2022.12.27

TikTokを席巻する原曲のスピードアップ・バージョン、メインストリームの音楽シーンにも影響?

近年、バイラルヒットを生み出す重要なプラットフォームとして機能しているTikTok。

今年顕著になったトピックとしては、聞き覚えがある有名曲のオリジナル音源の速度を30%〜50%程度上げた早回しで投稿する現象がユーザーの間で人気になっていることが挙げられます。

現在、この現象はTikTok内のユーザー間コミニュケーションの範囲を超えて広がっており、例えば、今夏「Bad Habit」が大ヒットしたことで注目を集めたSteve LacyがTikTokでの同曲の早回しバージョンの人気を受けて、同様のバージョンを公式にリリースするなど、メインストリームの音楽シーンで活躍するアーティストの活動にもその影響は及んでいます。

Steve Lacy「Bad Habit」の原曲
Steve Lacy「Bad Habit」のスピードアップバージョン

このような原曲をスピードアップしてSNSに投稿する現象は、昨年TikTokやYouTubeで流行した「スロウ+リバーブ(Slow+Reverb)」の次のトレンドと言えるものです。これは人気曲をスロウダウンさせ、リバーブを適用して独特の雰囲気を醸し出すもので、DJ Screwのチョップド&スクリュード(Chopped and Screwed)という手法に影響を受けていました。

音楽シーンの歴史を振り返ってみると、原曲のテンポを変更して音楽を制作する手法はこれまでにも存在しました。90年代、オランダ人DJがダンスホールのレコードをスピードアップさせて使った「バブリング(Bubbling)」や、2000年代のヒップホッププロデューサーがスピードアップしたサンプルとピッチアップしたボーカルを使う「チップマンク・ソウル(Chipmunk soul)」などがそうです。

また2000年代初頭から現在まで、アンダーグラウンドなダンスミュージックシーンで局地的な人気を獲得している「ナイトコア(Nightcore)」というジャンルがあります。このジャンルでは、楽曲のテンポを速め、ボーカルをピッチシフトさせるのが特徴になっており、そのプロデューサーたちはこうした効果を既存の楽曲に用いることで“ナイトコア・エディット”を作り、Soundcloud、YouTube、Redditなどで公開するという動きも見せています。

このような歴史を踏まえて、スピードアップした音楽が2020年代にTikTokを人気を博していることについて、Webメディア・MusicRadarの記事が興味深い考察を展開しています。

MusicRadarの記事によると、現在のスピードアップ現象には「ハイパーポップ」の影響が窺えるとのこと。

ハイパーポップは、2010年代にイギリスを中心に盛り上がったバブルガムベース(Bubblegum)に連なる音楽ジャンルであり、A. G. Cook、Danny L Harle、SOPHIEといったそのオリジネーターとされるプロデューサーたちは、ハイパーポップのアーティストに多大な影響を与えていると言われています。

TikTokでのスピードアップ現象に関してMusic Radarは、「ハイパーポップのサウンドが広まるにつれ、同ジャンルやナイトコアが持つ激しさや高揚感に憧れるファンが、もう少しエネルギッシュにする目的で従来のポップソングを自分たちの手でスピードアップさせているようだ」と述べています。

ハイパーポップやナイトコアなど、多くのインターネット発の音楽はミーム化することで時に局地的な人気から抜け出し、メインストリームでも広く親しまれる音楽へと発展することがあります。たとえば、ハイパーポップはCharli XCXのようにポップスのメインストリームで人気のアーティストもその要素を取り入れるなど注目を集めています。

オンライン発の音楽シーン出身のアーティストは、次のキャリアの目標として、「URL To IRL(オンラインからリアルへ)」を掲げることがあります。TikTokでの早回し人気により生まれたUGC的な流れを本家のアーティストが受け入れることも、ある意味で「URL To IRL」の新たな形と言えるかもしれません。

Thundercat「Them Changes」の原曲
Thundercat「Them Changes」のスピードアップバージョン

文:Jun Fukunaga

【参考サイト】

Sped-up songs are dominating TikTok and crossing over to the mainstream, too | MusicRadar
https://www.musicradar.com/news/sped-up-songs-tiktok-mainstream