2021.09.28

SoundCloudの“ファン主体型”分配システムで従来の6倍以上の収益が発生したケースが明らかに

ニュース

今年7月にイギリスのトリップホップグループ、Portisheadがチャリティーを目的にSoundCloudでABBAの代表曲「SOS」カバー曲を公開しました。

同曲は元々は2016年に制作されたものですが、Portisheadは今回の配信にあたり、SoundCloudと提携。同社が今年3月に発表した“fan-powered（ファン主体型）”と呼ぶ、新たな収益分配システム「UCPSモデル（Over Centric Payment System=ユーザーセントリック方式）」を活用しました。この楽曲配信による収益はメンタルへルスの慈善団体団体「Mind」支援のために寄付されます。

SoundCloudのfan-poweredモデルでは、1人のユーザーが支払ったサブスクリプション料金がそのユーザーが実際に聴いたアーティストにだけ配分されます。

SoundCloudによると、Portisheadの「SOS」カバーは、配信開始後わずか1ヶ月ほどで現在、多くの音楽プラットフォームが採用している収益分配システム「プロラタモデル（比例按分方式）」で得られる収益の6倍以上を獲得。収益の比較では500％以上の増加にあたるといいます。

fan-poweredモデルは、SoundCloudを通じて直接収益を得ている約10万人のインディペンデントアーティストを対象に提供されています。しかし、メジャーレーベルや独立系レーベルと契約しているアーティストに関しては、すでに既存のライセンス契約の対象となっているため、このモデルの影響に関するデータはこれまでほとんど存在しませんでした。

SoundCloudの担当者は、同社が新たな収益分配システムを立ち上げている最中であることから、「支払いデータの完全な集計は今後数ヶ月後に行われる」とした上で、「このモデルは期待どおりにトラッキングされており、Portisheadの事例は、このモデルにとって、ファンのエンゲージメントが意味のある収益をもたらしていることを強く証明している」と述べています。

昨年、イギリスで起きた「#BrokenRecord」キャンペーンを通じてUCPSモデルのことを知ったというPortisheadのメンバーのGeoff Barrowは、Pitchforkの取材に対し、「fan-poweredのようなUCPSモデルはアーティストを支援したいファンにとっては絶好の機会だ。今回は「SOS」カバーを多くの人に聴いてもらいたいというよりは、ストリーミングでお金を稼げるということを広く知ってもらいたかった。その収益でピザを注文できるか、家賃を払えるかでは大きな違いがある」と述べています。

UCPSモデルの提唱者は、世界規模のファンベースを持つ大物アーティスト以外のアーティストの場合、UCPSモデルの方がプロラタモデルよりも収入を向上させる可能性があると主張しています。その主張は2017年にフィンランドで行われた学術研究でも支持されるなどこれまでに一定の支持を得ています。

UCPSモデルでは、アーティストがより正確なリスナー行動のデータを取得できることがメリットのひとつに挙げられます。アーティストは、そのデータを活用することで物販やツアーチケットの販売を促進させ、音楽活動からの収益化を拡大させることができると考えられており、大手音楽プラットフォームのひとつ、Deezerも導入を検討しています。一方で、支払いシステムやデータ管理の複雑性から管理運営コストの負担が増加することを理由にUCPSモデルに否定的な見方を示す音楽関係者や業界団体もいます。

イギリスでは今年7月にイギリス下院デジタル・文化・メディア・スポーツ特別委員会（DCMS特別委員会）が「ストリーミングが音楽業界に与える経済的な問題」に関して、政府に提出する問題解決のための5つの提言を盛り込んだ報告書を公開するなど、現在も海外ではストリーミングの収益分配システムに関する議論が盛んに行われています。