
TikTokのAIデザイナーが語る「AIがソングライターを失業させることはない」その意図とは
MidjourneyやStable Diffusionといった画像生成AIが登場したことで、一般的にもジェネレーティブAIに注目が集まっています。
音楽シーンでも最近ではBoomyやFIMMIGRMといったAIによる自動作曲サービスがにわかに注目を集めており、音楽制作シーンにおけるAIの活用は、従来のAI搭載プラグインなどに見られた作曲アシストツールの枠に留まらない状況になりつつあります。
ジェネレーティブAIの登場により、「もしかしたらクリエイターの仕事がAIに奪われることになるかもしれない」という、危機感を覚える声を聞くことも少なくありません。しかし、TikTokのAIデザイナーであるEd Newton-Rex氏は、最近のインタビューで「AIがソングライターやミュージシャンを失業させることはなく、逆に音楽ビジネスにとって『非常に良いこと』だ」という見解を示しています。
Ed Newton-Rex氏は以前、AI音楽制作プラットフォーム「Jukedeck」を構築し、2019年にTikTokに売却。最近では、先述のStable Diffusionで知られる「Stability AI」でオーディオ担当のVP(バイスプレジデント)を務めています。
数年間にわたり、AIや音楽テクノロジーに携わってきた経験を持つEd Newton-Rex氏は、音楽におけるAIの議論について、「この技術がアーティストの仕事を奪うこともなければ、人間らしさを奪って音楽をダメにすることもない」と述べています。
また、自身が2010年代初めにあるディナーパーティーでの議論で、“音楽が生来の生身の人間のもの”であり続けることを望んでいるある人から、自分が取り組むAIの試みが失敗することを望んでいる、と言われたと述べています。
そのような意見について、Ed Newton-Rex氏は次のように語っています。
「それは確かに、音楽業界の何人かの人たちから聞いたことのある意見です。しかし、私は音楽業界の中でも、全く異なる見解を持つ人たちをたくさん知っています。そういう人たちこそが、ジェネレーティブAIが音楽ビジネスにチャンスをもたらす可能性に気づいている人だと思います。この分野で働く人で、(AIが生成する)音楽が音楽業界にとって脅威となることを望んでいる人には会ったことがありません。ほぼ例外なく、この分野で働いている人たちは、私と同じようにミュージシャンです。そして、私たちの友人もミュージシャンです」
またEd Newton-Rex氏は、最近自分でChatGPTを使って歌詞を作成した曲を作曲したといいますが、その経験からも次のように自身の見解を述べています。
「これから音楽家がAI技術しか使わず、人間の作詞家が失業するようになるようなことは絶対にありません。AIが最も力を発揮するのは、ミュージシャンが数え切れないほどさまざまな方法で使うツールになった時です。率直に言って、その方法の中には、現役でこの業界で働いている私のような人間でさえ、まだ予測できないような方法も含まれているはずです。10年後に振り返ったとき、AIは音楽ビジネスにとって実はとても良いことだったと思うのではないでしょうか?」
なお、AIが「クリエイティブな仕事を奪う」というAI脅威論に関しては、以前Soundmainが行ったAI研究者であり、アーティスト、DJでもある徳井直生さんへのインタビューでも見解をお伺いしています。
今回、ご紹介したEd Newton-Rex氏の見解と合わせて徳井さんの見解に目を通しておくことで、音楽クリエイティブとAIの活用の可能性にも興味が湧くはずです。
文:Jun Fukunaga
【参考サイト】
He built TikTok’s music AI tech. But he says robots will never replace human songwriters. – Music Business Worldwide
https://www.musicbusinessworldwide.com/podcast/he-built-tiktoks-music-ai-tech-but-he-says-robots-will-never-replace/