
アフターコロナ/ウィズコロナの時代にヒットする音楽って?(音楽コンシェルジュ・ふくりゅうインタビュー後編)
ストリーミングサービスがようやく日本の音楽リスナーに根付きつつある。プレイリスト・カルチャーと再生回数という新たな指標によって新たなヒット曲が生まれる時代、いかにして渾身の作品をより多くの人に届けるか、日々悩んでいるクリエイターも多いことだろう。
今回Soundmain Blogでは布袋寅泰、TM NETWORK、ケツメイシなど大御所から、King Gnu、秋山黄色、Reolなど才能あふれる気鋭アーティストの取材記事を担当し、 現在はSpotify公式プレイリスト「キラキラポップ:ジャパン」などのセレクターも務める“ふくりゅう”氏にそのヒントを伺ってみた。「音楽コンシェルジュ」を名乗る氏が見つめる、ストリーミング時代の「ヒットの法則」とは?
インタビュー後編ではクリエイター目線でも役立つプレイリストの作成術・活用術、バイラルチャートの存在感、そしてアフターコロナ/ウィズコロナの時代のエンタメ産業がどうなっていくのかの展望までお話を伺った。
前編は以下より。
※取材は2020年5月26日にリモートで実施。
「コミュニティ」「メディア」としてのプレイリスト活用術
前回の、映像クリエイターなども含めたクリエイティブチームを持つことが変化の早い時代に対応するのには重要、というお話はある種、音楽以外の要素もアーティストの表現の一部になっているということだと思うんです。そこで、ふくりゅうさんがプレイリストを作るとき、音だけで判断するのか、それともアーティストの公式サイトに行ってビジュアル的なイメージを見たりもされているのかをお聞きしたいです。
これまでの話からある意味逆のことを言っているように聞こえるかもしれませんが、完全に音だけで選んでいますね。いい音楽なんだけどまだまだ上がっていきそうな人とか、もしくはすでに色んなイメージが付いているけど、実は新しいことをやっているベテランアーティストの曲などを積極的に入れてみたりしています。
キャリアや知名度に関係なく、音楽軸でセレクトできることはストリーミングサービスの面白いところだと思うんです。
ふくりゅうさんのプレイリストに入れてほしいクリエイターがいれば、まずは自分が一番良いと思う曲をぶつけていけばいいということですね。
良い曲があれば勝手に入れているだけなので、偉そうな立場ではまったくないです。メディアだからとかプレイリストを作ってる側だからとかではなく、アーティストやクリエイターと「一緒に上がっていきたい」という気持ちがありますね。
プレイリストって一つのコミュニティにもなり得ると思うんです。アーティスト同士これまで接点がなかった人も、同じプレイリストに入ってることで聴いてみたり、気になったらリミックスを依頼したり、ライブに呼んでみたり。
なるほど。アーティスト自身がプレイリストを作ることに関しては、どういった可能性があると思いますか。
音楽雑誌などでインタビューしていく中で一番面白いのは、そのアーティストが例えばアルバムをリリースした時に、どんなアーティストに影響を受けてこの作品が誕生してきたのか……そういう設計図となった要素を掘り起こして、こういう感情でこういう想いでこういう楽曲を聴いていて、だから今この作品にこういう風に取り入れているんだとか、そういうパーソナルな面に踏み込んだ話が聞けた時なんですよね。
リスナーが能動的にそうした楽曲を探して聴いていくのはなかなか難しかったりするんですけど、それをアーティスト自身がプレイリストにしてくれることで、ハードルが低くなる。このアーティストはこんなアーティストに影響を受けてきたんだ、と興味の幅が広がっていくのは良いことだと思います。
なので、自分が影響を受けてきたアーティストだったり、また逆にこのアーティストを応援したいなとかフックアップしたいなとか、次の世代にバトンを繋ぐためにも、プレイリストをうまくメディアとして活用して貰えるといいなと思いますね。ポッドキャストで新曲を解説したり、といったことも同時にやっていくといいのかもしれません。
そう言われると、ストリーミングサービスって、音楽プレイヤーよりもかつての音楽雑誌に近いものだという気がしてきました。
Spotifyってまさに音楽カタログが再構成された「聴けるメディア」だと思うんです。プレイリストでも音楽ジャンルであったりシチュエーション別だったり、初心者向け・中級者向け・コア向けとか、同じようなジャンルで幾つも公式プレイリストがあるんですよね。
音楽のカタログ本から、紹介されている音楽を直接聴けるようになったらいいなって昔思ったりしたじゃないですか。「これ全部買ったら家建つな~」と思ってたものが、今ではSpotifyなどストリーミングサービスがあれば全部聴けちゃうわけで。そういうメディアとして考えたら、その中でアーティスト自身が好きに自分のプレイリストを作れるというのは、ひとつの新しい表現にもなり得ますよね。
例えばライブ前にSEとして選曲していた曲をプレイリストにしてアップしたり、例えばコロナで中止になってしまったライブの曲順をプレイリストにして発表したり。時期に合わせた伝え方もできるんじゃないかなと思います。
日本でプレイリストを上手く活用しているアーティストというとどなたになるんでしょう?
