2021.01.12

Initial Talkインタビュー(後編) Dua Lipa、Sia、Kylie Minogueの公式リミックスを手掛けた日本人クリエイターが語る、SNSを使ったモチベーションの保ち方

日本在住にしてDua Lipa「New Rules」、Kylie Minogue「Dancing」、Sia「Together」の公式リミックスを手掛けている日本人クリエイターがいることをご存じですか?

Dua Lipa – New Rules [Initial Talk 80s Rules Remix]
Kylie Minogue – Dancing (Initial Talk Remix)

メジャーアーティストのリミックス以外にも、Paula AbdulとJanet Jacksonのマッシュアップ・リミックスをPaula Abdul自身が称賛したり、Spice GirlsとBobby Brownのマッシュアップ・リミックスが米Billboard誌「Spice Girls “Wannabe”のベスト・リミックス5選」の1曲にも選ばれるなど、類い稀なセンスで世界を魅了しています。

インタビュー後編では、日本人作家の海外での可能性、クリエイターにおけるSNSやアナリティクスの大切さ、SNSを使ったモチベーションの保ち方などについてお話をお伺いしました。前編と併せてお楽しみください!

▼前編はこちら▼

リミキサーにスポットが当たる良い時代

作品をアップするにあたり、YouTubeチャンネルのアナリティクスなどのデータを確認されていますか?

見てますね。外部のどこから来たかっていうトラフィックソースが見えるじゃないですか。それを見てみるとPopjustice (イギリスの音楽ジャーナリスト、ピーター・ロビンソンによって2000年に設立された音楽Webサイト)から来てる人が多いんだな、とかが分かるんです。それもあって、UKの音楽ファンに刺さっていることは何となく感づいていましたね。

あとはツイッターにエゴサアプリを入れて、曲がシェアされたら通知が来るようにして、そのツイートには感謝の気持ちを込めていいねしたりとか。SNSで話題にしてくれていることを励みにしながらやっています。
友達とかじゃなくて自分と関係ない人の作品をシェアをするエネルギーって凄いと思うんです。単純にこれ面白いから見て、みたいなシェアのされ方って、昔だったらできなかったことじゃないですか。知らない人が自分の作品について語ってくれているところを、作っている側も見ることができる。ネット上でシェアしてくれている人がいるというのは、物凄くモチベーションになりますね。

Spotifyなど、YouTube以外のプラットフォームにはご自身で配信しているんでしょうか。

以前にはDistrokidというディストリビューションサービスを使って配信していました。クリエイターたちが全員Distrokidのメンバーであれば自動でシェアできて便利なんですけど、メンバーになるのは有料だし、それを強要することもできないので、いまは結局自分で計算をしています。

レーベルに任せると手数料はかかりますけど、圧倒的に楽ですよね。コラボやコライトをして作ることが増えているわけで、登録のハードルも高くなく、簡単に分配出来るシステムがあればなとは思っています。

海外クリエイターやディストリビューターとのやり取りは英語かと思いますが、英語は昔から勉強されていたんですか?

全然です。普通に大学受験のための英語をやっていたぐらいで。書くのは頑張ればという感じですかね。
日本人は勉強していれば一応英語を書くことはできるじゃないですか。今の時代はメールで完結できるし、オンラインでデータを送れば仕事になるというのはありがたいなと思います。普通に家で地味に作ってるのがDua Lipaのリミックスだったりとか、たまに変な気分になりますね(笑)。

SNSやプラットフォーム、テクノロジーなどで、将来こうなってほしいと思う部分はありますか。

裏方にスポットが当たるということは是非もっと進んでほしいなと思っていて。Spotifyはリミキサー・フレンドリーというか、リミキサーにとってかなり優しい作りになっているんですよ。リミックスした曲の後にリミキサーの名前がタグ付けされるので、そこからリミキサーのページに飛べて、他のリミックスが聴けたりする。このシステムがちょうどDua Lipaのリミックスが出たぐらいに始まったんです。今ではリミックスの視聴回数が自分のマンスリーリスナーにもカウントされるようになっていて、これが凄くありがたいですね。

でも作家の人達はSpotifyでもまだ検索しづらいですよね。リミキサーに比べて、作家やアレンジャーはまだ裏方感があるなと思っていて。作家をたまにやっている端くれとして、もっと裏方にスポットが当たるといいのになと思います。僕もそうですけど、割と作家で検索するのが好きな人もいるじゃないですか。「このプロデューサーの曲を全部掘りたい」みたいな。これができれば音楽シーンがもっと盛り上がると思うんですよね。

ちなみに僕がSpotifyで作っているプロデューサー・シリーズのプレイリストは、実はDiscogsを見ながらせっせと拾って作ってるんですよ。バカみたいな時間をかけて(笑)。

最近では国内外でもメンタルヘルスの問題が話題になっています。

上手くいかないと本当に腐りがちですしね。自分の場合はバイトもやってるんです。飲食店なんですけど、それは経済的な不安があるというのもあるし、もう一つは社会とつながるためなんですよね。僕の場合はどうしても引きこもりになりがちなので。外で気分転換も含めて接客をしつつ、戻ったら作業して。

とはいえ仕事がない時はめちゃめちゃ不安ですけどね。去年も「やっぱりもうブームは終わった」みたいな気持ちになりましたし。そこでもう一回初心に戻ろう、と思い返して色々リミックスしてアップしていったり……。過去の作品以上のところに行きたいんだけど、そう簡単には行けないというか。でもやっぱり行きたいので、最近は四六時中Initial Talkのことを考えて過ごしてますね。

Dua Lipaのリミックスなどで僕が経験したことって本当にタイミングがバチっと合わないと起こらないことだと思うので、また起こるとは思ってないんですよ。でもまだ、面白いことをやってくれるんじゃないかっていう期待はあるんじゃないかと思っているんですよね。だからこそ仕事で着実に結果を出すというか、ひとつひとつの仕事に誠実に誠意をもって応えることが大事だなと思っています。

「日本人的な洋楽の音」にチャンスがある

ご自身の作品の、どういった部分が海外で受け入れられたと思われますか?

