2023.01.31

gaburyuインタビュー バーチャル音楽シーンとボカロを跨いで活躍するトラックメイカーが語る、「ゲーム」というルーツへの思い

クラブミュージックを中心に、音楽とバーチャル文化の関わりを紐解く連載「バーチャル音楽シーンの歩き方」。シーンの中で実際にトラックメイカーとして活躍するプレイヤーにインタビューし、バーチャル世界の魅力や、そこに紐付いたサウンドメイクのこだわりを解き明かしていく。

第5回は、インターネットを拠点に様々なジャンルを練り歩く若手のトラックメイカーgaburyu。ゲームボーイを用いたトラックメイキングを始め、ダンスミュージックやボカロソングなど、ジャンルに縛られない作品を多く生み出している。また、バーチャルシーンの黎明期からトラックメイカーとして名が知られており、バーチャルアーティストへ数多くの楽曲提供を行っている。常に新しい音楽を追及し、底知れない音楽活動を行うgaburyuの音楽ルーツから楽曲制作における考え方を深掘りしていく。

yosumi & gaburyu feat. Yaca「gloomy」

『どうぶつの森』が作曲の原体験

音楽の原体験について教えてください。

両親ともに音楽好きで、CDショップで店員として働いていたんです。自分が生まれたときには母は働いていなかったんですけど、父はずっとCDショップで働いていて、家でも音楽が流れている環境でした。父はもともと別の仕事をしていたんですけど、途中でCDショップに転職するくらい音楽が好きだったみたいです。

家ではどんな音楽が流れていたんですか?

母はレゲエが、父はジョイ・ディヴィジョンなどのUKロックがすごく好きで、その辺りがよく流れていました。もちろんそれに限ったわけではなくて、テクノやアンビエント、ヒップホップやジャズも流れていましたね。

自分が初めてCDを手に取った時のことって覚えていますか?

小さい頃はそんなに音楽が好きじゃなかったので、ちゃんと覚えていないんですけど、ゆずの「夏色」だったと思います。小学生の時に父が買ってきたんですけど、父としては何か音楽に触れて欲しくて僕に渡したんだと思います。

実際CDを手に取ってから、音楽に興味を持ち出したんですか?

それでも全然音楽に興味が湧かなくて、休日に家で流れているものっていう認識でしたね。

そこからどのようにして音楽に興味を持っていくのでしょうか?

家で流れていた音楽とは別方向なんですけど、ゲームの音楽が大好きになりました。小2ぐらいからインターネットに触れていて、動画サイトでよく『ポケモン』とか『どうぶつの森』のBGMを聴いていました。一応毎日外でも遊んでいたんですが、帰ったらゲームをやって、この曲いいなーみたいな感じで楽しんでいましたね。

世代的にどういうゲームを当時プレイしていたんですか?

僕はDSの世代なんですけれど、小1の時に部屋を漁っていたら、昔の(白黒の)ゲームボーイが出てきたんですよ。親に聞いたら「昔友達の結婚式のビンゴ大会でもらったんだよね」って言われて。すかさず「遊んでみたい!」って伝えて、自転車で中古のゲームショップに行って、初代のポケモンを買ってもらいました(笑)。

作曲するまでにゲーム音楽以外のものも聴いてきたと思うんですけど、作曲しようと思ったきっかけとなった音楽やアーティストは何でしたか?

いろんな要素があるんですけど、結局ゲームに戻ってきちゃうんですよ。最初に作曲したのが、DSの『どうぶつの森』の「村メロ」でした。家に入るときのチャイムの音や時報の音を自分の好きなフレーズに設定できたんですよね。ある時、キャラクターたちが、「こんな感じのフレーズどう?」って提示してくるイベントが発生して、適当に「はいはいはい」って肯定していたら、そのフレーズに書き換わっちゃったんですよ。元々のフレーズが気に入っていたからそれがすごく嫌で、数日かけて思い出して元のフレーズに打ち込み直したんですね。その時に、意外と作曲ってできるんだなと思って。

打ち込みの概念や知識はあったんですか?

知識もなかったし、概念もなかったですね。やりながら「こうやって音楽って作るんだ」って思いながらやっていました。

本格的な楽曲制作はゲームボーイを使って

それから本格的に作曲をやっていくことになるんでしょうか?

