2023.02.09

mekakusheインタビュー さまざまな対象への「あこがれ」を詰め込んだニューアルバムをアレンジャーと紐解く

2月8日にニューアルバム『あこがれ』をリリースしたシンガーソングライター・mekakushe。ピアノ弾き語りによる親しみやすい歌メロを軸に、随所で繰り出される実験的なサウンドは、Soundmain Blog連載「エッジーなエレクトロニック・サウンドを求めて」に登場してくれたミュージシャンを筆頭とした現行インターネット音楽シーンとの共振性も感じさせる。近年は『アイドルマスター』シリーズなどへの楽曲提供でも活躍する彼女は、自身の楽曲のアレンジはすべてアレンジャーとの二人三脚で行っているという。そのサウンドがどのように形となっていくのか探るべく、今作中最多の4曲のアレンジを担当したアレンジャー、ハヤシコウスケ(シナリオアート)も同席の上、インタビューを実施した。

『あこがれ』というアルバムタイトルに込められた、「誰かとともに作る」ということの本質に迫るインタビューになったと思う。ぜひ作品を聴き込みながら読んでみてほしい。

mekakushe『あこがれ』Trailer

想定していなかったアレンジが届くのが一番楽しい

あらためて過去のインタビューを読み返してきました。mekakusheさんは音楽的なバックグラウンドとして、アカデミックな教育を受けられていたんですよね。

mekakushe 3歳からピアノを始めて、中高大とピアノのクラシックの勉強をしていました。ポップスの勉強は独学で、あくまでクラシックの勉強をしてきたという感じです。

いわゆる、譜面を読んで書いて、という。

mekakushe そうですね。クラシックの作曲家が残した曲を楽譜通りに弾く、そういう勉強をずっとしてきました。でも、「譜面って何なんだろう」とずっと考えていて。自分が弾きたいように弾きたくてもそれが良しとされない……初期の古典派とかバロック時代は特にしっかり譜面通りに弾かなければならなくて。たとえばフランス音楽や印象派は、比較的演奏の自由度が高いため好きでした。武満徹さんや三善晃さんなどの現代音楽、あとは合唱曲とか。ポップスに走ったのも、そこから繋がっているのかなと。

主旋律が「歌える」ということは、ポップスとして音楽を成立させる上でとても重要だと思います。mekakusheさんの活動の中で、歌にはどのくらいの比重があるんでしょう。

mekakushe 歌うことは好きだし、ピアノを弾くことから音楽が始まったのでそれももちろん大事なんですけど、一番楽しいのはやっぱり作詞作曲だなと思いますね。「自分を表現する」みたいな点で言うと、作詞作曲が一番できる気がしていています。ここ1年半くらいはアイドルグループや声優さんへの楽曲提供もするようになり、日々曲を作る中で、誰か素敵な人に歌ってもらえる機会があるということ自体がすごく嬉しいので、天職だなと思っています。

ご自身が演奏するとか、ステージに立つとかいったことについてはどうでしょう。

mekakushe 自分が作った曲だから絶対に自分で歌いたい、というのは思わなくて。もちろんそういう曲もあるけど、誰かに歌ってもらうこともとても嬉しいことだし、自分とはまた違う音楽になるというのがすごく楽しいので、いろんな形で伝えていけたらそれが嬉しいです。

それは初期からずっとそうなんですか?

mekakushe いや、10代の頃は「自分の音楽は自分だけのもの!」って思ってたかもしれないです(笑)。何があったかはっきりとは覚えていないんですけど、今は様々なクリエイターの人と関わる中で、いろんな人に自分の音楽に携わっていただくのが嬉しいなって考え方に変わっています。

自分の曲に関してはご自身でアレンジされないとのことでしたが、それはどうしてなのでしょうか?

mekakushe 自分が想像していなかったものが返ってくるのが一番楽しいからですね。レコーディングでもなんでも、その道のプロフェッショナルな技術があって、やろうと思えば自分でなんでもできる時代だからこそ、誰かと一緒に作り上げることがすごく大事だと思っていて。そのほうが独りよがりにならないですし、自分が想像していなかったものが返ってくる喜びだったり、その中にクリエイティブな新しさがあると思うんです。

アレンジャーさんとのやり取りはどのようにされていますか?

mekakushe 譜面は一応書けるけど、ポップスの活動をする中で重要性を感じたことはないのでやっていないですね。それよりもコードだったり、MIDIで表現できる範囲のことを練り込んでいくのが大事だなと。

