2021.11.29

Puzzle Project連載インタビュー④ 林田匠 イラスト・動画も個人で手がけるクリエイターが欲した「社会性」

パソコン・スマホを使った音楽制作(=DTM)を行う皆さんの「(音楽を)作る・届ける」を支援するプラットフォームとして、各種サービスの開発を進めているSoundmain。その観点から、インターネットを活用して自身の作品を発表している次世代アーティストをサポートするソニーミュージックの新プロジェクト「Puzzle Project」に注目した連載インタビューを実施中だ。

多数のエントリーから選ばれた10組のアーティストに焦点を当てる本連載の第4回には、林田匠さんに登場いただいた。2020年に本名名義での活動をはじめ、2021年2月にボーカロイド曲のオリジナルアルバム『ひみつのうた』を配信リリース。陰影の深い作風に加え、イラストやアニメーション動画も全て一人で手掛け、独自の美学を持ったクリエイターだ。音楽との出会いから見据える先まで、じっくりと語ってもらった。

取材・文:柴那典

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プロフィール

林田匠

2020年1月、ハヤシダ名義で初音ミクを使用した楽曲「Penguin’s Detour」を投稿し、niconicoで殿堂入りを達成。
のちにリメイクし、本名の林田匠での活動開始に伴い再投稿。
翌2021年2月、同曲に加えてハヤシダ名義時の楽曲と新曲を含めた全7曲のミニアルバム「ひみつのうた」を配信リリース。これまで楽曲、映像、アートワークの制作を全て一人で手掛けている。

YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCsoaZ0pRx_QCeLDMrqWnVZA
Twitter: https://twitter.com/studiohayashida
Instagram: https://www.instagram.com/studiohayashida/
ホームページ: https://studiohayashida.kdcs.work/

林田匠 インタビュー

林田さんが音楽を作り始めたのはいつ頃のことでしょうか?

林田匠(以下、林田) 本格的に音楽を作り始めたのは、はるか昔のように感じています。あまりはっきりとは覚えていないんですけど、強いて言えば、中学生の時に安いアコギを買ったときかもしれません。歌うのが好きだったので、アコギを触って、いろんな曲のコードを鳴らして、弾き語りをしていました。その前から風呂場で即興のメロディーを鼻歌やスキャットで歌うみたいなことはしていたんですけど、ギターのコードをある程度押さえられるようになってから、せっかくなら歌うだけじゃなくちゃんとした曲を作りたいと思うようになって。最初はワンフレーズだけのものから、作っていくたびに1番、2番……と徐々に増えていきました。誰に聴かせるつもりもなく、スマホのボイスメモに録音して、自分一人でコレクションするということをしていました。

世界中の知らない人たちに聴かせるなんて、そんな恥ずかしいことはないと思っていましたし、そういった気持ちはいまだにあります。ただ、自分の知り合いにはボカロの声に抵抗のない人たちが何人かいたので、ボカロなら聴いてもらえるだろうと思って。時間がかかりましたけど、頑張って音源にして、動画を作って、ニコニコ動画に投稿して、「こういうの作ってみたよ」という感じで聴いてもらったりしていました。最初の頃は、意識的にはほとんど知り合いに向けて共有していて、今も作品ができたら共有しています。

※本名名義になる以前、「ハヤシダ」名義の作品は現在でもホームページから閲覧可能。
https://studiohayashida.kdcs.work/

誰かに聴かせるよりも、まずは自分自身のために曲を作るというところが大きかったんでしょうか?

林田 突き詰めて言えばそうですけど、「(自分の作品を)何のために作っているのか?」と聞かれたら、意識の中で多くを占めていたのは、自分の社会性のためということでした。

綺麗な言い方をすれば、人と繋がる術というか。基本的に、巷にあるコンテンツだけで楽しむには物足りないから、じゃあ自分で作るしかないというマインドを制作の基盤としてやってきたつもりではいます。けれど、それと同時に、同じ熱量で作品に向き合ってくれる仲間を探しているというところがあって。いわゆる音楽仲間と呼べた人間が未だにいないんです。

常に引っ込み思案で生きてきて、今はコロナ禍で余計誰かに会うことが難しいというのもあって。でも会ってみたいと思う人には会ってみたいし、作品制作という名目じゃなくても、と言うと野暮ですけど、とにかく仲間が欲しい。

林田さんはイラストも動画も全てご自身で作られているわけですけど、音楽と絵はどちらがご自身の中で先に始めたことだったんでしょうか?

