
Initial Talkインタビュー(前編) Dua Lipa、Sia、Kylie Minogueの公式リミックスを手掛けた日本人クリエイターが語る、好きなことを世界に向けて発信していくことの大切さ
日本在住にしてDua Lipa「New Rules」、Kylie Minogue「Dancing」、Sia「Together」の公式リミックスを手掛けている日本人クリエイターがいることをご存じですか?
メジャーアーティストのリミックス以外にも、Paula AbdulとJanet Jacksonのマッシュアップ・リミックスをPaula Abdul自身が称賛したり、Spice GirlsとBobby Brownのマッシュアップ・リミックスが米Billboard誌「Spice Girls “Wannabe”のベスト・リミックス5選」の1曲にも選ばれるなど、類い稀なセンスで世界を魅了しています。
今回はそんなInitial Talkさんにインタビューを実施し、公式リミックスが決まった経緯からクリエイターの活動の幅の広げ方、また日本人アーティストの世界での可能性まで、幅広いトピックについてお話をお伺いしました。YouTube動画やご本人作成のSpotifyプレイリストと一緒にお楽しみください!
楽しんで作ったものがDua Lipa公式リミックスに
実はInitial Talkさんのことを教えてくれたのはSoundmain BlogでもインタビューさせていただいたMitchie Mさんなんです。
そうなんですね、そんな知らないところで……光栄ですね。
まずは音楽遍歴を教えていただけますでしょうか?
父親とか兄弟の影響で中学ぐらいから音楽を自分で聴き始めて、元々大阪に住んでいたのでFM802は良く聴いてましたね。その頃は一瞬だけドラムを習わせてもらってたんですけど、向いていなかったので1年くらいで辞めてしまって。歌だったら何とかなるかと思って大学に入ってからアカペラサークルに入ったんです。
当時からR&Bっぽい音楽が好きでしたね。アカペラってスタイルとしてR&Bにも近いので、サークルに入って好きな曲を耳コピして歌うようになったんです。Janet JacksonとかMonicaとか、90年代~2000年代ぐらいのR&Bの感じとかを自分でアレンジして。
耳コピのために鍵盤でコードを起こしていたりしたら、「和音を考えるのって楽しい!」という衝撃があったんです。それで大学3年くらいから家にあったパソコンで「Singer Song Writer」というソフトを試しに使い始めました。簡単な打ち込みしかできなかったんですけど、結構楽しいし「自分イケてるやん」みたいな気持ちになって(笑)。
それから自分のデモ曲を作るようになって、レーベルのオーディションに出したら一度連絡があったんです。ただデモを送っても返事が来るのが半年後とかだったので、この感じで待っててもダメかなと思って、大学卒業後に音楽の専門学校に入りました。
大学卒業後に専門学校に入られたんですね!
作曲家になりたいというところから行き始めたんですけど、学校でコネを探せたらなという気持ちもあり(笑)。実際に出会いもあって、作家マネジメントをしている方とつながったことでコンペの話をもらえるようになってから作家のキャリアがスタートしたので、選択としてはバッチリだったんです。
2010年ぐらいまでは割とそれなりに仕事もあったんですけど、そこからEDMっぽいのが流行ってきたりアイドルものが流行ってきて段々「あれ、仕事なくなってきたぞ」みたいな感じになって。コンペには出してたんですけど全然決まらず……。腐りつつも頑張ってはいたんですけど、これではダメだと思った時に、自分の好きな事をするしかないという結論に辿り着いたんです。
今思い返してみれば、当時は「こういう音楽だったらこの人にお願いしよう」という作品を作れていなかったんだと思うんですよ。自分の色が入るようにはしようとしてましたけど、メロディーにしてもトレンドを追いかけていましたし。
コンペの内容に合わせにいってしまっていたと。
はい。若かったのでトレンドを追いかけるのは普通のことだったと思うんですけど、自分の音楽性と合っていないことを無理やりやろうとしたことで仕事がなくなっているとも感じていました。結局自分で好きなことをとことんやって、ネットとかにアップして認知度を上げて、結果仕事がもらえたらそれがいいと思ったんです。そうしたら現在の、自分でも全く想像していなかった場所に来てしまった。
Initial Talkという名義にはどのような意味があるんでしょうか。
自分が一番好きなゾーン、80’sとか90’sに特化してやってみようとコンセプトを最初に決めたので、名前もバブル時代の和製英語にするのが熱いなと思ったんです。山田邦子さん司会の「MOGITATE! バナナ大使」という番組の中の1コーナーの名前らしいんですけどね。イニシャルで暴露話をするという(笑)。海外でも「導入部分の話」という別の意味がありますけど、日本の文化の中に入れられると別の意味になるのというのが面白いなと思って。海外の人に聞かれたら「日本には昔そういうゴシップをする文化があったんだよ」って説明しています(笑)。
