
Ujico*/Snail’s House 星野源の作品にも参加する若きクリエイターが「これだけは譲れない」ポイントとは(インタビュー後編)
Soundcloudを中心にインターネットベースで発展してきたエレクトロ・ミュージック「Future Bass」に、ビジュアル要素を含む“Kawaii”成分を加えたジャンル「Kawaii Future Bass」の提唱者として知られるクリエイター、Ujico*(Snail’s Houseの名義でも活動)。
インタビュー前編では、ジャズに影響を受け、ゲームソフトで音楽制作を始めたという作曲のルーツに始まり、SpotifyやSoundcloud、ファンコミュニティとして活用しているDiscordなど、各種インターネットサービス/プラットフォームとの関わりについても話を聞いた。
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インタビュー後編では、10代の3年間を過ごしたニュージーランドでの生活が自身のサウンドに与えた影響、日々の制作スタイル、シンセ・ベース奏者として参加した星野源「サピエンス」での制作秘話などについて話を聞いた。そこから見えてきたのは、「(自分名義の曲に関しては)絶対に他人の意向を入れさせない」という強い信念である。1997年生まれのこの若き俊才は、なぜ海外でも人気を誇る一大ジャンルのパイオニアなのか。貴重な語録を見逃さないでほしい。
ニュージーランドの環境が音楽面にも影響
3年間ニュージーランドに高校留学をされていたとのことでしたが、現地での生活から音楽面で影響を受けた部分はありましたか。
やっぱり気候とか、空の広さとか。あと夏に乾いた空気なのと、無駄な環境音があまりないので、曲のミックスが綺麗になるというか。向こうにいた時の曲のほうが、ミックスが凄く乾いた音になっているんですよね。
へえ、そうなんですね!
普段聴いている音が乾いているので、自分で作っていく音もそっちに向かっていくということだと思うんですけど。日本に帰ってきて思ったのが、音がすごく籠って聴こえるということなんですよ。どうしてもドラムの音とかを処理する時も、日本の耳でやるとコンプが凄くパツパツになってしまうというか。
ニュージーランドでドラムをミックスしてみた時と比べて、日本でのミックスにはスネアの粘り気みたいなのが凄く感じられて、そこは気候も影響してるんじゃないかなと思うんです。向こうと日本では中域の聴こえ方が結構違うなと感じます。
日本でミックスをしようとすると凄くドンシャリになってしまう曲でも、向こうでやると何かすっきりして聴こえるというか。なので僕がニュージーランド時代にいた曲の方が、ミックスが綺麗だと思います。
自然と音の抜けが良く感じられる環境があるんですね。
多分そうなんだと思います。カラッとした空気の場所で聴く葉っぱの音とか、凄く綺麗に聴こえますし。日本に帰ってきてからミックスが籠り始めたなと思っていて、なんだかんだで住んでいないと難しいなと思っている部分ではあります。
曲名は海外ユーザーにも見つけやすい表記に統一されている印象ですが、これはやはり海外のファンを意識してでしょうか。
そうですね。元々あまり日本のファンが多くないのは知っていたので、グローバル言語である英語を使った方が結果的に多くの人に見てもらえるなと思っていて。なので基本的には英語表記にしています。
Soundcloudで話題になり始めたとき、海外に広げていく戦略などは考えましたか。
正直全然なかったです(笑)。どちらかというと僕は、曲自体が流行ったことで基盤となるファン層ができたので……それで「これなら自分の好きなことができるな」と思ってアルバムを何作か出しましたが、ビジネス的に考えたことは無いです。
とにかく自分が今作りたいものをガッツリ作り込んでいく、という感じなんですね。
そうですね。僕、作品にビジネス的な思考が絡むのが凄く嫌いなので。基本的には自分が好きで作ったものをどういう形で出そうかな、と考えるタイプです。「こっちの人に受けてるからこういう作品を作ろう」という思考とは逆ですね。なので作家案件、凄くやりにくいと思われていると思うんですけど(笑)。
最近、人の意向が自分の曲に入るのが苦手だってことが自分でわかってきたんです。人の意向が入った瞬間に、自分の曲としての思い入れが消えてしまうタイプなので、その曲に対するやる気というか、「もっとこうしよう」と思っていたことを放棄してしまうというか。「こういうこと言われるんだったら、こうやっても無駄だろうな」みたいなことになっちゃって(笑)。
Ujico*らしさ、のようなブランディングについてもあまり意識していないですか?
