2021.08.12

Puzzle Project連載インタビュー① SEE・ど〜ぱみん 「コロナ禍でDTMをはじめた」10代クリエイターのリアルな音楽制作事情

パソコン・スマホを使った音楽制作(=DTM)を行うクリエイターを支援するプラットフォームとして、各種サービスの開発を進めるSoundmain。このたび、インターネットを活用して自身の作品を発表している次世代アーティストをサポートするソニーミュージックの新プロジェクト「Puzzle Project」に注目し、多数のエントリーから選ばれた10組のアーティストに焦点を当てるインタビュー連載をお届けすることとなった。

第1回に登場いただくのは、SEEさんとど〜ぱみんさん。それぞれのルーツや、DAWやプラグインを使っての楽曲制作などのクリエイターとしての実像に迫った。

取材・文:柴那典

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プロフィール

SEE

ボカロPとして活動。ボカロ以外の音楽をボカロリスナーの人達に提示できる様な音楽を目指し活動中。
爽快感がありつつも繊細な楽曲が魅力。

YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCYEYa0kZYh9MStcWA-kt_vw
Twitter: https://twitter.com/senlalowns

ど~ぱみん

2019年から音楽制作を開始。主にエレクトロ調のトラックをメインに制作している。
独自のスタイルの音使いを特徴とし、音楽ゲームからボーカロイドまで、多種多様のジャンルの楽曲制作に努めている。

YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCz-IailvAsZZK9_By6ZAnfA
Twitter: https://twitter.com/DTM_dopamine

SEE・ど~ぱみん インタビュー

まずは音楽を始めたきっかけから訊かせてください。SEEさんは?

SEE ピアノを2歳くらいから習っていたんですけど、その頃から音楽が日常で。高校入学のときにギターを買って、高校時代は軽音同好会でコピーバンドをやっていました。曲作りはパソコンを買ったタイミングで始めて、SEEとして投稿してみたという感じです。

ど~ぱみんさんはどうでしょうか?

ど~ぱみん きっかけとしては、親から「beatmania」という昔の音楽ゲームをすすめられて遊んだことですね。初代のPlayStationのDJシュミレーションゲームなんですけど、遊んでみて「歌のない音楽でも、こんなにキャッチーな曲があるんだ」と思って。クラブサウンドに興味がわいたのはそこからですね。

ゲームきっかけでいろんな音楽を掘っていった?

ど~ぱみん 「beatmania」って、曲を選択するときに曲名とジャンルが一緒に出てくるんですよ。ヒップホップとかジャズとかディスコみたいに大まかなジャンルのときもあれば、ニッチなジャンルが出てくることもあって。マイナーなものからメジャーな曲まで、短期間で多くの曲に興味を持てる経験ができたのは貴重でした。

——ど〜ぱみんさんが曲を作ることを始めたきっかけは何だったんでしょうか?

ど~ぱみん 音楽ゲームを聴いて、自分でも作れるのかなと思って作り始めました。元々鼻歌で作曲するみたいなことは好きだったので、これをどうにかデータとして形に残せないだろうかという感じで思い立ったのが最初ですね。

SEEさんはコピーバンドをされていたとのことですが、その頃の憧れやコピーしていた人、音楽のルーツはどんな感じでしょうか?

SEE 川谷絵音さんの作る曲が好きで、川谷さんがやられているいろんなバンドを中心にコピーしていました。最初に出会ったのがゲスの極み乙女。の「私以外私じゃないの」という曲が流行った時で、こういうロックもあるんだ、ピアノってこういう使い方もできるんだと思って、好きになったんです。あとは、うちの祖母がマイケル・ジャクソンとかABBAを家でよく聴いていて。幼少期にそれを聴いて育ったことが自分の音楽の根底にあると思います。バンドも好きなんですけど、バンドだから好きというよりは、バンドの中にある歌声のニュアンス、感情がこもっている感じが好きで。ジャンルよりはボーカリストのほうで好みが分かれていると思います。

SEEさんがボカロ曲を聴きはじめたのは?

SEE ボカロPを始める1年くらい前、「シャルル」が流行っていて。それまでボカロには「千本桜」くらいのイメージしかなかったのが、バルーンさんのボカロの曲を聴いてみたら、ちゃんとロックで格好いいし、ボーカロイドなのにボーカルの表情とか感情みたいなものが伝わってきて。「こういう音楽もあるんだな。下北沢のライブハウスみたいな場所じゃなくてもロックやバンド音楽が生きてるんだな」と思って。自分でボカロを始めるときまでは、バルーンさんとかみきとPさんばかり聴いてました。

バルーンさん、みきとPさんで、特に好きな曲は?

