作曲家光田康典さんが持っているギター
2020.06.16

有名ゲーム音楽作曲家が語る クリエイターが夢を持てる世界とは(光田康典インタビュー 3/3)

作曲家として、テレビゲームのBGMを中心に数々の人気作を手がける光田康典。スクウェア(現スクウェア・エニックス)在籍当時、若干23歳で手がけた『クロノ・トリガー』のBGMで世間に衝撃を与え、独立後は有限会社プロキオン・スタジオを設立。少数精鋭のチームで音楽制作を手がける他、スクウェア時代も含めた過去作品のアレンジCDやライブコンサートなどの企画も自社が主体となって行う、業界でも類を見ない活動を続けている人物だ。

今回、Soundmain Blogではそんな光田氏にロングインタビューを実施。全3回でお届けしている。

第3回となる今回はSoundmainのサービス趣旨に基づき、「音楽とテクノロジー」「作曲家の権利意識」をテーマにお話を伺った。特に後半では、音楽家が夢を持って活動を続けていくために必要なことが、熱量をもって語られている。ぜひプロの作曲家を目指すクリエイターにご一読いただきたい。

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光田流、ワールドミュージックの深掘り術

ルーティーンにしている音楽の聴き方や探し方、あるいは固定で追っているジャンルなどはありますか?

固定で追っているジャンルはやっぱりワールドミュージックですね。最近は北欧系、スウェーデン、アイスランド、ノルウェー辺りがまた面白くなっていてすごく良いです。ロックもトラッドも、エレクトロニカ系もすごく強くて。

特に最近はアイスランドのアーティストに注目していまして、Sigur RósやMúm、Ólöf Arnalds、Soleyなどをよく聴きます。

必ずしも民族音楽というわけではなく、北欧系といってもポップスからインストまで幅広いんですね。そうですね。二十数年前に一度北欧の音楽にハマって、『クロノ・クロス』というゲームはまさに北欧系の音楽をメインで作ってるんですけど、またちょっと再ブームというか。一周回って面白いなと思ってます。

北欧系の音楽を掘るときは、Spotifyでエリア(国別チャート)で検索とか、そういった感じですか?

よくやりますね。あとは「Roon」っていうソフトを使っていて。例えば誰か好きなアーティストのアルバムを一枚聴くと、参加しているミュージシャンが出てきて他のアルバムとつながったりする。

作品によってはプロデューサーとかそういった情報もつながるんですよ。映画のサウンドトラックとかだと、映画監督や、出演者で探していくということもできたりします。普通とは違う音楽の探し方ができるんです。

ミュージシャンの情報も出るとは驚きです。「この人に影響を受けた人の曲はこれです」のような情報も出てくるんでしょうか。

中にはありますね。プロフィールが載っていたりしますので。そうやっていろんな情報が紐づいていくのが面白くてこのソフトを使っています。

「Roon」自体はただのデータベースなので、Spotifyなどのように音楽のデータ自体は持っておらず、聴くことはできません。あくまでデータベースが主体のソフトで自分が持っている音楽データとRoonが持っている大量のデータベースをリンクしてくれるだけですね。3万円ぐらいの年会費を払えば、データベースを一年を通して使えるというサブスクリプションシステムで、自分でサーバーを立ててそこに音楽ファイルを置いておけば、超強力なデータベースをもったiTunesのような音楽プレイヤーが使えるという感じです。

実はこのソフトを使っていますが、僕はそこまで紐付いたデータをたどって音楽は聴いているわけではありません。基本はSpotifyで聴いたり、音楽ニュースサイトで情報を仕入れたりしています。また、その音楽が配信されていなければアルバムを直輸入で買ったりとかしています。

なるほど。このサービスにはどうやってたどり着いたのでしょうか?

自分が所持しているCDは山のようにあって、それらを取り込んでデータベース化しようと思った時に何か良いソフトはないかなと思ってプレイヤーを探してたんですけど、データベースのアーティストの数もさることながら情報量の多さがすごくて、「あ、これいいな」と思って使ってみたという流れです。また、個人のミュージシャンを掘り下げていくのが楽しくて、紐付けがよくできているという点でさすがにこれを超えるソフトが見つからず、他のは使えなくなっちゃいましたね(笑)。

日本でいえばMPNのデーターベースと音楽プレイヤーが合体したみたいな感じのイメージでしょうか。

そういうことですよね。ここで使われているような技術を上手く使えば、権利関係のデータベース化も更に楽になるんじゃないかと思います。

ファンのためにテクノロジーを活用していきたい

ほかに今興味のある音楽関連のテックやサービスはありますか?

