
Ujico*/Snail’s House カワイイ・フューチャー・ベースのパイオニアが語るルーツとネットベースでの活動(インタビュー前編)
Soundcloudを中心にインターネットベースで発展してきたエレクトロ・ミュージック「Future Bass」に、ビジュアル要素を含む“Kawaii”成分を加えたジャンル「Kawaii Future Bass」の提唱者として知られるクリエイター、Ujico*(Snail’s Houseの名義でも活動)。
2018年上半期には、Spotifyで最も海外で再生された日本人アーティストのトップ10にランクイン。その才能が星野源の目に留まり、2019年のアルバム『POP VIRUS』収録の「サピエンス」にシンセ・ベース奏者(打ち込み/プログラミング)として参加している。
「Kawaii Future Bass」を提唱し始めた2014年頃にはまだ10代だったUjico*。なぜそのキャリアにして、独創性あふれる作風を生み出すに至ったのか? ルーツや制作スタイル、インターネットベースで活動してきたからこその、ファンやビジュアルクリエイターとの独自の距離感などからひも解く。
上原ひろみに影響を受け、ニンテンドーDSで作曲を始めた
作曲に触れたのはいつ頃だったのでしょうか。
12歳くらいですね。曲を作る機能があったニンテンドーDSのソフト『メイドイン俺』を、友達に貸してもらって始めました。その前にジャズ・ピアニストの上原ひろみさんに影響を受けてピアノを頑張っていたんですけど、作曲自体はしてなかったので。
それから『大合奏!バンドブラザーズ』というDSのソフトに移行して、その後はDSの作曲ソフト『KORG M01』をしばらく使っていたんですけど、作曲する知り合いが増えるにつれてパソコンで曲を作っている人が増えたので、どうすればいいのか友達に色々聞いてみたのがパソコンで作曲するようになった始まりです。
ピアノ以外の楽器にも触れていたりしましたか。
親父がギターを弾いてる人で、家に電子ドラムとかもありました。楽器に触れることはあまりなかったけどCDがたくさんあったので音楽に触れる機会は多かったです。幼稚園ぐらいの時から常にファンクだったりジャズだったりフュージョンだったりを聴いていました。
最初の曲を作ったとき、どういう曲調のものを作りたいと思われたんでしょうか。
とりあえず上原ひろみさんの影響を受けたりしたものをピアノで作ってみて。『メイドイン俺』で作っていた時代は、『太鼓の達人』という当時凄くプレイしていたゲームで好きだった曲を耳コピしてみたりとかがメインでした。
Future Bass、Kawaii Future Bassのサウンド感に辿り着かれたのはいつ頃でしたか。
2014年だったと思います。2013年ぐらいからFL Studioで制作し始めたんですけど、当時は「全てのジャンルを取り敢えず作ってみる」という目標で、何でもかんでも作っていた時期でしたね。2014年に入っても、色々なジャンルの曲を聴きながら影響を受けていきました。
で、Tomgggさんというアーティストを見つけて、「あ、こういう感じ割と好きだな」と思って作ってみようとしたんですけど、あの方の音は特徴がありすぎるので……自分なりのテイストでできないかなと思って。
当時割と聴いていたMonstercatリリースのFuture Bassが近い音を使っていたので、混ぜてみようとやってみたのが最初の曲に繋がるんです。結果イメージしたものとは全く違うものができましたけど(笑)。
Kawaii Future Bassのビジュアルが魅力的な理由
「Kawaii Future Bass」が生まれたきっかけを教えていただけますか。
元々、一番最初にあの感じの曲を作った時に何の気なしに付けたタグなんですよ。「ちょっと伸びたからシリーズ化しよう」と2~4曲作ったのをKawaii Future Bassと言ったものなので、もともとジャンルとして提唱しようとはしてなかったんです。ただやっぱり言葉のインパクトが強かったみたいで、タグとして定着しちゃいましたね(笑)。
Ujico*さんの作品といえばビジュアルも大きな要素です。海外で人気が広がったタイミングは、やはりYouTubeに軸を移したときでしょうか。