林田 自分で生み出すという意味では、イラストですね。それも音楽を本格的に始めたときと似ていて、最初は思ったことを大学ノートにシャーペンだけで殴り描きしたようなものを描いていました。

描き始めるときはいつも自発的で突発的なんですけど、絵が完成して俯瞰で見たときに「人に見せたいな」と思って、中学の時にクラスのやつに「こういうの描いたよ」って見せたりはしてました。承認欲求も少なからずあったと思うんですけど、それよりは誰かに楽しんでもらいたかった。誰かに見せて「いいね」と言ってもらえた時は、一つ楽しい空間ができたような感じがあって。自分がそれを作ったというよりは、ひとつのちょっとした遊び場ができたというか。

「秘密基地」という比喩が正しいか分からないですけど、日常がちょっとだけ色づいたような気がしました。描いているときはすごく悲しい気持ちだったものなのに、人と共有するだけで、悲しいものという事実は変わらなくても、有意義に感じられるようになった気がしたんです。

林田さんが発表した作品の中では「Penguin’s Detour」が、それまでと比べても多くの人が聴いたり「歌ってみた」動画が投稿されたりと注目も集まったと思います。この曲を作ったことが、何かのターニングポイントになったという実感はありますか?

林田 当たり前ですけど、見てくれる人はちゃんと見てくれている、ということをすごく実感しました。この作品は個人的に作り直したくなって、リマスター版というかたちで再投稿して、それと同時に名前を元々の「ハヤシダ」から本名の「林田匠」に変えて投稿したんです。

本当は本名どころかネット上に人格を置くこと自体が苦手で、作品を公開するにしても、匿名で良かったし、もっと言えばロイヤリティフリーのような形のほうが気持ち的に楽だったと思うんです。でも、ネット上のコミュニティが現実世界よりも現実味を帯びていると感じるようになってきた時に、せっかくいい作品を作ったから、作品への矜持と同等の責任を持つということを、自分が思う一番誠実な形で表明しておきたいと思ったので、本名で投稿しました。その時から自分の作品に対するコメントとか、そこから動いていく歯車の流れが、しっくりくるようになったんです。

作品って、公になった途端にセンシティブな価値観が多面的に埋め込まれてしまうので、最初は身近な人だけに狭く深く追求していたところから、「Penguin’s Detour」を境に、良くも悪くも見られている意識が強くなった気がします。

2月にはボーカロイド曲のアルバム『ひみつのうた』を配信リリースし、それを経てPuzzle Projectに参加されるわけですが、参加しようと思った動機はどんなところにありますか?

林田 これも最初の話に戻るかもしれないんですけど、自分の社会性のためです。漠然と音楽から映像まで一人で作ってきたわけですけど、何から何まで自分ひとりで作り上げていく、ある種自己完結しているローテーションにどこか懐疑的だったというか。

ちょうど『ひみつのうた』というアルバムを作り終えた頃に、Puzzle Projectを知って。アルバムを配信する前だったんですけど、アルバムを作り終えたときの自分の心情としては、嬉しい気持ちもありつつ、同じくらいなんとなくやるせない気持ちもあったんです。「これで良かったんだよな」という肯定感もあれば、同じくらい「これで良かったのかな」って、どこか懐疑的な思いもあった。カオスだったんですね。

音源を作って売るということに詳しい人は探せばいるんでしょうけど、独りよがりな性分なので、なかなか自分からコンタクトを取るというのは難しくて。コネクションもないと、音楽っていう分野のマーケティングにおける教養や視点が欠けたままで、本当にこれでいいのかなという自問自答を繰り返していました。それに加えて、コロナ禍という状況で、音楽という婉曲的な手段じゃなくて、本当はもっとリアルに生活に根付いてやるべきことが、何か他にあったんじゃないかという気持ちでいっぱいになって。アルバムを作り終えた段階でわだかまりがあったんですよね。

Puzzle Projectから「一緒にやりませんか」という話をいただいたときは、応募だけはしていたものの前向きに期待はしないでいたので、これは願ってもない機会だなと思いました。結果としてどうこうというよりは、気持ち的に救われた部分がありました。