去年はライブがメインの仕事だったというのもあるんですけども、やっぱりUltraHDと、DolbyAtmos対応のライブブルーレイを作ってみたいという思いがあります。

ライブとなると僕の場合メンバーが10人を超えることがほとんどで、それで全国ツアーをやるっていうのはなかなか大変っていうのもあって、大都市を中心に回っているんです。でもゲーム・ファンとかサウンドトラック・ファンっていうのは各地にいらっしゃって、足を運べないっていう方が結構な人数いらっしゃるので、そういったファンにも届けられるものとして面白いかなと。

CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019 – “Termina (Another World)” [Live at Namba HATCH]

あとはストリーミングですね。僕のファンには、今お母さんやお父さんになられている方が多くて。子供を置いてライブに行けないとか、自分の時間が持てないみたいな問題に応えるために普通のライブストリーミングはすでにやっているんですが、ヴァーチャル・ライブストリーミングみたいなのもやってみたい。

好きな位置から演者を見れる、というのはすごく良いですよね。「自分はあのミュージシャンをもうちょっと見たいのに」みたいなことを、ヴァーチャルリアリティだったら自分の感覚でスイッチングしていけるので、そういうのは面白いなと思ってますし、今後は主流になるのではないかと思います。アイドルのライブでは既にやってますからね。

「権利買取の仕事はしない」その理由

ご自身のホームページでも権利関係のことについて書かれていますが、改めて光田さんの音楽家の権利についての考えをお聞きできたらと思います。

権利に関しては本当に色々な立場の意見がありますし、これが絶対正解っていうのはないと思うんですけど……ゲーム業界を例にして言いますと、昔から会社が楽曲の権利を買い取るという発想が多かったですし、当たり前でした。僕がスクウェアを辞める前、20〜25年前からこうした考えはベースとしてありましたね。それはなぜかといいますと、ゲーム会社に務めていた社員が曲を書いていたという時代背景があります。ですので楽曲は会社のもの、という考えが自然に染みついたのだと思います。

でもゲーム業界の外で仕事をしてみると……たとえばテレビ局とかは逆に、「いやいや、権利はいらないからそっちで管理して」みたいな話があったりするんです。

なぜこういった違いが生まれるのか。要するにテレビ局の場合は、CMを打つクライアントが付いて、番組の放送を回せていければいい。テレビは包括契約で、年間使用料を払ってるわけですから、何の楽曲を使おうが、別に誰からも文句を言われない。逆に権利を自局で持ってると色々細かい管理をしていかなきゃいけないから、権利なんて抱えたくないという発想になるんだと思います。

一方でゲーム会社の場合は、本来ゲームソフトを発売することができればそれでいいわけです。ですが、作曲家に「ゲーム1本につきロイヤリティ(使用料)はいくらで」って言われると、「すでにギャラを払ってるのに? さらにゲームに対してロイヤリティも取られるの?」みたいな話になるわけですよ。

業界によって考え方に違いがあるんですね。

はい。で、自分はゲーム会社を辞めた後、権利買取の仕事はやらないようにしようと思ったのは、この問題はきっと解決できるな、と思ったからなんです。20年以上かけてゲーム会社さんに説明して回りました。

まず僕はゲームが何本売れようが、開発費(ギャランティ)をもらっているので、これに対して更にロイヤリティをもらおうとは一切思っていませんと。

だけど、たとえば先にもお話しましたライブなどをやる際に、自分で書いた曲を自分で演奏するのにも関わらず、作曲家である僕がゲーム会社さんにお金を払わなきゃいけないということに関しては、疑問があるということなんですよね。

逆に言ってしまえば、(ライブなど自分で楽曲を使う場合は)ロイヤリティを払わなくてよければ、僕はゲーム会社さんが権利を買取する形でもいいんです。

僕が「買取が嫌だ」って主張しているのは、毎回お伺いを立てて、しかもお金を払わなければいけないというのはちょっとおかしいと思っている……しかも許諾してくれないということもあるからだったりします。自分の曲なのに自分で演奏できないんですよ? おかしいと思いませんか? また、二次利用についても本来ゲーム本編とは関係ないですよね? そこはやはり作家に分配すべきだと思っているんです。

光田康典

ゲーム会社さんからすれば、楽曲を使って自由にCMを打ててゲームがたくさん売れればいいわけですよね。そこをうまく、お互い良い方向で解決策を探しましょうというのが、20年前から僕がやっている活動なんです。権利は僕に帰属させてください、その代わりゲーム、CM、予約特典のサウンドトラック、あとはインタラクティブ系……たとえば一般の方によるゲームプレイ動画の生配信みたいなのも、どうぞ自由にやってくださいと。

