ストリーミング時代のメタデータ整備
2020.02.25

「海外で検索されて引っかかる?」ストリーミング時代のメタデータ整備のために今やれること5選

ストリーミング・サービスで自分が聴きたいアーティストを検索したら、全く違うアーティストが出てきたこと、皆さん経験ありませんか?

毎日2万5千曲がアップロードされているとも言われるほど、世界中のアーティストの作品が各ストリーミング・サービスに流れこんでいることもあり、例えばシンプルなアーティスト名のアーティストの場合など、同じアーティスト名で活動する他のアーティストの作品と一緒に混ざってしまったりする問題も起きています。

権利処理という側面からも、仮に自分の作品がストリーミングで聴かれたとしても、クレジットに不備があったり、権利処理に使われるデータと上手くマッチングできず、自分の楽曲が聴かれているにも拘わらず相応の使用料収入が受けとれていないケースも出ているという話もちらほら。

ストリーミング・サービスがクリエイターにとっての主戦場となり、「いかにリスナーに簡単に自分の作品に辿り着いてもらえるか」「きちんと使用料を受けるために何をすればいいのか」がますます大事になってきた昨今において、こういった問題を防ぐためにはどうすればいいのでしょうか?

現代を生きるクリエイターがどのように自分の作品データを制作・整理しておけばいいのか。識者としてデジタル・ディストリビューター「The Orchard Japan」バイス・プレジデント、金子雄樹さんにもお話を伺いつつ、Soundmain Blogとして紐解いてみました。

まず「メタデータ」とは?

基本的に音楽におけるメタデータとは、iTunes Musicなどのダウンロード・ストアやSpotifyなどのストリーミング・サービスなどの、デジタル・サービス・プロバイダー(通称DSP)に納品されている「配信用商品データ」の中の、WAV等の音源ファイルに対しての付加情報を持つデータを呼びます。後ほど詳しく述べますが、「アーティスト名」「楽曲タイトル」「アルバムタイトル」などのデータの塊です。

DSPは、このメタデータに含まれる情報を元に音源を配信し、各音源の売上げを管理。作詞作曲といった著作権処理面では、メタデータの情報を使って音源と作品情報をマッチング、その情報をベースに作成された利用報告書を基に、著作権管理団体が使用料を権利者に分配しています。 

ということで、リスナーがDSP上で音楽を楽しむ際に利用される「表面」と、著作権処理などに使われる「裏面」にメタデータが使われているため、リスナーと楽曲、そして楽曲と権利者を上手くマッチングさせるためにも、メタデータの整備が大事になります。

では音楽における統一されたメタデータ・フォーマットはあるのでしょうか? 残念ながら現時点においては、音源制作時に使うMIDIや、映画でいうIMDbなど、業界的に標準フォーマットのひとつとして使われているものが存在しません。

こんな時代において、クリエイターにできることはあるのでしょうか。5つのポイントがあると私たちは考えました。

やれること①:まずメタデータをそろえよう

標準フォーマットがなくても、自分のデータを自分でそろえることはできます。

音楽制作をすることと比べたら退屈な作業かもしれませんが、誰がレコーディングに参加していたかなど、制作者でしか知りえない情報もありますし、メタデータをきちんと揃えることが、音楽のクオリティーと同じくらい、自分の収入にも良い影響を及ぼしてくれることであることは間違いありません。

「マスターを書き出したらメタデータも整備する!」くらいのスタンスを日頃から持てるようになると良いのではないでしょうか。

先日配信されたアメリカの音楽系ニュースサイト「Digital Music News」のポッドキャストにて、Tunecoreの創始者でもあるジェフ・プライス氏が、「クリエイターは以下のデータをエクセルなどの表計算ソフトに集めておくべき」と話していました。

  • 自分の楽曲の録音物(=原盤、自分で録音したもの、他アーティストが録音したもの)
  • その原盤のアーティスト名
  • その原盤のリリース日
  • その原盤のISRC番号(わからない場合は販売会社(例:Tunecore)に確認する)
  • その原盤に含まれている楽曲名(同一の場合でも)
  • その楽曲の作家名
  • その楽曲の出版社
  • その楽曲の何パーセントが自分の取分か
  • 自分が管理する地域(例:全世界)

日本用にということでこれに付け加えるなら、アーティスト名に漢字が入っている方であれば、ローマ字表記、フリガナデータも揃えておくべきかもしれませんね。

メタデータをそろえておきましょう

やれること②:DSPの表示を研究してみよう

いちユーザーとして、自分が使っているストリーミング・サービスでアーティストなどを検索していると、不具合であったり、表示の仕方であったり、色々な法則が見えてくると思います。

