
エド・シーラン「Shape of You」はレゴから生まれた!?(世界に学ぶ! Vol.2)
エド・シーランのために曲を作っていたら、「Shape of You」は生まれてなかったと思う
レゴのおかげで名曲が誕生!?
ニューヨーク・タイムズのYouTubeチャンネルで公開中の、ヒット曲の制作秘話をクリエイター自らが紐解く「Diary of a Song」シリーズ。
シリーズ「世界に学ぶ!」第二弾は、エド・シーランの大ヒット曲「Shape of You」がピックアップされている同シリーズの動画に注目。
「Shape of You」は、Spotify史上最も再生されている楽曲となり、ビルボード週間トップ10チャートに最も長い期間チャートインした曲として歴史に名を残す楽曲となった、まさに現代を象徴する1曲です。
この動画では、エド・シーラン、ジョニー・マクデイド、スティーヴ・マックの3人が 制作秘話を 包み隠さず語っており、楽曲制作に役立つヒントも沢山披露されています。
この曲は自分が歌うために作った曲んじゃないんだ
楽曲制作をした当日は、誰かのために曲を書こうと決めず、ただ曲を一緒に書いてみよう、というコライト・セッションをすることが目的だったそうです。
エド・シーラン(以下エド)「正直なところ、あまり考えずに作っていた曲だったんだよ。」
ジョニー・マクデイド(以下ジョニー)「セッションした時は、エドも「(直近の)作品で言いたいことは言ったから」っていう感じだったから、(あまり考えずに)ただ曲を書いてみようか、っていうスタンスで曲を作り始めたんだ。」
スティーヴ・マック(以下スティーヴ)「エド・シーランのために書こうと思って作っていたら、恐らく「Shape of You」は生まれてなかったと思う。」
(0:49~)楽曲制作のスタートは、曲の冒頭から流れるキーボード・リフからスタートしています。
エド「セッション初日にスティーヴが一番最初に弾いたのが、キーボードであのイントロのフレーズだったんだ。”いいね、ここから広げてみようか”ってなって。」
エド「この曲に使っているログドラムは、僕が曲作りの最初の段階で打ち込んだものなんだけど、(この曲には)ワールド系のサウンドが合うかな、と感じたんだ。」
(1:10~)
ジョニー「そうしたらエドが、ギターであのパーカッシヴなフレーズを出してきたんだよ。」
スティーヴ「正直なところ、エドはとてもせっかちだから(笑)、僕がドラムサウンドを準備することが待てなかったんだと思う。だから彼が「大丈夫、僕がギターでやっちゃうよ」って、あのフレーズを弾き始めたんだ。」
ジョニー「それをスティーヴがループさせてくれって言ってね。」
スティーヴ「エドが空のトラックにどんどんフレーズを重ねていって。その時点ではスタジオに入って15分くらいしか経ってなかったけど、すでに僕らは完全に作曲モードに入っていたよ。」
エドの歌がパーカッションなんだ
(1:50~)この曲のメロディーが色々な役割を持っていること、またなぜそういう形になったかが語られています。
スティーヴ「このキーボードのフレーズにメロディーを乗せるとすると、一番簡単なのが、キーボードのリズムに沿ってメロディーをつけることなんだ。こんな感じでね。でもエドは全く反対のことをしているんだよ。彼自身がパーカッションのようにね。それで更にグルーヴが増している。」
エド「大前提として僕はアコースティック・アーティストだし、ライブで演奏するときは他のミュージシャンがいない。だから楽曲を(ライブで演奏できる構成にできるよう)な構成にしておくのが好きなんだ。」
スティーヴ「彼自身が楽器ということだね。だから他に足す必要がないんだよ。」
そして楽曲制作には、エド専用の秘密兵器が使われたことが語られています。
エド「ジョニーは僕が楽曲制作する際のメインのパートナーなんだ。恐らく彼と一緒に200~300曲くらい書いたんじゃないかな。」
ジョニー「制作中にエドが注意散漫になってしまう時があるから、セッションしている部屋に彼を引き留めておけるように、レゴが沢山入ってるスーツケースを僕が持ってきてて。で、僕らが作業している時は「レゴで遊んでてよ」ってエドに渡すんだ(笑)。そうすると、少しの間レゴ作りに集中するんだけど、曲作りに戻ってきたときに、新鮮なアイデアを吹き込んでくれるんだよ。」
(3:05~)「Girl you know I want your love」の箇所の原型は、TLCの「No Scurbs」のオマージュが含まれていたことが語られています。
エド「この曲を書いているときに、この曲はR&Bな雰囲気を入れたいと思いついて。」
“シーツ”じゃないとダメだ
(3:26~)その後エドがメロディーと歌詞の基盤を作り、その後3人が微調整をしていきますが、議論の末にメロディーと歌詞が決まったことが明かされています。
ジョニー「この部分はエドの作曲方法の良い例だと思うんだけど、まずエドが、ノイズのような形でメロディーを歌り始めて、そしてある瞬間から、この曲を歌う人を見つけて、その人の人格で歌詞を含めて歌い始めているのがわかる。」
スティーヴ「エドは曲を作る際、どういう風なサウンドにしたいか、何を伝えたいかっていうことが頭に浮かぶタイプ。確か最初は“my t-shirt smells like you(僕のTシャツが君のような匂いがする)”っていう話だったんだけど、彼は「いや“シーツ”じゃないとダメだ」って言っていたんだ。
