
NFTとは何か? ブロックチェーンがもたらす音楽アーティストへの新たな選択肢
「NFT」って?
コンテンツ・ビジネスの世界で「NFT」という言葉を耳にする機会が増えています。NFTは、「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」の略。トークンとは、既存のブロックチェーン(Bitcoin、Ethereumなど)技術を用いて発行されるデジタルアイテムのことです。対して、独自のブロックチェーン上で発行されるデジタルアイテムのことを「Fungible Token(代替性トークン)」と言います(いわゆる仮想通貨はこちらにあたります)。この代替性/非代替性という聞き慣れない言葉の区別について、CNET Japanの記事の解説がわかりやすかったので引用してみましょう。
もし自分の手元に「昭和64年発行、番号ゾロ目でエラー印刷の1万円札」があった場合を例に考えてみよう。
突然話題になったデジタル資産「NFT」とは何か–暗号資産との違いや注意点は – CNET Japan
この紙幣をそのまま「昭和64年発行、番号ゾロ目でエラー印刷の1万円」とみなした場合は、その紙幣は唯一無二のコレクターズアイテムとして他の1万円札と代替することはできなくなる。
しかし、そうした識別情報を無視し「1万円分の価値を持った情報」とみなした場合、他の1万円札や1000円札10枚と交換しても問題は生じない。この状態を「代替性がある」という。
前者では発行枚数や記番号、紙幣の状態といったメタ情報を踏まえて1万円札を代替不可能な存在と考えているのに対し、後者ではそれらのメタ情報を無視して1万円札を代替不可能な存在と考えている。
このように、データに付随する発行数や作成年月日、識別番号などのメタ情報を改ざん困難なブロックチェーン上で明示し、他のデジタルデータと識別可能な唯一無二の存在として扱うのがNFTの基本的なアイデアだ。
こうした性質が、コンテンツ・IP活用の分野においてNFTが注目される理由になっています。本来、複製が容易なデジタル作品を個体識別し、かつどのような取引が行われたかも記録することができるからです。つまり、転売されるたびにそれが情報として追跡され、一次創作者のもとにその都度お金が配分されるといったことも可能になります。
ブロックチェーンについておさらい
ここで、そもそもブロックチェーンとは何なのかについて振り返っておきましょう。ブロックチェーンは、「台帳(レジャー)」「取引(トランザクション)」「取り決め(コントラクト)」という3つの基礎概念からなります。「台帳」には「取引」の結果が記録されます。ここでいう「取引」とは例えば、「AさんからBさんに100万円が支払われた」といったものです。その「取引」を行うためには、ビジネス上の「取り決め」が必要となります。つまり、「取り決め」に従い、「取引」を実行し、「台帳」に「取引」の結果を記録するというのがブロックチェーン技術で実現される処理の一連の流れとなります。
肝となるのは、「台帳」の管理を分散化することで、中央管理によって実現していた管理形態をP2P(インターネット上の情報送受信における、一般的なクライアント⇔サーバ型モデルに対し、「ピア」と呼ばれる通信者がそれぞれデータを保持し、ピア同士が対等にデータの提供および要求を行うモデル)で実現できるようになるという点です。これにより、取引にかかる時間や仲介手数料などのコストを削減することが可能になり、不正や改竄を制御することも容易になるのです。
NFTの活用事例~日本の場合~
NFTについて、先に引用したCNET Japanの記事によれば「CDや出版物のようなアナログ物品の生産コストをかけることなく商品販売型のビジネスを実現できる」「商品としての付加価値をつけやすいコレクターズアイテムをデジタル空間でグローバル展開できる」ことなどがその魅力として挙げられています。
日本での事例では、アニメ業界の企業を中心に発足した、一般社団法人オタクコイン協会があります(ここでは「オタクコイン」が、協会の発行する「トークン=NFT」につけられた通貨の名前、ということです)。
公式サイトからダウンロードできる「コンセプトペーパー」には、以下のようにあります。
オタクコインは、アニメ・漫画・ゲームなどのカルチャーを対象にした「コミュニティ通貨」 であり、ファンの意志をダイレクトに反映する新しい試みの通貨を目指しています。具体的には、オタクコインを通じて以下のような世界を作ることが私たちオタクコイン協会の目標です。
