
南アフリカ発のダンスミュージック「Amapiano(アマピアノ)」とは? 「和製アマピアノ」をリリースした日本人プロデューサーが作り方を解説
audiot909+PIANO FLAVA「East Bird」ができるまで
お2人のコラボ曲「East Bird」はどういったきっかけで制作することになったのでしょうか?
PIANO FLAVA 元々僕がAmapianoを作りたいと思って作った短いデモ曲があったのですが、それがあまりAmapianoっぽくなくて。それで普段からAmapianoに関する情報発信をされているaudiot909さんのお力を借りたいなと思い、コンタクトをとったことがきっかけです。それで、曲のデータをaudiot909さんに送って、曲の展開や音作りの部分をお任せした感じです。
「East Bird」リリース後の反響はいかがでしたか?
audiot909 「East Bird」は、インストのダンスミュージックなので、リスニング目的では難しいだろうなと思っていたところ、僕が好きなMEMORABILIAというAmapiano界隈では有名なフランスのプレイリストメイカーのプレイリストや国内ではSpincoasterさんの「Monday Spin」というプレイリストにも入れていただいたことは嬉しかったですね。あと、DJからも「プレイしました」と言っていただけたのもありがたかったです。
「East Bird」の制作コンセプトを教えてください。
audiot909 「East Bird」の1分26秒から鳴っている「プルルル…」という音があるのですが、これは先ほどお話ししたPurityで作った音なんです。このフレーズができた時に鳥が飛んでいくようなイメージが頭に浮かび、南アフリカから見て東にある日本で作ったAmapianoというコンセプトにしようということで、「East Bird」という曲名にしました。
PIANO FLAVA そのコンセプトを聴いた時、めっちゃ良いなと思いましたね。今回はシングルのジャケットも僕が作らせてもらったのですが、そもそも自分が作ったデモ曲をaudiot909さんに投げてみたらどうなるんだろうという期待感のようなものがあったので、audiot909さんにはリリースのタイミングやコンセプトなど着地点をうまく作っていただけたと思っています。

ミックスダウンやマスタリングはどちらが担当されたのでしょうか?
audiot909 ミックスダウンは僕が担当しましたが、マスタリングはSo Kobayashiさん(@sktechsktech)というAmapiano関連ではよくお世話になっている方にお願いしました。
PIANO FLAVA 元々は僕がマスタリングを担当するつもりだったのですが、実際にやってみると仕上がりが2人でイメージしていたものとは結構違う感じになってしまったので、慣れている方にお任せしようという結論に至りました。
ちなみに最初のマスタリングではイメージ通りにならなかったとのですが、Amapianoのマスタリングはどんなところが難しいのでしょうか?
audiot909 今回、2人して悩んだのは低音の出し方の部分です。Amapianoは「軽さ」がすごく大事な音楽なんですね。上の音は広がる感じにして、(低音を出しすぎて)モタっとさせてはいけないんだけど、やっぱりダンスミュージックでもあるので、クラブで鳴らした時に低音は爆音で鳴っていないといけない。そういった意味で、既存のダンスミュージックとはまた違った独自のバランスがあると思っています。
その点、南アフリカのプロデューサーはミックスダウンとマスタリングが抜群に上手いですね。例えば、Vigro Deepの曲をクラブのスピーカーで聴くと爆弾が落ちたのかなと思うような低音の響きがあって驚きます。
Amapianoの曲を作る場合、王道のコード進行のようなものはあるのでしょうか?
audiot909 僕個人は特にそういったことは意識していないのですが、南アフリカのプロデューサーは、シンプルなんだけど、かっこよくて「軽さ」があって、かつ耳に残るコードの置き方をしているなという印象があります。
PIANO FLAVA 「East Bird」の場合も、あまりコード進行の展開がないシンプルな循環コードのような形で作りました。個人的にはAmapianoのコード進行は「循環して気持ちいいかどうか」が大切なのかなと思っています。
Amapianoは、リズム、ベースが特徴的なジャンルかと思いますが、「East Bird」での打ち込みのポイントを教えていただけますか?
audiot909 Amapianoの制作ではログドラムとスネアのパターンでリズムを作っていくことが大切になってきます。最近だと2拍目と4拍目にスネアやクラップを置く曲も増えてきましたが、「East Bird」はそういうタイプの曲ではありません。
なので、実際に打ち込みながら16分音符単位でグリッドを1つずらしたり、ああでもない、こうでもないというような感じで、曲を再生しながら、自分にとって良い感じになるように調整していきました。
Amapianoのチュートリアル動画を見ていると、ログドラムをMIDIキーボードにアサインしてリアルタイムで打ち込んでいく人もいれば、僕のように手打ちしていく人もいます。打ち込みのコツは人それぞれだと思うので、一度自分が好きなAmapiano曲のログドラムやスネア、クラップのパターンを真似してみるとコツが掴みやすいかもしれません。
PIANO FLAVA ログドラムの場合は、まずチュートリアル動画の打ち込み画面をそのまま自分で再現してみて、ピッチを変えるなどしながら、リズムの作り方だけ拝借するのも初心者にはおすすめです。
ウワ音よりもリズムにフォーカスして作る方が良いのでしょうか?
