2023.01.13

トラックメイカーのための音楽理論 | 第8回 コードの理論③ ノンダイアトニックコード

これまでの回では曲作りの基本となるコードとして「ダイアトニックコード」が繰り返し登場してきました。

この7つだけでも素晴らしい曲は作れます。ただ、コードの選択肢が多いに越したことはないというのもまた事実です。そこで今回は、ダイアトニックコード以外で比較的よく使われるコードを紹介していきたいと思います。

コードの種別

まず改めて紹介済みのコードの構造についてもう少し詳しく観察してみると、面白いことに気づきます。各コードの構成音の距離感が一様ではないのです。

「ルート」から他の音までの距離をピアノロール上の段差を数えると、ドミソの和音はド~ミが4段、ド~ソが7段という「4-7」の構成、対してレファラの和音は「3-7」という構成になっています。

なぜこんなことが起きるかというと、大元の音階そのものが2-2-1-2-2-2-1段というまばらなステップ構造になっているからですね。

まばらな段差の階段から音をとっていったので、出来上がった和音も段差がまばら。ドレミファソラシドの音階とダイアトニックコードはシンプルなように見えて、実ははじめから多様な和音が作られるようにデザインされていたとも言えます。

3つのコードタイプ

そこで7つのダイアトニックコードをこの距離構成という観点からカテゴライズすると、3つのタイプへと分類されます。

❶❹❺が「4-7」の型、❻❷❸が「3-7」の型、そして❼だけが仲間はずれで「3-6」の型です。距離構成が違うと、一体何が変わってくるのでしょうか?

実は、この構成によってコードを単体で聴いた際の明るい/暗いといったおおよその音響的印象が決まります。曲想を決めるとてつもなく重要なカギがここにあるのです。

平たく表現すると、❶❹❺の「4-7」型はライトな(明るい)印象を、❻❷❸の「3-7」型はダークな(暗い)印象を、❼の「3-6」型はダークかつ不安定な印象をもたらします。上の音源のように順番に聴くだけではちょっと分かりづらいかもしれませんが、もう少し曲らしい形にすると、このコードタイプごとの印象差というのはよく見えてきます。

こちらの2つの音源、1つめは❶❹❺だけを使ったもの、2つめは❻❷❸だけを使ったものです。コードタイプが限定されたことで、曲想にはかなり偏りが生まれました。かたや結婚式、かたやお葬式の音楽というくらい雰囲気が違いますね。こうした点を鑑みて、それぞれのコードタイプを一般に「明るい/暗い」という言葉で対比します。

もちろん実際には使い方や繋ぎ方次第で「明るい/暗い」以上にもっと複雑玄妙で多種多様な情感を生み出すことが可能ですが、原理的に言えばこの距離構成がサウンドの根本的な決定因子としてあり、「4-7」か「3-7」かというほんの僅かな差、ピアノロール1段ぶんの違いによって明暗が逆転してしまうほどの違いを生むということを覚えていてください。

なお❼の「3-6」型はその不安定さから楽曲中の汎用性が他ほど高くありません。実は前回や前々回の記事でもこのコードだけは使用していませんでした。少し応用的なコードになるので、この記事ではこれ以外の2タイプに注力して話を進めていきます。

コードタイプの名前

それぞれのコードタイプには名前が与えられていて、「4-7」のほうは【メジャーコード】、「3-7」のほうは【マイナーコード】といいます。

キーとスケールの回でメジャーキー/マイナーキーやメジャースケール/マイナースケールという用語が登場しましたが、そこと関連してつけられた名前ですね。

実際の本格的な音楽理論においても、各コードが「4度メジャー」や「2度マイナー」などと呼ばれたりします。あるいは英語で“Four Major”や“Two Minor”と呼ばれることも。

前々回に❶と❻の違いを説明する際に「❻はマイナーキーで主となるコードなのでダークな雰囲気を演出する」と述べましたが、より一歩踏み込むと、このマイナーコードというコードタイプがそのダークさの根源であると言えます。

コードにはメジャーとマイナーという2つの種別が主として存在している。これがコードの選択肢を増やしていくにあたってのポイントとなります。

コードのメジャー化

さて、それではここからが本題です。7つのダイアトニックコード以外の新しいコードを使ってみようとなった時、どうやって新しいコードを考えればいいのでしょうか。定番と言える方法がひとつあって、それは既存のダイアトニックコードのコードタイプを切り替えることです。

例えば元来マイナーコードである❻❷❸番のコードは、真ん中の「3rd」の音を1つ上げればフォーメーションが「3-7」から「4-7」に切り替わり、メジャーコードへと変化します。

これなら使い慣れたコードとたった1音差なので比較的使いやすく、それでいてサウンドのカラーは明暗が逆転して全く新しいものに生まれ変わっています! 実際に聴き比べをしてみましょう。

❻のメジャー化

こちらは❹-❺-❸-❻の進行を2ループしたものですが、最後が❻終わりということでちょっと雰囲気が暗く、もう少しゴージャスに終わらせたいと思ったとします。そのようなとき、ラストの❻をメジャー化することで結末に大きなドラマを持ってくることができます。

