
ハウス・ミュージックってどんな音楽? ダフト・パンクからSexy Zoneまで
先週~今週(2021年2月第3週~第4週)にかけて音楽ファンの間で盛り上がった話題の背景にあるジャンル「ハウス・ミュージック」。
2月22日に解散を発表したダフト・パンクは「フレンチ・ハウス」の旗手とされます。
Sexy Zoneの新曲「RIGHT NEXT TO YOU」は「UKガラージ」「ディープ・ハウス」の音楽性を取り入れたとして、MVが公開されるやいなや音楽ファンの間で話題になりました。
ハウス・ミュージックは、これまでSoundmain Blogでも何度となく取り上げてきたサンプリング・ミュージック/DJカルチャーから生まれた1ジャンルです。ぜっかくの機会ですので、2つの話題を「リミックス」しつつ、少し掘り下げてみました。
ハウス
ハウス・ミュージックの名前は1977年にシカゴにオープンしたクラブ「Warehouse(ウェアハウス)」から来ているという説が最も有力とされています。70年代に流行したディスコ・ミュージックのレコードをDJがかける際に、ドラムマシンやシンセサイザーなど、当時の新しいテクノロジーの力を借りて再解釈したのがハウス・ミュージックだと言えます。BPMは 120~125くらいで、1小節に4分音符で4つキックが入る(4拍子のすべてでキックが鳴る)、いわゆる「4つ打ち」のリズムが特徴です。基本的にはそれがループする構成で、クラブで踊る人々に陶酔感・恍惚感を与えていきます。現場の肌感覚から生まれた、機能性に特化した音楽だったのですね。
こうしたハウス・ミュージックのフランスにおける発展を牽引したのがダフト・パンクです。ダフト・パンクは1994年にフランスでデビュー。ユニット名の由来は前身バンドがイギリスの音楽誌にレビューされた際に「daft punky thrash」(馬鹿げたパンク・ロック)と酷評されたことからだそうです。デビューシングル「The New Wave」に続き、「Da Funk」(2001年)がヨーロッパを中心に大ヒット。初のフルアルバム『Homework』は全世界で220万枚のセールスを記録しました。彼らを筆頭にフランスで独自発展したハウス・ミュージックのことを「フレンチ・ハウス」と言うようにもなりました。
そもそも、ディスコの語源はフランス語で踊り場を意味する「Discothèque」です。そのことを意識して……というよりは単純に好きだったのだと思いますが、ダフト・パンクというユニットは結成当初からディスコ・ミュージックへの「先祖返り」的な性格を持っていたハウス・ユニットだと言えます。2013年に発表され翌年のグラミー賞を総なめにした『Random Access Memories』は、最終曲以外の全編を生演奏で録音し、ディスコ・ミュージックの重鎮ジョルジオ・モロダー、ナイル・ロジャースらを招いた作品でした。
昨今、ヴェイパーウェイブやシティポップ・リバイバルのように「日本の豊かで余裕があった時代の音楽を、一種のファンタジーとして借り受けコラージュする音楽」の存在感が目立ちます。それと対応させて、ディスコ~ハウスの流れの中から出てきつつ、20年間をかけて愚直に歴史を遡り続けてきたユニットとしてダフト・パンクを捉えると、なかなか考えさせられるものがあります。ここ日本でも多くの人がダフト・パンクの解散を惜しむのは、「ディスコ・ミュージックがハウス・ミュージックへと発展した」のような、事実として存在する「歴史性」をリスナーに強く意識させる活動を行ってきた稀有なサンプリング・ミュージシャンとして、彼らを捉えていた人が多いからかもしれません。
UKガラージ
続いてUKガラージを見てみましょう。今日UKガラージと呼ばれるのは、その構造的な特徴から「スピード・ガラージ」「2ステップ」などと呼ばれるものの総称です。
その前に「ガラージ」とはなんでしょうか。語源は「ハウス」と同じく、ニューヨークの 「Paradise Garage (パラダイス・ガラージ)」というクラブの名前とされています。今日ハウスと呼ばれるジャンルのクラシックを、Warehouseの所在地を指して特に「シカゴ・ハウス」と呼ぶようになったため、それとは区別するためにParadise Garage流の選曲のテイストを持つものを「ガラージ」と呼ぶようになったのでした。
(ちなみに、Paradise Garageではソウルもファンクもロックも踊れる曲なら何でもフロアにかけるという方針だったそうで、「ガラージ」という定型の音楽があったというわけではないようです。その中から特に「歌もの」の要素を強く持ったものを、「ガラージ・ハウス」と呼ぶようになったとのこと)
これを踏まえて「UKガラージ」とは何かに移りましょう。UKというくらいですから発祥の地はもちろんイギリスです。90年代半ば、イギリスではドラムンベースが流行していました。ドラムンベースは、ブレイクビーツと重低音のベースラインを特徴とする、BPM160~190の非常に高速な音楽です。その強力な重低音を鳴らすため、各地のクラブのサウンドシステムはこぞってバージョンアップを図っていました。
そこから生まれたのが「歌もの」としてのガラージとドラムンベースの重低音を混在させた「スピード・ガラージ」というスタイルです。BPM125~130という、ガラージ・ハウスにしては速いBPMから付けられた名前です。さらに1998年ごろには、スピード・ガラージの4つ打ちキックの2拍目と4拍目を抜いた、突っかかるようなビートのサウンドスタイルがシーンに登場します。これが「2ステップ」です。
こうした流れからなるUKガラージは2001年ごろに下火を迎えますが、それにはパーティの取り締まりと暴力沙汰の頻発……といった背景もあったようです〔参考記事:【コラム】リバイバルを果たしたUKガラージ/2ステップの現在と歴史 – FNMNL (フェノメナル)〕。その遺伝子はストリートにおいてよりダークに洗練された形で生き延びることになり、イギリス発のヒップホップ・ミュージックとして現在も人気の「グライム」につながっていきます。
ディープ・ハウス
