2021.10.01

『Logic Proで曲づくり!』著者・谷口尚久さんインタビュー ボカロから劇伴まで、「10の作例」で学ぶ作曲の奥深さ

「独学」の功名

谷口さんご自身の経歴についてもお聞かせください。Wikiなどを拝見すると、一般企業に勤められていた期間が10年ほどあって。でも音楽歴としては長くて、13歳の時に音楽指導資格を取られたとも書いてありますね。

変な子供だったんですよ。幼稚園の頃から楽譜を書いたりしていて(笑)。だけどそれが好きで好きでたまらなくて、自信もあったし、音楽を仕事にするんだって思い込んでいたんだけど、親が猛反対するわけです。それで中1までクラシックピアノをやっていたんですけど、指導資格を取ったらもう人から教わるのはやめて。そこからは親の期待通り、いい大学に入れ、大きな企業に入れと言われたようにしてきて。それでも自分は音楽で食えるんだと思っていて、独学を続けていたんですけど。とっかかりがなかったんですよね。自分の周りにそういう(音楽で生活している)人がいなかったんです。

ちなみに、親からしてみたら「音楽で食べていく=クラシックの演奏者になる」だったんですけど、自分も本当は藝大に行って指揮者になりたかったんです。いまだに憧れはあるんですけど(笑)。でも、DAWって音を並べて、お前はそこでこういうふうな演奏をして、その表情はこういうので、とやっていくので、ある意味指揮者になったとも言えるんじゃないかと思ったり。

なるほど、面白いです。

脱線しましたが(笑)、大企業に勤めながらも音楽は続けていて、ようやく30過ぎでボーカリストとユニットを組んでとあるオーディションに受かって、高橋幸宏さんのプロデュースでCDを2枚出して。そのときに、勤めていた会社の上司から「お前は来年から係長だ、部下を持たせてやる」って言われたんです。そこで「やばい、このまま俺、一生これで終わっちゃう」と思って、やっぱり後悔したくないと思って33歳で会社を辞めました。なので、歳の割にプロとしてのキャリアは他の人より短いんですよね。だけど良いこともあって、独学の期間がすごく長かったから、ストックもいっぱいあった。その後、音楽的に困る、インプットが追いつかないみたいなことはなかったです。

谷口さんが2018年より都内に構える「Wafers Studio」は、暖色系の落ち着いた内装で統一されている。多数のアナログ楽器も。

ユニットとしてオーディションを受けていたということでしたけど、作家としてやっていくという選択肢はなかったんですか。

そういう仕事があると知らなかったんです。だけど33歳で会社を辞めたときに、今一緒に事務所をやっている人間とかに出会って、こういう仕事があるんだと知って。自分としてはもう音楽で食えるんだったら何でもいいという変な覚悟があったので、「こういう音楽を作らなきゃ」とかいったこだわりがその時点でないんですよね。もう音に関われるなら、どんな仕事でもやるよと。それが一種の強みなのかもしれないですね。

所属されている事務所(TOYRO MUSIC)のデータベースを見ると、いわゆる作曲・楽曲提供といったお仕事以外にも、朝ドラの主題歌のピアノ用スコアを作られたりしていますね。

それこそ、普通はこんな仕事があるとは知らないですよね(笑)。ちなみに、これもLogicだけでやっているんですよ。専用のソフトほど機能は多くないし、コツも要るんだけど、やろうと思えばできるんですよね。楽譜を作れるというのも、僕がLogicを使っている理由かもしれないです。

最近は楽器も演奏できない、楽譜も読めないけれど、サンプリング的に音を組み合わせてなんとなく曲らしきものを作ったりすることもできる時代で。楽器が演奏できたり、譜面が読めることで得したなというか、仕事をする上で広がりになっていると実感することはありますか。

楽器や楽譜の知識が一番必要だなと思うのは、人と仕事をするときなんです。例えば、僕はSMAPの歌を10年間録っていたんですけど、過酷な現場なんですよ。30分でこのメンバーの歌を1曲分取らなきゃいけないとか、1日で3曲録るとか……忙しい人たちですから、彼らは覚えきれてない状態で現場に来る。そのとき、メロ譜を自分で作って、読みながらディレクションするんです。小さいときに、先生が何か曲弾いたらそれを楽譜にバーッと書くといったトレーニングをしてきた中で絶対音感が身についていたので、譜面を見ながら「これはミですね」と言ったりすることもできて。

つまり、コミュニケーションツールとして音階に対する感覚や知識があるんですね。

おっしゃる通り、音感というのは自分のためにあるんじゃなくて、誰かに何かを伝えるときにあってよかったなと実感するものですね。楽器に関しても同じです。

あとは、個人的にはこういうコロナの時期になって、楽器の練習って本当に楽しいことだなと実感しました。やっぱり、普段仕事をしていて、昨日自分ができなかったことが明日できるようになるといったことって、なかなかないじゃないですか。でも、楽器ってそういうのがいくらでもあるんですよ。スケールが覚えられたとか、こういう指使いができるようになったとか。

