Tom-H@ckさん
2020.08.18

「アーティスト活動も社長としての経験値になる」Tom-H@ckが語るクリエイターとしての信念(インタビュー前編)

OxTとMYTH & ROIDという2つのユニットでのアーティスト活動、作曲家・プロデューサーとしての活動、そして音楽制作会社・TaWaRa(株式会社TaWaRa)の代表取締役としての顔と、まさに八面六臂の活躍を続けるTom-H@ckさん。

常人の目からすると、それぞれ全く異なるポジションから音楽・エンターテインメント業界に関わっているように見え、一体どのようにスイッチを切り替えているのか想像もつきません……! しかしお話を伺ってみると、作品のクオリティ・そして周りの人たちを大事にしながら、ただただ良いものを作りたいというブレない軸があることが伝わってきました。

Tomさんは新たにCAT entertainment(CAT entertainment株式会社)というアーティストマネジメントを主業務とする新会社を立ち上げ、代表に就任したばかり。内装までも自ら勉強しディレクションされた、出来立てほやほやのオフィスにお邪魔して、お話を伺ってきました。Tomさんの見る未来の音楽シーンとは何か? 前後編からなるインタビューをお楽しみください!

OxTとMYTH & ROID、2つのアーティスト活動

Tomさんにはいわゆる職業作家としての面と、自らアーティストとして動かれる面、そして社長としての顔と、様々な側面があるかと思います。
まずアーティストとして楽曲を作る時に「こういうマインドで物作りに向かっている」といったものがあればお聞かせください。

僕の場合はアーティストとして作る時って、大きく分けて二つあって。OxTとMYTH & ROIDですね。

OxTのほうは相方のオーイシマサヨシさんも含めて柔軟に……例えばアニメが物凄く大きい工場だとすると、その中の万能な歯車になりたいなと。要するにどんな素材の歯車、プラスチックの歯車が来ても鉄の歯車が来ても、それに合わせる馬力で動くみたいな、そういう存在のアーティストでありクリエイターでありたいよね、と2人で思っているんです。極端に言ったらオーケストラでもジャズでもロックでも、どんな曲の発注が来ても今までの2人のスキルを使って最大限を目指そう、というユニットだと言えます。

オーイシマサヨシとTom-H@ckによる日本のデジタルロックユニット「OxT(オクト)」
OxT
OxT「UNION」(TVアニメ『SSSS.GRIDMAN』OPテーマ)

MYTH & ROIDのほうは、僕はプロジェクトを始める前に企画書とかを作っちゃうタイプなので、立ち上げの時に「半年間かけて200万再生に行くには」みたいなことを細かく書いていて。最初から海外中心でやっていくようなアニソンのアーティストってなかなかいないから、そういうことも書きましたね。

プロデューサーTom-H@ckを中心としたコンテンポラリー・クリエイティブ・ユニット「MYTH & ROID」
MYTH & ROID
MYTH & ROID「VORACITY」(TVアニメ『オーバーロードⅢ』OPテーマ)

なのでOxTとは別で、MYTH & ROIDにはかなり独自の世界観があります。「このジャンル大好き」って言う人が聴いたらめちゃめちゃ大好きになれるという、こだわりがある感じの音楽性やアーティスト性を目指していますね。歌詞とかも結構攻めた言い回しとか、少し強めの言い方が多いんですよ。

僕が言いたかったこととか、ボーカルのKIHOWちゃんが言いたいこととか、あと作詞をしているhotaruが今世の中に問いかけたいことっていうのを、MYTH & ROIDの場合はタイアップする作品のことも考えながら「俺たちの言いたいことを言おうぜ」と出している感じはありますね。

MYTH & ROIDとしてオファーがあった場合、アニメ作品の作風がMYTH & ROIDの作風と違うベクトルだったりする場合などは、どういったアプローチを取られていらっしゃるんでしょうか。

そこで「自分たちと合わない作品だよな」と考えるのではなくて、MYTH & ROIDとして参加した後にどういう化学反応が起こるかな、という希望的観測とかも含めて、色々考えながらやりますね。

自分たちのやりたいことも50パーセント以上絶対ある状態で……監督とか、アニメサイドの皆様が作品を通じてこういうことを描きたいんだというものを50パーセントぐらい入れて、それが総合されて作品になるという感じです。「でもなんだかんだ言って俺たちのやりたいことできるよね」というところに着地していることが、実際多いかもしれないです。

MYTH & ROID「shadowgraph」(TVアニメ「ブギーポップは笑わない」OPテーマ)
MYTH & ROID「TIT FOR TAT」(TVアニメ「慎重勇者〜この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる〜」OPテーマ)