続いてディープ・ハウスです。当初の意味合いとしては、シカゴ・ハウス(=初期のハウス)に1980年代のジャズ、ファンク、ソウルミュージックを融合させた、といったものでした。 BPM は110~125、ソウルフルなメロディーが特徴で、派手な音は使用されない(シンプルで温かみがある音が使われる)のが特徴です。
しかしそれとはまったく関係なく、最近ではポップでアンビエントな質感を持つEDMのサブジャンルとして「Deep House」という言葉が用いられることもあるようです(Spotifyの公式プレイリスト「Deep House Relax」などはこちらの意味合いでしょう。聴いてみると、「ディープ・ハウスっぽい」と言われるSexy Zone「RIGHT NEXT TO YOU」の後半とはだいぶ違うことがわかります)。
なぜこのようなことが起こるかというと、もともとの名付けにおいても「ディープ」という言葉がその「質感」を表すために使われていたからだということが言えそうです。2つの記事からディープ・ハウスの特徴について述べられた箇所を引用してみましょう。
民族的なパーカッシヴサウンド
Deep House(ディープハウス) – ハウスミュージックラバーズ
アタック成分や高域成分を抑えた柔らかい音色
ソウルフルなボーカル
ジャジーなコード進行、調性感が曖昧、モード旋法、ワンコード
半音階的進行
アンビエントを感じさせる
ストリングスやシンセによるパッド音
深めのリバーブ、エコー、ディレイなどのエフェクト
沈み込むような音色と反復するメロディによる陶酔感や中毒性
BALLISTIK BOYZ「Animal」とSexy Zone「RIGHT NEXT TO YOU」、ファンベース超えて届いた理由 サウンドを徹底解説 – Real Sound
それぞれ「あくまで傾向であり、時代と共に解釈は変わる」「個人的な意見」という枕を添えてこう述べられており、あくまで感覚的にしか定義できないものと伺えます(しかし集合論的には見えてくる特徴がありますね)。
ちなみに本来の意味でのディープ・ハウスの音がどんなものを知るには、以下の記事の中で引かれている音源を参照すると良いかもしれません。「RIGHT NEXT TO YOU」にもTwitterで反応していたDJのTJO(Takeru John Otoguro)氏による記事です。
まとめ
Sexy Zone「RIGHT NEXT TO YOU」におけるUKガラージやディープ・ハウスの要素に注目が集まったのは、当時のシーンを取り巻く社会情勢(UKガラージ)や用語の使い方が曖昧(ディープ・ハウス)がゆえに、一度「切断されたはずの歴史」が突然に浮上した驚きがあったからだと言えます。テレビバラエティなどにもよく出るアイドルグループのパフォーマンスによってそういったことが実現したこの現象とは対照的に、ロボットのコスチュームを身にまとい、近年は新作を発表していなかったことで「本当にいるかいないかもわからない」存在感を保ってきたダフト・パンクが愚直な歴史の遡行の果てに幕を下ろしたという2つの出来事が、ハウス・ミュージックというジャンルの周辺で立て続けに起こった。2つの異なる時間軸が交差するようで、スペクタクルな2週間でした。
ポップ・ミュージックは3分~5分の中で展開する「時間芸術」と言えますが、サウンド感を操作することによりジャンルをまたいだ歴史を旅することができるという意味での「時間芸術」でもあります。そうした「時間芸術」はYouTubeやストリーミングサービスの台頭によって時間軸を無視して様々な音楽に「ランダム・アクセス」できるようになったこと、DAWの発達により視覚的な音の編集が可能になったことの二つの意味で、今後もますます過激に発展していくことでしょう(この文脈ではnamahoge氏による「Hyperpop」についての優れた解説記事も最新の事例を取り上げたものとして今週目を惹きました)。
発達するDAW環境や新しいプラットフォームからからどんな新しい「時間芸術」が生まれていくのか、今後も楽しみです。
編集・執筆:Soundmain編集部
参考文献
Sexy Zone「RIGHT NEXT TO YOU」UKガラージ採用の新境地 – JBSGROOVE
http://jbsgroove.com/review/dancevocal/sexy-zone-right-next-to-you.html
BALLISTIK BOYZ「Animal」とSexy Zone「RIGHT NEXT TO YOU」、ファンベース超えて届いた理由 サウンドを徹底解説 – Real Sound
https://realsound.jp/2021/02/post-712046.html
【今さら聞けないダンスミュージックのジャンル】各ジャンルの名称、特徴は?【Part.1/ハウスミュージック編】 – iFLYER
https://iflyer.tv/article/2019/04/30/dancemusic-genre-001/
ヒストリー・オブ・ハウスミュージック – Red Bull
https://www.redbull.com/jp-ja/house-music-FAQ
ディスコとは?一世を風靡したジャンルを徹底解説 – Crown Cord
https://crown-cord.jp/wax/article/whatisdisco/
【コラム】リバイバルを果たしたUKガラージ/2ステップの現在と歴史 – FNMNL
https://fnmnl.tv/2020/04/28/96446
第8回 ─ GARAGE – TOWER RECORDS ONLINE
https://tower.jp/article/series/2006/11/09/100046747
ハウスミュージックとは?初心者におすすめの曲は? – ハウスミュージックラバーズ
https://housemusiclovers.net/bigginers/
Deep House(ディープハウス) – ハウスミュージックラバーズ
https://housemusiclovers.net/deep-house/