JASRACインタビュー
2021.04.16

JASRACに聞く! 著作権・YouTube対応・クリエイターがメンバーになるメリットについて

突然ですが、JASRACと聞いて何を思い浮かべますか? 飲食店からの使用料の徴収、ネット上の音楽利用の監視……などなど、一部の業務を切り取って、リスナーの立場からはネガティブなイメージを持たれることも。

JASRACの正式名称は、「一般社団法人 日本音楽著作権協会」。作詞家・作曲家・音楽出版社などの権利者から著作権の管理委託を受け、音楽の利用者が著作権の手続きをする際の窓口となる団体です。楽曲がライブや各種プラットフォームで使用料が発生する使い方をされている場合に、利用者と交渉し使用料を徴収、著作権者に使用料を分配してくれている、音楽で生計を立てているクリエイター・音楽出版社にとってまさになくてはならない存在です。

デジタルディストリビューションを利用したDIYな活動や、動画プラットフォームにおけるUGC(二次創作)コンテンツの広まりなど、著作権にまつわる新たな課題が出てきている昨今。JASRACは誰のための団体なのか、JASRACメンバーになるとどんなメリットがあるのか、またどのような理念を持ち直面している課題に取り組んでいるのかなど、広報部・大波多さんに色々とお話を伺いました。

※所属は取材時(2021年3月時点)のものです。

JASRAC広報部・大波多さんご登場

JASRACが具体的に何をされている団体なのか、色々とお話を伺っていければと思います。まずは自己紹介をお願いできますか。

JASRAC広報部の大波多と申します。2010年にJASRACに入社しまして、高松市にある四国支部へ転勤し5年間、その後東京支部で3年間、お店やイベントでの音楽利用に関するライセンス業務を担当しておりました。その後広報部でJASRACの広報を担当しております。

支部時代に担当されていたライセンス業務とはどういった業務なのでしょうか。

支部は、各地の音楽利用の窓口です。コンサート、カラオケ、商業施設でのBGM、スポーツイベントや地域の花火大会での音楽利用など。JASRACは全国の主要都市に窓口(支部)を置き、音楽の利用者からのご相談、お申し込みを受け、権利者の皆さまからお預かりした楽曲の利用許諾(ライセンス)を行っています。

音楽の利用者の中にはライセンス手続きを詳しくご存じない方もいますので、音楽利用の情報を収集し、利用者の方々へご案内しています。カラオケを例にすると、通信カラオケ事業者にお支払いいただく「配信」の使用料と、お店のご経営者にお支払いいただく「演奏」(歌唱)に対する使用料とは異なることを、分かりやすく説明し、きちっとご理解いただいたうえでご契約をいただいています。ご契約後は、使用料のお支払いや利用楽曲のご報告をいただく、こういった一連の業務を担当しています。

お店との交渉は大変なことも多いとお察ししますが……。

確かに大変なこともありました。手続きのご案内のために伺ったお店の方が、JASRACに対して好意的でないときもありましたので……ただこのようなご案内を続けてきたこともあってか、お店の方から「そういえばなんだか聞いたことがある」など、以前に比べると著作権についてご存じの方も増えたように思います。ライセンス業務を通じて各地の皆さまに「著作権」をご理解いただく取り組みをしているという側面もあると思います。

広報部ではどのような業務を担当されているんですか?

メディアリレーションのほか、主に毎年5月に発表しているJASRAC賞の制作・運営と、YouTubeライブとニコニコ生放送を使ってJASRACメンバーのクリエイターを紹介する生配信番組「THE JASRAC SHOW!」の制作などを担当しております。

「THE JASRAC SHOW!」vol.85  ゲスト:田中秀和さん(作曲・編曲家)

JASRAC賞は、前年度に著作物使用料の分配額が多かった国内作品の上位3作品に金、銀、銅賞、最も分配額が多かった外国作品に外国作品賞、そして海外の著作権管理団体から最も入金の多かった国内作品に国際賞をお贈りするものです。過去受賞された作品をウェブサイトでご紹介しています。5月にも2021年のJASRAC賞を発表する予定ですので、ぜひ注目いただけるとうれしいです。

歴代JASRAC賞

ちなみに海外で使われた日本の作品でいうと、どういった曲が人気なんですか?

海外からの入金は、アニメ作品に伴う楽曲が多いですね。昨年ですと『NARUTO -ナルト- 疾風伝』の楽曲が受賞していますし、『ドラゴンボール』などアニメ作品の楽曲が人気ですね。

海外から入ってくる使用料のうち、どういった利用が一番多いのでしょうか?

