
マーク・ロンソンはどうやってタイムレスな「Uptown Funk」を作り出したのか?(世界に学ぶ! Vol.3)
登録者数65万人を誇るYouTube上のビデオ・エッセイ・チャンネル『Polyphonic』。ポップカルチャーにおける代表的な作品を、独自の視点でエッセイ風に説明しているチャンネルです。Patreonにてクラウド・ファンディングも実施しています。
今回は、Bruno Mars「Uptown Funk」の制作秘話、そしてリリース後の訴訟問題などについて詳しく解説されており、「なぜこの曲がヒット曲したのか?」を紐解くうえで、興味深い考察が述べられています。
動画そして楽曲を聴きながら是非お楽しみください!
2015年の大ヒット曲「Mark Ronson feat. Bruno Mars / Uptown Funk」。新鮮且つノスタルジックな雰囲気があるこの曲は、ポップなサウンドが主流だった当時の音楽シーンのなかで、覇権コンテンツ並みの大ヒットを記録しました。
新曲にも拘らず、何故かこの曲を昔から知っているような気がしませんか?実はそう聴こえるように、細心の注意を払って楽曲が作られているのです。
マーク・ロンソンは何か月もの間、世界中のスタジオで身を削りながらこの曲を練り上げてきました。それだけこの曲に身体共に捧げることで、タイムレスな曲を生み出すことができたのです。
ではどうやってこの曲が作られてきたのでしょうか?
この曲の最初の構想は、ブルーノ・マーズと彼のバンドが、ツアー中に遊んでいた曲の破片のようなものだったそうです。
マーク・ロンソンがブルーノ・マーズのバンドに参加した際に、ブルーノ・マーズのスタジオでキーボーディストのジェフ・バシュカーとジャム・セッションを行い、そのセッションで曲としての形が見えてきたそう。
ですがマーク・ロンソンもブルーノ・マーズもお互いに多忙を極めており、結局セッションでは曲が完成せず、その後数か月間、少しずつブラッシュアップしていたとのこと。
マーク・ロンソンは楽曲のレコーディングを、ロサンゼルス、トロント、ロンドン、バンクーバー、メンフィス、ニューヨークでおこなっていたそうで、世界中のスタジオで楽曲の構成もドラスティックに変化していきました。曲の途中でハードロック的なブレイクダウンが入れられたり、またある時には、この曲がボツになる危険性もあったそうです。
「Uptown Funk」を完成できないストレスからか、ジェフ・バシュカーと共にレコーディングしているとき、この日のうちにギター・パートを何とかしたいと思いつつも上手くいかず、ランチ休憩をとった際にマーク・ロンソンが、3度嘔吐して倒れてしまったそう。
ですがレコーディングはここで終わらずに(!)、ジェフ・バシュカーがマーク・ロンソンを担いでスタジオに戻り、82テイク後(!)に、ギター・パートがフィックスしたそうです!
マーク・ロンソンはインタビューでこう語っており、この曲を何とか完璧にしたいという意思がうかがえます。
「僕らがこの曲を作っていた当時、ラジオでかかってた曲と全く違ってたこともあって、この曲を当時のシーンのなかで目立たせるためには、色々なフックを入れて「ear candy (耳に心地よい」なサウンドに是が非でもしなければいけなかった」
マーク・ロンソンとブルーノ・マーズは、この曲のサウンドのベースに、ミネアポリス・サウンドを敷いています。
ミネアポリス・サウンドは、ファンク・ミュージックの派生的なサウンドで、1970年代後半から1980年前半に作られました。そしてシーンのパイオニア的存在はプリンス。
この新しいサウンドでは、ファンク、ロック、ニューウェーブ、R&Bといった要素が入っており、シンコペーションの効いたリズムの要素が少なくなり、よりスクエアなリズムが取り入れられたことで、ポップ・ミュージックとの相性の良さにつながりました。
またミネアポリス・サウンドは、シンセサイザーとギターが多用されており、このスタイルは1980年代を通じて多くのリスナーを魅了、結果R&B、ポップ、エレクトロ・ハウス、テクノといったジャンルへ影響を及ぼしています。
ミネアポリス・サウンドに影響を受けたこれらの音楽ジャンルが、過去30年間ポップスのジャンルとして君臨してきたことが、「Uptown Funk」がタイムレスなサウンドに聴こえる理由の一つだと思います。
ですが「Uptown Funk」がタイムレスなサウンドに聴こえることは、別の問題を生み出しました。
「Uptown Funk」リリース後、自分の曲に似ていると主張されたことが何度かあり、時には訴訟も起こっていました。
ファンク・グループ「Collage」は、「Uptown Funk」は彼らが1983年にリリースした曲「Young Girls」と、”ほぼ区別がつかない”と言っています。
セルビアのポップ・アーティスト「Victoria」は、「Uptown Funk」の80%が私の曲によるものだとも主張しています。
「The Gap Band」が、彼らの1979年のファンク・トラック「Oops Upside Your Head」のリズムを「Uptown Funk」のブリッジ部分で使っていることを見つけ、マーク・ロンソンは、この訴訟を解決し、出版の一部を渡しています。
だからと言ってマーク・ロンソンが別の曲を盗んできた、ということではありません。逆に(マーク・ロンソンが影響を受けてきた)ファンク・サウンドを細分の注意を払って楽曲に取り込んだことが、楽曲のパワーにつながっているとも言えます。
マーク・ロンソンは、「Uptown Funk」がTV番組「The Really Wild Show」のテーマ曲とも似ていると言われ、ラジオ・インタビューで初めて聴いたとき、「ホーンセクションだね、言ってることはわかる。このテーマ曲も、僕もブルーノ・マーズも、同じくらいクインシー・ジョーンズに影響を受けてるってことだ。」と言っています。
「Uptown Funk」が持つキャッチ―さを否定することはできません。「Uptown Funk」は数年前に流行った曲という立ち位置ではなく、「タイムレスなポップソング」として、今後永遠に聴かれていく曲になるでしょう。
<編集後記>
マーク・ロンソンだけでなく、ファレルやケイティー・ペリーなど、有名アーティストであればあるほど同じような訴訟に見舞われてしまう現在の音楽シーンですが、誰かの影響を受けず音楽を作ることは不可能です。自分が影響を受けてきた音楽に敬意を示しつつ新しい音楽を作っていくことは、音楽の歴史を実体験することにもつながりますし、今後もこの曲のほうに、新鮮且つノスタルジックな楽曲に出会いたいですね。
文:岩永裕史(Soundmain編集部)