正直、応募すること自体不安もあったんですけど、アルバムを作ったことに関しても、公開するということに関しても、そこに共通してあったのは、ちょっとした勇気で。微小な勇気を行動に変換するだけで、未来の自分に親切にできる。結果的に本当にそうなったんですよね。アルバムに関しても、感想のメールをSNSで募らせていただいたんですけど、自分の思ってた以上にたくさんいただきまして。そこに意地悪なコメントも一切なかった。喜んでくれた人たちがちゃんといたわけで、今になって、疑心にばかり身を委ねるのは不徳だなと思うようになりました。

Puzzle Projectをきっかけに、今は高い熱量で自分の作品に向き合う仲間が増えたという感覚もあるのではないでしょうか?

林田 表面的にはですけど、そういう熱量を自認できるきっかけ作りとしては心強く感じます。

林田さんの好きな音楽、影響を受けたアーティストについても聞かせてください。どんな人がいますか?

林田 コロコロ変わるんですけど、アーティスト単位で聴くようになった最初の人は、高橋優さんです。

それはギターを弾き語りしていた頃ですか?

林田 そうですね。吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』という映画のエンディングで高橋優さんの「陽はまた昇る」という曲を聴いたのがきっかけです。映画バージョンとしてアコギとガットギターだけのイントロで始まるんですけど、泣き叫ぶように歌ってるのに伴奏がミニマルで、かつスクリーンではエンドロールがゆっくり流れていく、そのコントラストがすごく叙情的で、歌詞もスッと入ってきて、当時中学生だった自分としては新鮮で、身体中に電気が走ったような感覚がありました。良い意味でそこに分かりやすい良さ、潔さがあったからこそ、アーティスト単位で取っつきやすかったんだと思います。

今のようなスタイルで音楽を作るようになったというところではいかがでしょうか?

林田 DAWを使って音源を作る流れの発露という意味では、米津玄師さんです。もともとシンガーソングライターが好きで、シンガーソングライターというと高橋優さんのようにギター一本で弾き語りというスタイルの印象が強かったんですけど、打ち込みまでやって、マスタリングやイラストや映像まで一人でできてしまって、それでちゃんと評価される。そういう説得力を示してくれた方で、間違いなく今の自分を作り上げた一人だと思います。ここまで一人でやっちゃっていいんだって思うようになりました。

そういう意味で米津玄師さんが憧れになった。

林田 憧れもありますけど、自分にとっては北極星的な認識です。

自分の進む方角で輝いている、みたいなイメージ?

林田 そうですね。もちろん全く同じ手順を踏まなければいけないわけではないですけれど、その時その時の自分にとっての指標としてのポイントに米津さんがいました。

わかりました。今後に向けて、現在ではどんなことを考えていますか?

林田 今年は2月にアルバムを配信して以来目立ったことはできていないんですけど、作品を作るということに関しての熱量は変わっていません。次に作品を公開できるのは来年になってしまうかもしれないんですけど、いずれにせよ常に面白そうな方を選択できるようにフットワークを軽くしていけたらなと思います。興味深く、新しいことを、実験も交えつつ、前向きにやっていきたい所存です。

「Puzzle Project」とは?

「Puzzle Project」は、次世代アーティストの音楽性・楽曲・世界観とソニーミュージックグループが持つソリューションを掛け合わせ、作品を世界に広げていくプロジェクト。プロジェクト参加アーティストには、小説を音楽にするユニット“YOASOBI”を誕生させた小説投稿サイト「monogatary.com」によるクリエイティブサポートや、世界に45ヵ国以上の拠点があり、2019年より日本でサービスを開始した大手音楽ディストリビューション会社「The Orchard」での世界配信サポートが行なわれる。また、その他ソニーミュージックグループが持つさまざまなソリューションを活用し、楽曲制作、映像制作、ライブ制作などのクリエイティブサポートなどが行なわれる。

公式サイト
https://puzzle-project.jp/

随時エントリー受付中。エントリーはLINE公式アカウントより。
https://lin.ee/cPUfl4c

参加資格

  • インターネットを活用し自身の作品を発表している方
  • 年齢不問
  • 国籍不問 ※日本国内在住の方に限ります