実際、コロナ禍で楽器を始めた人が増えたというニュースもありましたよね。ただそれと比べると、DAWで曲を作るということのステップアップした実感って得にくいのかなとも思うんです。

そもそも、楽器を弾けるということと作曲ができるということが違うものではありますよね。超一流の演奏家に曲を作らせたら、すごくセンスが悪かったという例っていくらでもあるし。

ただ、楽器が弾けるからこそ作れる曲の種類やジャンルというのはいまだにあると思います。最近だとトム・ミッシュなんかは、巧いギタリストだから、あえて単純な曲を作ってもすごく良いとか。クラシックだとリストですよね。彼は手が非常に大きくて、だからこそできる超絶技巧を取り入れた曲を自分で作って。だけど、それを現代のクラシックピアノを習っている、手の小さい日本人が楽譜を見てコピーしても、完全に再現することなんて無理ですよね。だったら弾きやすいように、編曲し直しちゃえばいいのにって思うんです。

それと一緒で、自分が弾ける範囲の中で曲を作るというのは、「楽器を練習する」ことと「曲を作る」ことをリンクさせた、一番健全な音楽の作り方だと思います。逆に言えば、楽器を練習すればDAWで作れる曲も広がるし、そこからDAWで作りたい曲をこういう風にしたいと思ったら、そのために楽器を練習すればいい。そういったサイクルを作れると良いと思いますね。

「楽器なんて絶対に使わない、俺は全部パソコンだけでやるんだ」みたいなこだわりを持つことには意味がないというか。楽器もDTMを始めたときと同じように、軽率に始めてみてしまえばいいってことですよね。

そうですね。今はこういう時代で人とも会いにくいし、全部自分でやりたいと言うのであれば、むしろ楽器を練習するのはおすすめです。本当にプロでやり始めたら、予算がつけば人を呼んじゃえばいいんだし、それを想定して曲を作れるようにもなるし。

ちなみに、僕はこの本の素材としてトランペットを吹いているんですよ。中学のときにブラスバンド部に入っていたんですけど、3年前に今のスタジオを作ってから、また練習し始めて。そうすると、自分の仕事でも使えるようになって。吹けるからこそ、じゃあそれをメロディー楽器にして曲を作ろうとかいう発想もできるんですよね。

いろいろな音楽に触れて、「イロモノ」になろう

谷口さんの携わられた楽曲をいろいろと聞かせていただいて、僭越ながら、ご年齢の割にとにかくフレッシュさを感じるというか。声優さんや歌い手さんに提供された曲だと特に、それこそボカロっぽさというか、展開の多い感じとかも自然に取り入れられていて、すごく抜けのいい印象があるんですよね。

ひと言で言ったら、ミーハーなんですよ(笑)。「確かにこういう音楽も面白いよね」っって、あれもやりたい、これもやりたいとやっているところがあります。ただ、正直言うと40代に入ったら、10代や20代の人が聴く歌詞や曲を作るのは無理じゃないかと思っていました。だから30代後半からは劇伴の勉強をしてプレゼンもして、そういう仕事を増やしてきたんですけど。

一方で96猫という歌い手出身のシンガーの「嘘の火花」(TVアニメ『クズの本懐』オープニングテーマ)という、これは確か初音ミクをはじめて買った日に書いた曲なんですが、「こんなことできるんだ!」って無我夢中で作ってみたら評判が良くて、「これ書いたの誰だ?」みたいなことを、アニメファンも検索してくれて。そうしたらそういう曲もどんどん求められるようになったので、あれは結構転機でしたね。その後作詞で携わるようになった「すとぷり」の曲なんかは、聞いている人が高校生とか大学生とかで。この間も現場でCHEMISTRYファンの方から「娘はすとぷり好きなんで、親子で谷口さんの曲を聞いてます」と言われました(笑)。

96猫「嘘の火花」(谷口さんは作詞・作曲・編曲を担当)
すとぷり「ホワイトプロミス」(谷口さんは作詞を担当)

聴く人の世代であったり感性であったりの違いを想像して、作る際に調整されたりしますか。

自分の中ではあんまりそこの垣根ってないんですよね。本にも書きましたけど、音楽が建築物だとするなら、柱はこう立てて、こういう素材で作って……ぐらいの違いしかなくて。ただその柱の間隔には違いがあって、最近はこういう間隔で作るんだ、狭いんだ、広いんだとか、それがBPMだったりして。すでに出回っているものを聴いて、今はこういう素材があるのか、なるほどと思ったり。実際に音楽を作ってる人だったらみんなそうだと思うんですけどね。

話が戻っちゃいますけど、僕、オーディションになかなか受からなかった20代のときに、悩んで悩んで、ひとつ気づいたことがあって。それはどんな音楽も「イロモノ」なんだと。

