一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPNの分配担当内海庸介さんと契約担当川住仁志さん
2020.07.14

演奏家が得られる権利って? 著作隣接権について演奏家団体「MPN」の中の人に詳しく聞いてみた!

以前、エンドウ.さんへのインタビューの中で触れられていた団体「MPN(一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPN)」。活動について詳しくお話を聞いてみたいと思い、エンドウ.さんのご紹介のもと、中の人(分配担当の内海庸介さん、契約担当の川住仁志さん)にインタビューさせていただく機会を頂きました。

そこでわかったのは、演奏家(実演家)には様々な権利があり、CDや配信からの収入以外にも、自分の権利が国内外で色々な形で運用されると、新たな収入を得ることができるかもしれないということでした。

新型コロナウイルス感染に伴いイベントやライヴのキャンセルなどが続くなか、会員をサポートするべく、MPNも2020年前期分配の一部について、支払いを暫定的に早めるなど、独自の会員サポートを展開されています。

「自分の曲テレビで使われたことあったな」「海外でPandoraとかでオンエアされているのをファンに教えてもらったな」などの実績がある人は必読です!

一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPNの分配担当内海庸介さんと契約担当川住仁志さん
契約担当の川住仁志さん(写真左)と分配担当の内海庸介さん(写真右)

MPNってどんな団体?

MPNの主な活動を教えていただけますでしょうか。

川住 大きく3本の柱があります。

1つ目はミュージシャンへの著作隣接権使用料・報酬などの分配です。
2つ目がレコーディングの情報を集めたり、管理・蓄積していくことです。
3つ目がミュージシャンの権利を守り、拡充していこうという活動です。

どのようなクリエイターが会員の対象になるのでしょうか。

川住 フリーランスや個人事務所などで活動しているアーティストや演奏家などのミュージシャンが対象です。

楽器演奏のスペシャリストはもちろん、歌手、トラックメイカー、オーケストラなど、様々なジャンルの音楽家が対象で、メンバーの中にはグラミー賞の受賞者や人間国宝の方まで幅広い人たちに参加していただいています。

プロミュージシャンとしてCDや配信などのレコーディングに関わる方であれば、入会いただくことができますよ。

現在の会員数は何名いらっしゃるんでしょうか。

現在は約11,000名で、年間に600名くらいの方に新たなメンバーとして入会していただいています。

先ほどお話いただいた1つ目の点についてお聞きしたいのですが、実演家の著作隣接権とは、具体的にどういう権利なのでしょうか。

川住 まず、実演家とは、音楽以外にも使われている用語なのですが(俳優、舞踊家、演奏家、歌手、講談師、落語家、漫才師、奇術師など)、音楽の場合は楽器演奏や歌唱している人などで、楽曲の伝播や伝達において重要な役割を果たしているパフォーマーが実演家ということになりますね。

MPN契約担当の川住仁志さん

そして実演家には「実演家人格権」と「著作隣接権等(財産権)」の権利が認められています。「実演家人格権」は、スタジオ・ミュージシャンがCDブックレットに自分のクレジット情報を掲載するようレーベルに求めることができる「氏名表示権」や、自らの実演が無断で「名誉・声望を害するような改変」をされないための「同一性保持権」からなります。

一方「著作隣接権等(財産権)」は、録音権・録画権、放送権・有線放送権、送信可能化権などの許諾権のほか、商業用レコード(註1)の二次使用料請求権や私的録音録画補償金請求権をはじめとする報酬・補償金請求権からなります。

実演家の権利|MPN[一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPN]

実演家はどんな情報をメモっておくべき?

2点目のレコーディング情報の収集についてですが、どのようにデータを集めているのでしょうか。

内海 レコーディングやライヴ出演など様々なセッション情報を複合的に収集しています。MPNではWeb上で実演情報を収集・管理できるシステム《P-LOG》を運営していまして、そこに制作会社やコーディネーター(註2)からの情報提供や、ミュージシャン自身のセルフエントリーなどの方法でデータを集めています。《P-LOG》以外にも、CDのブックレットのクレジット情報を調べたりもしています。

ブックレットにクレジットの記載がない場合はどうされているんですか?

内海 レーベルのディレクターさんやアレンジャーさんに問い合わせたりしていますね。

昭和の歌謡曲やアイドルものって、超一流のミュージシャンが参加しているのにクレジットが載っていない場合もありますよね。音楽好きの人にとってすごく価値のあるそういう情報を一生懸命集めているのが、MPNなんだと思います。

ベーシストであれば好きなベーシストの曲を探したくなりますし、そういう人にとってはMPNのデータは貴重でしょうね……!

