
「著作権」と「原盤権」の違いって? 話題の音声SNS「Clubhouse」の事例から読み解く
2月頭よりにわかに話題となっている音声SNS「Clubhouse」。クローズドなトークルームで気軽に雑談ができるということで、在宅時間が増えたこのご時勢にぴったりなアプリです。
せっかく音声が使えるのだからと、音にかかわる新しい発信を試したくなるというもの。たとえば、BGM代わりに音楽をかけるのは可能なのでしょうか? 以下の「弁護士ドットコム」の記事は、そんな疑問に答えてくれるものになっています。
しかし専門サイトに載った記事ということもあり、初見では難しい用語もあるように思います。Soundmain Blogでは以前、クリエイター向けのサンプリング音楽における著作権の考え方に関する記事を掲載しました。今回はその立場から、上記の記事でつまずきやすいと思われる2つのポイントを解説してみたいと思います。
2つのポイントとは以下です。
- Clubhouseは著作権管理事業者(JASRACなど)と【包括契約】をしていない
- CD音源を流す場合は(著作権とは別に)【原盤権】の問題がある
順に見ていきましょう。
【包括契約】とは、著作権管理事業者(JASRACやNextone)と許諾契約を締結している配信サービスであれば、ユーザーが個別に許諾を得ずに、楽曲の演奏を含む音声や動画を配信できる可能性があるというものです。(元記事では、YouTube LiveやLINE LIVEがこの契約を結んでいるサービスとして挙げられています)
「可能性がある」と言ったのは、あくまで流したい楽曲が【包括契約】を締結している管理事業者によって管理されている楽曲である場合であれば、という話だからです。対象の楽曲がJASRACで管理されているのか、Nextoneで管理されているのか(あるいはそのどちらでもないのか)、まずは以下のサイトで確認してみましょう。
JASRAC 作品検索データベース(J-WID)
http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/
Nextone 作品検索データベース
https://search.nex-tone.co.jp/terms
ちなみにJASRACのサイトには、この【包括契約】を通してどのように著作者に使用料が分配されるかの図解が掲載されていますので、分配を受ける側のクリエイターの皆さんはぜひご覧になってみると良いと思います。
インタラクティブ配信(1 インタラクティブ配信使用料が分配されるまで) JASRAC
https://www.jasrac.or.jp/bunpai/interactive/detail1.html
2つ目のポイントは【原盤権】です。平たく言えば「モノ」としての録音物に対して発生する権利のことで、著作権とは異なります。(CD・レコード時代の名残で「盤」とついていますが、録音物として完成していればプレスされていなくても対象となります)
商業音楽の場合、録音物を作るにはスタジオなどの設備だったり、エンジニアの仕事だったりと著作者(作詞・作曲をした人)以外にも様々な人や物事が関わります。よって、【原盤権】の主な持ち主はそうしたもろもろの費用を負担する、いわゆるレーベル、レコード会社となります。(楽曲によっては事務所や音楽出版社が原盤権を持っている場合もあります)
また、制作にあたって大規模なスタジオワークを必要とせず、リリースもレーベル、レコード会社を介さないタイプのいわゆるDIYなアーティストに関しては、本人が著作権に加えて【原盤権】も持っているという場合があり得ます。
商業音楽を例に説明すれば、JASRACなどと【包括契約】を結んでいる配信サービスであっても、市場に出回っている完成品としての音源を流そうと思ったら【原盤権】に触れるので、個別にレコード会社などに許諾を得なければならないということです。(つまり、カバーを自分で演奏する分には録音物を利用するわけではないので、著作権についての【包括契約】の範囲内で可能ということです)
これを踏まえた上で元記事の内容に戻りますと、
- ClubhouseはJASRACなどと著作権に関する【包括契約】をしていないので、許可なくカバー演奏を流すのはNG
- 録音物(商業・DIY問わずリリースされた音楽)を許可なく流すのは、【原盤権】の観点からもちろんNG
ということになります。
逆に言えば、著作権・原盤権ともにしかるべき手順で許可を取れば、配信ができる可能性があるということです。同じくJASRACのサイトに、どのようなケースでどのような許可を取れば良いのか、フローチャート式で図解が掲載されていますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
動画投稿(共有)サービスでの音楽利用 JASRAC
https://www.jasrac.or.jp/info/network/pickup/movie.html
最後にもう一つ注意点を。「弁護士ドットコム」の記事中で使われている【原盤権】という言葉は実は通称であり、厳密な法律用語としては「著作隣接権」の中の「レコード製作者の権利」に当たります。JASRACのサイトなどではこちらの表記が使われているので、混乱しやすいですが、頭の中で置き換えて読んでみてください……!
編集・執筆:Soundmain編集部