放送での利用が多いです。以前からアニメ作品の楽曲が海外で人気ですが、近年は配信使用料も伸びています。

コロナ禍でリアルなイベントや番組制作なども難しかったかと思うのですが、JASRACのコロナ禍に対応した施策にはどのようなものがあったのでしょうか。

作詞者・作曲者・音楽出版社などのメンバーの皆さまにいち早く分配使用料をお届けするために、分配日程を前倒ししました。使用料の徴収から分配までに要する日程は利用分野に応じて異なり、楽曲の特定などを行い、多くは3ヶ月~9ヶ月後に行っています。元々タイトなスケジュールなのですが、約2週間前倒しすることができました。

また、管理手数料については、JASRACの運営費用に充てるため、年に4回使用料の分配から控除しています。この管理手数料について、運営費用の削減に努めることで、2021年3月期の手数料を引き下げました。これにより、メンバーの皆さまへの分配額を増やすことができました。

JASRACは誰のための団体?

アマチュアも含め、音楽を作っている人を総称して音楽クリエイターと呼んだとき、JASRACはクリエイターの活動のどの部分に関係する団体なのでしょうか。

音楽には大きく分けて、楽曲や歌詞から生じる著作権と、音源制作者やアーティストなどに与えられる原盤権、二つの権利があり、JASRACは前者の「著作権」を管理しています。最近ですと、著作権も原盤権もご自身で持つ方もいらっしゃると思いますが、JASRACは楽曲や歌詞を生み出すクリエイターをメンバーとして著作権管理を通じてサポートしています。

【JASRAC 音楽出版社】ほとんどの人が知らない音楽著作権と原盤権??【財産権 著作隣接権】

作品の、作詞・作曲の部分を管理することで作詞家・作曲家をサポートしているということですね。どういった作詞家・作曲家がJASRACのメンバーになることができるのでしょうか。

「ご自身の楽曲がご本人以外の第三者によって利用された実績があること」が条件です。ユーザーからお支払いいただいた使用料をJASRACメンバーへお届けすることがJASRACの役割ですので、ご自身だけでなく「第三者によって利用された実績があること」を条件としています。

条件が8つありますが、どれか1つを満たしていればいいのでしょうか?

はい、この中の1つでも満たしていれば大丈夫です。

JASRACメンバーには興味があるけれど、自分が条件をクリアしているかわからないといったクリエイターもいると思うのですが、そういった場合には調べていただけたりするのでしょうか?

もちろんです。ご相談いただければ担当部署のスタッフが利用実績の有無などを確認させていただきます。まずは興味を持っていただくことが大事ですので、お気軽にご相談ください。

JASRACメンバーになるまでの流れ

手続きの流れを簡単にご説明いただけますか?

第三者利用の実績が確認できましたら、申込書類をご提出いただきます。毎月20日が締め切りです。いただいた書類について記入漏れなどがないか確認したうえで、翌月上旬に開催されるJASRACの理事会で審査が行われます。

審査に通りますと、その翌月1日からJASRACメンバーとなり、JASRACへの管理委託が開始します。例えば4月20日に書類をご用意いただいた場合は、最短で6月1日付で契約が開始するという流れになりますね。

この契約を結んだ方を「信託者」といいます。「信託者」のうち、JASRACの事業目的に賛同し、 所定の手続きを行ったうえで、入会金と年会費をお支払いいただくと「会員(準会員)」になります。

信託者と会員の違いも教えていただけますか。

会員は正会員と準会員に分かれますが、信託者か会員(正会員・準会員)かによって分配額に差はありません。会員(正会員・準会員)は、会員向けの保養施設を特別料金でご利用いただけるほか、JASRAC顧問弁護士・税理士による法律相談や税務相談も無料でご利用いただけます。
これに加え、正会員は、社員総会に出席して議決権を行使することができ、会長・理事・監事を選んだり、立候補する資格を持っています。JASRACの今後の運営の方向性を決めるのが正会員であり、この点が準会員との大きな違いといえます。

正会員にはどういったクリエイターがなれるのでしょうか。いきなり正会員になれるんですか?

個人のクリエイターが準会員から正会員になるには、過去2年以内で合計40万円の使用料の分配実績が必要となります。多くのクリエイターに正会員になっていただくため、2017年に内容を見直し、条件を緩和しました。

JASRACの行く末を決めていくことに参加したい人が正会員になると。ちなみに運営には参加できないにしても、信託者や準会員の立場でも色々と相談したり意見を伝えたりすることはできるんですか?

もちろんです。例えば、クリエイターとJASRACとの間で結ぶ契約は「管理委託契約約款」に基づいていますが、この約款も、JASRACメンバーやその他の関係者からのニーズを反映させる形でほぼ毎年変更をしています。皆さまのお声やご意見を踏まえて、正会員であるクリエイターや音楽出版社で構成する委員会で議論し、理事会・社員総会を経て約款が変更されます。

そのほか、JASRACメンバーになったことで、楽曲制作やその他の取り組みに影響が生じるようなことがあれば、ぜひご連絡ください。専用の相談窓口も設けていますので、お気軽にご相談いただければと思います。

もちろん、多くのJASRACメンバーの著作権を管理させていただく以上、一定のルール作りは必要ですが、JASRACはクリエイターが楽曲制作に専念するための心強いサポーターでありたいと考えています。

信託契約とは?