そうですね。また、正確に使用料を分配するために、実際に楽曲を聴いた上で問い合わせるということもしていまして……ブックレットには、なるべく細かく情報を記載していただきたいなと思いますね。

例えばコーラスなどの場合、クレジットがないと、アーティスト本人が別テイクでコーラスを重ねたのか、別の人が歌っているのか、音を聴いただけでは判断が難しいときもあるので。

これは当時制作に関わっていた方でないとわからない情報ですよね。因みに先ほど出た《P-LOG》ですが、誰がどのような情報を入力すべきなのでしょうか。

内海 ミュージシャン本人はご自身の実演情報、制作会社やコーディネーターの方は、参加したミュージシャンの情報をご提出いただくことなります。

かつてのベーシックなレコーディングでは、ディレクターが始めから終わりまで、誰がいつ参加したという情報を把握されていたのだと思うのですが、近年はDTMで完結するセッションも多く、ミュージシャン本人からの情報提供がとても重要になっています。

また、ストリーミングが主流になっていくとブックレットというものも無くなっていくわけですから、この作品の原盤がどこで、著作者が誰で、ミュージシャンが誰で、という情報を一元管理できる場所は、ますます必要になってくると思っています。

今後はそういう部分を拡充していかなければ、メタデータがないから権利もない、という話にもなりかねない。ただ、実演家だけでは限界があるので、レコード会社さんをはじめ、いろいろな方々の協力なども仰ぎながら進めていかなければいけないと考えています。

ストリーミングサービスを通して、グローバルに楽曲が再生される時代ですから、世界的にも実演家クレジットを含むメタデータの統一フォーマットが待たれているということですね。

内海 先進的な分配を行なっているヨーロッパの団体は、レコード製作者や実演家が自らデータを登録する、セルフエントリーが標準のような感じになっているんです。

自分でエントリーするのが標準! ちなみに、こういうデータを提出してもらいたい、といった指針などはありますか?

内海 市販CDに参加している場合は、どんなものでも提出していただきたいです。

放送に使われる曲は、市販楽曲だけでも年間で数十万曲にも及びますが、仮にセールスが振るわなかった楽曲でも、テレビでは頻繁に使われて、使用料が発生するものもありますので。 

あとはいわゆる劇伴ですよね。例えば映画やドラマ用に音楽を作った場合に、その映画やドラマでの使用では二次利用ということにはならないんですが、劇中の音楽がサントラCDとしてリリースされて、それが放送番組に使われると二次利用になります。

一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPNの分配担当内海庸介さんと契約担当川住仁志さん

CDの販売枚数は気にしますが、今後は放送で使われたかどうかも大事になってきそうですね……。

また、MPNが《P-LOG》を運用する背景には、権利処理のためだけではなくて、ミュージシャン自身が自らの年譜を持つべきとの理念があるんです。なので今のところ権利処理に関係のない、例えばライヴ・パフォーマンスやカラオケ用に作った曲であっても蓄積できるようにしてるんですね。あらゆる種類のミュージシャン一人ひとりの実演情報をきちんとした形で後世に残していきたいと考えています。

自分のディスコグラフィを作るような感じでしょうか。ちなみに、ミュージシャン自身がこういった情報を集めておけば《P-LOG》の入力が簡単になるよ、といった注意点はありますか?

川住 一緒にお仕事をされたアーティスト名であったり、楽曲名、アレンジャーが誰だったか、原盤制作者がどこか、何を演奏したのか、スタジオやレコーディング日などをメモしておくと良いかと思います。ご自身の履歴を辿れるという意味でも、おすすめします。

《P-LOG》の補足・メモ機能をご利用いただくことで、すべての情報が定まらない場合も情報を一時的に保存することができますよ。

実演家に分配される使用料とは?

使用料はどのような流れで徴収・分配がされているのでしょうか。

川住 この図のように、商業用レコードに関する実演はCPRA(公益社団法人 日本芸能実演家団体協議会 実演家著作隣接権センター)が、放送番組に録音録画された放送実演はaRma(一般社団法人 映像コンテンツ権利処理機構)が、それぞれ一元的な管理を行っています。MPNではCPRAやaRmaに会員の権利を複委任して、使用料等の分配を受けています。

MPN使用料の分配
提供:MPN

使用料が大きいところで言いますと、テレビやラジオですね。テレビ番組であればどの番組でも必ず音楽が流れていて、市販の楽曲がたくさん使われています。そういった利用について、テレビ局やラジオ局から集めている使用料が、一番ボリュームがあります。