最初はSoundCloudが大きかったです。「Tasty」というレーベルから出した時点で(2015年)、僕の曲自体への注目がかなり集まっていたらしく、そろそろ色んなプラットフォームに自分の曲を用意しておこうかなと思ってYouTubeチャンネルを作ったんです。2017年に一番伸びたMVを出した時には、既に8万人くらいYouTubeチャンネルの登録者がいました。
それは凄い。ちなみに、キービジュアルになっているカタツムリの女の子の原案はご自身ですか。
これは実はファンアート由来で。Snail’s House名義を始めた時に僕の知り合いが「カタツムリの女の子を描いたよ」と描いてくれたのをアイコンにしていたのが、自分のキャラクターになっていった感じです。
アーティスト性の強さがアニメーションMVにも現れていると思うのですが、映像のテイストやイラストのセレクトなどは、ご自身でされているのでしょうか。
(自分の曲に)合う人がいないかなと思ったらGoogleとかで探して、この人の絵いいな、と思った人に声をかけるという感じですね。基本的に全部自分で探しています。
映像アーティストにやりたいことをやってもらうというのが最優先なので、「僕の曲に合ったMVを作ってほしい」とお願いする感じです。でも自分の過去作のリファレンスは入れて欲しいので、「このキャラクターが登場して」みたいな話だけして。なのでストーリーとかは基本的に向こうが作っていて、リテイクもほとんどないですね。
ただ映像アーティスト達の会話は必ずDiscordの僕を含めたチャットでしています。自分の意向を入れ過ぎないのも大事なんですけど、なんだかんだで僕の曲のMVにはなるので、作品性を損なわない程度に「ここ、こうならない?」みたいなことは逐一言えるようにしています。
注目しているプラットフォームは圧倒的にSpotify
Soundcloud、YouTube以外で注目しているプラットフォームはありますか。
圧倒的にSpotifyです。音声のみのプラットフォームって、アーティストとの繋がりを結構意識してくれていることが多いので。Spotify for Artistsというアーティスト向けのアプリもかなり便利で、「リアルタイムで何人が聴いていますよ」といった情報もわかって凄く有難いです。
Spotifyと言えば……少し前に、ストリーミングサービスでアーティストページの乗っ取りのような事件がありましたが、こういうデジタル市場になったからこそ起こる問題について、Ujico*さんのご意見をお聞きできたらと思います。
僕的には、やっぱり各プラットフォームにアーティスト用のコンソールみたいなのを用意してもらって、ディストリビューターから曲が送られた時に、各プラットフォームでアーティストが承認する必要があると思います。
「これは僕の曲なのでリリースします」という認証をしないとプラットフォームに載せられないようにした方がいい。システム的にどうなるのかわからないですが、僕はそれがいいんじゃないかと思ってます。
活動の中で権利について意識され始めたのはいつ頃ですか。
2016年ぐらいですね。自分の曲が無断転載されていて凄い再生数を稼いでるのはわかっていたんですけど、実はその転載者が収益を取っていたんです。コンテンツIDが取得されてない曲ばかりを無断転載して収益化するタイプのチャンネルの持ち主で。
その人のチャンネルを潰すためというよりは、自分の被害も、無断転載されている人達の被害も最小限に抑えるために自分の著作権を管理しよう、と思ったのがきっかけです。
今音楽関連で気になるテクノロジーやサービス、機材などについても教えてください。
モジュラーシンセです。アナログの機材を全然触ってこなかった人間なので、ハードを増やして、それを使って楽しく作ってみた曲も出してみようかなとか……直感タイプなので、とりあえず見た目と音が「あ、いい!」となったら買っちゃうと思います(笑)。
Discordをコミュニティとして活用する
Discordを使って映像クリエイターとのやり取りを行っているというお話が先ほどありましたが、一般公開のサーバーも活用されていますよね。こちらはどういったきっかけで始められたのでしょうか。