こちらが実際に変化を加えたもの。最後に明転することで、終わりが暗く沈むことなく華やかで明るくなりました。またそもそも明るい/暗いとか言う以前に、これまでとは違うキーにない音が突然飛び込んでくることによる刺激が良いサプライズとして効いていますね。

❸❷のメジャー化

今度は❹-❸-❻-❷という進行で、これもまた2周目のほうだけ❸と❷をメジャー化したもの。やはり華やかさが増して、音の位置が上がっているぶん感情のボルテージが強まったような演出として利いています。

たった1音を1つ上げただけの微かな違いなので分かりにくいかもしれませんが、こうした細部へのこだわりが積み重なって曲の質を高めていくことに繋がります。

なお、このタイプチェンジは三和音の場合に限らず7thを乗せた「セブンスコード」だったり、前回やった偶数度の音が混じったような環境でも同様にして行うことが可能です。上のサンプル曲でも実際にそういった派生形をいくつか用いています。

実際の例

Giorgio Moroder「Right Here, Right Now ft. Kylie Minogue」

歌詞:
https://genius.com/Giorgio-moroder-right-here-right-now-lyrics

Giorgio Moroderの「Right Here, Right Now」(キー:Aマイナー)では、サビで❻のメジャー(メジャー化した❻)が活躍しています。

❷-❺-❻とコードが進み、❻のコードで「There’s nowhere else but right here, right now」と歌われる途中、「right here」のところでメロディがド♯に進むことにより、❻のメジャー化が発生するという形です。ちょうどタイトルが歌詞として現れるタイミングにコードのタイプチェンジで華やかさを添えるという、お手本のようなアレンジになっています。

King Gnu「カメレオン」

歌詞:
https://www.uta-net.com/song/315050/

King Gnuの「カメレオン」(キー:Cメジャー)では冒頭で❸のメジャーと❷のメジャーが登場します。

歌詞で言うと「正体は」のところが❸のメジャーで、(「しょうたいは」の)「しょ」の箇所が❸のメジャー化を決定づけるソ♯の音を取っています。前の例の、タイトルが歌詞として現れる際のアレンジでも見ましたが、このようにコードのタイプチェンジを決定づける音を最も目立つメインメロディが奏でる形は、変化を聴き手にわかりやすく感じさせる効果が期待できます。

❷メジャーは「迷宮入りの」の「りの」の部分で登場します。こちらは本当にさりげなくて、キーにない音が登場しているということ自体に気づかないようなレベルですが、しかしやはりこの1音の差というのは音楽の響きに確かな影響を与えています。

コードのマイナー化

同様にしてメジャーコードの場合も、真ん中の「3rd」の音をひとつ下に動かせばマイナーコードに変身します。例えば❹の和音はファラドですが、ラをラ♭にすることでフォーメーションが「4-7」から「3-7」に切り替わり、マイナーコードとなります。

先ほどとは正反対で本来は明るかったコードが暗くなるわけなので、どこかメランコリックで哀愁ただよう感じの雰囲気が生まれます。このコードの典型的な使い方としては、❹→❶という進行の間に挟み込む形があります。

あえて同じ❹系のコードである❹のメジャーと❹のマイナーを連続させることで明暗の転換をしっかりと見せ、最後は安定感のある❶へ着地するという流れです。進行先としてはこの❶が選ばれやすく、ほか❸や❺も候補になります。

なお、残る❶と❺のマイナー化についてなのですが、この2つはここまで紹介した4つに比べて曲への入れ込み方がやや難しく効果的な用法が限られているので、今回の記事では紹介を差し控えたいと思います。

こうしたダイアトニックコード以外のコードを総称して【ノンダイアトニックコード】といいます。ノンダイアトニックコードはその時のキーにない音を使用することになるため、音楽に新鮮な刺激をもたらすことのできる重要な存在です。ただその分使いこなすのは少しだけ難しく、前後のコードや合わせるメロディなどにより気を配る必要があります。

ループ素材主体の作曲においても、素材がノンダイアトニックコードを使っている可能性は十分にあります。その場合キーから外れた音を意識しないと音どうしが激しくぶつかってしまう危険もあるので、案外ループ系音楽においても理論的な理解は重要だったりします。

まとめ

今回ようやくキーから外れた応用的なコードを紹介しました。数としては4つだけですが、7thや偶数度を交えたバリエーションや前後に置くコード、上に乗せるメロディなどの組み合わせ次第で実にさまざまな曲想を生み出すことができます。

自分が作った曲のコードタイプを切り替えてみて曲想がどう変わるかなど実験してみると、1音が生む違いに対しての理解がより深まると思います。

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著者プロフィール

吉松悠太(Yuta Yoshimatsu)
サウンド・GUIデザイナー/プログラマー、ピクセルアーティスト、音楽理論家。慶應義塾大学SFC卒業。在学中に音楽理論の情報サイト「SONIQA」を開設。2018年に「SoundQuest」としてリニューアルし、ポピュラー音楽のための新しい理論体系「自由派音楽理論」を提唱する。またPlugmon名義でソフトウェアシンセのカスタムGUIやウェイブテーブル、サウンドライブラリをリリースしている。2021年にはu-he Hive 2の公式代替スキンを担当。Soundmain Blogでは連載「UI/UXから学ぶDAW論」も執筆。

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