SEE みきとPさんの曲では「少女レイ」が一番好きですね。季節感の雰囲気の作り方が好きです。バルーンさんはマイナーですけど「真夜中の引力」という曲が好きです。だるい感じのバンド曲なんですけど、重すぎない。これは他にないロックだなと思って、すごく好きです。

ど~ぱみんさんは「beatmania」からどんな風に音楽の興味が広がっていった感じでしょうか?

ど~ぱみん 「beatmania」みたいなクラブミュージックを国内に浸透させようという目的で立ち上げられたHARDCORE TANO*Cという音楽レーベルがありまして。その存在をYouTubeで知って聴き始めてから、今までひとつのジャンルとして確定されていた音楽ジャンル、たとえばハードコアみたいなジャンルでも、こんなにたくさんの曲の作り方があって、一曲一曲のパーソナリティが違うということを知って、びっくりして。「こういう自分なりの表現というものを自分の好きなような形で作れるって、すごくいいな」と思って、そこからどんどん広がっていきました。

ど〜ぱみんさんがボカロで曲を作り始めたきっかけは?

ど~ぱみん 本当に気まぐれといえば気まぐれなんですけど、僕が去年高校3年生だったときに、コロナの蔓延で学校に出席することがなくなって。自宅学習になって暇な時間ができたので「せっかく暇だし、ちょっとDTMをやってみるか」みたいな感じの軽いノリで始めたんです。ボカロを使い始めたのは、もともと「ガッツリしたクラブミュージックを作りたいです」って相談をDTMerの先輩にしていたんですけど、「だったらいつボカロPを始めてもいいように初音ミクは買っておけ」と言われて買っていたので、その流れでですね。

ボカロPというより、クラブミュージックのトラックメイカーに憧れてDTMを始めようと思ったわけですね。どんなソフトを使っていますか?

ど~ぱみん XFER RECORDS社のSerumというソフトシンセがあって。ベースが強い低音が強いゴリっとしたアタックの強い音が出せるというのが特徴的なシンセサイザーなんですけど、これも先輩に教えていただき、「じゃあ買いますね」みたいな感じで買ってずっと使っています。他には基本有料のプラグインを買わないので、今のところ本当に初音ミクとSerumくらいしか使っていないです。

なるほど。DAWは何を使っていますか?

ど~ぱみん PreSonus社のStudio Oneを使っています。先輩はFL StudioというDAWを持っていたんですけど、僕の使っているパソコンがWindowsで、「Windowsだったら今使いやすいStudio Oneとかの方がいいんじゃない?」という感じでいろいろ教えてくださいまして。アカデミック版(学割)で安く買えて、使いやすくて、初音ミクとも相性がいいDAWだというのを聞いたので、じゃあこれにしようかな、と。

SEEさんはどんな感じでボカロやDAWを使い始めたんでしょうか?

SEE 最初は高校の軽音同好会でコピーバンドをやっていて、楽器もギターとピアノとベース、ドラム……は吹奏楽部でちょっと触ったくらいなんですけど、一応バンドの楽器は全部やっていたんです。それで「DTMなら一人でバンドできるじゃん」と思って、ちょっと曲でも作ってみるか、ボカロPにでもなるかみたいな感じで始めました。

バンドでオリジナルをやるという発想もありましたか?

SEE 軽音同好会の仲のいい友達と「オリジナル曲を作ってみるか」みたいな話になって、試しに作ってみたんです。でも、僕のバンドへの情熱がすごすぎて、周りと全然噛み合わなくて。ベーシストの人に「スラップもできないのに、ベーシストやってんじゃねえよ」って言っちゃったんですよ(苦笑)。それでバンドがうまくいかなかった苦い経験があったので、一人でやるしかないかと思って。ボカロだったら初音ミクが歌ってくれるし、いい時代だなと思いながら、パソコンだけ買って作ってみたという感じです。

SEEさんはどんな風に曲を作っていますか? 

SEE 最初はギターでコードとテンポ、リズム感とか雰囲気がわかる、曲の骨組みを作って。それをスマホで録音して、聴き返しながらイメージしていたものをDAWに打ち込むという形です。特にベースから、とかドラムから、とかはなくて、作ろうとしている曲の一番大事なところから入っていくという感じですね。最初は仮で歌もつけて弾き語りで録ってるんですけど、実際それは全部消しちゃうことがほとんどです。作りながら変えていくので、最初の通り完成したものは一曲もないと思います。

ちなみに使っているソフトは?

