
CeVIO AI「青春系ソングボイス」双葉湊音とは? 企画・開発を手がけた作曲家・千葉“naotyu-”直樹に訊いた
AI技術の進歩により発展著しい音声合成の世界。中でも近年注目を集めるのがCeVIOプロジェクト[1]が開発を手がける音声合成ソフトCeVIO AIだ。最新のAI技術により人間の声質・癖・歌い方を高精度に再現可能。オリジナルのキャラクターライセンスを持った外部企業への技術供与も行われており、「小春六花」「弦巻マキ」「可不」「#kzn」など多数のサードパーティ製品が誕生している。
そんな中、新たなCeVIO AIソフトウェアとして「双葉湊音」が登場した。CVは声優の三澤紗千香さんが務め、「青春系ソングボイス」と名付けられた同ソフトは、「株式会社ガソリンアレイ」という耳慣れない企業からの発売となる(2022年12月2日発売予定)。聞けば、同社はアニメ・ゲームを中心に多くの楽曲提供を行うクリエイターの千葉 直樹(作家名義:千葉“naotyu-”直樹)さんによる会社とのこと。
プロの音楽クリエイターがゼロからキャラクターボイスを企画する不思議さや、音声合成ソフトの開発をクリエイター目線で見るとどうなるのかに興味が湧いたSoundmain編集部は、さっそく千葉さんにお話を聞きに行くことに。すると、まさに自身がクリエイターだからこその関係者・ユーザーへの気遣いや、「青春系」という不思議なキャッチコピーが象徴する、このキャラクターのユニークな立ち位置が見えてきた。
なぜ作曲家が音声合成ソフトの開発を?
作曲家としてすでに長いキャリアのある中でこういった製品を作り始めた経緯を、まずはお聞きしていきたいです。法人登記もこのタイミングでされているんですよね。
はい、ただ決して音声合成を作りたいから法人を作ったわけではないんです。法人の設立自体にはいくつか理由があるんですけど、音楽の仕事を10年やらせていただいていて、今後も続けていくためにも、より責任感がある立場にステップアップしてもいい時期なのかなと思ったのがひとつ。もうひとつは、ここ数年間、音楽制作以外にいろんな研究の分野、例えばとある研究に対して「こういう音楽とそれに関する資料、データが必要です」とか、「AIが出してきた音源に作曲者としてのフィードバックをください」という依頼であったり。他にはそれこそSoundmain Studioの開発も少しお手伝いしているのですが、クリエイターの目線でのアドバイザーみたいな仕事をいろいろとさせていただくことが増えてきて。一個人としてよりは会社としてやり取りさせていただくほうが、そういう仕事はやりやすいというのがあって。
で、せっかく会社を作ったなら、この立場でもっとやれることが広がってくるなというのもあって、だったら自分がすごく好きな音声合成という分野で製品を作ってみるのも面白いのかなという風に、結果的になっていったという流れです。
作曲の仕事をしていて、そうやって研究開発に関わるというのはよくあることなんですか?
どうでしょう。もちろん人それぞれだとは思うんですけど、僕の場合はソニー・ミュージックパブリッシングという事務所に、作家としてもう10年近く所属していて。いわゆるJ-POPの作家さんが多い中で、どちらかというとアニメの曲だったり、ゲームのBGMを作っていたりしていて、会社の中ではちょっと変わった立場でずっとやっていて。その流れで、たまたまソニーの開発者の方とつながりのあるディレクターの方と仕事をしたときに、「研究開発の方面で、音楽を作る人の意見を聞きたがってる人がいるんだよね」みたいな話になり、率先して手を挙げたんです。もともと面白そうなところに顔を出してみたり、ちょっと違うことをするのが好きなんですね。
開発者の方との交流が、自分主体でソフト作りをするきっかけになった?
