
Appleが次期Logic Proに空間オーディオ制作用ツールの導入を発表
今月、Apple MusicではロスレスHiFi音質ストリーミングとともにドルビーアトモスによる空間オーディオ音源の配信がスタートしました。それにあわせて、Appleは、今年後半にリリースが予定されている同社のDAW「Logic Pro」の最新モデルに空間オーディオ音源のミックス用オーサリングツール(アプリケーションソフトウェア)を導入することを発表しました。これにより、今後、音楽クリエイターは、Logic Proで空間オーディオにあわせた楽曲制作が可能になります。
空間オーディオとは、周囲のあらゆる方向や頭上から音が聴こえるように音楽をミキシングする方式のことを言います。
現在Apple Musicでは、ヒップホップ、カントリー、ラテン、ポップ、クラシックなどのあらゆるジャンルの音楽から数千曲を空間オーディオで楽しむことができ、人気アーティストの空間オーディオ用にミックスされた音源をまとめたプレイリストも公開されています。
「Made for Spatial Audio」プレイリスト
https://music.apple.com/us/playlist/made-for-spatial-audio/pl.154af9931b214278a64274c410046e69
空間オーディオについてApple Musicは、「ドルビーアトモスの導入は、アーティストの音楽の作り方とファンの音楽の楽しみ方をがらりと変える、新しい音楽体験」であり、「アーティストがファンに向けて、真の多次元サウンドと鮮明さを備えた臨場感あふれるオーディオ体験を作り出す機会をもたらす」と述べていますが、このフォーマットを今後どう活用していくのかについては、アーティストひとりひとりに委ねられています。
これまで音楽業界では、マルチチャンネル・レコーディング、MIDI、エレキギター、シンセサイザー、サンプラー、DAWなど、時代ごとに革新的なレコーディング技術やツールが発表され、それらが普及することで新たな音楽が生み出されてきました。
Appleの広報サイトでもApple Musicのラジオ番組「Beats 1(現Apple Music 1)」のホストとして知られるZone Lowe氏が、空間オーディオにより、音楽クリエイターや音楽ファンの音楽体験が変わることについて言及しています。
その中で、音楽クリエイターにとって興味深いのは、
“ビリー・コーガン(編注:オルタナティブ・ロックバンド「スマッシング・パンプキンズ」のフロントマン)がエンジニアにこのように言っているところを想像してください。「1993年に『Quiet』のイントロのギターを作ったとき、出だしはリスナーの5kmくらい後ろから聴こえるようにして、それから3.2秒で、ジミー・チェンバレンのドラムが入るのに合わせてリスナーの目の前に落ちてくるようにしたかったんだ」”
という一節です。
これはZone Lowe氏による想像上の話ですが、その口ぶりからは空間オーディオにより音楽制作のプロセスだけでなく、リスナーの耳に届く音のあり方自体が変わることや、それによって音楽体験に変革が起きると考えていることがひしひしと伝わってきます。
空間オーディオは、音が立体的に聴こえるという特殊な性質上、次期Logic Proのようなツールが手に入ったとしても、専門知識なしでは正確にミキシングすることが難しいフォーマットです。しかし、これまでの革新的な音楽体験を生み出してきた音源と同じく、それを作る技術や知識も、空間オーディオの普及とともに広がっていくはずです。
まずは今回のツールの詳細の発表に期待しつつ、空間オーディオが自分にとってどういった活用の仕方ができるものか、想像を膨らませておくと良いでしょう。
【参考サイト】
https://www.musictech.net/news/logic-pro-will-get-immersive-audio-tools-later-this-year-for-spatial-audio-mixes
https://www.apple.com/jp/newsroom/2021/06/apple-musics-zane-lowe-explains-how-spatial-audio-will-transform-music/