はい。ただ、自分のアーティストブランドとしてはBass系全般をメインでやっている感じなんですけど、なんだかんだでFuture Bassしか見られていない部分はあると思います。
日本だと特にそうなんですよ。他のジャンルの作品もちゃんと作っているよ、というのはきちんと見せたいんですが、なんだかんだで目立つ部分が多く取り上げられるので。
「好きな音」を突き詰めることが「自分らしさ」につながる
ものづくりの発想の原点になるものはありますか。
絵が多いですかね。絵とか風景とかを見ると曲が頭に浮かんでくるタイプなので。
そういったものは、意識的に見に行きますか、それとも普通に生活してる中で、ふと見かけて……とか。
散歩をしている時に良い風景を見つけたら頭の中で曲ができるので、帰宅したらそれを作るみたいな感じで。一から考えて作るということはあまりしないので、それこそ作家業は向いていないんですよね(笑)。
ちなみに自分のクリエイティブと向き合う時に、生活とのバランスの取り方であったり、日課にしていることなど、メンタルや体調を調整する上で気を付けていることはありますか。
最近は完全に2時には絶対寝ていて、睡眠をたくさん取っています。他には散歩とかで気分転換したり、その時作っている作品の手直しをしたり。
あとは結構自然にやっていることなんですけど、FL Studioを必ず一日に2、3時間は絶対触っていますね。前は8時間ぐらいやっていたんですけど、最近は制作が落ち着いてきているので時間を減らしていて。音色を作ったり、アルペジエーターを適当に鳴らして遊んだりみたいなことも多いです。
手直しをする段階に入っている未発表のストックは、常に一定数あるのでしょうか。
今70曲ぐらいあるんですけど、趣味で適当に作ったものが多いですね。あとは一曲やり始めたら一曲に集中してという……MVがつく曲とかだと凄く詰めていくので。
基本は自分らしさを煮詰めれるところまで煮詰めていく、ということですね。
そうです。なんだかんだで自分らしさって自分の好きな音だと思っているので。
星野源との共同制作、コライトへの意識
Ujico*さんが作る楽曲はインストが中心だと思うのですが、歌ものに対して特別な意識はありますか。
ジャズを聴いてきたせいかリフ的なメロディーの作り方しかしてこなかったので、歌もののメロディーを作るのに結構苦手意識はありますね。
自分の声やシンガーの方の歌を音域とかを気にせずに加工した音をボーカルっぽくして、言語とか歌手は関係ない感じで作ってみたのが『エイリアン☆ポップ』というアルバムシリーズなんですけど、思いのほかウケが良くて。純粋な歌ものではないですけど、そういう感じで作ったものはあります。
人に歌ってもらって歌ものを作るというのは、僕がすることではないのかなと。声も楽器だと思っているんですけど、歌を歌う人と一緒にやる時には会社サイドの意向が入っちゃったりして、オケとかを変えられたりすることが多々あるので……その辺りも理由としてありつつという感じです。
その点、星野源さん(※)は僕の意向も凄く汲んでくれて好きにやらせていただけたので、そういう感じの仕事だったら是非、とは思います。
※2019年のアルバム『POP VIRUS』に収録の楽曲「サピエンス」にシンセ・ベース奏者(打ち込み/プログラミング)として参加。
星野さんの時はどういう形から始まったんでしょうか。
星野さんが僕のチャンネルをYouTubeで見つけてくれて。普段は「ちょっとベースラインをフラットにして下さい」みたいに言われるようなところでも、全部「いいね、いいね」みたいな感じで特徴として受け入れられたのが凄く嬉しかったです。普通の案件だったら、多分結構潰されてベースもめっちゃフラットにされてるんだろうな、みたいなところもかなり活かしてもらっていて。
確かに「サピエンス」はパートごとにお互いの個性が出ていて、実質コラボのような雰囲気もありました。ミックスや鳴りも含めて意見が尊重される感じでしたか。
僕が提出したベースの音源はもう少し高域が強かったんです。他の楽器とぶつかっちゃてる部分もあったので、そこは削られていたんですけど、それはしょうがないですね。ベースの部分は割としっかり出してもらっていたので、僕的にはかなり嬉しかったです。
コライトのような形には興味がおありですか。
基本的に物凄く好きなアーティストじゃないと、相手の部分を活かしきれないという面でもコライトには恐らく向いてないタイプだとは思います。
知らない人とコライトをしてみるというのは、あまり自分の思想に合っていない部分があるなと。コライトできる人たちが凄いです(笑)。
なるほど。では今後の期待も込めつつ(笑)、今お好きなアーティストを教えていただけますか。
Metomeさんという関西のエレクトロニカの方とか。最近聴いているのだと、Mr.Billだったり、BOPも凄く好きです。
アートワークは柔軟に、しかし曲だけは絶対に変えさせない!