SEE 自分も Studio Oneです。ボカロPを始めて少し経ってから、打ち込みに限界を感じて、DAWの打ち込みを教えてくれるスクールみたいなところにちょっとだけ通っていて。そこの人に「Studio Oneを使っておけ」と言われるがまま買って、現在に至るという感じです。周りの話を聞いているとCubaseを使ってらっしゃる方が多いんですけど、Studio Oneのほうが書き出しが便利とか、他にはない新しい機能が入っているらしくて。音楽のコードとかも全然わからない中で、わりと感覚でやっているので、機能がたくさん付いているのはありがたいですね。ある程度直感で操作できるし、曲のエッセンスの取り入れ方とかもDAWから学びました。

ど〜ぱみんさんは、Studio Oneを使っていく中で、どのようにしてスキルアップを実感していますか?

ど~ぱみん 一番大きいのは、付属しているプラグインの使い方がだんだんわかってきたことですね。コンプレッサーとかリミッターとかエンハンサーとか、いろいろあるじゃないですか。最初は「なんで音がすぐ割れちゃうんだろう」とか思ってたんですけど、ミックスの段階で使うプラグインがだんだんわかってきた。あとはコードにしても、最初の頃は7thも9thもわからなかったので「このお洒落なピアノはどうやったら作れるんだろう」とか思ってたんですが、独学で少しずつわかってきて。最近はエフェクターの使い方とか、オーディオファイルの波形をどうやったらうまく扱えるかみたいなこともわかってきて、ボーカルのカットアップみたいなこともできるようになってきました。

ソングライター、トラックメイカーとしてはどうでしょうか。作曲を始めてから、どんな風に進歩してきたと思いますか?

ど~ぱみん ハードコアとか一点にフォーカスを当てるだけじゃなくて、いろんなジャンルの曲を作れるようになったと思います。クラブミュージックを軸にして、いろんなジャンルのエッセンスを加えることができるようになってきた。今流行りのサウンドメイキングから、自分が大好きだったマイナーなニッチなもの、海外で流行っているトレンディな曲とか、そういったものを自分なりに真似して表現して、なおかつ自分らしさみたいなものを演出できるようになったかなと思います。

ど~ぱみん -「JASH」feat.flower

ど〜ぱみんさんの視点から見た最近の流行り、海外のトレンド、そして自分の好きなサウンドはどういったものですか?

ど~ぱみん 最近の流行りは、名前を挙げるのであればAyaseさんのような打ち込みっぽいロックかなと思います。バキバキにコンプレッサーをかけたピアノが1オクターブでユニゾンしているような感じで、あとは音数がすごく少ないんですよね。あえて音数やトラック数を減らして、少ない音でどれくらい良い曲を表現できるかみたいなのが最近の流行りなのかなと思っています。海外だと、ローファイ系のヒップホップ、トラップ、フューチャーベース。個人的にはダブステップ……メロディーラインというよりはベースを聴かせるジャンルが好きです。

SEEさんはいかがでしょうか。ボカロ曲を作り始めてから、たとえばチルやローファイ・ヒップホップなどに曲調の幅も広がったり、かなりステップアップしているように思いますが、ご自身としてはどう感じていますか?

SEE 曲を作っていく中で、知り合いのボカロPの方が増えて「こういうプラグインがあるよ」とか「今これがセールだからとりあえず買っておきな」とか、いろいろおすすめしてもらって。それこそ僕はロックが好きで、それしか作れなかったんですけれど、さっきも話に出ていたSerumを教えていただいてから、自分の表現の幅が広がったというか、道具を得た感じはありました。

ローファイ・ヒップホップとかに関しても、リスナーとしてはもともと好きで聴いていたんですけど、いざ自分で作るとなるとどうしていいかわからなくて。でも、新しいプラグインが自分の手元に来ることで、表現できるようになった。それで自分なりに曲を聴いたり、自分の好きなコード感を混ぜたりしながら作っていって、それでちょっとずつ音楽性も変わっていった感じですね。