確かにそういう面もありますね。いろんな開発者さんと話をやり取りさせてもらう中で、結構共通して面白かったのは、音楽とか音の研究、ソフトの開発をしている方でも、実際に音楽制作をする現場とか、音楽制作の工程自体について決して詳しいとは限らないということ。「レコーディングスタジオにも行ったことがないです」なんて人も、むしろそのほうが多数だったりとかして。
だったら逆に音楽を作っている立場の人間がソフト作りをしたらどうなるのかなという好奇心もあったし、その経験値を開発者の方にフィードバックできても面白いのかなと。
なるほど。ところで「音声合成が好き」と仰いましたけど、これって「ボカロが好き」というのとはまた違うニュアンスな気がして。
そうですね。いわゆるボーカロイドとか初音ミクというものが出てきたタイミングでは同人音楽をやっていたので、もちろんカルチャーとして触れてはいたんですけど、その頃は正直そんなに深く興味は持てなくて。どっちかというと人間の歌のほうが好きだし、楽しいって思っていたぐらいで。
それが10年くらい経って、作曲家として仕事もするようになってから、歌わせるほうよりは、しゃべらせるほうの音声合成、トークのソフトから好きになっていって。完全に趣味としては、数えたらもう6,7年は好きでいることになるのかな。タイミングとしてはVOICEROID2が出るちょっと前くらいからです。
しゃべらせるというと、インターネットの動画コンテンツ、「ゆっくり解説」みたいな。
はい。いろんなジャンルがあって、一番主流なのはゲームの実況だと思うんですけど、自分はカートレースを趣味でやっていることもあって、バイクや車の車載動画という分野が好きになり、そこから派生して本来はしゃべらせるソフトで無理やり歌わせる、「歌うボイスロイド」というめちゃくちゃニッチな分野を好きになり。理由は本当に自分でもよくわからないんですが、なぜかドハマりしてしまって。
ボイスロイドとか音声合成のキャラクターって、自我があるようでないようで不思議な存在で。一応設定はそれぞれあったりするんですけど、別にそれを守ってもいいし守らなくてもいいし、自分自身を反映してる人もいるし、完全に俯瞰の視点でキャラを動かしてる人もいて。自分も結構いい年齢なんですけど、6,7年も好きでい続けていると、「何かここにはあるんじゃないか」というのは思うようになっていて。
興味深いです。そういったソフトの発声って、どこかたどたどしい感じがありますよね。それに対してCeVIO AIみたいな最近のAIを使ったソフトというのは、滑らかに人間らしく発声するって方向性じゃないですか。ある意味では対立するようにも思うんですが、人間って誰もが日常的に歌うわけじゃないし、単にしゃべるということをする場面のほうが圧倒的に多い。CeVIO AIは「ボーカロイドの進化形」みたいに捉えられることも多いと思うんですが、今のお話を聞くとそもそも歌わせる、しゃべらせる両方の流れにCeVIO AIはあるんだってことに気づかされた気がします。
実際にCeVIO AIの場合は、しゃべらせる「トークボイス」と歌わせる「ソングボイス」の2つの仕様がありますからね。ぶっちゃけてしまうと、自分も最初はトークボイスのほうを作ろうと思っていたくらいなんです。
ただテクノスピーチさんと色々と話をしていったり企画をより詰めていったりする中で、まずはソングボイスを作ったほうが、自分自身が音楽を作っている立場だし、いろんな意味でメリットもあるなと。トークボイスを作りたいという思いの根幹には、広い意味での音声合成のキャラクターを自分で作ってみたいというところがあったので、最終的にはソングボイスを作ることになりました。
演者の活動にもプラスになる存在に
では本題の双葉湊音さんの話に入っていきたいと思うんですが、キャラクターとしては、何か「無色透明」みたいなところを目指しているというか。「出身地:自然の多いところ」とか、これだったら無くても同じじゃないかくらいに超ボンヤリしてるんですけど(笑)、これはどういったコンセプトなんでしょうか?
言ってしまうと、最初はもっと本当に何も無かったくらいだったんです。他の会社さんのキャラクターは、それぞれの裏設定だったり、プロフィールだったり、世界観を作り込んでいるのが面白いしすごいなという思いがあって。ただそれに対して自分はひねくれているところがあるので、なるべく普通の子にしてみたい、濃い個性がないキャラクターにしたいと。ただ実際にはイラストを依頼するにあたって「設定ないです」って言ったら、描けるものも描けないわけで。そこで「(キャラクター性は)ないけど、ある」というのをある意味曲解して、ひねり出したのがこれというか。

なるほど。ちなみに、イラスト、名前、演者さんとソフトを構成する要素がいろいろあると思いますが、どれが最初に決まってくるんですか?
一番最初に決めたのは演者さんでした。そこにOKをもらえていないと、イラストレーターの方だけじゃなく、いろんな各所と契約することもできないので。
では演者さんへのオファーの時点では、キャラクターデザインもない状態で、「普通っぽい声を録音したいんです」みたいな依頼をされたということなんでしょうか。
さすがにざっくりとした雰囲気と仮の名前はあったかもですが、「普通っぽい」って言っちゃうと語弊があるので、「ナチュラルで、細かい設定がない」こういう音声合成の企画をやりたくて、ご依頼をしたいんですが……という感じでお願いをしたんじゃなかったかなと思います。
三澤紗千香さんにお声かけした理由は?
