
トラックメイカーのための音楽理論|第9回 メロディの理論④ ハモリの構築法
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第7回では、メロディとコードの位置関係について学びました。大事なところをかいつまむと、まず音と音との距離を「度」という単位で表すこと。

それからコードに対するメロディの位置取りは、奇数度か偶数度かというのが大きな分かれ目になるということ。

今回はさらに一歩踏み込んで、メインメロディに沿って音を重ねることでメロディラインを補強する、いわゆる「ハモリ」のあて方について見ていきます。
こんな風に主メロに合わせて歌われるハモリは歌モノの定番ですが、伴奏・主メロ・ハモリの3つをすべて調和させないといけませんから、ハモリのライン作りは地味に難しいところがあります。こういうときこそ理論的に情報を整理することで理解が捗るでしょう。
度数と協和
今回は主メロとハモリという2音のハーモニーについて考えるので、2音を同時に鳴らしたときの調和ぐあいについて先に確認しておきましょう。

2度や7度は、サウンドに濁りが生まれる不協和な音程です(オレンジ色で図示)。主メロとハモリがこの距離関係になってしまうと互いに衝突するような形になるので、ハモリではなかなか使われにくい度数です。
残る3~6度は基本的にいずれも協和して澄んだサウンドを生む音程なので、ハモリ作りの際にはこの4種類を主に用いていくことになります。
なお上図ではドを基準にしましたが、どの音であっても度数による協和・不協和が変わることはありません。
3度のハモリ
中でもハモリには“ド定番”と言えるくらい定番の型があって、それが主メロに対して3度の位置関係でハモる「3度ハモリ」です。
例えばこのような「ミファソファミ」というメロディに対し、3度下に離れたハモリをつけるとすると、そのラインは「ドレミレド」となります。
この2つのメロディを同時に重ねると、次のようになります。

これが「3度下のハモリ」です。逆に主旋律の3度上でハモるなら、「ソラシラソ」というラインになります。

こちらもよく調和のとれたハーモニーが作れています。コードを作る時の「ドミソシ」といった“ひとつ飛ばし”の配置、この時の各音の間隔が3度でした。そういった点から見ても、3度というのは響きのよく調和する音程であることが伺えます。
上ハモと下ハモ
主旋律よりも上の位置でハモるか下の位置でハモるかは自由であり、それぞれ俗に【上ハモ】【下ハモ】と呼ばれます。
音響的に言えば、上ハモはメインメロディよりも高い位置で演奏をするため、良くも悪くも音が目立ちます。メロディ全体が華やかに聴かせられる一方で主メロの邪魔をしてしまう可能性もあるので、うまく音量バランスをとってあげる必要があります。
またそれとは別に、伴奏と調和させるために下ハモの方が合う、上ハモの方が合うといった状況の違いがあるので、そこを次に確認していきましょう。
3度下と4度下
ハモリを主メロに調和させるだけなら、ただ3度の距離を保てばいい。しかし現実には伴奏というもう一つの要素があるため、ハモリは伴奏に対しても気を使わないといけません。
例えばCメジャーキーで伴奏のコードとして「ドミソ」が鳴っている状況で、メロディがそのルート(1度)であるドの音で伸ばしているというシチュエーションは頻繁に訪れます。

この場合に、3度下でハモリを入れようとするとラの音をとることになりますが、ラはドミソのコードに対して6度、偶数度の位置付けとなってしまいます。

偶数度はコードに濁りを生む度数です。状況にもよるものの、主メロがしっかりと奇数度で安定した展開を作っている時にハモリが単独で濁りを出すというパターンが望まれることはあまりなく、自然に聴かせたい場合にはこのハモり方は避けた方が好ましいです。
代替案としての4度ハモリ
ではどうハモリを動かせばいいのかというと、ラのすぐ下のソが候補になります。ソはコードにとって5度の音で、コード構成音のひとつですから、全く問題なく調和します。先ほどは「ドシラ」と進んだところの最後を変えて「ドシソ」とすればいいわけです。

改めて主メロとの関係も見てみると、主メロのドに対してソの音は「4度下」となります。この4度という距離も、よく協和する音程でした。そのためこのハモリは伴奏に対しても主メロに対しても相性のいい最適な選択であると言えます。
今回はドミソのコードを例にとりましたが、他のコードでも原則的には同じことが言えます。主メロがコードのルートで伸ばしている時、その下方でハモるなら3度下ではなく4度下の方が全体が調和する。
あるいはこのような回避策をしなくて済むように、そもそも下ハモでなく上ハモを選ぶという方法もありますね。

やはり一箇所だけ4度ハモになってしまうよりは3度で一貫した方が統一感やまとまりの面では勝ります。上ハモ/下ハモを選択する際にはこのように、「下ハモだと肝心なところで4度に逃げないといけなくなるから、上ハモにしておこう」と逆算して考えるのも有効な手です。
3度上と4度上
同じようなシチュエーションは、上ハモの場合にも起きます。例えばドミソのコードに対しメロが5th(5度)の音であるソで伸ばすような場合、その3度上でハモろうとすると、これはシの音、すなわちコードにとって7th(7度)の音となります。