「イロモノ」ですか。

僕らが中学生の頃にヘビメタというものが流行っていましたけど、あれこそまさにそうじゃないですか。プログレだって、クラシック――たとえば今では「ロマン派」とか言われるもの――だって、当時はイロモノと思われていたかもしれませんよね。そう割り切ったときに、何か思い切れたんですよね。「みんな」を満足させる曲を作らなきゃいけないんじゃないかと勝手に思い込んでいたのが、そうじゃなくて、何か変わった曲をどんどん作ったほうが世の中で目立てるんだと。そうしたらオーディションに受かったという成功体験があって。

今、ボカロがメインストリームですって言っても、その中で変な物を作った人こそ目立って、評価されるじゃないですか。でもそれだって、一生それをやり続けるわけでもない。その必要もないし。常に「こんなイロモノもありますよ」というスタンスでやればいい、音楽ってそれでいいんだよというのを、この本で伝えたかったというのもあるんですよね。

難しいところですよね。それを人に教えようとすると、「ボカロっぽい曲」とか「EDM」とか、タグ付けするところから入っていかなくてはいけないから。

「タグに囚われるな」というのは、正論としてはあると思うんです。でも、最初に取りかかる人はやっぱりタグがないと、自分の頭の中の引き出しのどこに入れていいかもわからないから。まずは、そのタグ通りやってみて、その後壊せばいい。そこまでは僕、この本には書いていないですけどね。

この本の10の作例の全部に興味がある人って、たぶんいないと思うんです。だからお伝えしたいのは、もし10個のうち2個興味があったら、ぜひこの本を読んでみてください、それで読んだら、せっかくなんで他の8個もファイルを開いてみてください、ということです。音楽っていろいろなものがあって、自分が好きな音楽もそのひとつでしかなくて……という風に相対的に見れるようになると、もっと音楽って楽しくなりますから。

独学から始まって、プロとしていろんなタイプの音楽を作られてきた谷口さんだからこそ、こういう本になっているんですね。

そうですね。この本は、そんな僕が作業している後ろから覗き込んでもらうイメージで読んでもらえるといいなと思います。僕が手取り足取り教えるというより、作っていく過程を、後ろから覗き込んで、「はぁ、こういうことやるんだ」って見てもらうような。

自分もある時期ゴンドウトモヒコさんの後ろで、別に話をするわけでもなく、ひたすら作業しているのを見ているだけというのをやらせてもらっていたことがあるんです。見ているだけなんですけど、ここでこういう音色を入れたのは、ここでこの人がコンプさせたのはどういう意味なんだろうというのを考えられたのが、今でもすごく糧になっていて。そういう感じで、真似できるところがあったらぜひ真似してほしいし、逆に「これは違うよな」みたいな使い方をしてくれても、全然いいなと思っています。

取材・文:関取大(Soundmain編集部)

書籍情報

Logic Pro で曲づくり!
つくりながら覚えるDTMのレッスン

10の作例から学ぶ、ビギナーのためのLogic Pro入門書

プロフェッショナル向けの機能も取り揃えながら、安価で使いやすく、プラグインも豊富なDAWソフト「Logic Pro」の入門書です。「つくりながら覚える」というスタイルで、楽曲制作をしながら、その曲を作るために必要なプロセスと機能、コツを学んでいきます。

作例は10曲。ボカロ切ない系4つ打ち、ボカロ和風ハイテンション、アゲアゲEDM、循環コードR&B、ジャジーなラウンジBGM、2000年代J-POP王道バラード、チルホップな作業BGM、壮大な劇伴、コミカルな劇伴、広告動画用BGM。これらのプロジェクトファイルは、本書の特典としてダウンロードできます。

またその他TIPSや、次に買うべきサードパーティ製音源やエフェクトも紹介します。

Logic Proで、曲づくりのためのプロセス・機能・コツを実践的に学ぼう。

[読者特典]プロジェクトファイルはダウンロードOK!

発行:ビー・エヌ・エヌ
ISBN:978-4-8025-1231-2
定価:本体2,600円+税
仕様:B5判/160ページ
発売日:2021年09月22日
著者:谷口尚久
デザイン:Happy and Happy

著者プロフィール
1971年生まれ。13歳で音楽指導者資格を取得。東京大学経済学部卒業。学生時代からバンド活動を始める。自身のグループで高橋幸宏プロデュースのアルバムを2枚発表。同時期に作詞・作曲・編曲家としての活動も始め、CHEMISTRY・SMAP・V6・関ジャニ∞・Sexy Zone・中島美嘉・倖田來未・JUJU・TrySail・すとぷりなど多くのアーティストのプロデュース・楽曲提供、また映画やドラマの音楽も多数担当。東京世田谷にWAFERS Studioを構え日々制作。個人名義では「JCT」「DOT」「SPOT」をリリース。

出版社公式ホームページはこちら(目次など)
http://www.bnn.co.jp/books/11258/

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