
Google、テキストから音楽を作れる音楽生成AIツール「MusicLM」試用版を公開
昨年、ユーザーが入力したテキストに応じて、AIが画像を生成するMidjourneyやStable Diffusionといった画像生成AIが注目を集めましたが、最近では同様のAIを活用したジェネレーティブAIが音楽の分野でも徐々に普及の兆しを見せています。その大きな足掛かりになりそうなツールが、今年1月にGoogleの研究部門である「Google Reserch」が発表した音楽生成AIツール「MusicLM」です。
MusicLMは入力された文章に応じて音楽を生成するA音楽生成ツール。28万時間におよぶ音楽のデータセットを用いて学習したAIを使用し、“非常に複雑”なテキスト記述からでも忠実性の高い音楽を作り出せるとされていますが、今年5月にGoogleは同ツールを試用できる体験版をついに公開しました。
現在、MusicLMは、ウェブ、Android、iOSの「AI Test Kitchen」(昨年8月にGoogleが公開した同社のAI分野における最新の成果を誰でも一定の制限付きで体験できるようにするアプリ)から試用登録することで利用できるようになっています。
MusicLMは、ユーザーによる「ディナーパーティーのためのソウルフルなジャズ」や「催眠術にかかるようなインダストリアルなテクノサウンドを作る」といった複雑な文章に応じて、そのようなスタイルの曲のバージョンをいくつか作成することが可能です。
また“エレクトロニック”や“クラシック”といった楽器のほか、求めている雰囲気、ムード、感情を指定することで、MusicLMで生成される音楽をよりブラッシュアップすることもできます。
Googleは、MusicLMの発表時にこのような音楽生成AIが生成した音楽には著作権侵害など倫理的な課題があるとし、「すぐにリリースする予定はない」と述べていました。しかしながら、Googleはこの数カ月間にわたり、ミュージシャンと協力しながら、ワークショップを開催するなどして、「この技術がいかに創造的なプロセスを後押しできるか」を確認してきたことで公開に至ったと説明しています。
一方で最近では無断で有名アーティストの声を使用したAI音声カバーが注目を集めており、これまでにはDrakeや音楽レーベルのUniversal Music Groupが懸念を表明していました。
MusicLMに関しては、そのようなAIとは異なり、特定のアーティストやボーカルの楽曲を生成することはできないため、その問題とは直接は関係しません。ただし、今後さらにAIの利用が一般化していく中では、このようなAIによるジェネレーティブ音楽に対する法律や倫理の面での懸念を示すアーティストや業界関係者も一定数いることでしょう。
例えば、アメリカの音楽出版社協会(Music Publishers Association)の法務インターンであるEric Sunray氏が執筆した白書では、MusicLMのようなAI音楽生成ツールは、“訓練で取り込んだ作品からまとまった音声のタペストリーを作成し、それによって米国著作権法の複製権を侵害する”という音楽著作権の侵害を主張しています。
一方で、ジェネレーティブAIを開発する企業の中にはその問題を認識している企業もあり、AIに学習させるための学習データを権利侵害にならないクリアランスが取れたものだけに限定するケースもあります。
AIに対しては、現在、先述したような懸念は確かにあります。しかし、一方でAIはアーティストの能力を拡張していく可能性を秘めているだけに今後はその技術を取り扱うAI開発企業がどのようにこの問題をクリアしていくのか注目していきたいところです。
MusicLM
https://aitestkitchen.withgoogle.com/experiments/music-lm
文:Jun Fukunaga
【参考サイト】
Google makes its text-to-music AI public | TechCrunch
https://techcrunch.com/2023/05/10/google-makes-its-text-to-music-ai-public/
Turn text prompts to music with Google’s ‘experimental AI’ MusicLM
https://musictech.com/news/gear/google-ai-musiclm-text-music-generator/