Discordが最初にサービスを開始した時に、とりあえず自分のファンの人たちを1箇所に集められないかなと思ったのがきっかけです。サーバーを立てたのが2016年で、今大体7000人登録者がいるんですけど、ほぼアメリカやフランスやヨーロッパの方で、日本人はほぼいないです。
Ujico*さんのDiscordサーバー
https://discord.com/invite/ujicosnail
共通点は僕のファンということだけで、みんな色んな困り事を書いていたり、単純に「この曲いいよね」と他のアーティストの曲を貼ってみたりとか。基本的には僕のファンベースの人達がコミュニケーションを取っている場所ですね。
なるほど。Ujico*さんの周りで、Discordを活用しているアーティストは多いのでしょうか。
多いとは思うんですけど、ちゃんとコミュニティとして活用している人はあまりいないかもしれないですね。本人はいないけどファンの人達が話してる、みたいなサーバーが多いかもしれないです。
ではUjico*さんの場合は、ご自身も“降臨”されることがあると。
結構あります。なんだったら普通に会話に入ったりもします。普通にチャットに「Yo」とか書いたりして(笑)、みんな友達的な感じでやってます。
ユーザーからすると、アーティスト本人とも話せるファンクラブのような感じかもしれませんね。
僕はファンとアーティストの間に壁を作らないタイプなので、Discordには普通の人として居る感じなんです。逆に日本でこれをすると距離を間違える人もいるのかなとか思ったりしますね。そこはナショナリティの違いがあるからこそ、こういう距離感でできるのかなと感じます。
僕は自分のアーティスト面と自分の人間面をあまり紐づけてはいないタイプの人間なので、「音楽は作れるけど、普通の人間だよ」みたいな感じですね。
SNSにも英語での投稿が多いですが、幼い頃から英語に触れていたのでしょうか。
2歳の頃にニュージーランド出身の先生から英語を習っていました。中学卒業後はニュージーランドに3年間高校留学していたんですけど、そこは完全に父の意向で。僕が都立高校に落ちたので、「都立落ちたらお前留学だ」みたいなことを言われて(笑)。でも自分も実家から出たかったのと、チャンスを与えられたし一回海外で暮らしてみようって思って行きました。英語が喋れなかったら多分今やっていけていないと思ってます。
とても自然に英語を使いこなされている印象だったので、お話を聞いて非常に納得しました。日本にいながら英語を学ぶには、どのような方法がいいかもお聞きしたいです。
勉強というよりは、外国人と喋った方がいいと思います。勉強となると「しなきゃいけない」という義務感が大きくなるので。
自分からアプローチして英語で話していったほうが正直早いと思いますね。やっていくうちに言い回しとかも覚えていくと思うし、どんどんコミュニケーションしやすくなっていくと思います。英語力をキープする意味でも、Discordで積極的に色んな人とコミュニケーションをとるようにしているんです。
後編はこちらからご覧ください!
取材・文:岩永裕史、千葉智史(Soundmain編集部)
Ujico*/Snail’s House プロフィール

代名詞とも言えるKawaii Future Bassに限らず、Electronic/Pop/Rock/Chill outなど幅広いジャンルへの造詣が深い。代表曲”Pixel Galaxy”は、自身のYoutubeチャンネルにて驚異の7500万再生を記録。
またSpotify 2018年上半期において、海外で最も再生された日本人アーティスト9位に輝く。星野源氏からのオファーにより楽曲のアレンジに参加するなど、
国内外問わず精力的に活動している。
Twitter: https://twitter.com/loudnessfete
YouTube: https://www.youtube.com/user/loudnessfete
SoundCloud: http://soundcloud.com/ujico
Spotify: https://open.spotify.com/artist/29O9ZebFa65aIEvMaW5pQY?si=7Z5Lh43OT4WEd62llLtqUA