったので、ソロ作品に性格も似ているし、だったらウチで出す意味もあるんじゃないかって思ってくれて。

そうだったんですね。それにしてもすごくいいお話です。依頼のきっかけにしてもそうですし、ソロ名義で作品をリリースされていたからこそ……

ルートが複数できるという意味では、そうですよね。

『サクラダリセット』が初めてのアニメでのお仕事だったと思いますが、実写と比べての難しさってありましたか。アニメだと先にいわゆる「メニュー表」があって、それに沿って作曲していくということが多いと思いますが、手がかりが少なくて苦労されたりとか。

事前に原作を読ませて頂きましたし、音響監督が「こういうシーンで使いたい」みたいに、けっこう具体的に書いてくださっていて(例えば「〇〇が死んだと分かった時なぜあんな行動を取ったのか」など)、よくよく読むとヒントがいっぱいあってという感じだったので、そういった苦労はなかったですね。あれはあれで面白い経験だったんですけど……難しさで言ったら、実写の劇伴の方が断然難しいと個人的には思います。

それはどういったところがでしょう。

やはりすでにある映像に合わせるのが本当に大変というか、作曲家の責任が大きいので。メニュー表がある場合だったら、自分が作って提出した後は、どこで使うかも全部お任せですけど、すでにある映像に音楽をつけるとなると、その作曲家の責任でシーンを演出していかないといけない。セリフとの兼ね合いもありますし、表情も実写だと細かく動いていきますしね。

Rayonsさん

※3: Rayons Official Site「News」2019年2月28日投稿分より。「2017年4月から放送されたテレビアニメ「サクラダリセット」、まさかの2年経ってのサウンドトラックが発売されることになりました。発売にあたっては、監督をはじめとした関係者、世界中の視聴者、そしてFlauレーベル、たくさんの方々が後押ししてくださいました。」

ソロと劇伴制作を行き来するということ

ソロ名義で音楽を作るときと劇伴制作の仕事をされるときとで、作りたい音楽・作るべき音楽について意識の違いはありますか。

それはありますね……だから多分、どっちもやってるのがいいなって自分は思っていて。どんな仕事にしても、私のソロ作品を聞いて依頼してくださる場合がほとんどなんですよ。なので自分がやることがちょっとでも想像できればやらせてもらいたいなと思って仕事を受けてるんですけど。そこでたとえ結果的に自分のテリトリーじゃない音楽を作ることになったとしても、それはそこでしか経験できないことですし、その経験が自分の作品にもだんだん反映されればいいなと思っていて。ただ仕事だけになっちゃうと自分がしんどくなるだろうというのはあるので……どちらの活動も大事にしながら続けていきたいってすごく思っています。

楽曲制作において、一番達成感を感じる瞬間はいつですか。たとえば劇伴の仕事では、作り終わった瞬間なのか、それとも映画が公開されて多くの人に聴かれた瞬間なのか。

難しいですけど……相手が求めているよりも、ちょっとでも上を行けたときっていうのが一番達成感を感じるんじゃないかなと思います。求められたことにどれぐらい答えられたか、みたいなのが自分でだんだん分かるようになってきますし。

それでいうと、ソロ名義のときは自分でハードルを設定しなきゃいけないということですよね。

そうですね。まさに自分との闘いですけど、でもそれも基準が自分になるだけで。「自分が思ってるところまで到達できた!」みたいな、そういう気持ちだと思います。

その都度ハードルを更新していくというか。

というか、いつも到達してないという気持ちがあります、私は。理想が高いってよく言われます(笑)

Interview & text: 関取 大(Soundmain編集部)

■ 映画情報
キャスト:新田真剣佑 北村匠海
久保田紗友 葉山奨之 上杉柊平 清原 翔
牧瀬里穂 筒井道隆 / 松重豊
監督:萩原健太郎
脚本:大島里美
エグゼクティブプロデューサー:豊島雅郎、茨木政彦
企画・プロデュース:井手陽子
音楽:Rayons
音楽プロデューサー:内澤崇仁、安井 輝
制作・配給:アスミック・エース
©2020『サヨナラまでの30分』
製作委員会公式サイト: http://sayonara-30min.com/
公式Instagram: https://www.instagram.com/sayonara_30min/
公式Twitter: https://twitter.com/sayonara_30min/

通常版ジャケット

■サウンドトラック
ECHOLL / Rayons『サヨナラまでの30分』 発売中
【初回生産限定盤】(CD+フォトブック) ¥ 3,630(税込)
【通常盤】(CDのみ) ¥ 3,300(税込)

Rayons(作曲家/ピアニスト)
音楽家・中井雅子のソロプロジェクト。
音大にて、クラシック、管弦楽法、ポップス、スタジオワークなどを学び、卒業後、音源制作を中心に据えた活動を開始。
彼女が紡ぎ織りなす世界は、ファンタジーとダークネスな感情が重なり共鳴し特有の美しさとノイズを生み出している。
これまでにSylvain Chauveau、James Blackshaw、Ulises Contiらと共演。
2012年、デビューミニアルバム『After the noise is gone』リリース。
2015年、ファーストフルアルバム『The World Left Behind』リリース。
また、TVアニメ『サクラダリセット』・映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『サヨナラまでの30分』の劇伴音楽を担当するなど、活動の幅を広げている。
Rayonsとは、フランス語で「光線」「半径」の意。
オフィシャルサイト: http://www.rayons.jp

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