2021.03.16

SoundCloudの新しい収益モデル“Fan-powered Royalties”は、日本型の音楽マーケットでこそ導入されるべき?

ファンが直接アーティストに貢献できる収益モデル

SoundCloudがアーティストのための新しい収益モデル「Fan-powered Royalties(ファンによるロイヤリティ)」を発表しました。このモデルでは、個々のユーザーの行動に基づいてアーティストに対してロイヤリティが支払われます。各ユーザーのサービス利用料の一部が、その月に聴いたアーティスト/レーベルに個別に分配されるようになるのです。

現在のストリーミングサービスの支払いモデルにおいては、すべてのユーザーが支払った使用料がいったん巨大なプールに入り、各々の再生回数に基づいてアーティストに分配されています。当然、多くの再生回数を稼ぎ出す、ひと握りのスーパースターがより儲けるという構造が生まれています。インディーズアーティストや、クラシックやジャズなどの比較的ニッチなジャンルのアーティストが、なかなか思うように収益を得られないのです。

またこの分配方式は、音楽自体の多様性を損なうリスクも持っています。最も繰り返し再生されたアーティストだけが大きな収益を収めるのであれば、繰り返し再生されるために、意図的に短い曲を作成すればよいということになるからです。

こうした問題を打ち破ることになるかもしれない今回のSoundCloudの新モデル。公式サイトの説明によれば、あるアーティストのファンが彼/彼女の音楽をどのくらいの時間聴いているかに基づいてロイヤリティが支払われるといい、それは以下のように算出されます。

  1. 月のすべての視聴時間に対して、ファンがそのアーティストをどれだけ聴いているか
  2. ファンが見た/聴いた広告の数
  3. ファンがSoundCloudGo +(Soundcloudのリスナー向け有料プラン。日本ではサービス提供なし)の会員であるかどうか。

アーティストは、次の3つのアーティスト向けプランに加入することで、このモデルに参加できます。

  • SoundCloud Premier:条件を満たした一部のユーザーが利用することができるSoundCloudの収益化プログラム。収益化のための主な機能としては、広告をつけられることが挙げられます。このプログラムを利用するには、有料のSoundCloud ProおよびPro Unlimitedユーザーである必要があります。その他の条件としては、アップロードする曲のコピーライトを所有するインディーズアーティストであること、曲に対してコピーライト侵害の申し立てを受けたことがないことなどが挙げられています。
    (なお、このプログラムは現在欧米圏でのみ実装されています。日本でSoundCloudを利用した際に広告を目にしたりすることがないのはそのためです)
  • Repost by SoundCloud: SoundCloudで音源を配信するアーティストがSoundCloud上で音源の収益化を図れるだけでなく、Spotify、Apple Music、TikTokなどの主要ストリーミングサービスに音源を配信できるプロモーションツールが提供されるプランです。30ドル/年の利用料金をSoundCloudに支払うことで利用でき、それによってアーティストは、SoundCloudの収益の100%、他のプラットフォームからの収益の80%を得ることができます。
  • Repost Select:Repost by SoundCloud の上位プラン。アーティストのキャリアを加速させる専門家チーム、高品質なプロモーションの機会、カスタムの音楽サービスおよびラジオ局における優遇、1,000万ドルの新しいアーティスト・アクセラレータ・プログラムからの資金提供検討などが含まれます。

SoundCloudは何も慈善事業として今回の新事業を始めたわけではありません。上記の有料プランを利用するアーティストにとって、SoundCloudはもはやTUNECOREなどのディストリビューター(アグリゲーター)に近い存在です。SoundCloud社の視点からすれば、SoundCloudをきっかけにスターとなりうるインディペンデントアーティストにとっての、将来にわたるパートナーとなることができるメリットがあるのです。

SoundCloudの軌跡

SoundCloud社は2007年にドイツのベルリンで設立されました。2008年のサービス開始以降、2010年5月に100万ユーザーを突破。2013年には4000万ユーザーを獲得するなど順調に成長し、2019年現在の登録ユーザーは7600万人、月間ユニークユーザーは1億7500万人にのぼるとされています。

SoundCloudが当初から行っているのはあくまでプラットフォームの提供。ユーザー自身がコンテンツをアップロードしてくれる仕組みを基本としています。こうした特性から、SoundCloudは「音楽版YouTube」と言われることもあります。以下に引用した文章は、Spotifyなどストリーミング事業者との違いを端的に表しています。

「Netflixと同様、アーティストはフォロワーを増やすのにSpotifyをあてにはしない。そのためにはSoundCloudに参加する。これはビデオグラファーがYouTubeに作品をアップロードするのと同じだ。」

SoundCloudは音楽のYouTubeだ―ビジネスモデルはSpotifyよりはるかに有利(TechCrunch Japan)

SoundCloudというプラットフォームの強みは、楽曲をアップロードするユーザーが増えるほど楽曲を聴こうとするユーザーも増え、ユーザーが増えるほど楽曲を投稿するインセンティブも大きくなるという「ネットワーク効果」が働くことです。一方で権利処理されていないDJミックスなども大量にアップロードされる場所でもあり、その是非はともかく、新しい文化が生まれる土壌として支持を集めてもきました。ユーザー同士が相互にフォローし合う機能も備え、コミュニティ感が強いのも特徴です。