くるりやビッケブランカ、小袋成彬さんなどが更新されていますね。Spotifyだと「Browse>アーティスト」と押すとそこでアーティストのプレイリストを見ることができます。
あとこの「Stay Home」期間中には、「Listening Together」という企画をSpotifyでやっていて。OKAMOTO’SやTENDOUJIだったり、色んなアーティストが「#聴いてつながろう」というハッシュタグ付きでプレイリストを更新しています。
TikTokでバイラルチャートをハックする!?
海外のプレイリストで、この切り口は面白いと思ったものはありますか。
アメリカで「キラキラポップ:ジャパン」にも似た切り口の「HYPERPOP」という公式プレイリストがスタートしていて。チャーリーXCXとか、日本ではネットカルチャーという言葉としても出ているようなアーティストが入っているんですが、個人的な趣味にも合うのでよく聴いていますね。あと、ダンスミュージックを扱う「mint」も好きですね。
ストリーミングサービスの一番のメリットは、海外にも開かれていて、聴かれるチャンスがあるという点ですよね。「バイラルTOP50」という、いわゆるバイラルチャートと呼ばれるようなものがSpotifyにはあるんですけど、YOASOBI、瑛人というソングライター、Rin音というラッパー、この三組の日本人アーティストの曲がアメリカのバイラルチャートに一気に先日入ったんですよ。
それはすごい。何がきっかけだったんでしょうか?
正確にはわからないのですが、TikTokの影響が大きかったみたいですね。ちなみに瑛人の「香水」というバズった曲は、2019年にリリースされた曲なんです。TikTokきっかけで再評価されました。
通常の再生回数のチャートって、例えばMr. Childrenがサブスク配信の解禁をしたら、50曲ぐらいチャートインしたりとかしてしまうんですよ。そういう中、バイラルチャートがあると新しいアーティストにもチャンスが生まれますよね。昔「ザ・ベストテン」という音楽番組に「今週のスポットライト」というコーナーがありましたけど、そういう新しいアーティストがフィーチャーされる場としての役割をTikTokや「バイラルTOP50」が担っていると言えますね。
初めは日本のバイラルチャートでのヒットだったのが、実際に聴いてみたら他の国の人にも刺さったという流れがあったと。
そうですね。日本のポップカルチャーが好きなお国柄もあるのかもしれないですけど、台北であったり、タイやジャカルタであったりとかで再生回数がどんどん上がっていって、それがアメリカのチャートにも波及していった……ということかもしれません。
またチャート入りをきっかけに、朝のワイドショーで毎日のようにYOASOBIが出演したり取り扱われたりしていて、日本国内の一般の人たちにもどんどん知られてきています。SNSでバズった結果ストリーミングサービスのチャートに入る、それがニュースネタとなり、他のメディアでも紹介されていくという順番になっています。
ニュースネタという意味では、海外ではだいぶ前からそうでしたが、一番の火種はTikTokになってますね。ユーザー目線で言っても、TikTokでバズったアーティストの情報をもっと知りたいなってなった時に初めてYouTubeでチェックしたりストリーミングサービスでチェックしたり、そこからさらに深く好きになったらアーティストのインタビューをチェックしてみたり、ライブに行ってみたりするという流れになっていて。
音楽ファンとまでは言えない、ライトな層の音楽に出会う入口になっているという感じでしょうか。
そうですね。例えばりりあ。というアーティストの、その名も「浮気されたけどまだ好きって曲。」という楽曲がTikTokでバズって、今リリースして1週間経ってないのですがLINEミュージックで1位になってるんですよ。
LINEミュージックは「リアルタイムランキング」という独自の仕組みが面白くて。これはSpotifyのバイラルチャートとはまた違う仕組みで、リアルタイムの再生回数を反映してくれるんですね。世の中で今、この瞬間どんな動きがあったかが一番反映されるチャートと言えて、そこで一番影響力を持っているのがTikTokなのかなと思います。
超有名曲がバズったりする場合もありますし、TikTokならではのバズり方がありますよね。
なるほど。実際にアプリを触ってみて気づくことはありますか。
TikTokの場合、画面ごとにそれぞれのユーザーが見てる世界が違うわけです。Yahoo!ニュースとかだったら皆ほぼ同じような世界を見てるわけなんですけど、TikTokの場合はユーザーごとの視聴データを基にしたレコメンデーションのアルゴリズムによってそれぞれタイムラインで見えている世界が変わってくる。逆にいえば仕掛けるということが難しいですよね。ゆえに、自然発生的にバズが生まれやすいというか。
あとTikTokでは動画で楽曲が使われた場合、曲名やアーティスト名も一緒に表示されるので、音楽を好きになるきっかけになりますよね。感覚的にも数十秒なのでかつてのミュージックビデオなんて長すぎる、という人も今では多いんじゃないかなと思います。
余程のストーリー性があったりしないと最後まで観なかったりしますよね。
最初に知るきっかけとしてはTikTokぐらいの秒数でいいのかもしれません。誤解を恐れずに言えばYouTubeだったら「サビが聴きたい、けどイントロを聴かなくちゃいけないのか~」となりますけど、TikTokだったらいきなりキャッチーなシーンを観れて聴けるわけですから。
アフターコロナ/ウィズコロナの時代に音楽業界はどうなる?
