2022.12.29

音楽制作をアシストするAI搭載ツールを振り返る【マスタリング・メロディ/ビート生成】編

近年、さまざまな分野でAIの活用が進んでおり、クリエイティブの分野でも注目される機会が増えています。特に今年はイラストレーションの分野において、Stable DiffusionやMidjourneyといった画像生成AIに大きな注目が集まりました。

一方、音楽制作の分野でもその活用例はすでに多数存在します。Soundmain Blogでも、インタビュー記事やニューストピックとして、さまざまな事例を取り上げてきました。

今回はこれまでSoundmain Blogで取り上げてきた音楽クリエイターの制作活動をアシストするAI搭載ツールを 「音声合成」「音源分離」「サンプル分類」「マスタリング」「メロディ/ビート生成」の5つの用途に大別して振り返りつつ、来年以降の音楽制作におけるAI活用の未来を占ってみたいと思います。 なお本記事では後半の2つ、「マスタリング」「メロディ/ビート生成」を扱います。

「音声合成」「音源分離」「サンプル分類」についてはこちら。

マスタリング

Ozone 10 

2017年に発表した「Ozone 8」で初心者でも高いクオリティの楽曲マスタリングが可能なAIによる自動マスタリング機能「Master Assistant」を実装して以来、今やAIマスタリング用プラグインの代名詞となっているiZotopeの「Ozone」。2022年に発表された最新版「Ozone 10」ではMaster Assistant機能がさらに強化され、トーン、ダイナミクス、ステレオ幅への画期的なマッチング技術により、チャート上位のヒット曲やお気に入りのリファレンス・ファイルのサウンドを簡単に実現できます。

Ozone 10では、その他にサイドを失うことなく、ステレオ幅を狭めることができるイマーシブオーディオの技術を活用した「Recover Sides」、「Maximizer」に原音を維持しながらラウドネスをブーストすることができる「Magnify Soft Clip」が追加されています。また最上位モデルのAdvancedには、バランスの良いクリアなサウンドを作り出せるアダプティブ・マスタリングEQ「Stabilizer」とサウンドにパンチとダイナミックな空間を追加したり、トラックを馴染ませ厚みのあるサウンドにできる「Impact」といった機能も追加されており、より高度なマスタリングが可能になっています。

公式サイト
https://www.izotope.jp/jp/products/ozone-10/

INTENSITY

INTENSITYは、開発元のZynaptiqが”マスタリング・グレード・オーディオ・プロセッサー”と謳うミキシング、マスタリング、サウンドデザイン向けのプラグイン。顔認識アルゴリズムで使用される技術を基に開発されており、サウンドのディテール部分だけを浮き彫りにし、サウンドの知覚的ラウドネスと密度を高めるだけでなく、明瞭さも大幅に向上させることができます。

INTENSITYのAIの独自アルゴリズムは、重要な信号特性を検出することができ、それによりサウンドの特徴を際立たせるだけでなく、出力段のオプションのソフトニー・サチュレーティング・リミッターにより最大限のラウドネスの実現やアグレッシブなトーン作りが可能。またAIにより制御されるため、基本的に1つのノブを使用するだけでサウンドの処理ができる手軽な操作性もINTENSITYの特徴になっています。

公式サイト
https://www.zynaptiq.com/intensity/

eMastered

eMasteredは、グラミー賞エンジニアが開発に関わったAIマスタリングが特徴のオンラインマスタリングサービス。MP3、AIFFまたはWAVファイルをサイト内にアップロードすると自動的にトラックの音が分析されます。その後、マスタリング処理時に必要なツール(マスタリング強度やステレオ幅、ボリューム、イコライゼーションなど)をユーザーの好みに合わせて選択すると、自動的にマスタリング作業が行われます。

AIを駆使した同サイトのマスタリングでは、数秒以内にマスタリングの結果がわかるので、マスタリング前の音源とマスタリング後の音質の違いを速やかに確認可能。確認後はワンクリックでWAVファイル、もしくはMP3ファイルとしてダウンロードできます。プロのエンジニアにマスタリングを依頼する場合それなりのコストもかかりますが、eMasteredはお手頃価格の定額プラン(月額49ドルおよび年額13ドル)で無制限に利用できるところも強みになっています。

公式サイト
https://www.exonicuk.com/product-page/ai-master

Aria Mastering

Aria MasteringはAIによって自動化されたオンラインマスタリングサービス。他の同様のサービスとの違いは、100%アナログのマスタリングプロセスを採用しているという点です。同サービスで使用されている、マスタリングエンジニアのコリン・レナードが開発した独自のシステムは、、ロボットアームによってアナログ機材の精密な調整を行うことでマスタリングを行うというユニークなもの。これによりAria Masteringは、人間のエンジニアがいなくても24時間365日スタジオ運営が可能になり、リアルタイムでアナログ機材によるマスタリングができるとしています。

使い方はマスタリングしたい音源をサイトにアップロードして、ミックスタイプやフリーケンシー、ワイド、アウトプットなど各種パラメーターを5段階の中から自分の好みにあわせて選択するだけ。またオプションで配信やTV・映画など、それぞれのフォーマットに最適な音質に仕上げる機能も搭載されています。1曲のみマスタリングする場合は19ドルで利用できるほか、プランごとにマスタリングできる曲数が異なる月額プランと年額プランが用意されています。

