
著作隣接権使用料を分配している演奏家団体「MPN」に実際に入会してみた!
ミュージシャンの著作隣接権の使用料分配や権利拡充を目的として設立されたMPN(一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPN)。先日、コロナウイルスの件でミュージシャンが苦しんでいることを受け、今年6月に予定していた2020年度前期分配の一部について、暫定的に支払いを早めたことも話題となりました。
前回のインタビューでは、MPNという団体が何を行っている団体なのかについて担当者の方に答えていただきましたが、今回は『サンプリングと著作権』記事にも登場したクリエイター「ちばけんいち」氏に協力いただき、MPNのご担当者に質問をぶつけながら、ちばさんに実際に入会の手続きをしてもらいました。
また、入会後にはレコーディング情報をP-LOGと呼ばれるシステムに入力していくことも必要になるため、そのやり方もちばさんに体験していただきました。
入会を希望しているクリエイターの皆さんは必見です!
前回の記事はこちら:

入会の流れ
ちば ざっくりと、入会手続きはどんな流れで行うのか教えていただけますか?
川住 まず、MPNのWEBサイトにある「契約希望フォーム」に必要事項を入力してお申し込みください。その後、こちらで入力情報を確認したうえで契約書類を郵送させていただきます。届いた書類にご記入ご捺印いただきご返送ください。

ご返送いただいた契約書類を確認し、問題がなければCPRA(公益社団法人 日本芸能実演家団体協議会 実演家著作隣接権センター)などに登録を申請します。
登録が終わりましたらMPNで会員証を発行します。この会員証がお手元に届いたら入会手続き完了となります。
ちば 入会手続きにはどのくらいの日数が掛かりますか?
川住 CPRAなどへの申請に通常は1か月半ほど掛かりますので、手続き全体では2か月ほど見ていただければと思います。
この書類を事前に用意しておこう!
ちば 事前に用意しておくべき書類にはどういったものがありますか?
川住 契約フォームに入力していただく時点では特に必要なものはございません。
契約書類をご提出いただく際にマイナンバー記載書類と印鑑登録証明書が必要になりますので、事前に用意しておいていただけるとスムーズだと思います。
ちば マイナンバーは通知カードでも大丈夫ですか?
川住 通知カードでも大丈夫ですよ。
ただ通知カードの場合は免許証などの身分証明書のコピーもご提出いただくことになります。最近は顔写真入りの個人番号カードをお持ちの方も増えてきましたが、個人番号カードのコピーをご提出いただける場合は身分証明書のコピーや印鑑登録証明書の提出を省略していただくことができます。
あと、事務所に所属している方は、その事務所との間で著作隣接権の譲渡や専属契約がないかを事前に確認しておいていただけると有り難いですね。
MPNは、フリーランスや個人事務所で活動しているアーティスト・ミュージシャンの方に入会いただくことが多いですが、ほかにもプロダクションの団体などがあり、CPRAはそういったいくつかの権利者団体が集まって構成されているんです。ですので、その方のキャラクターにあった団体からCPRAへ委任していただくこともできますよ。
受付が終わると届く封筒には
ちば 取材前に契約希望フォームから申し込んだんですが、これらの書類が入った封筒が届きました。

川住 封筒には「パンフレット」「管理委託契約書」「契約約款」などが入っています。
ちば あ、マーカーを引いてあるところがありますね。普段こういった書類に記入することってあまりないのでありがたいですね。
川住 そうですよね。書類の記入は苦手という方にもなるべく記入していただきやすいよう工夫しています。
契約書類に記入!
ちば では、実際に契約書に記入していきます。記入するうえで注意することはありますか?
川住 「代表芸名」や「その他の芸名」という芸名に関する欄がありますが、複数の芸名がある場合はメインで使用されている芸名を「代表芸名」欄に、「その他の芸名」欄にはこれまで使用された名義を漏れなく書いていただきたいですね。芸名に応じて使用料が発生してきますので。
例えば、書いていない芸名があってその書いていないほうの名義で使用料が発生していたりすると、同一人物かどうかの結びつけができず支払いが保留されてしまう場合もあります。

