2021.06.07

WIPO(世界知的所有権機関)がストリーミングで得られるロイヤリティに関する調査報告を公開

近年、ストリーミングが普及するにつれ、ミュージシャンが得ることができるロイヤリティへの関心が高まっています。

ストリーミングのロイヤリティに関しては、度々論争が起きていますが、Spotifyは今年、ロイヤリティについて説明するサイト「Loud & Clear」をオープンするなど、多くのアーティストやリスナーに誤解を与える要因になっていた、一般的にはあまり知られることがない複雑なロイヤリティ支払いモデルを改めて明確に説明しています。

そのような動きが見られる中、WIPO(世界知的所有権機関)は、音楽業界の弁護士である Chris Castle氏とマドリッド工科大学のClaudio Feijóo教授によって作成された「デジタル音楽市場におけるアーティスト」に関する研究報告書を公開しました。

報告書は、「世界中のミュージシャンから得られるストリーミングサービスの大きな市場利益と、アーティストがストリーミングによって得ることができる経済的利益の相対的な少なさとの間の顕著な不均衡」に焦点を当てたものになっており、改善策として、「UCPS=ユーザー主体支払いシステム(User-Centric Payment System)」と「アーティストにとって公平なロイヤリティ支払い契約」が取り上げられています。

UCPSとは、ストリーミングサービスがアーティストに支払うロイヤリティが「アーティストのファンの実際のリスニング習慣に基づいて支払われる」モデルのことで、すでにDeezerやSoundCloudのような主要プラットフォームもこの支払いモデルを採用しています。

また、報告書では過去5年間のどの時点においても、ストリーミングが世界中のアーティストに与える影響の大きさは、アーティストにとって著作権を見直すために必要かつ十分な理由であったとしています。

ストリーミングサービスで得られるロイヤリティは、これまで1再生数による支払い単価が1ドル以下だと報じられてきたことで、「ストリーミングで稼げるロイヤリティは低い」というイメージが少なからずあります。しかし、このようなイメージには、ストリーミングサービスのロイヤリティ支払いモデルを正しく理解していないことから生まれる誤解も多分に影響を与えています。

ストリーミングサービスのロイヤリティ支払いモデルは、ストリーミングサービスが集めたユーザーのサブスクリプション料金と広告収入の中から、特定月の再生回数を元に支払いレートが算出され、それを元にプラットフォームに集まった全体の収入の中から、支払いレートに応じてロイヤリティが支払われます。

ストリーミングサービスは、支払いレートから算出されたロイヤリティのうち、約30%ほどを差し引いて支払いますが、それはアーティストに直接支払われるのでなく、まず権利者(通常はレコードレーベル、アグリゲーターなど)に支払われます。そうして支払われたロイヤリティをさらにアーティストと権利者があらかじめ取り決めた契約内容に沿って分配するため、この契約内容によって、最終的にアーティストが得る1再生あたりのロイヤリティの額も変わってきます。

アーティストは改めてこの仕組みを理解し、著作権や権利者との配信に関わる契約を見直すことで、今後、自分が受け取るロイヤリティの改善を図ることができるのではないでしょうか。

【参考サイト】
https://musically.com/2021/06/02/wipo-explores-artists-in-the-digital-music-marketplace/

画像:https://flic.kr/p/tvYNdU