
エンドウ.さんが語る、現代を生きる音楽家が持つべき権利意識とワークライフバランス(インタビュー前編)
バンド「GEEKS」、クリエイターギルドバンド「月蝕會議」での活動のほか、「ももいろクローバーZ」「ヒプノシスマイク」「イヤホンズ」「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」など、様々なアーティストやコンテンツに楽曲を提供しているエンドウ.さん。
加えて、他アーティストのライブツアーへの参加、真空管アンプやエフェクターの設計、書籍の執筆、また俳優といった活動をおこないつつ、“今最も忙しいクリエイター”のひとりでありながら、著作権についても積極的に勉強されています。
そんなエンドウ.さんに、音楽業界で生きていくための権利意識の持ち方、時間との戦いのなかでクリエイティヴ力を発揮すること、また仕事とプライベートのバランスなどについてお伺いしました。
前編は、権利意識を持つことになったキッカケや、持つことで得られたメリットについてお届けします。

自衛のためにも、権利意識は若い人たちにも持ってもらいたい
エンドウ.さんのプロとしての活動はどこからスタートしているんでしょうか。
2001年からインディーズ・レーベルを立ち上げていたので、お金を稼いでいたという意味では2001年です。メジャーデビューがプロだとしたら2004年ですかね。先にインディーズで自主制作CDを出して、その後メジャーからお声がかかり始めたときに、自分で株式会社を作ったんですよ。
会社を作られたキッカケは何だったんでしょう?
会社作ったらウケるかな、ネタになるかなって(笑)。バンドで稼いだお金をメンバーに分配していたので、会社にしておいた方がいいかなと思ったのと、レコード会社と渡り合うには事務所社長になっておいたほうがいいかなっていう(笑)。
そんな感じで漠然と会社を作ろうと思って、親とか親戚に税理士を紹介してもらって、「株式と有限ってどう違うんですか」って聞いたら、
「……心意気だよ。」
って言われて(笑)。
あははは!
「どっちがカッコいいですか」って聞いたら「そりゃ株式のほうが格好いいよ」と(笑)。「だったら株式っすね、どうしたらいいですか」「1千万円からだよ」って言われて、CDの売り上げとかを集めて株式会社にしました(注:現在の会社法では1円から設立可能)。
会社を作ってみたことは良い経験になりましたか?
なりましたね。一目置かれることも多いですし、大人との話が楽になりました。何も知らない小僧めっていう感じではなくて、「お、コイツ会社作って色々やってて、わかってんのかな」っていう感じで接してくれたので。
経営者としての顔とクリエイターとしての顔を持つわけですが、どういう風にバランスをとってらっしゃるのでしょうか?
あんまりビジネス的には考えてなくて。ビジネスするんだったら自分で音楽作るのを辞めて作家抱えて手広くやったほうが絶対いいですよね(笑)。
結局、自分がやってるものが大前提で、それで食いたいなっていう風にするしかないので、クリエーションが優先にはなりますね。だから今でも「1万円でいいよ」みたいなのもやりますし、大きいのもやりますし。あまり(ビジネスでは)選ばないですね。
元々パンクバンド出身なので、制作に全然お金かける派じゃなくて。ニルヴァーナの一番最初のアルバムは千ドルで作ったとか、元々音楽ってそういうもんだと思ってたんです。
自分の初めてのアルバムも5~6万円で作ってましたし、制作費を削れるところはいっぱいあるよって。
JASRACに直接行って何度も担当者を質問攻めに
DAWを使い始めたのはいつ頃ですか?
元々バンドでデモ作りを始めたときですかね。古いDAWを使ってました。実は意外とパソコン好きで、WINDOWS 3.1とかの頃からずっとパソコン少年だったんです。なので早めの段階で録音にもDAW使ってましたし、高校生の時にDAWで曲作ってデモテープを作ってました。
本格的に打ち込みを始めたのは作家活動するようになってからです。
作家活動はいつ頃スタートしたのでしょうか?
意外と遅くて2012年ぐらいからです。知り合いのバンドマンがランティス(現バンダイナムコアーツ)に入社して、彼から「ギター弾いてくれない?」と話をもらって。
麻生夏子ちゃんっていうシンガーの子だったんですけど、プロデューサーの方から「サポートミュージシャンというよりもバンド感が欲しい」って声を掛けていただいて。
バックバンドでツアーとか色々やってるうちに、「(声優の)岩田光央さんのシングルを出すんだけど、曲とか作れる?」って聞かれて、シングルの収録曲を全曲担当させていただいたんです。これが初めての楽曲提供ですね。
作家活動には著作権契約が伴いますが、権利周りについて興味を持たれたタイミングもこの頃ですか?