MIDIの打ち込みというのは、どのくらい細かいレベルまでやっているんでしょうか。

mekakushe 最近、提供する楽曲に対してはアレンジを少しずつ自分でもするようになっています。自分の曲はピアノの部分をしっかりとMIDIで再現すること……弾き語りをMIDIで打ち込むことに注力しています。

打ち込む時はピアノをずっとやられていた経験で、MIDIキーボードなどを使ってされていくんですか。

mekakushe そうですね。MIDIで画面上に打ち込んでいくことの面白さは、一回弾いたものを「ここにもうちょっとこの音があったらよかったのかも」みたいに、客観的に見つめ直せて、弾き語りからバージョンアップしたものを作れるところだなと思います。弾き語りで録音すると、もちろん修正も効かないし、すごく手癖だらけになりますよね。打ち込みなら一回弾いてみて、修正の中で、この響きだったらもしかしたら面白かったんじゃないかな、とか試していける。ちなみにソフトはStudio Oneを使っています。

二人三脚で探るサウンドのスイートスポット

今回のアルバムにはハヤシさんも含め複数のアレンジャーさんが参加されていますが、こういう曲だから、こういう歌詞だから、この人にお願いしたいという展望は最初から明確にあったんですか?

mekakushe 前回のアルバム(『光みたいにすすみたい』)ではひとりのアレンジャーさんに10曲全部お願いしていたんですが、今回はアルバム単位のコンセプトとして、いろいろな人にお願いしてみたいという風にまず思いました。この曲はこういう雰囲気にしたいから夏bot(For Tracy Hyde/エイプリルブルーのギタリスト・管梓)さんに頼もうとか、この曲はシンセポップにしたいからハヤシさんに頼もうとか、そういう風に枠組みを決めていって。バンドだったり、インディーポップで音楽を追求しているアーティストの方にお願いしたいなと思いました。

ハヤシさんは今回4曲をアレンジされているということで、どういったやりとりをしながら作っていったのかをお伺いしていきたいと思います。元々親交はあったんですか?

ハヤシコウスケ 全然なかったです。普通に自分がTwitterとかで見つけて、めちゃくちゃいいって思ってずっと聴いてたんですけど。感想をつぶやいているのを見て連絡をくれたんですかね?

mekakushe シナリオアートはもちろん以前から聴いていたんですけど、どちらかというとハヤシさんが蒼山幸子さんの作品のアレンジを全部やられていて、それを聴いて、「あれ、すごいアレンジャーの人がいる!」って調べたらあのシナリオアートのハヤシさんだった、という感じで。しかもハヤシさんがmekakusheを好きだってTwitterで言ってくれているし、頼めるかもしれないって思ったんです。それで最初にお願いしたのがシングル曲としてリリースした「あかい」でした。

https://www.youtube.com/watch?v=H4LmcZEZmpA
mekakushe「あかい」Official Lyric Video

ハヤシさんはずっとシナリオアートとして活動されてきて、あまりアレンジャーとしていろんな人のお仕事をやるっていう感じでもなかったんじゃないかなと。

ハヤシ そうですね。事務所(ソニー・ミュージックアーティスツ)に所属していた2018年までは、全くアレンジャーの仕事はしていなかったので。蒼山さんも元々「ねごと」というバンドをやっていて、同じレーベル(キューンミュージック)、同じ事務所に所属していたので、友達として仲が良かったから、その流れで手伝うかぐらいの気持ちで始めたんです。アレンジャーになるぜっていう感じは全然なくて、いつのまにかやっていたという感じで。なので今でも趣味ではないですけど、普通に楽しんでやっているというところはあるかもです。

ハヤシさんが全曲をアレンジを担当した蒼山幸子のアルバム『Highlight』(2022年)

人の作ったメロディにアレンジしていくときに、どういうところに気をつけながら作業されていきますか?

ハヤシ エゴとかはあまりなく、ちょっとおかしな言い方ですけど、「しもべ」みたいな感じで(笑)。フィーチャリングとかプロデューサーとかいった立ち位置じゃないときは、基本的には作曲者がどういうものにしたいかというのを、いろんな角度から……歌詞やメロディ、直接のコミュニケーションなどから受け取って、どれだけ具体化できるかっというところを大事にしていますね。

「あかい」という曲に関しては、どういう風にしてやり取りが始まったんですか?

mekakushe 以前のアレンジャーとは6年くらい一緒にやっていて、その方以外に頼むということ自体、ハヤシさんが初めてだったんです。不安ではあったんですけど、すごく細かくやり取りしていただけたので、徐々に気持ちもほぐれていきました。デモは結構静かめな感じの、シンセとかも入ってない状態のものを最初に渡して。