あとはTSUTAYAさんやGEOさんに代表されるレンタルCDですね。レンタルCDも市販CDをレンタルしているわけですので。

大きく分けて放送の二次利用と、レンタルCDということですね。

川住 はい。そのお金を集めているのがCPRAというわけです。

放送局やレンタル店などから徴収した使用料は、CPRAが一人ひとりの分配額を計算し、MPNの会員分を我々が受領し、会員に届けているという構造になっています。

放送業界で使われるいわゆるキューシートみたいな、使用実績のようなものをベースに計算がされているのでしょうか。

内海 そうですね。使用料の種類にもよるのですが、利用者から寄せられるデータを使って金額を計算していく感じですね。

放送使用の場合、大手のテレビ局はフィンガープリントの技術を使って報告を自動化しているところが多いので、ラジオであれば放送システムからキューシートを作成されていると思います。

かつてはサンプリングで集めていたデータが、フィンガープリント技術などを使って、次第に全曲報告化されるようになってきているので、分配もどんどん精緻になっている状況ですね。

なるほど。ちなみにだいぶ昔に活動していた人とかの場合、遡及的な措置などはあったりするのでしょうか。

川住  使用料の種類によっても違いますが、分配対象となった使用料の支払先がわからない場合は、CPRAで使用料を一定期間取り置くものがあります。

放送使用実績がありそうなものであれば遡及の可能性があると。この記事を読んでいる人で、過去にCDをリリースしていて、放送で使用実績がありそうな人は入会しておいたほうがいいということですね。

川住 そうですね。昔の楽曲がリバイバルで二次使用されることも多々ありますし、先ずはご相談ください。

ちなみに同人系のリリースはどうでしょうか。コミケなどの即売会をメインの販売場所にしているような作品の場合など。

川住 手売りCDも広い意味での商業用レコードには違いないと思うのですが、実務的には、一般流通しているものが対象となるのが現状です。

逆に言えばインディーズであっても、一般流通しているものは商業用レコードに違いありません。ここ数年、若いミュージシャンによるジャズシーンが盛り上がりを見せていますが、映像制作の現場で音響効果・選曲をしている人の中にそういう音楽を好きな人が多いこともあって、インディーズ系のリリースにもかかわらず、たくさん放送使用されている、みたいなことは実際に起きていますからね。

例えば、インストバンドをやっているミュージシャンなどは要チェックですね。配信音源の取り扱いについても教えていただけますでしょうか。

内海 2018年の暮れに法改正がありまして、配信音源についても放送番組などで使用された場合は、二次使用料請求権が付与されることになりました。実際の分配をどうしていくかについては、CPRAで検討をしているところです。

MPN分配担当の内海庸介さん

日本特有の問題点って?

昨年(2019年)放送と同時に番組のネットサイマル配信が可能になる放送法の改正がありました。各種ウェブキャスティングサービスも普及する中で、権利処理の考え方が変わってきている部分もあるのでしょうか。

内海 放送については集中管理(註3)による権利処理が確立されている一方、サイマルキャスティングやその他のウェブキャスティングは、放送に極めて近いサービスであるものの、伝送路によって適用される権利や制度が異なり、権利処理の課題は依然として残っています。

集中管理されていない許諾権の分野においては、レコード製作者に権利が移転していると見做され、実演家が必ずしも衡平な対価を受け取れていない実態があるんです。

また、ウェブキャスティングからは離れますが、国際条約ではカフェや洋服屋さんでCDを再生演奏したものも「公衆への伝達」という権利の枠組みの中で扱われています。

放送についての権利の枠組み
提供:MPN
海外におけるレコード製作者と実演家の報酬請求権
提供:MPN

広く「レコード演奏」という観点から捉えられる権利が必要だと。

内海 「レコード演奏」も含まれる「公衆への伝達」という観点で広くとらえていく必要があると考えています。

日本では諸外国とは違って、「公衆への伝達」の一つである「レコード演奏権」は与えられておらず、同じく「公衆への伝達」の一つであるインターネットで音楽を流す場合については「許諾権」になってしまうというアンバランスな状態になっています。

許諾権であるということは、実演家の権利がレコード製作者に移転してしまい、ネットに音楽を流したい人は一つ一つレコード会社の許諾を得なければならないことになり、この問題がインターネットを使った音楽サービスが日本では育ちにくい最大の原因であるとも言われているんです。

ウェブキャスティングについてはアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国などでは、レコード製作者と実演家が50:50でお金を受け取る形になっていますが、日本の場合は許諾権という性質上、オンデマンドのサービスと同じ権利処理がなされています。