3~4年前ですかね? 僕がJASRAC(*1)に入会してからなので。
興味を持たれた出来事などがあったのでしょうか。
もう、「取りっぱぐれたくない」っていう一心で(笑)。
あははは!
自分が生きていくために「もっともらえるのないの?」とか考えてたら行き着きました(笑)。
外部に楽曲提供する時になって、初めて収益が生まれるっていうことに気づいたんですよね。で、今まで契約した著作権契約書とかじっくり見てみたら「わ~印税ってあったんだ」みたいな(笑)。もっともらうにはちゃんと知っておかないといけないな、って思ったんです。

どのあたりから勉強し始めたんでしょうか?
最初は著作権の本とかを読んだりしましたけど、難しかったので、結局JASRACに直接行って、何度も担当者を質問攻めにしました(笑)。JASRACの担当者も優しく教えてくれるので、聞いたほうが早いな~と思って(笑)。
「編曲だけしてる曲で何かもらえる方法ってないですか?」
「あるんです、JASRAC会員の権利で公表時編曲っていうのがあるんです」
「ただ条件がありましてカラオケの使用料に限られます」
「何ですかそれ?」
とか。この公表時編曲、ネットで調べてもJASRACとかの1ページに辿り着くだけだったりしますし、担当者に聞いてみると面白い制度を色々と教えてもらえて。これは利用していかないとなぁと思ったんですよね。
JASRAC以外にも行かれたんですか?
NexTone(*2)にも行きましたし、あとは実演家の演奏権管理をしているMPN(*3)にも行きました。
演奏家としての権利に関してはMPNに何度も行って、しつこく聞きましたけど、嫌な顔一つせず教えてくれました。
あと(音楽商品のデータを取り扱う)ジャパンミュージックデータ(*4)に行って、フィンガープリント(*5)の話を聞きに行ったりしてます。今の時代YouTubeとか放送局も、ほとんどがフィンガープリントでの処理になってきていて。
自分の楽曲がフィンガープリントにマッチングできなかったら、誰もチェックしないで該当なしで終わっちゃうので。メジャー案件だったらいいですけど、インディーで自分で作ってるものも時々流れたりするので、自主制作のものは自分で登録しなきゃいけないと。
アーティスト活動や作家活動などと並行して、こういった勉強をされてるんですよね……!
取りっぱぐれたくないので(笑)。
でも面白いですよ。「お前、そんな面倒くさいことやってるの?」って言われるんですけど、「いや、数千円だってもらえたら嬉しいでしょ?」と。
「1万、2万になったらもっと嬉しいし、場合によっては10万20万って変わってくるんだよ」って言うと、みんな納得してくれるんです。
お金が原動力じゃないですけど、自分の利益のためだったら頑張れるんじゃないかなと思うんです。
お金にキッチリしているのは一番の美徳だと思う
自分が少し頑張ることで、そういう収入が得られる制度があるわけですね。
行政の制度みたいなもので、言わなかったらもらえないんです。本当はもらう権利があったのにもらえなかったって一番悔しいじゃないですか。
だったらひとつずつ回収していって、塵が積もればですけども、収益になった方がいいよなって。ビジネスってそういうものじゃないかなって思うんですよ。
海外のクリエイター、特に海外でコライトするようなクリエイターは権利意識がちゃんとしてるし、クリエイターが自主的にそういうのを学んで、面倒くさければ自分でエージェントを雇って処理してもらってる。
自分も最初はそうでしたけど、日本は「俺達は、音楽やってれば大丈夫なんだろ」みたいなところがちょっとあるので。
確かにクリエイターの人達がお金について積極的に話してることは少ないかもしれません。
でもお金にキッチリしているのは一番の美徳だと思うんです。
自分がやったことを最大限収益に繋げたいってのは、全てのクリエイターの悲願だと思うんですけどね。それで何がいけないのか、と思います。
気持ち的には分かりますけど、アーティストがお金のことを話すのは日本ではちょっとご法度的なところがありますよね。
最初は、もうちょっともらう方法ないかな、もっとお得に生きる方法ないかなくらいのキッカケでしたけど(笑)、何も知らないで契約しちゃってた過去の楽曲とか、やっぱ雁字搦めの契約とかがあって。僕が死んだ70年後まで契約解除できないのとかもたくさんあるんです。
「あ~当時はバカだったな」って今になって思います。
「契約書は隅々まで読まなきゃ駄目だよ」って昔から言うじゃないですか? みんな分かってるんですけど、結局読んでも分からないですよね。全部の字を最後まで読んでも、「怪しいことは書いてなかったな……」ってぐらいしか分からない。
契約条件にどういう選択肢があるのかわからないと、交渉すらできないですよね。
そうなんですよ。ほとんどの場合「何がわからないかわからない」っていう状態で。疑問点も浮かび上がってこないし、それを上手に説明してくれるレコード会社も出版社もなかったし。
であればアーティスト側も知識で武装しないと、いいように使われちゃうこともありますよね。
他にも「あ、こんなのがあるんだ」って気づいたことはありましたか?