ハヤシ まだ何が好きで何が嫌いか分からなかったので、自分の解釈的に、マニアックな方がいいのかなって、結構マニアックにしたら……

mekakushe 「そんなに自分はマニアックにしたいわけじゃないです」っていう(笑)。ハヤシさんなりに「mekakusheっぽさ」みたいなものをすごく解釈してくれたんですけど、それに加えて、「もっとハヤシさんらしく、ポップなシンセとかを入れてほしいです」みたいなやりとりをして。その中で、私がどんな音が好きかというのもヒアリングしてくれて。

ハヤシ そこからはさっきのポップスの話じゃないですけど、共有したいというか、世間につながっていきたいという方向性が受け取れたので、ちょっとそっちに振ってみようという感じでやっていきました。

mekakushe だから2曲目の「グレープフルーツ」の制作からはとてもスムーズに進みました。1曲目はちょっとだけ、擦り合わせに時間がかかったかな。

シナリオアートの最近の曲を聴いていると、今アレンジをされている仕事を聴いた後に聴くと、すごく禁欲的にバンドサウンドだけで構築しようとしている印象を受けるんですよね。

ハヤシ シナリオアートも結成して13年とか経っているので、いろいろと巡っちゃっていて。シンセサウンドも、すごく壮大なストリングサウンドを入れるのもやっていて、逆に今はどんどん音がなくなっているという感じではありますね。アレンジの仕事では、過去のバンド活動で培ったものを出しているのかなという感じです。

シナリオアート「アイマイナー」Music Video(2022年)

「グレープフルーツ」の最後のサビに入る前のところで、「ギュオオオオン」という加工されたギターの音が入ってきたりするのには、シナリオアートではやってこなかった文脈を感じます。

ハヤシ SoundCloudやBandcampを中心に盛り上がっている、インターネットシーンみたいなものは横目に見ていて。すごく音が面白いですよね。どのアーティストを聴いても、「どこからその音を引っ張ってきたんだ?」とか、すごく位相が悪いけど聴いたことがない、「こういうのがアリなんだ!?」みたいな、そういうものを聴けるのが楽しくて。自分もそういったものに刺激を受けて、何か発明したいなと思って、気持ち悪さとか、ノイズをいかに入れるのか、というのを日々研究していますね。

mekakushe「グレープフルーツ」Music Video

「ハイパー」になりすぎないバランスを

mekakusheさん的には、そういった刺激的な音が入ることに関してはどうでしょう。インターネットシーンの紹介に力を入れているメディア「AVYSS」が主催するイベント《AVYSS Circle》にも出演されていて、共演した人がリリースしたものを聴く機会もあると思うんですけど。

mekakushe (ハヤシさんが担当した)蒼山さんの曲を聴いてアレンジ面でまず素晴らしいと思ったのも、2A(2回目のAメロ)が特に歌詞に寄り添って作られているところと、間奏で急にめちゃくちゃ音が大きくなるみたいなところだったんです。そういったハヤシさんのアレンジの持ち味を活かしてもらいたいと思ったので、間奏で楽しくやっていただきたいということは伝えていました。私がお願いしているわけではなくて、ハヤシさんが自分でデカいギターを入れてくるみたいな感じ(笑)。そういったアレンジが返ってくると、とてもわくわくします。ハヤシさん以外の方でも、「何この音?」みたいなのを鳴らしてくれるのは基本的にすごく嬉しい。

ちなみに今回事前にいただいた質問票に「hyperpop」って言葉があって(編註:「グレープフルーツ」のギターの音について聞く質問でこの言葉を使っていた)、聞いたことがなかったので調べてみたんです。でも、あまりよくわからなくて。「ポップミュージックに一線を引いて、再構築した音楽」みたいな話が出てくるんですけど。

定義の話をしだすといろいろと複雑なものではあるんですけど、基本的にはSpotify公式の同名プレイリストに入っている曲の特徴を捉えたものですね。やっぱりインターネットを中心に発展していて、「AVYSS」が紹介している日本人アーティストが入ることも多いです。

mekakushe そうなんですね。確かにそういうシーンのミュージシャンとも交流はあるし、聴いたりもしますけど、私はあくまでポップミュージックが一番好きでずっと音楽をやってきたし、今までのJポップに対するリスペクトもすごくある。特にメロディーと歌詞に関しては、わかりやすさとか伝わりやすさをずっと追い求めながら曲を作っています。