依頼に応じる中でも、特にOxTは臨機応変に対応することを心がけていて、MYTH & ROIDのほうがわりと尖った成分は強く出ていると。

そうですね、尖っていると思いますね。

「こういうアーティスト像でありたい」など、メンバーとTomさんの間で細かくすり合わされたりするのでしょうか。

MYTH & ROIDに関して言えば、はっきりと打ち合わせしたことは最近はなくなってきていますね。多分やりたいことがそれぞれできているんだと思います。

元々TaWaRaという会社に所属していた時代から、メンバーの悩みを共有したりだとか、それぞれが表現したい世界は何なんだとか、表現したいことの取りまとめをやっていたので。ある程度ヒアリングして毎回作っていたんだなと思います。僕が「100パーセントこれをやりたいからついてきて」って言う時もあるけど、半分以上はみんなの意見が入っている感じがありますね。

あと、KIHOWちゃんが0→1タイプもできるし、1→100タイプもできる人なので。彼女は自分で絵を描くんですけど、これは0→1だし、ボーカリストとして歌を歌う時って、メロディとか世界観があるものに、自分なりの表現をどう乗せるかを考える……これは1→100と言えるだろうし。そういった臨機応変なKIHOWちゃんの性格にも助けられて、みんながうまい具合にやれているのかなというのは思いますね。

「オーダーメイドで完璧に応える、それがプロの職人」

作曲術としてご自身流のメソッドはありますか? 詞先やメロ先、構成から作ろう……とか。

性格上、どういう時にでも完璧にこなしたいという理想像がある人間なんです。依頼によって自分を自分で使いこなせないと、完璧な職人にはなれないなと思うんですよね。

なので、この依頼は詞先がいいな、これだったらコード先行のほうが絶対格好良くなるよなというのを、プロジェクトの企画書を貰った段階で結構決めているかもしれないです。

世界観がこうだからこうしよう、というのもそのタイミングで決めて、作り方を順序立てて制作に入るという感じなので、案件によって違うというのが正直なところですね。

作品ごとにという感じなんですね。他に制作中にこだわっていることなどありますか?

何かあるかな……でもメロディを作るのはギターか歌かピアノの3種類しかないですね。シンセサイザーとかでは鳴らさない。業界歴が長くなってきたので、その面白いこだわりが、たぶん削がれていっているんですよね。

楽曲のアイデアはストックしているタイプですか?

若い時にはめちゃめちゃしていました。でも言われて気づいたんですけど、最近の作り方ではあまりやっていないですね。

なぜかと言うと、例えば良いメロディを思いつくじゃないですか。でもその「良い」って、その時の環境で「良い」と思っているからで、違う環境で聴いたら悪くなるということも全然ある。

あと一番は時代性があるんですよね。どんなにセンサーを敏感にしていても、下手すると2時間とかで「いい」と感じるものって変わると僕は思っていて。どんどん時間が重なっていって、そのどこかで超でかいターニングポイントがある。

それが来た時に、それまで作り込んでいたメロディが「あれ、全然駄目じゃん」となったりとか、「これいける」と思って作って出したものが全然駄目だった、とかも経験としてあって。そこから(ストックを作っておくということは)やらなくなりましたね。

なるほど。

ただ3年前くらいまでは、「忙しすぎて書けない、でも依頼を受けたい」という時に、過去に作ったストックを持っていくというのはやっていたかな。どちらかといえば利便性の意味で、「もう忙しくて手が付かないので、良い曲があるので出します」みたいなことはありました。けどそれも今はやっていないですね。

アニメの企画が立ち上がってから放送されるまで数年はかかると思いますが、今おっしゃった「2時間で時代性は変わる」のような話を踏まえると、時代性を予測するということはとても難しいだろうなと感じます。

そうですね。まあ「2時間で変わる」というと格好よく聞こえるけど、感覚的なことを言っているだけなので、正確に2時間で変わるのかと言われたら違うと思うんですが。

仕事を事務所でしている間も、色んなトレンドを探っているわけですよ。それを数時間に1回とかのペースでやるので、その都度自分のアップデートはされているだろうな、ということですね。

では現在は、依頼に応じたオーダーメイドのほうが、スピード感を含めうまく進めることができる感じですか。

確かに、言葉的にはオーダーメイドと言うのが一番いいかもしれないですね。

TaWaRaという自分の会社を作る前には、F.M.F(株式会社F.M.F)という会社に所属していたんです。そこの社長の深井康介という人間がいるんですけど、彼から言われたことでいまだに覚えているのが「君は元々何でも器用にできる人間だから、この先会社を経営したりとか、いろいろやるだろう。だからこそ音楽自体のクオリティとか、自分のサウンド感、ブランド力というのはどんな時でも絶対に廃れないようにしろ。そこが揺らぐと全部がうまくいかなくなるから」ということで。それをいまだに実行しているのは、今の話に通じるかもしれないですね。

若手のクリエイターで、器用な人ほど「自分の個性ってなんだろう?」と悩む人も多い印象があります。

所属の作家に対してアドバイスしたりといったことは、日頃たくさんやっていますね。僕個人としては、元々個性の強い自覚があったので悩んだことはないんですけど。実践的に、「こうやったら個性は出るよ」という細かい話もするようにしています。