また、芸名が日本語でも、ジャケットのクレジットでアルファベット表記になっていたりしますよね。そうするとアルファベットのほうで発生することもありますので、ローマ字表記の芸名も漏れなく書いていただきたいです。
ちば 僕の場合は「ちばけんいち」をメインにして、「その他の芸名」に「KENICHI CHIBA」と記入すればいいわけですね。「CHIBA KENICHI」も記入したほうがいいんでしょうか?
川住 基本的には書かなくても問題ないと思うのですが、本当に同一人物かどうかを判断する材料になるかもしれませんので、書いていただいたほうが間違いはないですね。
ひとつ注意点なのですが、基本的にご自分に権利がある芸名を書いていただきたいんです。例えばアーティストさんによっては、過去の芸名は当時の事務所が権利を持っている場合もありますので。
ちば なるほど。事務所に所属していたのだとしたら、当時の契約書などを見直したほうがいいんでしょうね。
川住 一度ご確認いただいたほうが良いと思います。
それと、「所属グループ」という欄がありますが、ここはバンドだったり、作家ユニットだったり、アーティストのユニットなどを書いていただけたらと。個人の権利とは別に、グループ名義でも使用料が発生することがありますので。
例えば、本人名義は登録しているけれどバンド名義の登録がされていないばかりに、バンド分の使用料が受け取れていないということもあります。
ちなみにサポートメンバーとしてグループに入っている場合はサポートしているアーティストを書く欄が別にありますので、所属グループ欄には自分がメンバーとして参加しているものをご記入ください。
もう一つ、「レコーディングに参加した楽曲の一例」という欄は、入会希望の方のこれまでの活動についてMPNで把握するためにご記入いただいています。もしあれば、実際の作品名を記入してください。
ちば わかりました。
川住 また、「海外での活動」という欄があります。海外団体と契約があったりしますと、海外の団体とデータを共有した際に登録情報が重複してしまうことがあるんです。その確認をするために、海外で活動されている方にはチェックを入れていただいています。

ちば 配信サイトで自分の音源を全世界配信している場合とかも該当するんでしょうか?
川住 海外のレーベルと契約をして、海外でCDや配信でリリースしています、ということであればチェックしていただいたほうが問題はないかと思います。意外と海外レーベルから音源をリリースしたときに、海外団体と契約が結ばれていたということもあったりしましたので。
また、「過去に所属した事務所名と所属期間」という欄があります。過去に別の事務所に所属されていた場合、所属期間中の活動から生じた使用料は過去の事務所が受け取る権利を持っている場合があるんです。専属契約の有無などがあれば、そちらにご記入していただきたいです。
ちば ちなみに、書類の中で「WaM」掲載の可否を選択する欄がありますが、そもそも「WaM」とはなんでしょうか?
川住 「we are MPN members」の略で、会員のお名前やパートを掲載させていただいているWEBページです。ここにいろいろなミュージシャンのお名前が載っていることで「○○さんが入っているなら安心して入会できるね」とご安心いただける側面もあります。なので、基本的に掲載させていただけると嬉しいですね。
ちば 登録について色々準備していたとき、「自分は実演家として何のパートにあたるんだろう……」って少し悩んだんですよね。なので、既に登録済みの方がどんなパートで登録しているのか確認するためにWaMを覗いてみるのもいいかもしれないですね。
ところで、用意したアーティスト写真は契約書と併せて返信用封筒に同封すればいいですか?
川住 封筒に入れていただいてもメールで送っていただいても大丈夫です。必ずしもアーティスト写真でなくても大丈夫でして、最近は自撮り写真をメールでお送りくださる方もいますね。
書類を返送すると会員証が届く!
川住 契約書を返送していただきましたら、MPNで内容の確認をしてCPRAに申請します。申請手続きが完了した後、MPNから会員証を郵送し、お手元に届いたところで入会完了です。
また、同じタイミングでP-LOGについてのご案内もお送りしますので、そちらを参考にP-LOGのログイン設定も行っていただければと思います。
ちば もう終わりですか!? 意外と簡単なんですね。
川住 そう言っていただけるとありがたいですね!
レコーディングしたら、P-LOGに入力しよう

ちば 先ほどお話に出ましたP-LOGについて、入会したら使っていくことになると聞きました。改めてP-LOGについて少し教えていただけますか?
内海 P-LOGは、Web上でミュージシャンのレコーディングやライブなどの実演情報を収集し、管理するためにMPNが独自に運用しているシステムです。会員の皆さまだけでなく、コーディネーターや制作会社といった事業者から情報を入力いただき蓄積しています。もちろん、会員の方はご自身で入力された情報を閲覧することもできます。
スマホやタブレット、PCから簡単に入力できますので、レコーディング後にはこのP-LOGに情報をご入力ください。
ちば 実際にやってみたいと思います。アーティスト名や曲名、スタジオ名やクライアント名なんかも入力するんですね。たくさん項目がありますが、手軽に操作できて使いやすいです。

