
話題のNFTはなぜ音楽アーティストの間でも注目されるのか? これまでの活用例からその理由を探る
今年に入ってから、エンターテインメント分野でNFT(Non Fungible Token:ノン・ファンジブル・トークン)の人気が急速に高まっています(「NFTとは何か?」については下記の記事も参照)。
これまでにNFTの取引では、Twitter創業者のJack Dorsey氏による自身の初ツイートが291万5835ドル(約3億1640万円)で落札されたことや、テスラを率いる起業家のElon Musk氏による自作曲が100万ドル(約1億円)を超える入札額を記録(その後、売却は取り止め)したことが広く報じられました。そういった巨額の取引が増えたことで、NFTは2021年第1四半期だけで売上高20億ドル(約2204億円)以上を記録するほどの盛り上がりを見せています。
その波は音楽業界にも広がっており、NFTで作品を発表するアーティストが増えています。
例えば、ビジネススクール出身の音楽プロデューサーでDJの3LAUは、デジタルアルバム『Ultraviolet』を販売し、その収益が1160万ドル(約12億8400万円)となるなど、コロナ禍により失われたライブ収入を補う巨額の利益がNFTによって生まれたことが大きな話題になりました。
また、今年4月にはForbes誌が選ぶ「世界で最も稼ぐDJ」1位の座を6年連続で獲得したCalvin Harrisもデジタルアート付きの音源「TECHNOFISH」をNFTとして販売。ライブオーディオサービス「Clubhouse」で開催されたトーク番組「Good Time Show」での「NFTは音楽業界に革命を起こすことができる」という彼の発言は、ブームのさらなる加速を予感させるものとして注目を集めました。
「デジタル資産」として注目されるNFT
NFTが注目される理由のひとつは、コピーや改ざんがしにくく、デジタルコンテンツであっても「資産」としての価値を持つ点にあります。
これまでデジタルデータ化された音楽や映像、アート作品などは、簡単にコピー・改ざんができ、著作権者の許諾を得ずにインターネットを介して配布できてしまうことが問題となってきました。実際に手に取れる現物の貴金属やアート作品などとは異なり、対価と引き換えなくても鑑賞者はその価値を享受することができ、一方で本来報われるべきコンテンツの制作者は得るべき対価を享受することができずにいました。
しかし、NFTは、暗号資産(仮想通貨)と同じく、参加者相互の検証が入るブロックチェーン上で発行および取引されるため、コピーや改ざんがしにくく、デジタルコンテンツであっても資産としての価値を持つ「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」になっています。そのため現物のアート作品などのように、制作者オリジナルのコンテンツであることが保証されたものを引き渡し、制作者も確実に対価を得る取引を仕組みとして担保することができます。これにより現物のアート作品と同じように、所有するNFTの権利を転売することで利益を上げることができるだけでなく、スマートコントラクト(ブロックチェーン上で契約を自動的に実行する仕組み)により、従来のデジタルコンテンツでは還元されなかった二次流通以降の販売による利益も制作者に還元されるようになります。
音楽業界では、インターネットの登場以前よりその録音(コピー)して販売するという性質から、著作権ビジネスが長い時間をかけて発達してきました。その複雑な仕組みを経験してきたアーティストほど、NFTの上記のようなメリットの恩恵を感じるだろうと指摘する識者もいます。ライブのチケットや限定品の音源やアーティストのグッズの高額転売に対しても、NFTはその効力を発揮するでしょう。
広がる音楽業界でのNFT活用
音源やライブ動画などアーティストに関わるコンテンツのデジタル化が進んだことで、コンテンツへのアクセスの利便性は以前よりも高くなりました。しかし、それでもデジタルコンテンツは単なる流通のための媒体に過ぎず、インターネットもその流通網に過ぎませんでした。NFTの特徴は、デジタルコンテンツを制作者であるアーティストにとってより大きな収益源、可能性を秘めたモノやマーケットに変える可能性を秘めているところにあり、そこにNFTが音楽業界に革命を起こすかもしれないと期待される理由があると言えます。
音楽業界でのNFT活用に関しては、すでに先述のような音源付きデジタルアートのNFTがポピュラーになっている印象がありますが、最近ではライブなど体験に紐づいたものも増えています。
例えば、ロックバンドのKings of Leonが、NFTアルバム『When You See Yourself』の購入者に対してライブツアーの最前列でライブを鑑賞できる特典を設けているほか、テクノプロデューサー/DJのUmekは、DJパフォーマンスのブッキング権をNFTで販売するなど、ライブコンテンツに関してもNFTが活用できるというユニークな前例を作り出しています。
さらに世界最大級のライブ・エンターテイメント企業の「Live Nation」は、今後、ライブのチケット販売時に、ライブのハイライト動画をNFT化して、チケットの特典にしたり、それを取引できるマーケットプレイスを設けることも検討しています。
日本でも、音楽フェス「サマーソニック」などで知られるライブ・エンターテイメント企業「クリエイティブマンプロダクション」代表の清水直樹氏が、フェスティバル、ライブにおけるNFTを用いた新たな券売のあり方や来場者へのエクスペリエンス提供などの可能性についてNFTマーケットプレイス「Adam byGMO」と共に模索していきたいと述べていることから、今後広がりを見せる兆しがあります。
また、NFTはデジタルコンテンツという特性上、VRやARなどバーチャル空間との親和性の高さも特徴のひとつとして挙げることができます。VRDJのパイオニアの1人として知られるGRIMECRAFTが、VRゲーム「VRChat」上に開設した自身のクラブ「GRIME CANYO」でのイベント「SPOILER ROOM」のアクセスキーを特典とするなど、すでに体験と紐づけられたNFTは、バーチャル空間の中でも活用されています。
デジタルコンテンツのコレクションという面では、ゲームなどで使うアバター用の服やスニーカーなどのコスチュームがNFT化され、バーチャル空間でのコレクション文化として発展していく兆しも見られます。昨年、オンラインゲーム『Fortnite』で行われたTravis Scottのバーチャルライブ『Astronomical』では、イベントにあわせたアバター用のスキンやグッズが販売され、ファンの間で人気を博しましたが、このようにバーチャル空間で行われるライブにあわせて、アーティストのグッズをアバター用のNFTとして販売することも、アーティストのNFT活用方法のひとつになっていくと考えられます。
今後のアーティストとNFTの付き合い方は?