エド「オリジナル・バージョンでは“I’m in love with the shape of you(君の形に恋をしている)”とは歌ってなくて、“bed sheets smell like you(ベッドシーツが君のような匂いがする)”って歌ってるんだ。」
ジョニー「ベッドシーツはやめてほしいな……って思っていたね(笑)。」
もう1アイデア、何かがあるような気がしていて。
ジョニー「あと“I’m in love with your body(君の体に恋をしている)”だと、体だけを対象にしているようにも思えるから、うーんって感じだった。」
(4:39~)そこでエドとジョニーが、この部分の歌詞について議論しているところが録音されていました。
エド「“I’m in love with your body”が好きじゃない?」
ジョニー「好きだけど、もう少し詰めたいなと思ってて。もう1アイデア、何かがあるような気がしていて。」
エド:「言ってることはわかるよ」
(4:58~) “shape of you”というフレーズを、メロディーに組み入れようとしてエドが悩んでいる様子も録音されていました。
ジョニー「僕が住んでいたところでは“shape of you”っていうフレーズを使うことがあって、例えば“look at the shape of you”というのは、その人の存在全体を見るっていう意味なんだ。」
(6:27~)そしてここからは、アレンジを進めていくうえで必要だったのが、緊張と緩和であることが語られています。
エド「この曲はたったひとつのループが最初から最後まで鳴っているから、とても単調ともいえる。こういう場合は要所要所を磨き上げていくことが大事なんだ。」
ジョニー「最初の10秒を聴けば、この曲を概ね理解できると思うかもしれないけど、サビがくるとサプライズがある」
スティーヴ「とてもミニマルな曲だけど、アレンジが変わったときには、その変化がはっきりと聴こえるようになっている。ヴォーカル要素を少し重ねたり、ギターを重ねたり、あと少し色合いを足すためにメロトロンのサウンドを入れた。あとベースドラムをいれて重心を低くもしたね。
あとはクラップが16分で鳴っていて、リム・ショットも足した。リム・ショットだけが少しオフ・ビードに鳴っているんだ。というように、アレンジも飽きさせないようになっているし、ちょっと飽きてきたなと思うところで何か新しい要素が入ってきたり、もしくは抜かれていたりする。」
(6:45~)
エド「どんどん要素が足されていって、途中で抜かれて、でもってまた足されていって抜かれて、最後にはあんな感じになっている。」
ジョニー「あまり聴こえないかもしれないけど、下では色々と動いていて、緊張と緩和が繰り返されているんだ。」
何でこの曲を他のアーティストに渡してしまうんだい?
この日3人で作った曲は、他のアーティストにも提供されていることが語られています。
スティーヴ「“Shape of You”のあとに別の曲を作り始めて。」
エド「別の曲はFaith HillとTim McGrawのアルバムに決まったんだ。」
スティーヴ「で、2曲目の後にもう1曲作って。」
エド「あの日は沢山曲を書いたな。Liam Payneの作品にも決まってたね。」
スティーヴ「で、3曲目を作り終わったら彼が、「最初の曲をもう一回聴かせてもらえないか」と言ったんだ。」
「Shape of You」は他のアーティストに提供する予定だったところ、それを止めた人がいたことが明かされています。
ジョニー「この曲はデュエットがいいんじゃないかと思っていた。女性シンガーと男性シンガーで別々のメロディーを歌う、みたいな。」
エド「自分的にはルディメンタルがリアーナとデュエットするといいんじゃないかなって思っていたんだけど。」
スティーヴ「「この曲は自分で歌う曲じゃないかも」ってエドは言っていたね。」
エド「曲作りが終わってから別のスタジオに行ったんだけど、そこに自分のレコード会社のトップが来ててね。だから作った曲を彼に聴いてもらったんだ。そうしたら「何でこの曲を他のアーティストに渡してしまうんだい?」っていう反応で。」
自分は曲を書くのが好きなだけ
エド「ヒットする曲を選ぶ方法は自分ではわからない。自分は曲を書くのが好きなだけだからね。」
ジョニー「ヒット曲を作るのはロケット工学よりもっと複雑なものだからね(笑)」
スティーヴ「自分の人生のなかで、恐らく一番最高な1時間半の過ごし方だったんじゃないかな(笑)」
エド「トレンドを追うことはポップ・フィールドではよくあることだけど、自分は追わないようにしている。でもこの曲が自分のキャリアのなかで一番ヒットした曲になったから、自分は間違ってたってことになるね(笑)。」
<編集後記>
歌う人を想定せず、良い曲を作ろうと思ってスタジオに入ったこと。意見が違っても、皆で議論しながらベストなメロディーと歌詞のコンビネーションに辿り着けるよう努力していたこと。そしてレコード・レーベルのスタッフの意見も尊重していること…エド・シーランは、信頼できるクリエイターやスタッフに囲まれていて、クリエイティヴな作業に集中できていることが伺えますね。
文:岩永裕史(Soundmain編集部)