もちろん声が魅力的だということがあるんですが、もともと作家として、三澤さんのアーティスト活動で長いお付き合いをさせていただいていて。その中で実は三澤さんも音声合成が好きだって話は聞いたことがあったので、三澤さんだったら多分受けてくれるだろうって考えも、若干、なくはなかったです。
実際、なかなかマニアックな分野であるのは事実で、これはCeVIO AIの根幹技術を担当している、テクノスピーチ代表の大浦(圭一郎)さんも以前インタビュー[2]で話されていましたけど、どうしても音声合成で歌うなり喋らせるなりできるソフトを作ると、演者さんの商売敵になってしまうんじゃないかと思われることは多いみたいで。演者さんご本人というよりは、演者さんを守らなければいけないマネジメントの立場が、険しい顔をされることがどうしてもあるそうなんですけど、そうではなくて、あくまで共存していってもらいたいんだよ、互いにメリットがある存在なんだよということを大浦さんは仰っていて、それは自分もお話をしていてすごく共感したことで。
今回、三澤さんの声をお借りして、この音声合成のソフトを作ったわけですけど、データを録らせてもらって、当然そこに対してのお支払いはしつつ、売り上げに応じていくらかフィードバックする契約というのもさせてもらっています。キャラクターと一緒に長く付き合っていってほしい、演者さんの人生の中でこの音声合成の存在がプラスになってくれるようにという思いがすごくあって。これは僕自身がクリエイターだからということも関係しているかもしれないですね。
ボイス収録とディープラーニング
素晴らしい試みだと思います。声の収録やソフト化の工程についてもお聞きしたいのですが、どういったプロセスで進行していくものなんでしょうか?
これもテクノスピーチの大浦さんがインタビューで話されているんですけど、まずライブラリを作るためには合計2時間半くらいの歌の音声データが必要で、それを元にディープラーニングをかけるんですね。言ってしまえばたくさんの歌のデータが必要になります。なので歌を録音して、その歌のデータをまとめて、テクノスピーチさんに納品してお願いしますというのが、すごくざっくりとした流れです。
歌というのは、既存の曲を歌ってもらうんでしょうか。
そうですね。今回であったら、基本的に三澤さんが歌いやすい歌、ご存知である歌を。たとえばキャラ付けを意識して、元気に歌えば元気なライブラリが集まるし、ウィスパーに歌えばウィスパーのライブラリが集まるんですけど、今回に関しては基本的にはナチュラルに、あまりキャラ付けせずに歌っていただいたデータを作った感じですね。

なるほど。さっきの話に戻りますけど、ナチュラルであればナチュラルであれほど三澤さんご本人に近いみたいなところがあるわけだから、あえて「敵」になるかならないかで言えば、なる可能性が高くなる。そういう意味でも三澤さんという理解者を経て、このコンセプトが実現したのはすごいことだと思います。
そうですね。改めて企画が通ってよかった、やってくれる人が見つかってよかったなと。でも録っている最中は正直すごく怖かったです。データを納品して、ライブラリとして出来上がるまでに数ヶ月かかるんですけど、こちらとしては納得のいくテイクを録れたと思いつつも、それが本当にディープラーニング用のデータとして良いものなのかというのはなかなかわからないし。
テクノスピーチさんに送るデータの段階では、基本的にピッチを修正したりとかはしないものなんでしょうか?
そうですね。基本的にはピッチの修正はせず、そのまま納品してくださいというのが一応ルール決めとしてはあります。でも、実際に出来上がってみてわかったんですけど、ちょっと真面目に録りすぎたかなというのは思っていて。
真面目に、というのは?
今回、非常にストレートで使いやすい音源にはなっていると思うんですけども、もう少しバラエティに富んだ、たとえば悲しい曲を歌ってもらうテイクもあれば、いい意味でランダムさがより増して面白かったのかなと。しゃくりすらつけないで、本当に「棒」で歌ってもらったほうが学習データとしてはいいのかな? と思って、最初のうちはそういう録り方もしていて。大浦さんに電話して聞いたら、「もうちょっと広くバリエーションをとって歌っていいですよ」というレスポンスがあってからは気にせず録るようになったんですけど。
なるほど。でも、これでパッケージが世の中に出れば、ある意味、千葉さん的には満足いかなかった部分というのが、もしかしたら個性として愛される可能性もありますよね。
ええ、それはもう本当に、むしろそこを楽しみにしているので、自由に面白い使い方をしてほしいです。
ちなみに、ボーカル録りをしていく中で、作編曲の仕事をしている経験値が活かされた場面ってありますか?