ただ、こうした可能性の一方で、NFTには環境負荷の面で問題があることも指摘されています。
現在のNFT取引の主流は、暗号資産(仮想通貨)の“イーサリアム(ETH)”を用いたものです。イーサリアムで用いられる「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」というコンセンサスアルゴリズム(合意形成方法)は、マイニング(ブロックチェーン上での取引を承認する作業)の際に取引の改ざんを防ぐため、意図的に複雑な数学的パズルを解くように設計されています。それに伴い膨大な計算量=電力を消費するため、環境負荷が高いと言われているのです。
音楽業界でも、近年は気候変動に対して問題意識を示すアーティストが増えています。現代の音楽ファンは、自分にとって共感できる社会問題への取り組み方を示しているかどうかもアーティスト支持の際の重要な指標とするため、NFTを活用したいアーティストにとって環境負荷問題は無視できないものです。
NFTの環境負荷問題はシステム上の問題であることから、アーティスト個人で解決するのは容易ではありません。しかし、Calvin HarrisやAphex TwinなどがNFT作品を販売する際に収益の一部を環境保護団体への寄付に充てることを発表したり、今月Perfumeが販売したNFT「Imaginary Museum “Time Warp”」のように環境負荷の低い「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」というコンセンサスアルゴリズムを使った取引を行えるマーケットプレイスを利用するなど、アーティストが個人で可能な範囲の対応を取ることも今後求められていくはずです(ちなみにイーサリアムの開発者も、年内に環境負荷が低いPoSへの移行を目指していると発表しています)。
最近では日本でもNFTマーケットプレイス設立が次々に発表されており、国内アーティストのNFT参入も今後、これまで以上に増加していくことが予想されます。ブームによる市場の高騰で一般ファンの参加が難しいことや、先述のような環境負荷の問題はあるものの、NFTによってアーティストが享受できる恩恵は決して少なくありません。一般的にストリーミングでの1再生による収益が1セントに満たないと言われていることを考えると、市場が価値あると認めたものに関しては値崩れすることなく、場合によっては二次流通時に元値より価値が上昇することもあり得るというのは大きな魅力です。一度制作した作品が恒久的な「資産」となり得るNFT。サスティナブルなアーティスト活動のために、ぜひ選択肢のひとつに加えてみてはいかがでしょうか?
文:Jun Fukunaga
【参考サイト】
Jack Dorsey’s first tweet sold as an NFT for an oddly specific $2,915,835.47(The Verge)
https://www.theverge.com/2021/3/22/22344937/jack-dorsey-nft-sold-first-tweet-ethereum-cryptocurrency-twitter
elon musk turns down $1 million offer for song about NFTs as an NFT(designboom magazine)
https://www.designboom.com/art/elon-musk-nft-turns-down-1-million-offer-song-03-17-2021/
NFT sales top $2 billion in first quarter, with interest from newcomers(CNBC)
https://www.cnbc.com/2021/04/13/nft-sales-top-2-billion-in-first-quarter-with-interest-from-newcomers.html
Calvin Harris Says NFTs Can ‘Revolutionize Music Industry’(Billboard)
https://www.billboard.com/articles/news/dance/9548679/calvin-harris-nft-interview-good-time-show
米ロックバンド「Kings Of Leon」がニューアルバムをNFTでリリース(あたらしい経済)
https://www.neweconomy.jp/posts/94716
UMEK announces the world’s first live performance NFT(DJMag)
https://djmag.com/news/umek-announces-world-s-first-live-performance-nft
Live Nation Explores Concert Memories Using NFTs – Like NBA Top Shots(Digital Music News)
https://www.digitalmusicnews.com/2021/05/11/live-nation-nfts/
It looks like Aphex Twin hid something in the NFT he recently sold(NME)
https://www.nme.com/news/music/aphex-twin-hid-something-nft-he-recently-sold-2909239
Calvin Harris is dropping an NFT collection(DJMag)
https://djmag.com/news/calvin-harris-dropping-nft-collection
Perfume 初のNFTアート「Imaginary Museum “Time Warp” 」 Rhizomatiks独自のプラットフォーム「NFT Experiment」からリリース決定!(Perfume Official Site)
https://www.perfume-web.jp/news/detail.php?id=3644
NFTマーケットプレイス「Adam byGMO」を通じコンテンツ流通革命をもたらす新会社「GMOアダム株式会社」を設立!(GMOインターネットグループ プレスリリース)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003220.000000136.html
イーサリアム、環境に優しいシステムへの年内移行望む-考案者が語る(Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-05-24/QTK9I0T0G1KX01