やっぱり作曲家としては、ひとりでも多くの人に自分の曲を聴いてもらうのが大事なので。CMとかにもガンガン使われれば、自分の曲を知ってもらえるケースが増えるわけじゃないですか。「この曲を使っちゃ駄目」とか、僕から言うことは基本ないというスタンスなんです。

たとえばニュース番組のBGMとしてサントラの楽曲はよく使われるんですよね。そういったケースに関して、ゲーム会社は今までロイヤリティを徴収していなかった。それも徴収して、なおかつ原盤使用料……例えばレーベル会社さんに原盤を貸し出せば、その分のロイヤリティもゲーム会社に入ってくる。

もちろん、最近では儲かると思ってゲーム会社さん自身がレーベルを持っているところが多くなりましたけどね。ともあれ、ゲームが売れた作品であれば、開発費分はおそらくロイヤリティでリクープできちゃうわけですよ。

その代わり、例えばゲームがアニメになって楽曲が使われるっていうのは、もうゲーム本編とは関係ない二次利用なので、それに関しては作曲家にロイヤリティを分配すべきです、と説明しているわけです。

そのように見ていくと、双方にとって非常に良いことずくめというか。これまでは慣習が強すぎて動かなかった部分もあるんでしょうね。

地道に活動を続けてきて、やっと最近どこのゲーム会社さんにも浸透してきたと思います。今「買取じゃないと駄目です」って言うゲーム会社さんはもう数少ないですね。たとえばうち(プロキオン・スタジオ)のレーベルでCDを出した場合、うちがゲーム会社さんに原盤使用料をお支払いしているので、ゲーム会社さんとしてはお金ももらえるし、ゲームの宣伝もしてもらえるし、デメリットはなんてないですよね、と納得していただいてます。

ゲーム会社さんの方は面倒くさい管理もしなくて済みますし、ゲームに関しては移植だろうと、リメイクだろうと、とにかく何でも使えるわけですから、なんの問題もないわけです。そうやってお互いにとってメリットがある状況を作り続けていったんです。

夢のある業界にしていくために

一般の方がカバー動画を上げたりすることについてはどうでしょうか? 先ほど、北欧のバンドにご自身の楽曲をアレンジしてもらっているというお話もありましたが。

ファンの方が既存の楽曲を改変してYouTubeとかにアップするというのは、本来なら著作者人格権の問題で違法なんですけど、僕の気持ち的には正直、OKですね。面白いアレンジだったり、奇想天外な発想であったり、僕自身も楽しめますので。

誰が大元を作ったのかっていう名前までちゃんと書いてくれれば、僕の宣伝にもなるわけじゃないですか。それがたとえばゲーム会社さんが権利を持ってたりすると、そちらの判断で止められたりしてしまうことも考えられますが……。ただ、今はインタラクティブ配信の管理もコンテンツIDを使って強化されてきていますので、作家にとっても非常に良い傾向なのかなと思います。

音楽って本来自由なものだと思うので。権利を主張しつつも、自由に広めてもらうことっていうのは作家としてはすごく重要だと思うんですよね。自分が頑張った分だけたくさん聴いてもらえる、という意味でも。

モチベーションにもつながるということですね。

ええ。モチベーション、夢があるということはその業界の未来にとってとても大切なことです。

買取だとギャラで終わりじゃないですか。作って納品して終わりっていうものよりも、権利を自分で持って、すごく頑張って良いものを作れば、その分サウンドトラックでたくさん印税が入ってくるかもしれない。

一方、アメリカの映画作曲家なんかは買取の場合がほとんどみたいですが、その代わり制作費が1億、2億とか渡される。それはそれで夢があります。

とにかく夢がないと業界自体が次に続いていかないんですよ。小さい子供たちが夢を持てるような職種じゃないと。ゲーム業界も作曲家という仕事もどんどん廃れていくと思うんです。プロ野球選手やプロサッカー選手、最近だったらYouTuberみたいに、「ああなりたい」というスターが誕生するみたいな。
流れ作業で仕事を受けて納品して終わりみたいなのが普通になってしまうと、やっぱり個々の作品クオリティーもどんどん下がってきますし、何か新しい試みをしようなんていうような思いにもならないですしね。

作家が主体的に、夢をもって仕事をするためにも、自分の作った楽曲についての権利を正しく理解することは必要だということですね。

はい。権利を持つということはつまり自分の楽曲に対して責任をイチから持つということで、それは音楽を作ることと同じくらい作家にとって大事なことだと思うんです。

色々なスタンスがあると思いますので、なかなかこれがいいとは言い切れませんけど、自分の楽曲は自分がイチから生み出して、自分が死ぬまで責任を取っていく……僕はそういう考えを持って活動しています。 