公式サイト
https://ariamastering.com/en

Nutron 

定番AI搭載マスタリングツール「Ozone」同様、AIを搭載したミキシングツールの定番として知られるのがiZotopeの「Nutron」です。Nutronでは、AIアシスト機能を利用することで数回のクリックでミキシングを行えます。また同機能のミキシング結果を参考にしながら、Neutronの各ツールを使用して自分好みにミキシングを調整していくことも可能です。

2022年に発表された最新版「Nutron 4」では、新たなAIアシスト機能として「Assistant View」が追加されています。オーディオの再生を始めるとすぐに音の解析が始まり、音作りのリファレンスとなるスタート地点を作成。それを元にユーザーはコントロール画面からパンチやディストーションの強さを調整しながら音作りを行えるという機能です。またDetail Viewで作り終えたサウンドの微調整も可能です。その他にもNutron 4には、リファレンスのトーンにリアルタイムで近づける「Target Library」、自動でマスキング(ある音が別の音を邪魔したり、聞こえにくくさせる現象)を発見して、音の被りを解消する「Unmask Module」などの新機能も搭載されています。

公式サイト
https://www.izotope.jp/jp/products/neutron-4/

メロディ/ビート生成

CoSo

CoSoは、サンプルプラットフォームのSpliceが提供するAIを活用した作曲支援サンプラーアプリです。

CoSoでは、アプリ上でジャンル、キー、テンポを選択後、ベースサンプルの上にドラムサンプルを重ねたり、パーカッションサンプルの上にボーカルやシンセのサンプルを重ねるなどして、ループを制作することができます。またスワイプしてサンプルを削除したり、長押しして特定のサンプルをソロにするといった操作も可能。さらにそこで作ったループをDAWに取り込んだり、書き出したループをTikTokにオリジナル音源としてアップロードすることもできます。

Boomy

Boomyはクリエイターと共同で音楽を作り上げていくスタイルのオンラインAI作曲プラットフォームです。PC、スマホのブラウザベースで利用でき、2019年のベータ版開始以来、これまでに数十万人のユーザーによって、200万曲以上の楽曲が作曲されています。

Boomyは、音楽知識のない作曲初心者でも簡単に作曲ができることをウリにしており、ユーザーが任意のジャンルや具体的な音楽の特徴を選ぶことで、AIがその内容に沿ったインストゥルメンタル・トラックを生成します。生成されたトラックにはユーザーが自分で歌唱したボーカルを加えるなど、好きなようにトラックを編集できるだけでなく、AIによって提案されたトラックが好みに合わなかった場合は、それを拒否して全く新しいトラックを生成することもできます。

また作曲した音楽をユーザーがSpotify、Apple Music、TikTok、YouTubeなどの音楽プラットフォームに公開し、そこでの配信によるロイヤリティの80%を得ることができます。

TapesAI

TapesAIは、AIによって作成されたサンプルを販売するサンプルプラットフォームです。

TapesAIのサンプルパックは、一般的なサンプルパックの50倍にあたる、1パックあたり平均5000個のサンプルループを収録しているのが特徴。サンプル自体はAIによって作成されていますが、サンプルのキュレーションは人間によって行れています。

現在は、ローファイ・ヒップホップ、トラップ、UKドリルといった人気のヒップホップジャンルを中心にコードやドラム、メロディーのサンプルパックが販売されています。サンプルのクレジット(ダウンロードライセンス)を購入することで利用できるようになり、3.99ドル(約436円)から購入可能です。

Basic Pitch

Basic Pitchは、SpotifyのAudio Intelligence LabとSpotify傘下のSoundtrapが共同で開発したオーディオをMIDIに変換してくれる無料のAI搭載ツールです。

ユーザーが楽器や声といったオーディオファイルをサイト上にアップロードすると、そのオーディオファイルをAIに搭載された機械学習モデルが分析。MIDIファイルとして書き出してくれます。ユーザーはそのMIDIファイルを自由にDAWに取り込み、シンセなど別の音源に割り当てて再生することができるようになります。

またBasic Pitchは、「ピッチベンド検出機能」「高速に動作する」といった、既存のMIDI変換ツールにない独自の優位性を持っており既存の同種ツールよりも精度が高いと謳われています。

いかがだったでしょうか? Soundmain Studioにも搭載されている音源分離機能や歌声合成機能だけでなく、サンプルの分類など直接的に楽曲の作り込みに関わらない領域でも、AI技術が音楽のクリエイティブに大いに役立つことがわかります。

Soundmain Blogが直近取材した中では、ソニーCSLが開発するAIを活用した音楽制作ツール「Flow Machines」のスタッフが「AIは作曲家に取って代わるものではなく、あくまで音楽クリエイターをサポートする存在である」と語っていたのも記憶に新しいところ。こういった視点に基づき、今後もさまざまなAIツールに注目していきたいものです。

文:Jun Fukunaga