コロナ禍の影響で起きた音楽シーンの変化をお聞かせください。
ストリーミングサービスのプレイリストで80年代~90年代の曲の再生回数が増えていますよね。これまでそんなにストリーミングサービスを使ってこなかった40代~50代の音楽好きな方が、時間ができたのでサービスに触れてみよう、となったのかなと思います。こういう時期には新しいものを自分で探していくよりも、かつて聴いていた懐かしい曲を聴いて癒されたいという気持ちも大きいと思うので、そういった結果として。その年代の曲が人気になったのだと思います。
なるほど。
あとトラヴィス・スコットがゲーム『フォートナイト』内のヴァーチャル空間でライブを実現した事は、すごく大きなインスピレーションになったんじゃないかと思います。ゲーム内で1200万人が同時に楽しんだライブなんて、歴史上初めてですからね。
最近の音楽業界ってフェスが大きな影響力を持っていたと思うんですが、そういった音楽の共有体験がバーチャルな世界の中でも得られるようになっていくのは大きいですよね。ゲームなど音楽業界外部のビジネスモデルでは、これまでの固定観念から自由な形で、音楽を使った面白いことがもっともっとできるんじゃないのかなと思います。
そんな中で、興味を持っているテクノロジーやサービスなどはありますか。
僕の感覚で言うと、画期的なテクノロジーやサービスというのは、アーティストのレベルまで浸透するにはすごく時間やお金がかかるものだと思っていて。むしろ今あるサービスやインフラをいかに活用するかに興味がありますね。
『フォートナイト』でライブをやるのもそうですし、『マインクラフト』というゲーム中でDJイベントを開催したり、そういったテクノロジーの使い方は面白いなと。
逆にすごく身近なところでは、意外とFacebookのアーティストのファンコミュニティとかが面白かったりします。YouTubeのコメント欄が、一番リアリティのある楽曲の感想を読める場所だったり。
あと日本ではまだないですけど、海外のヒップホップ界隈では「Genius」という、ラップの歌詞をみんなで解説したり読み解き合ったりする、Wikipediaみたいなサービスが定着しているんですよね。アーティストや楽曲を、聴くだけじゃなくて読み解いたり評価したりする楽しさというのもあると思うので、そういったサービスはもっとあってもいいかもしれないですね。
また、自宅配信ライブの機会が増えたりバーチャルライブの面白さが注目を集めたことで、より良いスピーカー環境にお金をかけるというのが、カルチャーとして復活してくるのかなと。Netflixなどの音楽関連コンテンツも少しずつ増えていますし、これからまた伸びていく分野なのかなと思います。
音楽・エンタメの世界はこれからどう変わっていくと思いますか。
ユニバーサルミュージックやソニーミュージックは前年より売り上げが上がっているんですよね。それは海外でストリーミングに移行した結果だった。そういった中で次どんな新しいカルチャーが生まれてくるのかは、引き続き楽しみなところですね。
コロナでこういうことになって、ライブやフェスも開催できない大変な状況ですけど、もしストリーミングもオンラインでのライブを楽しめる環境もなかったら、音楽文化はどうなっちゃっていたんだろうと思いますから。
とはいえ、CDだってプレゼント的な付加価値や手元に保存する意味を持っているアイテムなので、共存すると思っています。ただストリーミングによって、時間や場所にとらわれず世界中の人に音楽を聴いてもらえる可能性は大きいですよね。
音楽じゃないですけど、『梨泰院クラス』ってご存じですか。今バズっているNetflix発の韓国ドラマで、日本で言う六本木みたいな場所を舞台にした物語なんですけど。このドラマを観ていると、梨泰院という街に行ってみたくなるんですよ。チャミスルを飲みたくなって純豆腐など韓国料理を食べたくなって(笑)。本編ではBTSメンバーからの楽曲提供もあって、それもまたバズったきっかけで。
ドラマを通じて、全然違うカルチャーを持つ海外の人と接点を持つきっかけにもなるわけで、やっぱりエンタメが与える影響ってすごいなと。ストリーミングで世界に扉が開かれた今、まだまだ大きな可能性やチャンスは広がっているのだと思います。
ありがとうございました。
取材・文:岩永裕史、関取大(Soundmain編集部)
ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)プロフィール

東京都生まれ。happy dragon,LLC 代表。Yahoo!ニュース、Spotify、AWA、LINE MUSIC、J-WAVE、NHKラジオ、ミュージック・マガジン、リアルサウンド、Fanplus Music、音楽主義などで執筆や企画編集、MC、コメンテーター、選曲(プレイリスター)、アーティスト・企業のプランニングやアドバイザーなどを担当。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』〈ダイヤモンド社〉
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