
「ファンダム文化」を中国当局が危険視? 今後のエンタメ世界地図への影響は
「ファンダム(fandom)」とはポップカルチャーやスポーツなど共通の関心事を持つファンが形づくる世界のことで、熱狂的なファン同士が仲間意識を持ち、連帯して展開する文化や共同体を指します。
アイドルグループ・BTS(防弾少年団)が世界で人気を獲得したきっかけのひとつに、2017年の米ビルボード「トップソーシャルアーティスト賞(※)」受賞がありますが、このときすでにBTSのファンダム「ARMY(アーミー)」は海外ファンと一体化しており、韓国ファンが寝る時間になると、海外のファンにバトンタッチし、時差を利用してBTSを応援し続けたという逸話があります。
※ビルボード・ミュージック・アワードのひとつ。SNSでのフォロワー増加やクリック数、ストリーミングなどインターネットでの影響力をもとに、ハッシュタグ投稿や特設ページからの投票数を合算し決定する。
一方中国では、政府がファンダムを取り締まる動きを見せています。
先日中国系カナダ人のポップスター、クリス・ウーが強姦容疑で逮捕されたとき、ファンの一部はすぐにネット上で団結し、彼を脱獄させようと計画しましたが、このような話題を共有したアカウントはすぐに削除されました。
その後、中国共産党の中央規律検査委員会は、「『クリス・ウー事件』で露呈した有名人のファンクラブの混乱は、悪いファン文化が是正されなければならない臨界点に達していることを示している」とコメントしています。
また、歌手や芸能人を熱狂的に応援する「推し活」を規制する通知も出しており、ネット上での芸能人やアイドルグループのランキングも禁止されました。
中国や韓国での音楽アプリは、音楽そのものだけに頼るのではなく、音楽を中心とした「体験」を構築することで、多くの成功を収めてきました。しかし、これらのモデルはエキサイティングであると同時に、ファンの支出と執着をさらに押し進めたいという誘惑にも支えられています。
TikTokをはじめ、いまやエンターテインメント業界の地図を根底からひっくり返すプラットフォームを生み出すまでに至った中国。そんな国が、当局の鶴の一声で大規模な規制を行うことができる体制であるということ。
このバランスが世界のエンターテインメント業界にどのような影響をもたらすのか。ファンダム文化のゆくえとともに、引き続き注視していきたいところです。
文: 三嶋 直道(PIANO FLAVA)
【参考サイト】
The oncoming fandom crisis
https://www.midiaresearch.com/blog/the-oncoming-fandom-crisis
Crazy love: Behind China’s crackdown on K-pop and other fan clubs – BBC News
https://www.bbc.com/news/world-asia-china-58459318
Kris Wu allegations: Chinese regulators eye unruly online fans and pop culture shows as their next crackdown targets – CNN
https://edition.cnn.com/2021/08/06/media/china-crackdown-fan-culture-kris-wu-intl-hnk/index.html
K-POPの「ファンダムの力」を考察。自主と連帯が生む熱狂と危険性 – コラム : CINRA.NET
https://www.cinra.net/column/202001-kpopfandom_gtmnmcl
【参考文献】
K-POPはなぜ世界を熱くするのか(田中絵里菜 著、朝日出版社) p.110~113
https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255012124/