SEEさんはボカロ曲も作られますし、セルフカバーもするし、歌い手をフューチャリングした曲もありますが、この辺りはどんな感じで広がっていったんでしょうか。

SEE ボーカロイドもボーカロイドとしての歌の表現の幅はあるんですけど、人が歌うことで表現できる音楽表現の仕方もあると思っていて。一番顕著に出るのは切なさとか、やるせなさみたいな感情の表現で、裏声とか息遣いとか発音の仕方とか、そういう細かい積み重ねでニュアンスが生まれていくんですね。作り手になって新しい視点で曲を聴いた時に、人の声で歌うって大事だなと改めて思って。自分としてもいろんな表現の術は持っておきたいし、知っておきたいので、手段は選ばずやっている感じです。

ヒースノート / SEE feat.初音ミク

それこそバルーンさんは、須田景凪さんとしてシンガーソングライターとしても活動するようになっていったわけですが、そういう活動のイメージもありますか?

SEE そうですね。そういうイメージも考えています。ちょっとずついろんな曲が作れるようになった中で、自分のやりたい曲とか、表現したいジャンルも定まってきたんです。自分は感情的な曲とか歌詞が多いので、それが好きで聴いてくれる方も多いし、自分もそれを表現したいということがわかってきた。曲の向こうにその曲を作った人が見える、歌詞を書いた人間が見えるような音楽を目指したくて。そういう中で自分で歌うという方に意識が向いているなという感覚はあります。

最近はボーカロイドも歌もフラットに聴かれるようになってきたような印象もありますが、そういう実感もありますか?

SEE それはありますね。ボカロって、ボカロ独特の音使いとかコード感とか雰囲気があると思っていて。でも、今は幅広い人がネットを使うようになって、いろんな性格とか、いろんな個性を持った方たちがボカロの音楽に集まってきている。僕はボカロっぽくない音楽をやっていると自分では思うんですけど、そういう音楽もある程度受け入れてもらえる。音楽を純粋に楽しんでる人が増えたような気がしていますね。今は一番やりやすい時代だなと思います。

ど〜ぱみんさんとしてはどうでしょう? ここ最近は田口淳之介さんのアルバム収録曲など楽曲提供のお仕事も増えてきていると思いますが、やってみていかがですか?

ど~ぱみん やっぱりボカロを使用して作る時のメロディーと人が最初から歌うメロディーの作り方はだいぶ変わってくるなと思ったのが、率直な感想です。正直言って、書き下ろしのほうがずっと難しいです。

ちなみに、Puzzle Projectに参加して変わったこと、自分の活動に役立ったこと、サポートされたと感じたことはありますか?

ど~ぱみん お仕事をいただくきっかけにはなっていると思いますし、今後さらにPuzzle Projectをきっかけとした様々な取り組みができればと思います。

SEE 現実的なことにはなってしまうんですけど、僕も20歳になったばかりなので、お金回りとかそういうところが全然足りなくて。自分の曲を出したいだけなのに、MVを作ろうと思うとお金も時間もすごくかかる。そういうところで手伝ってもらえて、曲を作ることに集中できる環境を用意してくれるので、助かります。一番は音楽をやりたいので。

最後にこの先のビジョン、やってみたいことについて聞かせてください。

ど~ぱみん 世の中の状況的に今は難しいかなと思うんですけど、いつか自分の曲だけでDJライブ、踊れるライブみたいなものはやってみたいという気持ちがあります。

SEE 僕もライブはしたいですね。大きなところでライブやりたい、ギターを大きな音で鳴らしたいというシンプルな目標で音楽をやっています。周りのバンド、好きなボカロPの友達とか知り合いを呼んで、自分で企画したライブをやりたいなと思っています。

「Puzzle Project」とは?

「Puzzle Project」は、次世代アーティストの音楽性・楽曲・世界観とソニーミュージックグループが持つソリューションを掛け合わせ、作品を世界に広げていくプロジェクト。プロジェクト参加アーティストには、小説を音楽にするユニット“YOASOBI”を誕生させた小説投稿サイト「monogatary.com」によるクリエイティブサポートや、世界に45ヵ国以上の拠点があり、2019年より日本でサービスを開始した大手音楽ディストリビューション会社「The Orchard」での世界配信サポートが行なわれる。また、その他ソニーミュージックグループが持つさまざまなソリューションを活用し、楽曲制作、映像制作、ライブ制作などのクリエイティブサポートなどが行なわれる。

公式サイト
https://puzzle-project.jp/

随時エントリー受付中。エントリーはLINE公式アカウントより。
https://lin.ee/cPUfl4c

参加資格

  • インターネットを活用し自身の作品を発表している方
  • 年齢不問
  • 国籍不問 ※日本国内在住の方に限ります