中学生の時にボカロブームがきて、『カゲロウプロジェクト』が大好きになったのを皮切りに、人気曲を中心に聴きながら、「こんな音楽があるんだ」っていろいろ発見していました。「自分もボカロ曲を作りたい」と思ったんですよ。『どうぶつの森』でフレーズを作っていたのもあって、自分にもできるんじゃないかなと。でも受験があったし、そんなにパソコンに触れる時間もなかったので、中学生の時にはやらなくて。高校生になってから、「UTAU」という(各ユーザーが声を録音して作成した音源を歌唱させることができる)フリーの歌声合成ソフトに辿り着いて。その中の「雨歌エル」というライブラリを使ったエレクトロニカを聴いて衝撃を受けて、UTAUエディターをインストールするところまでは行ったのですが実際にはそれだけでは作曲はできなくて――今ならDAWが必要だったとわかるのですが――、それ以上のやり方がわからなくて断念してしまいました(笑)。


上記の雨歌エル歌唱曲、C「myilare」

そこで作曲への挑戦はいったん終わった?

DSに『大合奏!バンドブラザーズ』という楽譜に音符を打ち込んで作曲のできるゲームがあったんですよ。作った楽曲はオンラインで共有してみんなで音ゲーとして遊べるみたいな。なので『バンドブラザーズ』で、ポケモンのBGMの耳コピをしていましたね。それを続けていくうちに、自分でもアレンジしてみたいなと思うようになりました。

やっぱりゲームが大きく関わってくるんですね。

そうですね。高2のときに、『GROOVE COASTER』っていうスマホのゲームがあったんですけど、それのアーケード版が出たんです。アーケードの音ゲー自体、中学生の時に周りで流行っていたものの自分はハマらなかったんですけど、『GROOVE COASTER』をきっかけにプレイしたらすごく面白くて。特に『SOUND VOLTEX』にすごくハマりました。『SOUND VOLTEX』は、一般から音楽を公募して、コンテストみたいなものを定期的にやっているんですね。一般人が作った曲が収録されるので、自分もこれに入りたいな、と。タイミング的にまた受験シーズンになってしまって、DTMはガッツリできなかったんですけど、授業の空き時間に「nanoloop」というシンセのアプリを使ってポケモンのBGMの耳コピを始めました。「nanoloop」って、もともとゲームボーイのカートリッジに挿して使うソフトだったんですよ。

海外YouTuberによる実機版「nanoloop」の解説動画

そこで原点のゲームボーイに戻ってくるんですね!

当時、TORIENAさんが女子大生チップチューンアーティストとしてちょうど活躍し始めたぐらいのタイミングで、インタビュー記事を読んだのも大きかったです。ゲームボーイでチップチューンを作れるっていうのがわかったので、言ってみればnanoloopから遡るような形で、実際にゲームボーイを使って曲を作り始めたんですね。

本格的に楽曲制作を始めたときの環境がゲームボーイだったと。

そうですね。さっき話題にした本体を、ちょっとだけ改造して使っていました。もともと電子工作が好きだったので、4個しか音が出せないゲームボーイをどうにか工夫しながら作っていましたね。最初はゲーム音楽のアレンジみたいなものをやっていたんですけど、次第にオリジナルも作るようになっていきました。

現在も使用している、楽曲制作用の改造ゲームボーイ

「hyperpop」に対する考え方

そこからどういう風に制作環境が変わっていったのでしょう?

高校生の時に断念した「UTAU」を使いたい気持ちがずっとあったので、大学生になってからDAWソフトを買おうとしたんですが、お金がなくて買えませんでした。なので、しばらくFL Studioの体験版でやっていたんですよ(笑)。

それから大学に入ったのですが、なんとなくで入ったというのもあり、周りと比べた時に志がないなって痛感して半年くらいで辞めてしまいました。今思うとあの時本当は音楽がやりたかったんです。

その後専門学校に通おうと学費を貯めるためにバイトをしていたんですけど、それ以外にも自由に使えるお金が貯まったので念願のFL Studioを買い、そこからちゃんと音楽を始めていきました。

ゲームボーイから本格的なDAWに変わって、戸惑ったことだったり、何か参考にしたものはありましたか?

やっぱり環境がPCに変わることによって、作れる楽曲の幅みたいなものがガラッと変わったんですよね。(ゲームボーイよりも)出せる音が無限に広がっているので、「何を鳴らしたらいいんだろう?」みたいな感じはありました。当時は、SoundCloudをすごく聴いていたので、サンクラの曲を参考にすることが多かったです。Ujico*さんが好きだったのと、メジャーなアーティストだとSkrillexをめちゃくちゃ聴いていました。あとは、Maltine Records周りが好きでTomgggさん、Lolica Tonica、Pa’s Lam System、当時人気になり始めたYunomiさんもすごく聴いていました。ゲームボーイでダブステップを作っている人がいたりして、そういう人も結構参考にしましたね。

上記の「ゲームボーイで作られたダブステップ曲」、NNNNNNNNNN「Stream Wank Harder」

PCを手に入れてからは、ゲーム音楽からは離れていったんですか?