2014年11月にはワーナーミュージックと、2016年にはユニバーサルミュージックとソニーミュージックとライセンス契約を締結。同年3月には、リスナー向け有料プラン「SoundCloud Go」を開始します(後に機能拡張版の「SoundCloud Go+」も開始)。オフライン視聴、広告無しの視聴、有料会員のみが視聴できる楽曲カタログを視聴できるというもので、アクセスできる楽曲数は1億2500万曲(当時)と、他のサブスクリプションサービスと比べても桁違いの規模を誇りました。

同社はレコード会社との連携が模索し始めた2015年頃から、アップロードされた楽曲の著作権侵害を自動的に判定して削除するシステムを導入。それはSoundCloud独自の文化を愛するユーザーが一時離れる要因ともなったのですが、「SoundCloud Go」の提供にあたって改めて各社と協定が結ばれた結果、ミックス音源の配信も自由に行えるようになりました(著作権を持つクリエイターからの要望があれば削除されることもあります)。2016年以降は、SoundCloudの売上は$57.8M→102M→127M→166Mとかなりのペースで上がっており〔参考記事:SoundCloud’s revenues jumped 37% to $166m in 2019 – and it’s just posted its first ever profitable quarter(Music Business Worldwide)〕、2019年には四半期ベースで黒字になっています。現在のSoundCloudは、リスナー向けのストリーミングサービスと、発表の場としてのプラットフォームを提供するクリエイター向けサービスの両面でビジネスを行っているのが特徴と言えるでしょう。

ユーザー中心の収益モデルは、日本でこそ実現されるべき

日本ではSoundCloudの有料プラン自体がスタートしていないため、ユーザーが今回の新モデルを利用することはまだできません。しかしtofubeats、長谷川白紙らを輩出したMaltine Recordsなどのネットレーベルや、Soundmain Blogのインタビューにも登場していただいたUjico*氏を要するKawaii Future Bassのシーンなど、日本でもSoundCloudを中心に独自の盛り上がりを見せているシーンはあります。

今回のニュースを「日本のようなマーケットでは真剣に議論すべきモデル」と紹介されていた、IT×音楽ビジネス領域に詳しいParadeAll代表の鈴木貴歩氏に、お話を伺うことができました。

日本に“Fan-powered Royalties”方式が合うと考える理由は、日本の音楽ファンにはアーティストを支える、という意識を持っている方が少なくないからです。「推し」という言葉が象徴しているように、楽曲ごとに好き、嫌い、というよりはアーティストの存在や活動をサポートしたい、という気持ちにこの方式は当てはまると考えます。

SNSでも日本の音楽ファンの多くは常に「何がアーティストの為になるか」を考えているように見え、とても良質のファンが多いと思います。最近になってストリーミングで音楽を楽しむことが、再生回数、ランキングに加え、売上に貢献することが認知されてきましたが、“Fan-powered Royalties”方式は、よりわかりやすく納得感のある形で音楽を楽しむ行為を促すでしょう。

またアーティスト/マネジメント/レーベル側も、長らくフィジカル、着うた、といった「指名買い」を基本としたビジネスに慣れ親しんでいることもあり、「Pro Rated(比例配分)」な方式に心の底からピンと来ている方は多くないのではと思います。その点では、ユーザー中心の支払い方式は「推し」「コアファン」が何名聴いてくれるか→売上の積み上がり方がイメージしやすい点で、更にストリーミングへのカタログ開放、ストリーミング活用が進むと考えます。

日本で盛んなファンクラブの考え方とも親和性が高いので、“Fan-powered Royalties”方式を活用した日本ならではの施策も出てきそうです。

ギーク感のあるデスクトップ・ミュージック、DJカルチャーやヒップホップカルチャーとの親和性が良いイメージのSoundCloudですが、上記のような特徴を持つ日本で今回の新モデルが使えるようになれば、また海外とは違った独自のシーンがSoundCloud上に生まれるかもしれません。もちろん国内ではSoundCloudではない別のプラットフォームが、先行してこのモデルを導入する可能性もあるでしょう。アーティストの収益問題を改善するモデルとしてだけでなく、新しい音楽シーン・ジャンルを生み出す環境の設計手段としても、“Fan-powered Royalties”という方式に注目していきたいところです。

編集・執筆:Soundmain編集部

参考文献

SoundCloud revolutionizes streaming music payouts, launching new royalties system (Music Business Worldwide)
https://www.musicbusinessworldwide.com/soundcloud-is-about-to-revolutionize-streaming-payouts-launching-user-centric-royalties-for-100000-indie-artists/

How many users do Spotify, Apple Music and streaming services have?(Music Ally)
https://musically.com/2020/02/19/spotify-apple-how-many-users-big-music-streaming-services/

SoundCloudで収益化可能! インディーズアーティスト向け「SoundCloud Premier」が新たに開始(block.fm)
https://block.fm/news/soundcloud_premier_monetization

SoundCloudが意識し始めたアーティストの収益化 「SoundCloud Premier」でできること(All Digital Music)
https://jaykogami.com/2018/03/15022.html

SoundCloud、ディストリビューター機能「Repost by SoundCloud」を提供開始。コロナ対策で収益拡大支援も(Music Ally Japan)
https://www.musically.jp/news-articles/soundcloud-makes-its-pitch-to-artists-as-a-music-distributor

SoundCloud最前線:経営破綻の危機から復活までの道(All Digital Music)
https://jaykogami.com/2018/05/15133.html

音楽共有のSoundcloud、創業者が「もうDJ Mixを削除しない」と明言。定額サービス開始で著作権使用契約を締結(Engadget 日本版)
https://japanese.engadget.com/jp-2016-12-13-soundcloud-dj-mix.html