
グライムス、自分の声を元にしたAI音声ソフト「Elf.Tech」のベータ版を公開。 アーティストとの公式コラボ音源もリリース
かねてからAIの音楽活用について、肯定的な意見を表明していたグライムスが、自身の声をAIにカバーさせるAI音声ソフト「Elf.Tech」を5月に公開しました。現在ベータ版として公開されているElf.Techは、ユーザーが自分の声を録音したステムをアップロードすると、ソフトがグライムスの声に変換。それを使って、ユーザーはグライムス風のボーカルを使用した楽曲を制作できるというもの。またElf.Techでは、ユーザーがステムを使用して自分のAIグライムスモデルを訓練することも可能です。
グライムスはElf.Techの立ち上げとともに、AIが生成した自身の声を使った楽曲をリリースし、収益化した場合はそのロイヤリティを50%の割合で折半すると公言。「私たちはGrimesのフィーチャリングとディストリビューションを引き換えに、原盤使用料の50%の分配をお願いしています」と述べているほか、「私たちにはユーザーも出版費を得られるように組織できる小さな可能性がありますが、現段階ではまだその保証はできません。でも、できるといいなと思っていますし、実現できれば素晴らしいと思います」としています。
HOW TO MAKE MUSIC FEAT GrimesAI
— 𝔊𝔯𝔦𝔪𝔢𝔰 (@Grimezsz) April 30, 2023
– we can distribute it for you and you can earn royalties from your work: https://t.co/p598CXaXnD
またグライムスのチームによると、出来上がった音楽はすでにストリーミング・サービスで公開されているとのこと。グライムスのマネージャーを務めるDaouda Leonard氏は、Elf.Techの立ち上げが「信じられないような新しい創発的な創造行動」を呼び起こしたと述べるとともにベータ版のローンチからわずか2日間で1万5000人以上のユーザーが利用していることを明らかにしています。
Since launching GrimesAI-1 incredible new emergent creative behavior has taken off!
— DAOuda © 🧙🏾♂️👽 (@daoudaleonard) May 3, 2023
Total Users: 15,158
Avg. Daily New Sign-Ups: 1,225
Avg. Unique DAUs: 3,632
Avg. Audio Transforms/Hour: 250
Avg. Audio Transforms/User: 7
Total Audio Transforms: 19,316 voice transforms
そのうちの1人が、オーストラリア出身で現在はLAを拠点に活動する有名プロデューサー/DJのKitoです。
Kitoは、Elf.Techを使用して制作したAIグライムスとのコラボ曲「Cold Touch」を今年5月に人気レーベル「Mad Decent」から配信リリース。グライムスにとって初の公式AIコラボリリースとなる同曲は、Elf.Tech公開直後にKitoのSNSで公開されており、それを見つけたGrimesから“傑作”と賞賛されていました。
またファンやアーティストたちからも好評を博したことを受けて、グライムスとKitoは、同曲をAI Grimes初の公式リリースとしてリリースすることを決定。そのため、同曲にはElf.Techの使用に関する規定にあるとおり、“GrimesAI”という名義がクレジットされています。
Kitoによると「Cold Touch」では、ボーカリストのNina Nesbittが提供したオリジナルのボーカルパートがElf.Techを通じて、Grimesの声に変換されているとのことですが、Kitoは同曲について、次のように述べています。
「この曲は、愛を理解しようとするAIの視点から書かれた曲になっています。AIをクリエイティブな表現に使うというのはちょっと奇妙で厄介な関係だと思われています。人間がAIとどんな関わり方ができるかについては、実はまだよく分かっていないこともあって、現在のように状況が泥沼化しているのだと思います」
実在するアーティストの声を使った音声ソフトでは、今年DJ/プロデューサーのポーター・ロビンソンが自身の声をモデルにしたVOCALOID6専用のボイスバンク「Po-uta」をリリースしています。
「Po-uta」ではポーター・ロビンソンの歌声を使って音楽制作を楽しめますが、Elf.Techはある意味その延長線上にあるツールと言えるかもしれません。
最近では、無断でアーティストの声をAIに学習させて作るAI音声カバーに対するアーティストや音楽レーベルからの懸念が示されています。しかし、Elf.Techのようにアーティストの権利を侵害せずに公式にAI音声を活用したコラボができるようになれば、AIを活用した音楽クリエイティブの可能性が合法的に広がっていくはずです。
Elf.Tech
https://elf.tech/connect
文:Jun Fukunaga
【参考サイト】
Grimes launches AI software for you to mimic her voice in songs
https://musictech.com/news/gear/grimes-ai-software-mimic-elftech/
Grimes launches new software to mimic her voice, offers 50% royalties – News – Mixmag
https://mixmag.net/read/grimes-software-elftech-mimic-voice-percent-royalties-news