オタクコイン「コンセプトペーパー」(PDF)より
1. ファンがオタク文化の発展に寄与するようなプロジェクトに意思表明・資金提供できる仕組みを作ることで、クリエイターが次の作品を生み出しやすくなり、オタク文化の発展につながる
2. グローバルなコミュニティ通貨が流通することにより、手数料や為替など決済におけるボトルネックが解消され、エコシステムがより循環し、コミュニティが活性化する
3. 世界中のファンが、オタク活動(正規版サイトでの視聴や宣伝活動、商品購入など)を通じて対価が得られる仕組みを参画パートナーと創り、ファンの増加と健全なコミュニティの発展を促す
現在は実証実験が始まっており、将来像として「二次流通市場でファン同士がデジタルアイテムの売買を行うことによって、取引のたびに一次創作者/社へ販売額の一部が半永久的・自動的にロイヤリティとして還元されるように設計」「世界中のアニメファンが、インターネット上の二次流通市場でデジタルアイテムを取引し合うことで、作品作りに励むクリエイターへ、永続的な金銭的支援=ロイヤリティ還元をもたらす」と、展望が語られています。
音楽業界におけるNFTの活用は
アニメであれば「原画」のように、デジタルであっても一点ものとしてのイメージが湧きやすい概念が存在するため、こうした形の取引についてもイメージしやすいのですが、音楽はそもそも形のないものです(レコード、CDという物理媒体に収録されていたことが、長い目で見れば特殊だったとも言えるでしょう)。ましてや現在はストリーミングの全盛時代。音楽業界における活用は、今後どのような形になっていくのでしょう。
実際、現在取引されているのは特別なチケットやグッズ、ビジュアル作品など、純然たる音楽作品に対してではないようです。以下の記事によれば、活用にコストがかかることからも、一部の著名アーティストしか活用できていないというのも現実なようです。
転売されるほど一次創作者への実入りが大きくなるという性質ゆえ、自然と投機性が高い商品となっているのも課題といえます。以下の記事では、「NFTを実際に購入している層の多くが実際のファンではない(=投機目的の購入者である)」という旨の関係者の談話が掲載されています。
既存の音楽流通と対比しての音楽家目線でのメリットとしては、一点ものの商品を作って直接販売することができるため、収入を中間業者に支払わず、自身と関わってくれた演奏家やスタッフと折半できるということが挙げられるでしょう。とはいえ、音楽家(とりわけ、ポップミュージシャン)には自身の作品が複製され――もちろん、適法かつきちんと権利処理された形で――広く流通されることこそが喜びという気持ちもあるはずです。絵画その他の物理的なプロダクトとセットで自身のアーティスト性をアピールするタイプの、ハイブリッドな表現者を中心に広がっていく未来が一番想像しやすいですが、その他にも今後どのような活用のされ方が編み出されていくか、注目していきたいですね。
編集・執筆:Soundmain編集部
参考文献
突然話題になったデジタル資産「NFT」とは何か–暗号資産との違いや注意点は(CNET Japan)
https://japan.cnet.com/article/35168406/
音楽業界も熱い視線 デジタル資産「NFT」とは?(AFPBB News)
https://www.afpbb.com/articles/-/3337990
音楽業界に新たな収益機会を与えるデジタル資産「NFT」の力(Forbes JAPAN)
https://forbesjapan.com/articles/detail/40257/
NFTブーム、ミュージシャンにも巨額収入の道(WSJ Japan)
https://jp.wsj.com/articles/musicians-turn-to-nfts-to-make-up-for-lost-revenue-11616526719?mod=djemalertNEWS
いまさら聞けないブロックチェーンの基礎知識と実装の要件(日本アイ・ビー・エム株式会社)
https://www.ibm.com/downloads/cas/VX2ARJ3D
トークンとは (bitFlyer)
https://bitflyer.com/ja-jp/glossary/token