2021.06.13

初音ミクら「ピアプロキャラクターズ」を使用したYouTube動画の収益化が解禁! その登場から現在まで、動画サイトにおける創作文化の歴史をたどる

6月1日、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下:クリプトン社)は、ピアプロキャラクターズ「初音ミク」「鏡音リン・レン」「巡音ルカ」「MEIKO」「KAITO」の名称や、歌声、イラストを用いたYouTube動画について、アマチュアクリエイターがYouTubeパートナープログラムに加入し、収益化することを解禁した。もちろん、クリプトン社以外の第三者が著作権その他の権利を有するコンテンツを含む動画や公序良俗に反する動画、商品のイメージを損なう動画は、対象外である。ちなみに、これまでクリプトン社はYouTubeでの収益化については一切明記してこなかった一方で、ニコニコ動画(niconico)においては同サイトのクリエイター奨励プログラムを使用しての収益化を認めていた。

クリプトン社によるニュースリリース
https://www.crypton.co.jp/cfm/news/2021/06/01pcl_revision

ピアプロキャラクターズについては、ヤマハのVOCALOID技術を使用して合成された音声(DTMソフト)とキャラクター、二つの側面がある。DTMソフトとしての「初音ミク」etc.は楽器同様の扱いとなるため、あくまでキャラクター性を離れた「合成音声」として使用することは非商用/商用問わず、長らく問題とされてこなかった。しかし2020年発売のクリプトン社独自開発のVOCALOID技術が使用された最新バージョン「初音ミク NT」の「エンドユーザー使用許諾契約書」においては、基本的に商用目的の作品の公表に際して、クリプトン社に許諾を得たうえで、製品もしくはバーチャル・シンガーの名称を明示することが定められている。これは、初音ミクの声が客寄せやプロモーションに利用されるなど、初音ミクのキャラクターイメージが損なわれるケースを防ぐためとのこと。なお、非営利目的での使用の場合は、前バージョンまでと同様に使用できる。

クリエイター奨励プログラムとは – ニコニ・コモンズ
https://commons.nicovideo.jp/cpp/about/

もともとサウンド素材の販売からスタートしたクリプトン社は、クリエイターのN次創作(二次創作、三次創作……と広がっていく創作の連鎖)について、寛容な姿勢を示すことでクリエイターの可能性に光を当ててきた企業である。ヤマハの音声合成エンジン「VOCALOID」のバージョンアップ版「VOCALOID2」を搭載した第一弾バーチャル・シンガー「初音ミク」がリリースされた2007年8月31日以降、ニコニコ動画で想像を超える創作の連鎖が巻き起こった。誰かが作った初音ミクの曲に触発された別のユーザーが、イラストを描いて投稿。それをもとにさらに別のユーザーがアニメーションのMVを投稿といった具合に……。アマチュアクリエイターにより作られた代表的な初音ミクのデフォルメキャラクターは、ネギを持っている「はちゅねミク」。そのUGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)作品の広がりを目の当たりにしたクリプトン社は、この創作の連鎖を抑制することのないように著作権問題などに一から取り組んだ。

2007年12月3日には創作の場としてコンテンツ投稿サイト「ピアプロ」を開設。アマチュアクリエイターであるピアプロ会員は、サイト内に投稿されている音楽/イラスト/テキスト/3Dモデルの作品を非営利かつ無償に限り、ニコニコ動画やYouTubeへの動画投稿に使用することができる。

piapro(ピアプロ)
https://piapro.jp/

2009年にはピアプロに「創作ツリー機能」が追加された。通常、N次創作の分野では他作品の素材を使用する際にクリエイターがすべての作者に確認を取り許諾を得ることは困難で、作品が無断で使用されればクリエイターの創作モチベーションが下がることになりかねない。「創作ツリー機能」は、もとになる親作品と改変して制作した子作品の親子作品の関係を一目でわかるようにした。また、クリプトン社は機能の実装とともに、素材を使用したユーザーが使用した作品の作者に対して「使わせてもらいました」「ありがとう」などと感謝の意を示すコメントを送るよう推奨。クリエイターの創作モチベーションが高まる仕組みを作り出した。

また、同年6月にはキャラクターの二次利用に関わるガイドライン「ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)」を制定。たとえ二次創作物であってもSNS等で公開したいというクリエイターの本望を優先する形で、ピアプロキャラクターズの使用を非営利、無償、公序良俗に反しない範囲であれば、クリプトン社の許可なしに使用してよいとした。

ピアプロキャラクターズのソフトを用いた音楽が「ボカロ」作品として商業化し始めていた2010年の11月29日には、音楽クリエイターに著作権使用料を分配するための音楽出版事業への参入を表明。個人でJASRACと契約を交わせば、通常であれば申込金がかかるところ、クリプトン社を間に入れることで無料となり、かつ曲を選んで音楽著作権を管理してもらうことができる。ほかにもボカロ楽曲を専門に取り扱うレーベル「KARENT」を立ち上げ、クリエイターによる音楽ダウンロード販売、ストリーミング配信を可能とするなど、常にクリエイターが音楽家として円滑に活動しやすい環境を生み出してきた。クリプトン社によってこうした様々な仕組みが初期から整えられていたことは、のちのボカロカルチャーの発展を大いに後押しした。