JASRACとの契約においては「信託」という言葉が必ず出てきますが、そもそも「信託」とはどういう仕組みなのでしょうか?

著作権の管理方法には、「信託」による方法と、取次、代理などの「委任」による方法があります。JASRACは1939年に設立して、1940年から信託という方法を用いて著作権を管理しています。元々信託の仕組みを持ち込んだのは童謡「赤とんぼ」などの作曲で有名な山田耕筰で、彼がドイツの著作権管理団体GEMAの仕組みが信託だったことを見て、その仕組みを取り入れたとされています。

信託では、財産を預けて管理を委託する者を委託者、管理を引き受ける者を受託者といいます。信託による著作権管理の特徴は、作詞者、作曲者、音楽出版社などの委託者から受託者であるJASRACへ著作権が移転することです。JASRACが著作権者となってさまざまな管理をすることになります。その中で生まれた利益、いわゆる著作物使用料を委託者に分配するという形になっています。

信託と委任との大きな違いはどこにあるのでしょうか。

例えば、受託者(=JASRAC)が万が一破産などしても、JASRACメンバーから移転を受けた著作権(=信託財産)は差押えの対象とはならず、JASRACメンバーのために保護されます。このように「信託」はJASRACメンバーにとって安心・安全な財産管理の方法であるといえます。

大きな違いとしては、著作権がJASRACへ移転し、JASRACがその持ち主となりますので、当事者として違法利用等に対して訴訟を提起することができるという点があります。委任など、著作権が移転しない方法による管理の場合には、委任者自身が違法利用に対応しなければなりません。しかし、違法利用に対してクリエイターが個人で対応するのは難しい面があると思います。JASRACメンバーにとっては、まずは使用料の徴収・分配がもっとも重要な点ですが、見逃せない違法利用があったときに、JASRACに対応を任せることができるのは、心強いと感じていただけているようです。

ときどき、「JASRACは『信託』だから柔軟ではない」といった声を耳にしますが、これは誤りです。「信託」は設計次第でどんな形にもできる柔軟性の高い仕組みで、あとは実際の設計を柔軟にするのかどうかというところです。実際の設計は先ほどもお話ししたとおり、メンバーのニーズを反映させながら改良を重ねています。

最近訴権を行使した件といえば、話題になった音楽教室の件になりますか?

その件は、音楽教室事業者から「JASRACに請求権はない」と訴えられたケースですので、まれな例だと思います。身近な例ですと、海賊版販売者に対する刑事告訴などがあります。最近は海賊版の販売方式も多様化していて、例えばTwitterのDMを使ってクローズドな環境でやり取りしたり、フリマアプリで海賊版と匂わせないように販売し、最終的にはDMでやりとりしたりなどの手口が横行しています。このような刑事事案は、警察はもちろん関係団体との連携が必要ですので、長年の経験を持つJASRACの強みであるといえます。

JASRACに楽曲を預けるとJASRACが著作権者になるとのことですが、JASRACメンバーになると、自分が作った楽曲はすべてJASRACに預けないといけないのでしょうか。

JASRACメンバーになると、その時点で持っている著作権と将来発生する著作権がJASRACへ移転することになります。ですので、JASRACメンバーになる前にゲーム会社等が買い取った著作権は含まれません。また契約後も、楽曲によって管理委託範囲を変更したい場合には、音楽出版社を通じて特定の範囲についてJASRACに預けないことができます。

全曲預ける契約ではあるが、出版社経由で預けることもできるわけですね。例えば私が作曲した「A」という曲がリリースされていて、JASRACメンバーとしてJASRACに楽曲を預けていたとします。その後、例えばレーベルに所属することになり、レーベル傘下の出版社に「A」を預けたいとなった場合、どういった流れで処理がされるのでしょうか?

その場合、当初は「A」を作ったクリエイターからの作品届を受けて、そのクリエイターに全ての使用料を分配することになります。その後、音楽出版社と契約した際は、その音楽出版社が契約内容に応じてJASRACへ作品届を提出します。それ以降は、その音楽出版社のJASRACへの委託範囲に基づき、管理することになります。使用料の分配は、演奏権のクリエイター取り分はJASRACメンバーへ直接送金しますが、それ以外は通常全額を音楽出版社へ送金することになります。

利用されるメディアなどに応じて、イレギュラーな管理をしていただくことも可能なのでしょうか。

「タイアップのため特定の利用については使用料を徴収しないでほしい」といったニーズに対応しています。例えばゲームやCMに利用する楽曲について、楽曲の権利者からの申し出を受けて、ゲーム製作者や広告主による利用には使用料がかからないようにすることができます。