
アリアナ・グランデ「thank you, next」解体新書(世界に学ぶ! Vol.1)
ラップの歌詞を紐解くサイトとして2009年にローンチし、今では毎月1億人がアクセスするとも言われている音楽オンライン・コミュニティー「Genius」。
GeniusのYouTubeチャンネルには650万人以上が登録しており、その中でも「The Making Of~Deconstructed」という、楽曲を制作したクリエイター自らが制作秘話を披露するシリーズが人気。
『世界に学ぶ!』シリーズ第1回となる本記事では、その「Deconstructed」シリーズから、アリアナ・グランデの「thank you, next」が解体されているエピソードをピックアップし、プロデューサー達が何を語っているかを紐解いてみる。
「thank you, next」 は2018年11月にビルボードHot100の1位を記録し、アリアナ・グランデのキャリア初の1位にもなっているが、歌詞で過去の恋愛に赤裸々に触れたことでも話題に。
この楽曲がどうやって生まれたのか、またどのようにレコーディングが進んでいったかなど、クリエイター目線で知ることが出来る貴重なドキュメンタリー映像となっている。
楽曲を紐解くのは、トラック制作をしたプロデューサー・ユニット「ソーシャル・ハウス」と、メロディー・歌詞を共作しているプロデューサー、トミー・ブラウン。
ソーシャル・ハウスは、マイケル“クレイジーマイク”フォスター(画面真ん中)と、チャールス“スクーティー”アンダーソン(画面左)によるユニットで、ロサンゼルスをベースに活躍中。2015年に発表された『Christmas & Chill』で、初めてアリアナの作品に参加している。
またトミー・ブラウン(画面右)は、アリアナのファーストアルバム「Yours Truly」から楽曲を共作しているプロデューサー。
アルバムのための楽曲制作セッションは、ビヨンセやマライア・キャリーもレコーディングしたことのあるニューヨークの「Jungle City Studios」でスタート。セッションがスタートして数日後、アリアナとプロデューサー陣が、彼女が今どういう人生を歩んでいるのか、どういう局面にいるのか、また楽曲を通じて何を語りたいかなど話したそう。
(1:11~)
マイキー「本音で語り合えた時間だった。プロデューサーや作家という立場ではなくて、彼女の友人として、当時彼女が感じていたことに共感できたし、どうすれば(曲を通じて)彼女の思いを表現できるだろうか、ということを考えたよ」
トミー「彼女は新曲を新鮮な雰囲気を持った曲にしたいと思っていた。「グッド・ヴァイブが欲しい」って言ってたよ。で、マイキーとスクーティーとスタジオに入って作業し始めたんだけど、マイキーが既にコードのループを持っててね。それがヤバかったから、もう少しブラッシュアップして、彼女に聞かせに行ったんだ」
[1:36]で聴くことができるシンプルなコード展開のループから制作がスタート。コード展開の上にメロディアスな単音の旋律を乗せ、XLN Audioのレトロなエフェクトをかけてキーボードの音色を立たせているそう。
(1:54~)
トミー「人生わからないことだらけだけど、聴く耳には自信がある。ループを聴いたらすぐに曲が持つ”時刻”がすぐにわかった。アリアナ(と他の作家)に聴かせたら彼女達は直ぐにループに合わせてメロディーを作り始めたよ。マイキーとスクーティーが既にビートも乗せてくれてたからね」
スクーティー:「パーカッションを少し入れることで、ループに息を吹き込んで際立たせたかったんだよね」
トラックの作業としては、その後にベースラインを決める作業に入る。エネルギッシュで、楽しい感じを出すために、少しスライドするシンセ・ベースでベースラインを作ってみたが、マイキーが最初にこのベースラインを作ったとき、これでいいのか疑問を持っていたそう。
(3:00~)