そうですね。でもメロディは、いまだに癖で『ポケモン』っぽいのが出るかもしれないです。

『ポケモン』っぽさが出るのも一種のこだわりだと思うんですけど、他に作曲におけるこだわりってありますか?

根本的に、びっくりする仕掛けがある音楽みたいなものがすごく嬉しいというか、好きだなって気づきました。例えば、静かになったと思ったら急に大きい音が鳴るみたいな。そういう音が集まっている音楽として最近は「hyperpop」っていう括りがありますけど、自分的にはそのちょっと前のムーブメント、Kawaii Future Bassの「Kawaii」の部分 を新しく解釈したいと思っています。hyperpop以降の音楽に「Kawaii」っていうもともとの概念を通すことで新しい捉え方で表現できるんじゃないかって。

2020年発表のEP『条理加速の片隅、彼女と想像の中身に関する行方』

ちなみに、たまにDMで「gaburyuさんみたいな音楽を聴きたいんですけど、どんなジャンルで検索すればいいですか?」って来るんですけど、僕自身あまりわかっていなくて。さっき言ったような理由で、あえて言うならhyperpopになるんじゃないかと思うんですけど。

個人の音楽を定義しすぎるのもよくないと思いますが、自分の好きなアーティストの音楽について知りたいという気持ちもリスナーとしてはわかります。

特に最近はみんなやりたいことをやって、だんだん定義ができなくなってきているというか、大きい括りでしか捉えきれなくなっている気はするんですよね。hyperpopと言っても本当にいろんな音楽が入っているし……そういう意味ではhyperpopって存在してるのかな? とも思います。

バーチャルシーンとボカロ音楽の間で

ボカロを使った楽曲を作っている印象も強いのですが、DTMを始めた時は「ボカロP」をやっているという意識はあったんですか?

僕自身は、自分のことをボカロPってあまり思ってないんですよ。でも、発表している曲がUTAUやボカロを使ったものであることが多いので、ボカロPという括りで聴いてくれている人も多いとは思っています。今でこそボカロって、注目度の高い分野だとは思うんですけど、僕が始めた時は、最初のボカロブームが終わって少し落ち着いた時期だったんです。今みたいに「一発当てる」みたいな流れはなくて、自由に作曲して、初音ミクが歌ってくれたら嬉しいみたいなノリでやっていました。それを今でも変わらずに続けているっていう感覚ですね。もちろんボカロPとして聴いてもらっても大丈夫です。

ボカロを使うことのメリットってなんだと思いますか?

やっぱり初音ミクが歌ってくれるってことですかね。初音ミクというか、ボーカロイドは、元の声の特徴がありつつも、それぞれ大幅に動かせるので自分の好きな歌声で制作できるんですよ。だから自由度が高いし、人間よりも楽曲に合わせられる幅が広いんですよね。

今の楽曲制作環境を教えてください。

DAWはずっとFL Studioを使っていて、最近は実機も使うようになりました。モジュラーシンセに手を出し始めたんですよ。自分でパーツを組み合わせて作っていくシンセで、身の回りだと(編註:本連載の初回にも登場した)YACAさんが先駆者なんですが、一個一個調べるのは大変だなと思っていたら、YACAさんに一回で全部教えてもらえました(笑)。なので、そこから集め始めましたね。

愛用のモジュラーシンセ

ご自身で作成されているとクレジットされている、3DCGのアニメーションもすごく魅力的だなと思っているんですが、具体的にどういう風に作られているんでしょう?

blender(動画編集ソフト)とUnity(ゲームエンジン)を組み合わせて使っていて、曲ごとに3Dでイメージキャラクターを考えるところから制作しています。自分の身体にトラッカーを取り付けて、録りっぱなしで動き続けて、ワンカットずつ素材として切り出して組み合わせて……みたいな感じで作っていますね。もともとアニメがすごく好きだったわけではないんですが、カートゥーンがすごく好きで、パキッとした色合いはちょっとカートゥーンを意識しています。

gaburyu + Adomiori「cure cure cure (w/初音ミク)」

ポリゴンの粗い、ザラザラした質感もいいですよね。

Unityって結構細かく設定ができるんですけど、初代のプレイステーションみたいなグラフィックにしているんです。モデリングに関しては、趣味でやっている程度なので、テクスチャーの書き込みとかがうまくいかなかったりするんですけど、やってみたらそれっぽい感じになったので、今はそれを多用していますね。

そもそもバーチャルシーンで音楽活動を始めたきっかけは何だったんでしょうか?