やっぱり面白い音が鳴っているだけではだめで、「歌もの」を作るのが私は好きなんだと思うんです。ただ、今までのJポップの形式に縛られすぎたものを作るのもつまらないと思う。わかりやすさはそのままに、今までのポップミュージックにはなかった音があるのが新しい音楽だと思っているので、アレンジャーさんが返してくる音に対しては決して普通すぎず、奇をてらいすぎずであってほしいと思っています。

なので、言葉を借りれば、「ハイパー」になりすぎないように、というのをバランスとしてはすごく気をつけていますね。結果的にポップミュージックとハイパーポップの間ぐらいに私らしさがあるのかなと思います。

ハヤシさん的にはmekakusheさんの曲に対して、どういったところに特徴があると感じますか? ここで実験的な音を入れたくなってしまう、というポイントであったりとか。

ハヤシ おそらくはクラシックからの影響で、ポップスのセオリー通りならこうはならないなというところがあって。たとえばピアノのフレーズとか、右手のテンション感みたいなのが独特なので、そこをシンセで、スケールを使って広げていきたいなと思いながら音を入れたりしていますね。

あと、自分は歌詞も書く人間として、mekakusheさんの歌詞もすごく好きで。歌詞から、たとえば「ボーイ・フッド」の「爆破する」というワードからそういう音を入れてみるとか、「三角形」という歌詞があったから、そこを普通の四拍子じゃなくて三拍子にして……とやっていったらめちゃくちゃ変拍子になっちゃった、という風に、歌詞に引っ張られながらアレンジをしてみたり。

mekakushe「ボーイ・フッド」Music Video

mekakushe ハヤシさんのアレンジのアプローチは、ご自身で作詞作曲もされているからこそのものだし、そこが素敵なところだなって思います。特に、すごく歌詞を汲んでアレンジして下さるアレンジャーだと感じます。最初にお話したときも、「蒼山さんの曲の、ここはどうやって作ったんですか」と聞いたら、「それは歌詞を見て作ったんですよ」とか。実際に一緒にやるようになっても、「この部分はこういう歌詞だったので、三拍子にしてみました」とか。こともなげにおっしゃるんですけど、なかなかできないことだと思います。

「二次創作」としての楽曲提供

そういえば、mekakusheさんは昨年『アイドルマスター ミリオンライブ!』にも楽曲提供されていましたよね。mekakusheさんのようにアカデミックなバックボーンもある方がアニソン的なものをどう捉えているのか、お聞きしてみたいです。

mekakushe ジャンルとして言えば、何と言ってもアニソンの一番の特徴は自由なところだなと思います。たとえば、ロックもプログレも、クラシックも、ラテン調の曲も、いろいろな音楽が、「アニソンです」って言えさえすればアニソンになるのかなって。

もし自分が急にラテン調の曲を出したら、多分ファンの方は戸惑うと思うんですけど、アニソンではそういうことが全くないですよね。そういうところが面白いと思うし、好きなところです。

あとはキャラクターソングを書かせていただく中で意識的に取り組んでいることがあって、それは二次創作物をたくさん見るということです。この子の曲を書いてくださいと依頼をいただいた時に、そのキャラクターのことを知ることから始めると思うのですが、わたしはまず公式の資料などに目を通した後、かならずファンの人が書いたブログや記事などを読むようにしています。そうすることでキャラクターの認識を深められたり新しい一面を知ることができるんです。

他にもツイートとか、二次創作の絵とか、キャラクターをファンの人が育て上げていくような感じがあって。そういうのって、生身の人間に対してだとまずないですよね。『アイマス』の曲を書く時は、そういうものをたくさんたくさん調べました。

mekakusheさんの提供曲「気まぐれユモレスク」(箱崎星梨花[CV:麻倉もも])試聴動画 ※頭出し済

さまざまな「あこがれ」を詰め込んだ一枚に

最後に改めて、アルバムについても聞かせてください。今回のアルバムは、さっきお話してくれた二次創作じゃないですけど、いい意味で「私が先導していく」という感じではなくて。アレンジも含めて、いろいろな人からの「mekakusheの音楽」の解釈を取り込みながら、一枚の「mekakusheのアルバム」に織り上げていくような、そういった作品になっている気がしたんです。

mekakushe そういうことだと、『あこがれ』というタイトルの話をするのがいいのかなと。あこがれって、誰かがいて、何かがあって湧き上がる感情じゃないですか。誰かと一緒にクリエイティブをするということは、その人に対してあこがれるということでもあるので、そういう意味もあって、いろんな人にアレンジを頼みたいなって思う気持ちがありました。

