2023.04.14

CISAC会長ビョルン・ウルヴァース氏が登壇。音楽著作権管理の国際的取り組み「GDSDX」の稼働も予告された会見をレポート

著作権協会国際連合(CISAC)と日本音楽著作権協会(JASRAC)による共同記者会見が4月6日開催。著作権管理におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みについてのプレゼンテーションが行われました。

会見には、スウェーデンのポップグループ「ABBA」のメンバーであり、2020年5月からCISACの会長に就任したビョルン・ウルヴァース氏が登壇。自身がヒットチャーットの最前線を駆け抜けていた1970年代の話から切り出し、

「当時、自分たちは曲を作り終えた後は自分たちの持っていた出版社にすべてを任せ、その後のことは全く知らない状態でいられました。楽曲がヒットし、ロイヤリティーが入るようになり、その収入でフルタイムで作曲に取り組み、さらに腕を磨いていくことができました」

「しかし10年ほど前、様々なクリエイターと話す中で、デジタル時代において物事はカオスのようになっていることを知りました。デジタル配信をする際に、作曲に関わった人の名前、メタデータが整っていないと、本来支払われるべきところにロイヤリティーが支払われないということが起きてしまいます。そのために才能豊かなソングライターが、生計を立てるために他の仕事をしないといけないこともあると知ったのです。同じソングライターの仲間として自分に何かできないかと思った矢先、CISACの会長にならないかとオファーを受け、承諾しました」

と語りました。

左から、CISAC事務局長のガディ・オロン氏、ビョルン・ウルヴァース氏、JASRAC理事長の伊澤一雅氏。

その後、CISACの事務局長ガディ・オロン氏が登壇し、CISACについて

「JASRACを含む118ヶ国、230の著作権管理団体を傘下に置く組織で、各団体に入会している400万人以上のクリエイターを代表しています。クリエイターの中には歌手やソングライターはもちろん、映画監督、脚本家、ビジュアルアーティスト、文芸作家といった人たちも含まれています。著作権使用料を徴収し、クリエイターに対して分配することが主なミッションです」

「デジタルマーケットによって国境がなくなってきており、あらゆる楽曲をあらゆる機会に演奏することができるようになってきています。そんな中、ロイヤリティーの正確な分配を行うためにはテクノロジーの活用が不可欠です。CISACが持っている中央集中型のシステムは、各団体間のネットワーク、分配をサポートします。この集中的に付けられるコードがISWC(国際標準音楽作品コード)です」

と説明しました。

続いて登壇したJASRAC理事長の伊澤一雅氏は、まず昨年10月にサービスを開始した、ブロックチェーン技術を活用した存在証明機能を備える楽曲情報管理システム「KENDRIX」について説明(KENDRIXの詳細については以下の記事もご覧ください)。

さらに今年5月稼働予定の、韓国や台湾、東南アジアなどの音楽著作権管理事業者と開発を進めるシステム「GDSDX」についても触れ、

「(GDSDXは)各地域の著作権管理団体がそれぞれに有している、自分たちでし集めたメタデータ、それを団体間で共有するというものです。メタデータから識別子が失われてしまった場合に頼りになるのは、作品名やクリエイターの名前など、文字情報としてのメタデータです」

「しかし、アジア地域においては、それぞれの地域が独自の文字体系を有しています。文字の表示形式が異なることで、グローバル展開する配信サービスから報告を受けても、必ずしもそれぞれの地域の団体が正確に楽曲を特定できないという課題がありました。それを共通の識別子を用いてマッチさせる取り組みがGDSDXであり、GoogleやAppleなどのグローバル展開を行うサービスからも賛同を得ています」

と説明しました。

CISACのオロン氏はこれを受けて、「この“熱”をヨーロッパやアメリカなど、(アルファベット文化圏の)他の地域にも広げていきたい」との思いを語りました。

なお、同日には「CISAC・JASRAC クリエイターズセミナー」も開催。グローバルプラットフォームの台頭や生成AI、ブロックチェーンなどの新規テクノロジーとクリエイターが直面している課題について、現役アーティストとしての視点も交え、ウルヴァース氏が識者と語り合いました。

セミナーの模様は全編YouTube公開もされているので、気になる方はぜひチェックしてみましょう。

文:Soundmain編集部