今でいうと、例えば著作隣接権の商業用レコード二次使用料ですかね。楽曲が世の中に出たという実績が過去3年内にあるだけで、MPNに登録すれば一律基本分配っていうのが3万円もらえます。
3万円もらえたら嬉しいじゃないですか。だからみんなに登録しようよって言ってるんです。自分の実績を報告するだけですよ。入力するのが少し面倒くさいですけど、それをやるだけで入ってくる。
「ノンフィーチャード・アーティスト」という枠に限られて、例外とかも色々あるんですけど、申告した人には優先的に分配されている。原盤制作に関わっていれば基本的にそうはなってるよ、っていうのは仲間に勧めています。簡単に3万円もらう方法って(笑)。
MPNの話などを他クリエイターの方々にしてみると、反応はどうですか?
こういう話をしてると、印税と何が違うの? ってたまに言われるんです。これはホワイトボードを使って分かりやすく説明しないと、たぶん分からないですよね。
印税って言葉がよくないですね、全部ひとまとめになってるので。本の場合だって「印税」と言うし、音楽の場合、著作権使用料と著作隣接権使用料とか、色んなものに分かれるので。こういう場合は印税、こういう場合は使用料っていうのを、ざっくりでも誰かが教えてあげないと。
「どうすればお金もらえるのか」をもっと分かりやすく説明する必要がある
制度も複雑で、専門的な用語もたくさんありますし、難しいですよね。
実は皆が知りたいのって、権利はどうでも良くて(笑)、「どうすればお金もらえるの?」ってところなんですよ。
だからそれをもっと分かりやすくする必要があると。編曲した人やプレイヤーでももらえるものがあるし、原盤を自分でリリースしてもらえるものもあるよって。不労所得を得るにはこれらの制度があるわけですよね(笑)。
例えば、自分のバンドで音楽作ってTuneCore(*6)でリリースした場合、こういった団体から何がもらえるのかっていうと、まず作詞作曲の印税、著作権印税がもらえます。でもTuneCoreは、JASRACかNexToneに登録している楽曲でないと著作権使用料を分配できないので、著作権印税をもらうには先ず団体に楽曲登録をしてください、と。
次に、「バンドメンバーの俺は作詞も作曲もしてないけど、ギター弾いてたら何もらえる?」って言ったら、じゃあMPNに登録してください、それで僅かですがお金来ますよ、と。
こういう感じで具体例を挙げて教えていかないと、みんな理解できないと思うんですよね。

著作権管理団体だったら2つありますし、出版社は無限にありますし。そういうシステムや大人をもっと利用しないと、クリエイターが自立して生きていくことは難しいかなと。
レコード会社とか出版社以外にも音楽収益を上げる方法はもう無限にあるので、ネット動画とか、時代的にそうですから、自立してできるはずなんですよ。
大人とか既存のシステムに頼らないでも全然いけるじゃん、っていう意識はみんな持ってると思うんですよ。自衛のためにも権利意識は若い人たちにも持ってもらいたいですね。
後編はこちらからご覧くださいませ!
取材・文:岩永裕史(Soundmain編集部)
【註】
*1 JASRAC(著作権管理事業者):作詞家・作曲家や音楽出版社など著作権者からの委託を受け、音楽著作物の利用の許諾、使用料の徴収・分配を行う著作権管理事業者。また海外の著作権管理団体とお互いのレパートリーを管理し合う契約も結んでいる。
*2 NexTone(著作権管理事業者):JASRAC同様に音楽著作物の利用の許諾、使用料の徴収・分配を行う著作権管理事業者。音楽を中心としたデジタルコンテンツを国内外の配信事業者へ販売するアグリゲーション業務も行っている。
*3 MPN(一般社団法人演奏家権利処理合同機構):アーティストやミュージシャンなどの実演家に、著作隣接権使用料等の分配を行っている団体です。演奏家団体に加盟するミュージシャンを中心に設立され、会員の権利に加えて、実演家全体の権利行使とその拡充をサポートするための活動を行っている。
*4 株式会社ジャパンミュージックデータ:総合音楽・映像データベース事業者。試聴音源・ジャケット写真等のプロモーション素材を、レコード店やECサイトへ提供している。
*5 フィンガープリント:指紋による人物の特定と同様に、音や映像から抽出した特徴データ(フィンガープリント)同士を高速に照合することで、音や映像を特定する技術。
*6 TuneCore:世界185カ国以上に配信可能な楽曲配信サービス。