スクーティー「マイキーが、「このベースラインだとシンプル過ぎるかもしれないから、違うかもなぁ」って俺に言ったんだけど、俺は彼の目を見て「いやおかしいでしょ、これでしょ」って言ったんだよ(笑)」
マイキー:「(笑)。あと僕らが曲を作るときは、スクーティーの808サウンドをいつも入れてるんだ。彼が作った808サウンドはヤバいんだよ、だからいつも使ってしまうんだ」
その後には更にドラム・サウンドを相当数重ねているとのこと。
(3:39~)
マイキー「僕らはレイヤーを重ねるのが好きなんだ。少し空間が空いてるなと思ったら、そこだけに違うスネア・サウンドを入れたり、逆に空間を空けたりね」
[3:54]で、数多くのレイヤーが存在するサビのドラムループを聴くことができる。
(3:57~)
スクーティー:「僕らが叫んでるのが聴こえるでしょ」
マイキー:「そう、実際に「Huh! Yep! Labba labba labba!」って叫びながら録ったんだ(笑)」
ブリッジ(Bメロ)では、同じコード展開をキープしたいと思いつつも、同じサウンドにはしたくなかったとのことでキーボード・セクションを変更、サウンドのトップの部分をフィルターで加工し、隠れるような感じで曲に収まるようにしているとのこと。
また最後のセクションでは、パーティーがまだ続いていることを表現するために、ミュートしていたドラムも全て戻し、楽しい感じを作り出している。
(4:51~)
トミー「楽しいことが嫌いな人なんていないからね」
そしてトラックが完成した際にアリアナに聴かせたところ、驚いたことが起こったという。
(5:30~)
トミー「僕ら的に「トラックができた!名作の誕生だ!アリアナに聴かせようぜ!」ってなって聴かせたんだ。そうしたら彼女が、コードが間違ってるって指摘したんだよ。「え?僕にはそう聴こえないけど」って感じだったんだけど」
マイキー「実際に、セッションの各トラックの音を文字通りひとつずつ確認していったんだ。そうしたら、かなり薄く入れてたキーボード・サウンドの音符が一箇所だけ間違ってたんだよ。彼女がどうやって聴き分けられたのか、僕にもわからない」
スクーティー「音楽の天才だよね」
ライティング・セッションは、トラック制作がおこなわれている部屋と、メロディーを作りながら歌をレコーディングしている部屋とで別々で進行していたとのことで、部屋間で曲の進行状況がシェアされながら進んでいたそう。メロディーや歌詞制作には、アリアナも頻繁にコラボレートしているライター、テイラー・モネとヴィクトリア・モネが参加している。
(6:10~)
スクーティー「(ヴォーカル周りが出来たタイミングで)トミーがトラック制作の部屋に入ってきて、「ヤバい、これ聴いてよ!」って言ってたことを覚えてる。「え、そんなにヤバいの?」って」
トミー「あそこまで正直に自分の気持ちを曲に反映するっていうのは、とても勇気のいることだと思う」
マイキー「僕らにとっても特別な1曲になったし、彼女がこの曲は凄いって言ってくれたから、僕らが言わなくてもいいよね(笑)」
トミー「ライティング・セッションが始まる前、僕もアリアナも、親しい友人の件で辛い時期を過ごしていたこともあって、彼女に、「次のアルバムは今までで一番凄いものになるよ」ってメールしたんだ。そうしたら「どうして?」って彼女が返事してきたんだけど、「君はリスナーに伝えることが沢山あるからさ」って答えたんだ」
そして1週間後にニューヨークで皆が合流し、ライティング・セッションがスタートしたとのこと。そしてこの曲が誕生する。
(7:06~)
マイキー「ヴォーカルがフィックスしたバージョンを初めて聴いたとき、「これは美しい曲だ、この曲で何かが起こる」って瞬時に悟ったね」
<編集後記>
ネット経由で楽曲を共作する“ネット・コライト”が盛んに行われている中、多忙を極めるトップクラスのアーティストが、作家そしてサウンド・プロデューサーと一緒のスタジオに入り、友人のような近い距離で楽曲を楽しく作り上げていったスタジオの雰囲気が、楽曲にも感じれるような気がしますね。
文:岩永裕史(Soundmain編集部)