PIANO FLAVA 「East Bird」では、ウワ音で聴かせるよりもパーカッション、シェイカーなどリズムで聴かせたかったので、ウワ音の数はそんなに多くないです。
audiot909 ただ、パーカッションを増やせばそれでリズミカルになるかといえば、そうでもないんです。結構やりがちなのが、思い込みでリズムが複雑だと捉えてしまうことによって、パーカッションの数を増やしてしまうことですね。かといって、ちょっとうるさく感じたので、パーカッションの数を減らしてみたら、物足りなくなった……なんていったこともあるので、その部分をいい塩梅にしていくことは制作する上で気を付けるべきポイントのひとつですね。
これからAmapianoを作りたい人へ
これからAmapianoを制作したい人におすすめのリファレンス曲を探すためのプレイリストやサンプルパックなどはありますか?
audiot909 まず1番はAmapianoのプロデューサーたちによく使われているプラグインやサンプルパックを導入してみることだと思います。
サンプルパックだと、「J.E sample pack 2」がおすすめですね。このサンプルパックには、キックのサンプル「(Cyda) kick」とスネアのサンプル「KASBSCS017」という、割と色々なチュートリアル動画でも使われているAmapinoの定番サンプルが収録されているので制作ではかなり役立ちます。
リファレンス曲を見つける場合は、さっき話したMEMORABILIAのプレイリストが非常におすすめです。このプレイリストは更新頻度も高く、Amapinanoのトレンドが押さえられているので、制作する上でインスパイアされる曲が多いと思います。
PIANO FLAVA サンプルパックだとAmapianoの定番サンプルを収録したAudio Buffetの「Yanos Skhaftin Vol.2 (Drum Kit)」もおすすめです。
リファレンス曲を見つけるのに最適なプレイリストとしては、「Amapiano Instrumentals」とKabza De Smallという南アフリカのDJ/プロデューサーが選曲した「Kabza De Small’s track IDs」をおすすめしたいですね。あとはSpotifyがAmapianoのオフィシャルプレイリストを作っているのですが、それも制作する上で参考になる曲が多いです。
制作においてリファレンスとなるおすすめ曲を1曲ずつ教えてもらえますか?
audiot909 Gaba Cannalの「Sweet Melodies」という曲ですね。この曲を聴くとさっき話したような南アフリカ特有のAmapianoの軽さやメロウな感じがよく掴めると思います。今回、この曲を含めた「East Bird」制作で参考にした曲をまとめたプレイリストを作ってみたので、そこにある曲と聴き比べてみるのも良いですね。
PIANO FLAVA 自分からは、女性ボーカルやサックスが入っているAbidozaの「Motho Ke Motho(Feat. Mpho Sebina & Jay Sax)」をおすすめしたいです。僕はAmapianoの曲ではこの曲が1番好きで、本当に何度も聴いています。
初心者がAmapianoを制作する場合、参考になるのはどのチュートリアル動画でしょうか?
audiot909 Seventh’ Beatsという人が公開している「How To Make Groovy Amapiano Beats From Scratch (Da Mthuda, Kabza De Small, DJ Maphorisa) | FL Studio」がおすすめです。この動画では使われているドラムサンプルがフリーで配布されている(Get your free sample packのところ)ので、初心者でも制作しやすいと思います。持っていないプラグインは適宜他のもので代用してみると良いと思います。
PIANO FLAVA あとはAmapianoの基本的な作り方が解説されているAudio Buffetの「Cooking Up For Lady Du (Amapiano Tutorial) | FL Studio Tutorial 2021」、XDizzle「How to Make Amapiano Like JazziDisciples, Kabza De Small & VigroDeep in 15 Minutes」の2つのチュートリアル動画をおすすめしたいです。
audiot909 チュートリアル動画を見る時のポイントは、まず動画の1番最後で曲の出来上がりを確認することですね。そうするとそのチュートリアルが自分が求めているものかどうかわかりやすいです。それと自分が好きなAmapiano曲を見つけて、その“アーティスト名”や“曲名”と一緒に“FL Studio”という検索ワードでネット検索すると、目当てのものが見つかりやすいです。
ほかにも何かAmapianoを作る上でのポイントはあるのでしょうか?
PIANO FLAVA Amapianoでは複数のプロデューサーが一緒に曲を作ることが多いので、誰か一緒に曲を作るコラボレーターを探すのも良いと思います。
audiot909 特に南アフリカのプロデューサーたちには、商業的な意味でのコライトというよりも、コミュ二ティを盛り上げていこうという意識から他のプロデューサーたちをフックアップしていく文化のようなものががあります。だから、すごく有名なプロデューサーのアルバムには、まだ無名のプロデューサーの名前がコラボレーターとしてクレジットされていることも少なくありません。そういう文化も踏襲していけば、Amapiano制作がより楽しくなると思います。
取材・文:Jun Fukunaga
プロフィール
audiot909
ハウスのDJとして活動し南アフリカ出身、フランス出身、地元つくば出身のDJ達と共に多国籍ハウスパーティBastilleを主催。
2020年正月にAmapianoに出会い、TYO GQOM主催の日本初のAmapianoのパーティ「TYO PIANO」にてプレイ。キャリアの転機となる。
それ以降コロナ禍の影響でDJ活動を休止し元々行なっていたトラックメイクを本格的に再開。
日本人によるAmapianoの制作は可能か否かの命題に真っ向から取り組み、満を辞してリリースされた「This is Japanese Amapiano EP(USI KUVO)」はタイトル通り日本人で初めてEP単位でリリースされた作品となり話題になる。
並行して執筆や対談、現地のプロデューサーへのインタビュー、J-WAVE 81.3 FM「SONAR MUSIC」へのラジオ出演など様々なメディアにてAmapianoの魅力を発信し続けている。
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PIANO FLAVA
音楽プロデューサー/マスタリングエンジニア。
2013年にフリーランスの作曲家として起業。女性アイドルグループへの楽曲提供などを経て、Hip-Hop/R&Bに一本化。代表曲にSaint Vega「ネオンの泪」など。
2021年より、ソニー・ミュージックエンタテインメントが運営するSoundmain Blogでライターとしても活動中。
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https://twitter.com/piano_flava