また、「あこがれ」という四文字は、私の人生をすごく総括するような言葉でもあって。何かにあこがれてずっと生きているなって思うんですよ。たとえば誰かになりたいとか、生まれ変わりたいとか、それが行きすぎるともういなくなってしまいたいとか……あこがれって本当はすごく素敵な感情なはずなのに、何かになりたいって思いすぎて、苦しくなってしまった時期もあって。それは曲を作り始めた18の時から、今もどこかで続いているような気はするんですけど。曲を何十曲、何百曲と作っていく中で、自分は自分にしかなれないんだなってことに気づいてしまって、それからはとても前向きな気持ちになれたんです。

ちょっと前向きに「あこがれ」という四文字と向き合えるようになった現在と、あこがれという気持ちに苦しめられていた過去、両方の気持ちに正直に向き合った音楽を残しておきたいなと思って、11曲それぞれに「あこがれ」をテーマとして掲げているんです。たとえば「きみ」へのあこがれだったり、自分がなれない男の子へのあこがれだったり、あとは今、戦争が起こっているので平和へのあこがれだったり、インディーポップのサウンドや、音楽という概念そのものへのあこがれだったり……いろんな「あこがれ」をここで一枚の作品にしておきたいなと思って、このタイトルにしました。

ハヤシさんがアレンジを担当した先行シングルの2曲は、アルバムを想定していなかったという話でしたが。

mekakushe そうですね。18の時から今まで気づけばずっと「あこがれ」がテーマの曲を書いてきたなと思うので、その2曲は結果的に、ということなんですけど。ハヤシさんにアレンジしてもらった曲だと、新しく収録した「ボーイ・フッド」という曲と、最後の最後にあと1ピース足りないなと思ってお願いした「壊れそうなときは」という曲は、本当にアルバムのためにアレンジしてもらった曲なので、「あこがれ」というテーマでアルバムをまとめるにあたって、すごく大事な曲になっています。

個人的に、mekakusheさんの歌詞で印象に残るのが、「きみ」という言葉の響き方なんです。「きみ」に対して「なる」とか「なりたい」とかいう表現が反復されているなという印象があって、普通のポップソングで言う「きみ」みたいなものとは少し違う。

mekakushe 「ボーイ・フッド」とダブルリードになっている「きみのようになれるかな」という曲のミュージックビデオでは、私が透明のおばけのようなものになっているんです。この世にないものとして漂って、「きみ」へのあこがれを歌っているという曲にしようと思ってそうしたから、俗に言う「きみのことが好き」「私がいてきみがいる」的な解釈ではないと気づいてもらったのは嬉しいです。

mekakushe「きみのようになれるかな」Music Video(楽曲のアレンジは君島大空が担当)

今後のご予定をお聞かせください。

mekakushe 収録ライブをして、その映像がアルバムのリリース後にstreaming+で配信後、ビデオクリップとして何曲かYouTubeに上げる予定です。ここ数年は毎年やっていて、今年3回目なんですけど。コロナ禍が始まった頃、自分の何かを残さないと、今何をやっているのか忘れてしまいそうだなと思ったのをきっかけに始めて、もう3年も経ちましたね。今年はそれに加えて、このアルバムの記録を残すという理由もあります。アルバムを聴いてくれた方は、ぜひこちらも観ていただければと思います。

楽しみです。本日はありがとうございました。

取材・文:関取大(Soundmain編集部)

mekakushe プロフィール

アーティスト、音楽作家

​“不思議な透明感”と評された歌声、類稀なるポップセンスを兼ね備えた新世代アーティスト「mekakushe」。

3歳からクラシックピアノをはじめ、次第にポップスに傾倒。音源ではエレクトロニカを基盤に、ライブではクラシカルなソロやバンドセットなど、その音楽性は拡張し続けている。

2021年4月に自身初となるアルバム『光みたいにすすみたい』を発表。耳の早いリスナーの間で話題になり、各サブスク公式プレイリストの一曲目、カバーアーティストを飾る。

花王ロリエのTVCMタイアップソングに抜擢、俳優の斎藤工、玉城ティナのラジオでプッシュされる。

一方、高い音楽センスが買われ、作家としての活動も行う。これまでに、でんぱ組.inc、THE IDOLM@STERに楽曲を提供するなど、アーティストとして作家として、両軸で活動を行っている。

https://www.mekakusirecords.com/