「DSPの表示を研究することは重要かもしれません。一番複雑なジャズとクラシックの楽曲を見て「こうなってるのか」とか「検索に引っかからないな」とか、何となくでも理解しておくということです。
各サービスで文字の扱い、表示の文字数制限、こういったものをある程度分かっておいた上で、楽曲名とかアーティスト名とかアルバム名とかを作れば、唯一無二じゃないですが、ある程度スタンドアローンなものができると思います」(金子氏)

DSPのなかで、一番細かいと言われるAppleのメタデータ・フォーマット。Appleはメタデータのガイドラインを設定しており、常にアップデートされています。最新バージョンを読み込んでみると、何か発見があるかもしれません。

やれること③:自分のアーティスト名、タイトル名などが“検索可能かどうか”確認しよう

データを整備するなかで、「サーチャビリティー(検索可能性)」を意識することが重要だそうです。

「サーチャビリティー(検索可能性)という言い方がありますが、アーティスト名はそういう意味でも重要ですよね。
とあるクリエイターをすごく良いなと思って検索したとき、単純な文字列だと同姓同名の別アーティストもずらっと出てきてしまう。ブログやツイッターにもたどり着けない。
今は、検索してヒットさせないといけない世界だと思うので。ブログもツイッターもそうですが、検索して出てこないと意味がないですから」(金子氏)

一般ユーザーにも馴染みやすい例として、金子さんが出してくださったのがハッシュタグ。自分のツイートを見てもらいたいときに、ハッシュタグを使って検索に引っかかりやすくするということは、日常的に行っていますよね。自分自身でサーチャビリティーを意識してタグ付けする。こういった観点は、メタデータの世界にもひっそりと潜んでいる問題なのだと金子さんは言います。

「メタデータは、言ってみれば検索してもらうために作っているようなもの。挙動として検索して貰い、自分のコンテンツをピックアップしてもらうという、一連の重要な流れを作るためにはどうすればいいのか、を考える必要があると思います」(金子氏)

やれること④:楽曲制作同様、アーティスト名、タイトル名にもクリエイティヴになる

自分の曲が、どうやったら速く広く届くのか。楽曲自体の作りをどのようなものにするかということと同時に、自分のアーティスト名がどうやったら速く広く届くのかを考える時代になっているのかもしれません。そのためには、DSPごとのクセを研究することもひとつの近道かもしれません。

「ABCD順で下の方に記号がでてきたり、上の方に平仮名が出てきたり……そういったソートの考え方は各DSPで違ってたりするんですよね。 そういったDSPごとの傾向を読むことも大事なんじゃないかと。
楽曲制作においても、ぐっと来るポイントをサビまで持たせるのか、それともイントロでぐっと来させるのかってことはみんな考える訳じゃないですか。耳を惹き付けるためにはどうしたらいいかっていう工夫を、テキスト版で考えるっていうことだと思うんです」(金子氏)

やれること⑤:ネットクリエイターから学ぼう

金子さんが意外な参照先として挙げたのが、YouTubeに最新ヒット曲のカバー曲をアップしたり、上手くタグ付けして自分の作品をアピールしているYouTuberなどのネットクリエイター。

「例えばハッシュタグでAC/DCって検索したとしたら、AD/DCに全然関係ない作品も出てきますよね。これってその動画をアップロードしてる人が、何かしらタグ付けしてるんですよね。YouTubeでは再生数に応じて広告費が支払われるので、再生回数を上げることが大事ですし、そのためにYouTuberの人達はやるべきことをやってるわけです。こういう姿勢はクリエイターも見習ったほうがいいと思います。

フリマアプリやオークションサイトでも検索ワードを設定できますよね?検索している人に何とか引っかけて自分の動画やサイトに来てもらう。こういったしたたかさを、クリエイターも持ったほうがいいのではと個人的には思います」(金子氏)

因みに…「この名前はよかった」と思う日本人アーティストは?

最後に、金子さんに「この名前はサーチャビリティー的によかった」というアーティスト名を聞いてみました。

「今ぱっと浮かんだのは、Little Glee Monster。ああいうのはあまり聞いたことはないですよね。そこそこ検索に入れやすく、あまりスペルミスもないでしょうし。サザンオールスターズやRCサクセションもいいと思いますね。横文字(アルファベット)にもできるというのは強いと思います。
あと、神聖かまってちゃんも上手だなと思いましたね。忘れないですし、他にいないですから」(金子氏)

<編集後記>
現状、メタデータの標準フォーマットがないなかで、「JAXSTA」や「sound‣credit」などの、メタデータを整備するための新しいサービスやテクノロジーも生まれつつあります。しかし、それをただぼんやりと待っているだけでもいけない。ひとりひとりがサーチャビリティを意識してできることはたくさんあります。

リスナーに聴いてもらうことが直接収入につながる時代らこそ、音楽制作にかけるエネルギーと同じくらい、データ整備にかけることが大切な時代なのかもしれません。

文:岩永裕史(Soundmain編集部)