「誰になんと言われようが、好きなことをしていきましょう」

長時間ありがとうございました。最後に、これから作曲家として仕事をしていきたいと志している方に向けて、メッセージをいただけますか。

自分の発想力というか、好きなものをあまり限定しないほうが絶対いいと思います。最初にお話しした通り、僕の場合は時代がそうだったという面もあるんですけれども。

世の中には変わらず色んな作品が溢れてますし、今はネットやSNSを使って色々検索もできますし、自分から進んでいこうと思えばキャッチできる情報ってたくさんあります。

あとは音楽以外にも興味を持ってどんどん吸収していく。どの分野の人にとっても重要なことだと思うんですけど、とにかく好きになったものを突き詰めていくパワーみたいなのがあれば、必ずその道のプロになることができると思いますよ。

僕なんか最初「作曲家になろう」とは全然思ってなかったですからね。ただ自分で言うのもあれですけど、好きになったものを突き詰めていく、そこに自分は長けていたんだと思うんです。音楽を聴いたり作ったりすることが好きだ! ってなったら、本当に食事をするのも忘れてずっとやってましたから。それほどのめり込みやすい性格だったっていう、まあ単純で馬鹿なんでしょうけど(笑)。

好きこそものの上手なれと言いますが、本当に好きだと思わないと上達はないですね。そして、いまや何がヒットするかわからないし、とにかく自分が感じたまま、大好きなものだけを突き詰めるのがいいと思います。誰になんと言われようが、好きなことをしていきましょう。

今後のご予定を教えていただけますでしょうか。

去年開催した『クロノ・クロス』のライブツアー(CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019)のライブアルバムを作ることになりました。今年の7月1日に配信を予定しているので、ライブに来られた方も、当時行きたかったけれど都合がつかなかったという方も、ぜひ楽しみにしていただければと思います。

取材・文:岩永裕史、千葉智史(Soundmain編集部)

光田康典 プロフィール

作曲家、編曲家、プロデューサー
1972年1月21日生まれ。1992年スクウェア( 現スクウェア・エニックス)入社、1995年『クロノ・トリガー』で作曲家デビュー。『ゼノギアス』等の作曲を担当した後、1998年に独立。フリーランスで活動後、2001年プロキオン・スタジオを設立し、同社の代表を務める。
現在はテレビや映画、アニメ、ゲームなどジャンルにとらわれない多様な作曲をこなし、有名アーティストへの楽曲提供やアルバムプロデュースを手がけるほか、国内外のライブ出演や海外でのレコーディング、書籍の寄稿も積極的に行うなど多岐にわたり活動中。
主な楽曲代表作に、『クロノ・クロス』『ゼノサーガ エピソードI』『ソーマブリンガー』『新・光神話 パルテナの鏡』『SOUL SACRIFICE DELTA』NHKスペシャル『宇宙生中継 彗星爆発 太陽系の謎』『イナズマイレブン1〜3』『イナズマイレブンGO クロノ・ストーン』『イナズマイレブンGO ギャラクシー』『イナズマイレブン アレスの天秤』『イナズマイレブン オリオンの刻印』『黒執事 Book of Circus』『ゼノブレイド2』『FINAL FANTASY XV エピソード イグニス』他多数。

光田康典 公式ウェブサイト “Our Millennial Fair”
http://www.procyon-studio.com

Yasunori Mitsuda & Millennial Fair『CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019 RADICAL DREAMERS Yasunori Mitsuda & Millennial Fair Live Audio at NAKANO SUNPLAZA 2020』

2020年7月1日(水)より主な配信サイト(iTunes、mora、レコチョク、animelo mix、Amazon、Google Play Music、e-onkyo music、music.jp)にて配信スタート!

PlayStationソフト『クロノ・クロス』発売20周年を記念して、同ゲームの作曲家である光田康典が総監督となり開催されたクロノ・クロスライブツアーの中から、2020年1月25日に中野サンプラザで行われたツアーファイナル公演を収録した音源。ライブの臨場感を損なうことなく、音楽だけに集中できるよう光田康典が自ら特別に編集やミックスダウン、マスタリングの監修をおこない、音楽単体として十分に楽しんでもらえる作品に生まれ変わった。今回のライブツアーを応援してくださったたくさんのファンの皆様へのお礼の意味も込めて特別に¥1,800(税込)という破格で配信が決定した。

配信日:2020年7月1日(水)
moraハイレゾ先行配信日:2020年6月24日(水)
特設サイト https://procyon-studio.co.jp/special/ccliveaudio/
特設サイト(英語) https://procyon-studio.co.jp/special/ccliveaudio/indexen.html