2017年にEPを作って公開したら、ちょっと話題になって、その年の終わりぐらいにsomuniaから連絡があったんです。曲を作ってほしいってことだったんですけど、その時期って、VTuber自体まだトレンドじゃないタイミングで、ましてや音楽をやるバーチャルアーティストも全然いなかったので、ブームに乗っかろうっていう感覚じゃなくて、自然と入っていったって感じですね。僕自身、VTuberをあまり意識していなくて、シンプルにシンガーとして曲を作ってくださいって言われて作ったので、「バーチャルの世界に入った!」って感じではなかったです。

2020年発表の代表曲、somunia「Connected World」

そこからバーチャルシーンで楽曲提供をやりつつ、他のシーンでの活動にも広がっていると思うのですが、バーチャルシーン以外の活動ってどういうスタンスでされているんですか?

それこそボカロですね。やっぱり初音ミクで作るのがすごく好きなので。今後自分で出していく作品もほとんど初音ミクなのかなって感じです。いつかは自分の歌でやりたいっていう構想はないので、基本的にバーチャルシーン以外だと初音ミクが主になると思います。

例えば、リアルのアーティストで今後曲を出してみたいと思う人っていますか?

もちろん自分に声をかけてくれたら嬉しいんですけど、特に「この人とやりたい!」と思っている人はいないです。

バーチャルの音楽シーンってクラブミュージックが主流ではあると思うんですけど、同じシーンの他クリエイターの楽曲を参考として聴くことはありますか?

あまり聴かないかもしれないですね。自分が普段聴いている曲とはまた別ジャンルっていうのもあると思うんですけど、ここ最近は、正直目新しさを感じなくなっていて。もちろん掘ったら実験的な人はたくさんいるとは思うんですけど……あっ、そういう意味では、窓辺リカさんはヤバかったです。ちょっと前に見つけたんですけど、かなり衝撃を受けました。

窓辺リカ「深夜コンビニ昆虫図鑑 feat.初音ミク」

原点回帰と主催イベントへの展望

gaburyuさんが今、力を入れていることって何ですか?

最近はsomuniaのEPをずっと作っていて、それにかなり力を入れています。合わせて自分のEPも作っていて、友達と「IJOU」という3Dアニメーションで音楽をどんどん投稿し続けるグループ活動もやっています。

IJOU「Tanaka-chan」

あと、もともとゲーム音楽が好きだったこともあり、中学生くらいからゲームを作ったりもしていたんですけど、今「きもちへんな感じ」という別名義でゲームを作っているので、そっちにも力を入れたいですね。

音楽的に今後挑戦してみたいことはありますか?

最近、ゲームボーイでまた曲を作ってみたいなと思っています。TORIENAさんが昔、ゲームボーイで作ったトラックに乗せて歌っている曲を上げていたのが印象に残っていて。「とぼけがお」さんというチップチューン界隈ですごく有名な人も、自分の声のピッチを上げてチップチューンに乗せて歌ったりしていて、それこそhyperpopを通過した耳で聴いてみると、すごくしっくりくるなって思いました。

実際に4s4kiさんというhyperpopのSpotify公式プレイリストにも入っているラッパーの方とGigandectさんというチップチューンで有名な人が一緒に曲を作っていて、チップチューンの上でラップしたりもしていて。僕なりのhyperpopの解釈を踏まえて、自分でも作ってみたいです。

TORIENA「Chip Brain Girl」
とぼけがお「Yomi De Ashibumi(Vocal Version)」

あとはGeneZ(編註:gaburyuのほか、YACA、nyankobrqなどで結成された不定形ユニット)主催でイベントをやりたいなとは思いますね。最初は1人ずつ出演して、最後は全員でやるみたいなライブができたら、最高だと思います。

取材・文:森山ド・ロ

gaburyu プロフィール

1998年生まれ、SoundCloudへの投稿をきっかけに音楽活動をスタート。
2020年8月 EP「条理加速の片隅、彼女と想像の中身に関する行方」発表。
2021年2月 HATSUNE MIKU Digital Stars テーマソング「Sweety Glitch w/nyankobrq」発表。
2021年3月 KONAMI ここなつ2.0「マーメイドペレパスィ」発表。
2022年10月 SEGA CHUNITHM「Cheat Sheet w/Yaca」発表。

オフィシャルサイト:https://gaburyu.com/