2021.09.10

オートチューン: 声を「ケロケロ」に加工する、歌ものヒップホップ・ハイパーポップに欠かせないプラグインの威力

パソコン・スマホを使った音楽制作(=DTM)を行う皆さんの「(音楽を)作る/届ける」を支援するプラットフォームとして、各種サービスの開発を進めているSoundmain。

音楽クリエイターのヒントになる情報をご紹介する本ブログでは今回、ライターのJun Fukunagaさんに現行ヒップホップシーンでも大活躍するプラグイン「オートチューン」の歴史と活用法についてまとめていただきました。末尾にはFukunagaさんセレクトによるオートチューン活用のためのチュートリアル動画もご紹介しているので、合わせてご活用ください。(編集部)

オートチューンとは?

現在では、ポップスをはじめ、ヒップホップなど様々なジャンルの音楽制作において欠かせないプラグインのひとつになっている「オートチューン (Auto-Tune) 」。

オートチューン誕生のきっかけとなったのは、1996年に石油会社のエクソンモービルで技師として働いていたAndy Hildebrandが、地震データ解析用ソフトが音程の補正にも使えると発見したこと。翌年、Antares Audio Technologies社がピッチ補正プラグインとして、世界的に有名な音楽機材見本市「NAMM」で発表し、その後、音楽業界で徐々に普及していきました。

その本来のピッチ補正としての利用目的以外に、ボーカルを特殊効果を与えるエフェクターとして注目を集めるきっかけになったのは、ポップシンガーのCherが1998年に発表した「Believe」です。同曲では、現在、ボーカルのピッチ補正を過剰に行うことで、人工的な質感の“ロボットボイス(ケロケロボイス)”化する手法が採用され、のちのポップスにおけるオートチューンの活用方法に大きな影響を与えました。

その後、現在、オートチューンを取り入れることが一般化しているヒップホップシーンにも波及します。同シーンでは、オートチューンの存在を広く知らしめたパイオニアとされるラッパー/シンガーのT-Painが、2005年に「I’m Sprung」などオートチューンを取り入れた楽曲を多数収録したデビューアルバム『Rappa Ternt Sanga』をリリース。

のちにT-Painは、インタビューで初めてオートチューンのエフェクトを耳にしたのはJennifer Lopezの楽曲だったことを明かしているほか、使い始めた理由として、オートチューンの特徴的なサウンドを活用した曲がその当時、ほとんど存在しなかったことや、自分が上手い歌い手ではなかったことを挙げています。

T-Painの曲のヒットをきっかけにオートチューンは、Kanye West、Lil Wayne、Aconなど有名ラッパーなどの曲に取り入れられるようになりました。その中でも「Love Lockdown」などを収録したKanye Westの2008年のアルバム『808s & Heartbreak』は、ポップスシーンにおけるオートチューンの名声を高めるきっかけになりました。

2009年にはBritney Spearsが全面的にオートチューンを使用した「Womanizer」をはじめ、その影響を感じさせるBlack Eyed Peasの「Boom Boom Pow」、Ke$haの「Tik Tok」などのヒット曲が生まれています。それにより、この頃には“ボーカルを特殊効果を与えるエフェクター”としてのオートチューンの存在が一般的にも広く認知されるようになりました。

また、この頃にはPerfumeが「ポリリズム」(2007年リリース)などオートチューンを取り入れた曲をヒットさせたことで、日本でもオートチューンのロボットボイス・イメージが広く知られるようになりました。

しかし、このようにオートチューンの認知が進んだことで、批判の声も徐々に上がるようになりました。先述のオートチューンを使ったヒット曲が数多く生まれた2009年にはロックバンドのDeath Cab for Cutieが第51回グラミー賞授賞式の壇上でオートチューン使用に抗議を行ったほか、ラッパーのJay-Zが「D.O.A. (Death of Autotune)」というオートチューンを批判する曲をリリースしたことなどをきっかけに、オートチューン使用に関する是非を問う議論が注目を集めるようになりました。

そのような議論が起こるも、オートチューンは、2010年代中頃にヒップホップのサブジャンルであるトラップと結びつき、トラップが流行するとともに再び注目を集めるようになっていきます。この頃にはヒップホップも従来のラップ要素だけでなく、メロディ要素を取りいれた曲が目立つようになり、そのような“メロディラップ”制作において、オートチューンは欠かせない存在になっていきます。特にFuture、Chief Keef、Playboi Carti、Travis Scott、Lil Uzi Vert、Migosらはその代表的なラッパーとなり、彼らのオートチューンを取り入れたトラップサウンドは、人気が世界的に高まるとともに世界各地のヒップホップシーンに波及。その影響は日本のヒップホップシーンにも広く及ぶようになっていきます。

このようにオートチューン人気が再度高まったことにより、2000年代後半に起きたオートチューンに関する議論も再び、見られるようになります。オートチューンに対する代表的な批判には“歌唱スキルのなさをごまかすことになる”ことや“似たような作品が乱立することになる”というようなものがありました。しかし、この頃にはオートチューンでボーカルを加工することを、楽器的な存在で表現のためのツールとして肯定的に捉える向きも見られるようになりました。

Pitchforkは、コラム「How Auto-Tune Revolutionized the Sound of Popular Music」で、オートチューンを使った表現が普及する背景には、現在の多くのカルチャーがデジタルツールにより編集されていることを挙げています。例えば、SNSにおいて、自己表現のための加工・編集することは今となっては一般的に浸透している習慣です。そのように自己をデジタルで覆うことで新たな自己表現を生み出すことはこの時代ならではの感覚だと捉えることができます。

また、それに関連して興味深いのが、近年、注目を集めるジャンル“ハイパーポップ”シーンで、オートチューンによる極端なピッチアップをしたボーカルが利用される理由です。

トランスジェンダー・アーティストで100 gecsのメンバーとして活躍するLaura Lesは、ピッチアップしたボーカルについて、ただ単に音として「クール」に聴こえるだけでなく、自分の声を聴き返したときに性同一性障害を落ち着かせるのに役立つと述べています。このシーンに所属するLGBTQ+アーティストが自らの性自認に基づいた表現をするためにオートチューンを使っていることは、近年のオートチューン利用の傾向としても注目しておくべき点でしょう。