なるほど。いつ頃からこの名義で活動をスタートさせたんでしょうか。
2015年です。最初はオリジナルを作ろうと思い、日本在住のアメリカ人の知り合いに歌詞を書いてもらって、僕がメロディーを作ってSoundCloudにアップしてみたんですけど、近しい友人以外は誰も聴いてくれませんでした(笑)。
さて、どうしようかなと思って「オリジナルでダメなら、リミックスをやってみるか」と。Ariana Grande とJessie JとNicki Minajの「bang bang」をエアロビっぽくリミックスして、「エアロビ動画も組み合わせたれ!」と(笑)。でもその時点ではまだ大して聴いてもらえなかったんですよね。
「そんなもんか」と思いつつも、最新ヒット曲のアカペラと昔のインストを組み合わせるっていうマッシュアップ、これを自分的にはとても面白いと感じて。単純に作っていて楽しかったので精力的にアップし続けていたら、少しずつ海外の人たちから食いつきがあったんです。
その後マッシュアップと並行して再びリミックスも上げていく中で、2017年頭ぐらいには徐々にレトロリミックスへの関心が高まっている空気がありました。で、Lady Gaga「The Cure」のリミックスをアップしたときに、これがかなり速いペースで100万回再生されたんです。ならレトロリミックスを重点的にやろうと思って、秋ぐらいにDua Lipa「New Rules」をリミックスしたんです。
アップした時点から反響はあったんですけれど、Popjusticeというイギリスの有名な音楽ウェブサイトの人が呟いてくれたりしてツイッターでも盛り上がって。そうしたらFADERというアメリカの雑誌からいきなりインタビューのオファーが来たんです。そしてその数日後にWarner Music UKから「オフィシャルにしたいんだけど」って連絡が来たんですよね。SNSのパワーを凄く感じました。
アップした日から1週間ぐらいで!
怒涛の1週間でしたね(笑)。とはいえその間に契約書のやり取りもして、それからマスターを送りました。
勝手に作ったものが公式リミックスになったと。
YouTubeとかって、オフィシャルじゃない人達が勝手にアカペラを拾ってきてリミックスをアップするっていうことが普通にあるので、その流れで自分もやっていただけなんです。ただそこからオフィシャルになるケースは本当に珍しいみたいですね。「New Rules」にはオフィシャルなリミックスもすでにありましたし、言ってみたら素人が作ったものを新たにオフィシャルにするということですから。イギリスはレトロなものを愛でる文化っていうのがあるらしいので、古き良きものも熱いぜ、みたいなところが多分あったのかなと思います。
ちなみに80年代をコンセプトに昔の動画と組みあわせる、というのはVaporwaveシーンにも通ずるところがありますが、意識されていましたか?
恥ずかしながら実は全く知らなくて(笑)。Vaporwaveの存在自体、2017年ぐらいに外国の人が日本語をジャケットに入れてたりしているのに気づいて初めて知ったほどで。でもタイミング的にちょうど良かったですよね。海外でもレトロリミックスみたいなのを何人かがやり始めていて、一緒に盛り上がっていったみたいな感じがあるんですよ。
Saint-Laurent 420という人は、恐らくVaporwaveのブームを踏まえたうえでやっていたはずです。あとはTronicboxとか。2017年に入ってからレトロリミックスの再生回数が結構上がってきていて、自分の曲も多分そういう他の色んなアーティストの関連動画に上がったんでしょうね。そのおかげもあって話題になったとも思います。
そういう(Vaporwave周辺の)ブームがあると知ってからは、ちょっと乗っかってやろうみたいな気持ちもありました。なので自分の作品でもたまに日本語を入れたりとかしましたね。
ただ、あまり影響されないようにはしています。影響されるなら自分の好きなものがいいのと、埋もれたくないという気持ちがあるので。目立つことを意識するなら、むしろトレンドを知らない方がいいかなとも思います。
80’sサウンドを実現するために、特別に機材を揃えたりはしましたか?
いたって普通ですよ。音色にはこだわりますけど、機材にはあまりこだわりはないんです。ドラムものは結構大事なので、ワンショットものとかは結構集めてますね。集めるのが単純に好きっていうのもありますが。
シンセ類は一応ハードも混ぜつつ、基本ソフトシンセがメインです。そう考えるとVaporwave系と似てるかもしれないですね。今の人たちが使う音源で当時の音、雰囲気、コード感を再現するというか。
今っぽいメロディーの歌を昔っぽく聴かせる面白さ
Dua Lipaの仕事をきっかけに、海外からのオファーも次々と来るようになったのでしょうか?