例えばSpotifyとかApple Musicの場合、楽曲の許諾はレコードレーベルから出されて、メインアーティストであれば印税契約による収入があると思いますが、とはいえ数パーセントの世界じゃないかと。バックミュージシャンに至っては1円も入ってきません。

二次利用かどうかというところも議題になると思うのですが、レコード会社から見れば、Spotifyみたいなオンデマンドものについては、一次利用のような見え方になるのかもしれません。

内海 そうですね。スペインなどでは「実演家からレコード会社へ権利の移転はできるが、報酬請求権は実演家に残る」といった制度があって、実演家団体が「Spotifyで配信したとしても(実演家とレコード会社の取り分を)50:50でお願いしたい」という活動もしているらしいんです。

今スペインのお話が出ましたが、海外でもこういう実演家の著作隣接権を管理している団体があるのでしょうか。

内海 各国に実演家の集中管理団体があり、それらが加盟する国際組織であるSCAPR(実演家権利管理団体協議会)という団体があります。毎年5月ごろに総会があって、各団体から総勢100人前後が出席していますね。そこで、実演家の権利保護や、国内条約と各国の制度などについて意見交換を行っています。

また、SCAPRでは団体間の協定締結を推進していて、相互的な徴収・分配が実現されています。CPRAもSCAPRの正会員であり、日本で使用される海外の楽曲を分配したり、逆に海外で使用される日本の楽曲の支払いを受けています。

日本のアーティストの曲がPandoraで沢山オンエアされていた場合は、団体経由で使用料が支払われているということでしょうか。

内海 PandoraはアメリカのSound Exchangeという団体が使用料を集めていて、CPRAと双務協定を結んでいます。

MPNの会員でも海外で活動している人がいますので、Sound Exchangeに限らず、海外の団体から使用料をいただくことがありますね。特にクラシック、ジャズ、クラブ・ミュージックなど、インストゥルメンタルの楽曲は言語の垣根を越えるため、海外で使用されることが多いようです。

MPNが考える権利処理の未来とは?

最後にMPNとして今後目指していきたいこと、読者に伝えたいことをお聞かせください。

内海 大きな目標としては、先ほどの通り、日本の権利や制度が国際条約と同等になることです。

実演情報の収集に関しては、ミュージシャンのみならず、レコード会社を始めとする制作者サイドのご協力が不可欠です。今後、関係する方々と連携し、コンテンツのレコーディング情報を一元管理する仕組みを創設したいと考えています。

コンテンツに関する情報が多く集まるほど、実演家の分配がより精緻なものになります。正しく権利処理されることによって、クリエイターが新しい作品を創作することにつながっていくことが私たちの願いです。

一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPNの分配担当内海庸介さんと契約担当川住仁志さん

また、義務教育などの中で、著作権をはじめとする知的財産権の啓蒙活動をしっかりと行っていくことで、ユーザー側の意識を変えることも非常に重要だと思っています。

川住 著作権や著作隣接権に関する制度や仕組みは、複雑でわかりづらいものなので、私たちは、ミュージシャンの皆様から気軽にご相談していただける存在でありたいと考えています。

お堅いイメージをお持ちになられるかも知れませんが、「とりあえずMPNに聞いてみようかな?」といったノリでご相談していただけるのが理想です。

都内近郊であれば、ご説明のため伺うこともできますし、こちらにお越しいただいても構いません。どうぞお気軽にご相談ください。

ありがとうございました。

次回は、MPNに実際に入会する流れをご紹介! こちらからご覧ください!

取材・文:岩永裕史、千葉智史(Soundmain編集部)

註1:市販の目的をもって製作されるレコードの複製物(著作権法2条1項7号)。CD、アナログレコードなどをいう。
註2:ミュージシャンの手配を行う専門の事業者。スタジオ・ミュージシャンはフリーランスが多いので、希望のミュージシャンを効率よくスタジオに送り込む事業者が必要になる。そのマネージメントを行う会社や事務所を音楽業界では「インペグ屋さん」と呼んでいる。
註3:権利行使の実効性の確保や権利処理の煩雑さの軽減など、著作者の利益の確保と利用者の使い易さの向上が図られる仕組みとして、世界各国で発達している手法。一つの窓口で多数の著作物の利用許諾が可能となり、取引費用の低減など権利委託者(著作者)・利用者双方にとってメリットとなるが、集中管理団体が市場独占による優越的地位を利用した管理を行えば、その行為によって同一分野への管理事業への新規参入が阻害されたり、使用料の過度な引き上げやサービスの低下などのデメリットが生じる恐れがあるとされる。
諸外国の著作権の集中管理と競争政策に関する調査研究|一般財団法人 比較法研究センター