
アーティストの間でも賛否両論? 今、注目を集める有名アーティストの声を使ったAI音声カバーとは
昨年、MidjourneyやStable Diffusionといった画像生成AIやチャットボットのChatGPTが公開されて以降、世間の関心がAIに集まっており、最近ではAIに関するニュースは事欠かないようになってきました。
そんな中、AIが有名アーティストの音声を使って生成した音楽カバー音源が現在、SNSで話題を集めています。
これまでに公開されたカバー音源の中には、ドレイクの音声によるアイス・スパイスの楽曲「Munch」カバーやトラヴィス・スコットの音声でポップ・スモークの「For the Night」をラップしたもの、リアーナの音声でビヨンセの「Cuff It」を歌ったものなどがあります。
いずれのカバーもSNSで人気動画になりましたが、このようなカバーを可能にするAIボイスモデルは、アーティストの声を素早くサンプリングするだけでなく、そのアーティストの楽曲に似た歌詞を生成することも可能です。
しかし、このようなAI音声カバー曲が話題になったことを受けて、レコードレーベルのUMG(ユニバーサル・ミュージック・グループ)は、「特定のAIサービスが楽曲を所有する人々から”必要な同意”を得ることなく著作権のある楽曲をAIの訓練に使用していることを認識している」とコメント。
さらにAI生成音楽カバーを阻止することについて、同社の広報担当者は、「楽曲の無断使用を防ぎ、アーティストや他のクリエイターの権利を侵害するコンテンツの摂取をプラットフォームが阻止することは、アーティストに対して道徳的・商業的な責任がある」「プラットフォームパートナーがAIサービスをアーティストに害を与える方法で使用するのを防ぐことを期待する」と述べています。
またAIによる自身の音声を使ったカバーを公開されているドレイク本人は、この事態を受けて、InstagramでAI生成音楽カバーに対する懸念を表明。その投稿で「これがAIに耐する我慢の限界」というキャプションをつけて、UMGがAI企業にアーティストの楽曲にアクセスすることやその音源をもとにAIを訓練することをSpotifyやApple Musicなど音楽プラットフォームに対してブロックするよう要請したことを伝える記事の画像を投稿しています。
こういったアーティストやレコードレーベルからの懸念が示される一方で、ドレイクと同じくAIによる自身の音声を使ったカバーを公開されているリアム・ギャラガーは肯定的な意見を表明しているアーティストの1人です。
リアム・ギャラガーは、AIによる自身の音声を使った架空のオアシスのアルバム『The Lost Tapes』を聴いた感想として、「アルバム全曲ではないが1曲は聴いたことがある」と回答。さらに「めちゃくちゃすごいサウンドだ」と述べています。
また2020年にNFTが音楽シーンでも注目され始めた頃にいち早くNFTアートを公開するなど、最新テクノロジーにも強い関心を持つグライムスもAI音声カバーに対して、肯定的なスタンスを表明しています。
グライムスは、AI音声カバーについて、「私の声を使用したAI音声音源のうち、成功した曲については、コラボするアーティストと同じ条件で、ロイヤリティの50%を分け合いたいと思います。罰則なしで私の声を自由に使ってください。私はどのレーベルにも所属していないので、法的な拘束はありません」と、ほかのアーティストよりも一歩深く踏み込んだ意見をSNSに投稿しています。
AIは人間の能力を拡張する一方で、訓練に使われる学習データについては現在、著作権や倫理観の問題において、専門家たちの間でもさまざまな意見があります。
そのような傾向を受け、最近のAI搭載音楽制作ツールでは、クリアランスが取れた学習データを使用していることを明らかにしているものも増えてきた印象があります。
楽曲のオリジナリティがどこに帰属するかという観点でいえば、サンプリングという手法についても、生まれた当初から現在に至るまで徐々にクリアランスに関する意識や制度が整ってきた歴史があります。AIの活用についても、今後サンプリングと同じような対処が求められるようになるのではないでしょうか?
文:Jun Fukunaga
【参考サイト】
UMG releases statement following viral AI “fake Drake” track
https://musictech.com/news/industry/universal-music-group-drake-ai-music/
Band create entire Oasis album using AI
https://musictech.com/news/music/oasis-ai-album-aisis-breezers/
Grimes on AI: “I think it’s cool to be fused with a machine”
https://musictech.com/news/industry/grimes-ai-royalties-without-penalty-tweet/