川住 P-LOGの入力画面は、どの画面でもヘルプを閲覧できるようになっていますし、そもそもマニュアルがなくても簡単に入力できるように設計されています。
例えば、アーティスト名やカタログ名、曲名にはサジェスト機能があります。皆さまが入力していただくごとにデータが蓄積されて行って、その蓄積されたデータが表示されているんです。つまり、皆さまがデータを入れてくれれば入れてくれるほど、総合的に入力が楽になっていきます。
また、「スタジオ」欄の入力では近くにあるスタジオがGPS情報をもとにサジェストされます。こちらは日本音楽スタジオ協会加盟のスタジオが表示されるようになっています。ご自宅でのレコーディングの場合は、テキストで「自宅」「アレンジャー宅」といった内容で入力していただければと。

ちば なるほど、便利ですね。
項目の「クライアント」は、「レコード会社」、「制作会社」、「コーディネーター」の3つが選択できるようになっていますが、直接制作を依頼された会社がいいんでしょうか、それとも発売元のレーベルのほうがいいんでしょうか。
内海 基本的には直接制作を依頼された会社について入力していただき、もし分からないような場合はどれか一つを入力していただけたら。例えば、「レコード会社はわからないけどインペグはわかるよ」と言う時は、「コーディネーター」を選んでいただく、という風ですね。
ちば なるほど……すべて入力できました!! これを毎回、レコーディングしたタイミングで入力していくのがいいわけですね。
内海 そうですね。入力された情報は、MPNの担当者が内容を確認しデータを精査させていただきます。例えばP-LOG上やメールで「録音日が商品の発売日より後になっていますが……」といった確認をさせていただくこともあります。
お仕事の実績メモにも活用できる
内海 そのほかにも、P-LOGは皆さまにスムーズに使っていただけるような工夫を行っています。例えば、赤いペンみたいな感じの印がついている項目がありますよね?
ちば 「アーティスト名」「曲名」とかに付いている印ですね?
内海 それらが必須項目になります。必須項目が埋まるとグレーになっていって、なくなれば提出可能になります。
ちなみに「補足/メモ」という入力欄がありまして、例えばレコーディングした時にパパッとメモしたい場合は、ここに「何月何日・アーティスト名〇〇」などと入れていただいて後からじっくり入力していただくこともできるので、ぜひ活用していただければと思います。
いつでもご連絡ください!

ちば ありがとうございました!基本的な入力の流れも思った以上にわかりやすかったです!あとは書き込む立場によって入力する情報量集めきれるか、とか具体例になって初めて書き方に悩んだりとか、なにより習慣化する意識がまずは大事かもしれませんね(笑)。
内海 そう言っていただけるとありがたいです。私も開発に関わっていて、さらに使い勝手をよくするにはどうしたらよいか、日々検討しています。
ただ、開発側ではどうしても気づけない点などもあるので、ミュージシャンの方に実際に使っていただいての意見をいただけると大変助かりますね。
ちば P-LOGをこうして欲しい、みたいなリクエストはウエルカムな感じなんですね。
川住 是非お待ちしています、お電話でもメールでも大歓迎です。MPNのスタッフの中にも音楽好きや趣味でバンドなどをやっている者がいたりはするのですが、どうしても事務的な頭になってしまうので。クリエイターの皆さまからの新鮮な意見は是非いただきたいと思っています。
ちば ちなみに入力の仕方って、ここ数年で結構変わりましたか?
数年前に作家である兄(千葉“naotyu-”直樹氏)もMPNに入ったんですが、その時見させてもらったものより今のはずっと楽に感じますね。
川住 ありがとうございます。ここ1年くらいでさらに分かりやすくなるように改良していたので、結構変わっていると思います。もし機会があったらお兄さんと一緒にお越しいただき、また色々とアドバイスをいただけたりすると嬉しいですね(笑)。
ちば 是非!
内海 ご意見以外にも、P-LOGや分配などに関するご質問も広くお受けしております。ご不明な点があれば何でもご連絡ください。使用料や分配の仕組みについてはなかなか複雑なのですが、直接お問い合せいただければお分かりいただきやすいよう説明させていただきます。
ちば あと、クリエイターに限らずレコード会社のスタッフさんや作家さんとかも、MPNってどうやって入会して楽曲を登録していくのかな、みたいなことを知りたい人は多いと思います。
川住 そういった会員の方以外からのお問い合わせももちろん歓迎していますよ。今は新型コロナウイルスの影響もありますが、状況が落ち着いてきましたら直接いらしていただいたり、我々がお伺いすることも再開していきたいと思っています。ぜひご相談ください!
取材・文:岩永裕史、千葉智史(Soundmain編集部)