わからないですけど、向こうのメロディーとかボーカルとかと、日本的といえども洋楽好きな日本人がやった音、みたいなものの組み合わせが今までになかったのかもしれません。

日本人的な洋楽の音、とはどういうものでしょうか。

音数が多めというか、海外のものとはちょっと違うんでしょうね。キラキラしていたり切なかったりとか、そういうところがありますよね。ただ自分で「日本っぽさ」を意識することはないです。向こうの人からしたらどこの国の人だろうが関係ないですしね。

海外での活動を経て、日本の音楽シーンで活動することをどう捉えていますか。

海外での活動を増やしたのには、正直日本で作家として活動する際の「レコード会社の下請け感」がしんどかったというのもあります。J-POPのコンペに出して、使ってもらえたら万々歳みたいな……。コンペに通らなかった場合、やったことに対する正当な対価はないのが当たり前ですし。

そこから入っていかないことにはプロの仕事は始まらないんですけど、そこから抜けたいという気持ちも同時にあります。単純に対等に仕事がしたいというだけなんですけどね。海外の仕事を中心にしている今は、比較的それが出来ているように感じます。あなたの音を欲しいと言われて、それに応えるという関係は、お互い同じ高さで気持ちよく仕事ができる。これは凄くメンタルにも良いですね。

そういう活動ができているのは、やはりDua Lipaの仕事ができたというのが大きいです。公式の仕事として世に出たからこそオファーが一気に増えたと思いますし、どこの馬の骨とも分からない奴ではないという証明にはなったかなと。運が良かったというのももちろんあります。

Dua Lipa – IDGAF (Initial Talk Remix)

無名でも音で判断してもらえる世界だったと。

ええ。「そんな素人の作ったもん出せるかよ」みたいな意見も当然あったと思うんですよ。制作費をかけて公式のリミックスを何バージョンも作ってるし、ブートを公式としてピックアップしないという選択肢もあったと思うんですよね。
自分的には「クオリティー的に大丈夫か?」とか思いましたけど、OKが出たことで自信もつきましたね。もしかしたら大丈夫なのかな、と。

ちなみに公式で出なかったものは「YouTubeに個人でアップするよ」と言ってアップさせてもらったりもしています。ダメであればオフィシャルで出ない世界ですけど、その辺りは寛容で。今は何でも自分で出せる時代なのに、自分が作ったものが世に出ないことが嫌なんですよね。オフィシャルではないけど、お蔵入りにならずに聴かせられる機会があるだけでも嬉しいですよね。

日本のクリエイターや作品の海外での可能性についてはどう思われますか。

まず、少し前から「シティポップ」がコンセプトのコンペが出てきているんですが、流行っているからと安易に「シティポップ」を集めるコンペはどうなんだろうという気持ちがあります。

海外シーンの後を追うこと自体は問題じゃないんです。EDMとかもそうでしたし。ただ「シティポップ」は日本にあったものなわけで、それを海外に遅れて自分達でやらなくてもいいなじゃないかと思ったりします。

もはや今はストリーミングのおかげで国境がないわけですし、普通に現在進行形の海外シーンに影響を受けたみたいな音を日本人がやれば、何年かして海外でも「日本っぽいもの」としてヒットしていく可能性はあるはずなんです。シティポップも元々は海外のAORとかへの憧れが形になったものなわけですしね。

今後トライしてみたいことはありますか?

自分が影響を受けたプロデューサーのJimmy Jamとはインスタでつながっていて、メッセージをやり取りすることもあります。いつか一緒に仕事をしたいという目標はありますね。

SNSで自分の師匠のような存在のアーティストとつながれるのが凄いですよね。

普通にいいねとかコメントもくれるんですけど、それが凄く日々の心の支えになってますね。インスタはクリエイターともつながりやすいツールなので、是非活用してくださいということはお伝えしたいです。
日本人のクリエイターのインスタをたまに見ると、海外のクリエイターをいいねしたりフォローしたりすることが少ないように思います。意外と聴いてくれたりしますし、つながるチャンスがそこにあるし、もったいないなと思います。

海外でやりたい人ばかりではないでしょうし、つながったからどうなんだっていうのもあるかもしれないですけど、可能性を日本に限定してるような気がするんですよね。自分の場合みたいに、日本であまり仕事がなかったけど、色々と考えてトライしていたらいつの間にか向こうに届いてた、なんてパターンもあるわけですし。とにかく可能性は限定しないで、幅広くやることが大事かなと思います。

今の日本の若い人たちは言われなくても海外クリエイターとつながってる人もたくさんいると思うので、時間の問題かとは思いますけどね。

今後のリリースの予定を教えていただけますか。

最近はLitanyというUKのアーティストのリミックスをやりました。今後もリリースはあるので、ぜひSpotifyの「Initial Talk」のクレジットから辿ってみていただけると嬉しいです。

取材・文:岩永裕史、千葉智史(Soundmain編集部)

Initial Talk プロフィール

Initial Talkは80/90年代ポップカルチャーへの愛を表現すべく、2015年に活動を開始。
2017年、YoutubeにアップロードしたDua Lipa “New Rules”の非公式リミックスがSNSで話題となり、後にWarner Music UKから正式にリリースされた。
以降、Kylie Minogue、Sia、Erasureといったアーティストへ公式リミックスを提供している。

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