7度は一応奇数度に分類されるものの、多少濁りを生み複雑なサウンドをもたらすという話を第5回にて述べました。ちょっと大人っぽい感じの雰囲気を出す場合ならこの7thのサウンドはぴったりですが、逆に素朴に聴かせたいような場面では、ハモリが7度をとるのは悪手になります。
代替案としての4度ハモリ
これを避けたい時にはやはり先ほどと同じで、3度ではなく4度にハモリを変更すると全てがうまくいきます。

7度であるシの音をひとつ上にずらしてあげると、これはルートであるドの音になります。コードともしっかり調和し、主メロとも4度という距離はきちんと協和しますから、ほしかったシンプルなサウンドが得られて万事解決という感じです。
実際に冒頭に載せたゆずの「栄光の架橋」でも、この原則にしたがって3度上と4度上が使い分けられています。
ただし、こうした配慮を要するのはあくまでメロディを長く伸ばすなど1音が目立つような場面に限ります。第7回でもメロディに関して「偶数度をちょっと通過する程度では大した刺激にはならない」と述べましたが、ハモリについても同様で、短い時間であれば偶数度が鳴ったとてそれが嫌な濁りとして聴こえる心配はまずありません。
主メロが偶数度の場合
上では主メロが奇数度で伸ばしている事例を取り上げましたが、逆に主メロ自体が偶数度で伴奏との間に濁りを形成している場合はどうでしょうか?

この場合ハモリは偶奇どちらも選択肢としてありえて、偶数ならこれは主メロと一緒に二人がかりで曲想を不安定な方向に傾けるという、いわば“攻め”のスタイルになります。

逆に奇数を取れば、これは主メロが不安定なぶんハモリの方はそれ以上濁りに加担せず、コードとの調和を保とうという“守り”のスタイルになります。

この辺りまで来ると、偶数度といっても具体的に何度なのか、コード自体は何のコードなのかといった状況も関係してくるので、かなりケースバイケースです。やり方が決まっているというより、濁りの多寡という原則から作りたい曲想に合うよう自分でコントロールしていくものだと考えてください。
6度のハモリ
では3度・4度以外のハモリについてはどうでしょうか? これは実は3度・4度の応用から考えられます。
例えばドレミという主メロに対して3度上でミファソとハモろうとして、しかし音域が高すぎて歌いづらいという場合もありますよね。そんなときには、1オクターブ下に音を下げて歌いやすくするという対処法があります。

1オクターブ下げた結果、主メロとハモリの度数関係はどうなっているでしょうか? 測ってみると、これが6度になっていることがわかります。

この観点からして、「6度下」のハモリは「3度上」のハモリと音楽的に類似した存在と言えるのです。伴奏に対する偶数/奇数の状態などもこの二者は必ず一致しますから、3度上ハモリがうまく行く場面であれば6度下のハモリもうまく行くことが(基本的に)保証されます。
同様にして、「3度下」のハモリは「6度上」のハモリとペアの関係になります。

ただし類似しているとはいえ距離が異なる以上は聴覚上の印象にも多少の違いがあるので、これもまた状況や好みによって使い分けることになります。
5度のハモリ
全く同じ考え方で、4度と5度もペアの関係にあります。4度下のハモリをオクターブ上にすれば5度上、4度上のハモリをオクターブ下にすれば5度下です。

4度があまり積極的に使う度数でないように、5度もハモリの主軸にするような度数ではないですが、偶発的に登場したとしても何ら問題ありません。
4度・5度ハモリの活用
ここまでは古典的なハモリのスタイルとして3度中心の方法論を説明してきましたが、あえて4度・5度のハモリを連続させてみると、それはそれで面白い音響が生まれます。
こちらはメインメロディもハモリもストリングスから成るインスト曲で、ハモリをほとんど4度下につけ、たまに5度下も交え、基本である3度・6度を全く使用しなかった例です。
このようなハモリ方は一般的ではないですが、「ゆったりなストリングスに激しいビート」という組み合わせ自体が一風変わっていますから、この特殊なハモリもストリングスをあえて普通でないように聴かせるための工夫であると肯定的に見ることも十分できます。
試しにハモリを3rd中心の古典的なものに戻してみると……
ほんの僅かな差ですが、こちらの方がポップスで聴き慣れた耳馴染みのよいものになりました。ただ作品として総合的に見たとき、ここで“普通”を選ぶことが“正解”なのかは分かりません。音楽理論は定石を教えてくれはしますが、定石に従うべきかは状況に応じて判断する必要があります。
まとめ
ハモリの構築においても偶数/奇数という観点が鍵になることが分かりました。また音どうしの度数関係を把握できるようになると、ハモリに限らず編曲のあらゆる場面でサウンドの澄み/濁りを自由にコントロールできるようになります。
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著者プロフィール
吉松悠太(Yuta Yoshimatsu)
サウンド・GUIデザイナー/プログラマー、ピクセルアーティスト、音楽理論家。慶應義塾大学SFC卒業。在学中に音楽理論の情報サイト「SONIQA」を開設。2018年に「SoundQuest」としてリニューアルし、ポピュラー音楽のための新しい理論体系「自由派音楽理論」を提唱する。またPlugmon名義でソフトウェアシンセのカスタムGUIやウェイブテーブル、サウンドライブラリをリリースしている。2021年にはu-he Hive 2の公式代替スキンを担当。Soundmain Blogでは連載「UI/UXから学ぶDAW論」も執筆。
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