活動する上で、これだけは曲げたくないということであったり、大事にされていることはありますか。
やっぱり人の意向を入れないことですかね。「曲に関してはマジで誰にも触らせない!」というか。ファンアートとかは凄く有難いんですけど、曲だけは何が何でも変えさせない。なので作家案件とかをやると途中で行き詰まってしまうことが多いです。
Snail’s Houseの名前ではなるべく自由に作品を作りたいと思っているので、人の意向が入る作家案件ではあまり使いたくないなと思っているんですよね。その名前を使う時点で、音ではなくてネームバリューばかり求められてる部分を意識しちゃうので。
あくまで自身の手による音楽を送り出す際の名義ということですね。そのSnail’s Houseをはじめ、インターネット配信で成功したモデルケースとして他のクリエイターから憧れられているとも思います。そういった人たちに向けて、アドバイスなどあればお聞きしたいです。
やっぱり自分の作品を曲げずに売り方を考えるということだと思います。自分の作品を相手に合わせて作るんじゃなくて、自分が好きで作った作品を、どう相手に合わせて展開していくかということの方が重要だと思うので。依頼してくる人がどういう人かの審美眼をちゃんと付けた方がいいよ、ということもですかね(笑)。
あはは(笑)。
あとは曲を作る時とかに「これは自分っぽくないな」とか意識しちゃうこともあると思うんですけど、曲以外の要素、アートワークとか、動画とかで雰囲気を作っていけばなんだかんだで自分らしくすることはできるので、あまり考えすぎないほうがいいよということを伝えたいですね。
僕自身としては今出して凄いバズるものよりは、10年後にもう1回聴いてみて「この曲、今聴いても凄く良いなあ」というものを作りたいので、目先のことはあまり考えない方がいいと思っているんですけど。そこは活動とか生活していく上で両立が難しい部分ではあるとは感じます。
流行りのものを作るのも勿論いいとは思うんですけど、10年後に聴いて改めて評価されるようなものも大事だよね、という考えがあってもいいんじゃないかな。
バズりを狙ったものって、その時流行った一番良いものを参考に作られたものばかりなので、今聴く分にはいいけど、結局オリジナルのものが一番だな、となることが多いと思うんです。
作品作りに真摯なことが凄く伝わります。ちなみに、自分の作品をどう届けるかというところで、工夫していることなどがあれば教えていただけると嬉しいです。
僕の場合キャラクターが触媒になってくれている部分があるので、そのイラストの雰囲気を変えるということですかね。
例えば、普段と雰囲気の違うイラストレーターさんに頼んで、でもキャラクターはずっと一緒だから、「Ujico*/Snail’s Houseの作品だけど今回は雰囲気が違うな」というのを一発でわかるようにしたり。自分のキャラクターというものは変えないから、自分の作品だよ、みたいな感じの色ができていると思います。
自分のいつものスタイルではない、Future Bassではない曲でもMVを作ったりして、ちょっと大きめに展開してみたりという工夫は今考えています。
でもなんだかんだFuture Bassが一番伸びるのは事実なので(笑)。凄く好きに作ったFuture Bassの曲もまだたくさんあるので、それにMVを付けて観てもらえるようにするのもいいかなと。まだ色々僕の中でも実験段階ですね。
今後の音楽シーンがこうなっていけばいいな、という展望があれば教えてください。
聴き手に対して合わせ過ぎなくてもよくなるのが理想です。あとはビジネス的になり過ぎないのが、やっぱり僕としては望ましいですね。自分の好きなことをやって上手く売っていける時代が来るといいなと思ってます。
ビジネス的になるとやっぱり、「こういう曲がウケるからこういう曲を作ってくれ」みたいな要求が増えていくと思うんです。知名度が上がっていくとアーティスト的にもそれを求められているのはわかるんですけど、やっぱり飼い殺されてる感じがするので。
メジャーシーンとインディーシーンの区分けは昔からあったものだとは思うんですけど、もっと50:50ぐらいの感じになっていったらいいなと思ってるんですよね。やっぱり音楽を好きな人が好きな音楽を探しやすくなっていってほしいです。
ありがとうございます。最後に、夏頃に向けて告知などがありましたらお願いします。
今は新しいMVを作っている途中で、それに合わせてアルバムも出します。あと『エイリアン☆ポップ』のⅣを今制作中なので、お楽しみに……。
取材・文:岩永裕史、千葉智史(Soundmain編集部)
Ujico*/Snail’s House プロフィール

代名詞とも言えるKawaii Future Bassに限らず、
Electronic/Pop/Rock/Chill outなど幅広いジャンルへの造詣が深い。代表曲“Pixel Galaxy”は、自身のYouTubeチャンネルにて驚異の7500万再生を記録。
またSpotify 2018年上半期において、海外で最も再生された日本人アーティスト9位に輝く。星野源氏からのオファーにより楽曲のアレンジに参加するなど、
国内外問わず精力的に活動している。
Twitter: https://twitter.com/loudnessfete
YouTube: https://www.youtube.com/user/loudnessfete
SoundCloud: http://soundcloud.com/ujico
Spotify: https://open.spotify.com/artist/29O9ZebFa65aIEvMaW5pQY?si=7Z5Lh43OT4WEd62llLtqUA