そうですね。Dua Lipaがオフィシャル・リリースされた週か次の週ぐらいにKylie Minogueのレーベルからメールが来て。普通にファンなので、心臓がバクバクしましたね。メールのタイトルに「Kylie Minogueのリミックスについて」みたいなのが付いてる時点でビビッてました。で、メールを開いたらまだ発売されてないシングルの曲の話で「どう?」「もちろんやるよ!」と二つ返事で(笑)。
最初の方は大小を問わず色んなオファーが来ました。でもトライしてダメだったものや結果リリースされなかったものもあります。
その後Erasureのリミックスも手掛けられていますね。
そうなんです。本当に何があるか分からないですよね、何せシンセポップのレジェンドですから。
今年に入ってからまた少し海外からリミックスのオファーをもらえたので頑張っています。自分の音が面白いと思ってもらえているなら、話がくる限りはもうちょっと続けたいなと。本当はもうちょっとオリジナルもやりたいんですけどね。
ちなみに2016年からオリジナルの制作はしていて、2017年の頭、Monday満ちるさんをフィーチャリングした曲を1曲リリースして、それはビクターさんからアナログでシングルを出してもらいました。
リミックスの際に、原曲に対してどのようなアプローチをとっているとご自身では思いますか?
自分はリアレンジするような気持ちでリミックスを作っているので、踊らせるためにクラブ対応にして、みたいな感じではないんです。原曲の要素は歌しか使わないですし、元の曲のオケは、ほぼ使わないようにしてるので。
最近の今っぽいメロディーの歌を昔っぽく聴かせる面白さというか。マッシュアップと同じ考え方なんですよね、今の要素と昔の要素を組み合わせるっていう。あと単純に80年代90年代のオケが好きっていうのもあります。当時は音色にしてもコード感にしてもグルーヴのハネ方にしても、独特なトレンドがしっかりありましたよね。
好きなリミキサーはいらっしゃいますか?
Frankie Knuckles、David Morales、Brothers In Rhythm、CJ Mackintosh、Maurice Joshua、ジェスチャーとか、Steve Silk Hurley、Shep Pettiboneとか。R&Bの場合はプロデューサーが好きだし、ハウスはリミキサーって感じですね。
先日リリースされた「You Spin Me Round」のリミックスも90年代ハウスの感じがしますね。
そうですね、あれはアレンジというかプロデュースをしてくれと言われて、80年代風では元曲のアイコニックさには太刀打ちできないだろうと。それで時代をずらしてハウスっぽくしたんです。この「時代をずらす」というのが好きなんですよ。
最近は海外のアーティストとも結構つながったりしているので、向こうの人がトップラインで僕がオケみたいな分業で作っています。
R&Bのプロデューサーだと誰がお好きですか?
Jam & Lewisがとにかく心の師匠、一番好きで殿堂入りの存在ですね。あとは、LA& Babyface(BabyfaceとAntonio LA Reidによるプロデューサー・チーム)と一緒に活動していたDaryl Simmonsとか。90年代に活躍していた人だと、Teddy Riley、Dallas Austin、Jermaine Dupri。割と80年代のプロデューサーも好きですね。Nick Martinelliなどの、クワイエット・ストーム(R&B、ジャズ・フュージョンなどの影響を受けたメロウかつリラックスしたリズムで特徴づけられるジャンル)系のプロデューサーとか、Angela Winbushとか。Spotifyでもたまにプロデューサー・シリーズのプレイリストを作っています。
プレイリストを拝見しましたが、その網羅性にとても驚きました。
「暇か!」っていうぐらい作ってますよね(笑)。完全に趣味の世界です。リスナー目線でいたいときもあるんですよ。
最近はそういう自分で作ったプレイリストに上手く混ざるようなリミックスを自分で作ろう、みたいなコンセプトで作ったりもしているんです。ちょっと前に出たDelta Goodremの「Solid Gold」という曲のリミックスがあるんですけど、それは「80年代エアロビ的プレイリスト」に入れようと思って作っていて。フォロワーが多いわけでもないので大して影響はないんですけど(笑)、自分の遊びですね。
今ご自身がハマっている時代やトレンドはありますか?
本当はチキチキしたハイハットが入った感じの2000年あたりのR&Bをやりたいんですよ。でもリミックスの場合、00年代っぽくできる曲の依頼がそもそも来ないので、たまにオリジナル用にトラックを作ったりしています。最近のアップテンポの曲って、なかなかあの時代のR&Bに持っていくのが難しいんですよね。
▼後編はこちら▼
取材・文:岩永裕史、千葉智史(Soundmain編集部)
Initial Talk プロフィール
Initial Talkは80/90年代ポップカルチャーへの愛を表現すべく、2015年に活動を開始。
2017年、YoutubeにアップロードしたDua Lipa “New Rules”の非公式リミックスがSNSで話題となり、後にWarner Music UKから正式にリリースされた。
以降、Kylie Minogue、Sia、Erasureといったアーティストへ公式リミックスを提供している。
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