もともとの仕事でも、曲を作るだけではなく、楽器のレコーディングもしますし、ディレクションをもする機会もあったので、今回はそのあたりも基本的に自分で全部やっています。マイクを立てるところから始めて、ProToolsで自分でオペレートしながら、同時にディレクションもして。レコーディングが終わった後の音を整理して、テクノスピーチさんに渡すためのデータにする必要もあるんですけど、そこまで全部ひとりでやっちゃいましたね。いい音で丁寧に録ることが、今回の企画において自分が最も得意なことになるので、そこだけは負けないように頑張ってやりました。

レコーディングが何日にも跨ぐので、ビンテージ機器より安定して使えることを優先した
「双葉湊音」の歌声の特性
出来上がったソフトをご自身で試しに使ってみて、どのような感触でしたか?
CeVIO AIのソフト全般に言えることだと思うんですが、自分で使ってみて面白いなと思ったのは、不思議と得意な曲と苦手な曲があるというところですね。単純に高い声が出る・出ないとか、そういう得意・苦手じゃなくて、中にはやたらハマる曲もあれば、なんかしっくりこないなという曲もあったりして。CeVIO AIに関しては、人の声の再現を目指しているということをテクノスピーチさんがよく話されているんですが、もしかしたらそれってこういうことを言っているのかなと。
三澤さんご自身のオリジナル曲にも携わられている立場として、三澤さんご本人の声と双葉湊音の声の印象、比べてみて同じところや違うところも教えてください。
本人っぽい、近いなと思ったのは、歌の入口のしゃくりの癖とかですかね。変な言い方ですが、ちょっとランダムっぽいというか。本当にその時々なんですけど、それは聞き覚えのあるというか、なじみのあるしゃくりで、AIが学習するってこういうことなんだなと思いました。データを録る時に三澤さんに「しゃくりはやらないでください」とかは言わなかったので、無意識的なところがきちんと吸収されているんだなと。
なるほど。ちなみにしゃくりの度合いをどれくれらいにするかは、ユーザー側で調整もできるんですよね?
そうですね。ソフト内でピッチやボリュームをフリーハンドや線で描いたりといった調整は簡単にできます。
双葉湊音さんが得意な楽曲って、どういったものだと思いますか?
自分が試した中でいうと、ヨルシカの「だから僕は音楽を辞めた」みたいな早口の曲も、非常にエモく歌ってくれたりとかして。一番はじめにティザーとして出したアカペラのバラードは自分で曲を作っているんですけど、すごくしっとりと歌ってくれたし、特に何か大きな補正をしているわけじゃないんですけど、意外とどんなジャンルにも寄り添って歌ってくれる気はしていますね。余談ですが歌の音声合成のデモでアカペラを最初に出すというのは、個人的にちょっとした挑戦でした。
デモソングの1曲目は10代のボカロPである晴いちばんさんが書かれていますね。非常に明るい、疾走感のある曲という印象で。
晴いちばんさんに関しては、このソングボイスは恥ずかしながら「青春系」というキャッチコピーを付けているもので、30代の自分が思う青春ではなく、あえて10代の方が現役で送っている青春ってどんなものか知りたいなと。一応漫画やイラストなどのリファレンスは渡して、こんな感じの、ちょっと哀愁もあるような曲を作ってほしいんです、曲調としては比較的速めで、でも基本的には晴いちばんさんの得意な曲調でいいので、と相談した上で作ってもらいました。本当はもうちょっとマイナー調の曲が上がってくるかなと思って、若干そっちのつもりで依頼はしていたんですけど、上がってきたものが思っていた以上に明るい曲調で。でも実際にソフトを触っていく中でこういう曲が出来上がったんだろうと思ったし、これが晴いちばんさんの解釈なんだなと思ったので、そのまま採用したって感じです。
ソフトとしてこういう方向性の曲を歌わせるのがおすすめですよというより、クリエイターさん自身の感性のフィルターを通したものをデモソングとして提示したと。
そうですね。結果的に今回、デモソングを7曲作っていて。全部が同じ曲調だったら良くないので、ざっくりとご依頼する段階でジャンルはバラけるように、「〇〇さんのこの曲が好きだから、こういうジャンルの方向で作ってもらいたい」というのはあったんですけど、その先はいい意味でお任せで作ってもらいましたね。
ちなみに一番最後、7曲目としてアップされる予定の曲がどの曲よりもダークな曲で。自分もそれは若干やっちゃったかな? って気持ちもあるんですけど、まあ面白いからいいか、と。最後なぜか暗く終わるみたいな感じになるんですけど、それも楽しみにしてほしいです(笑)。
「青春系ソングボイス」って?
「青春系」の話も出たので……青春っていうと、一般的にキラキラした、仲間と一緒にワイワイしているようなイメージですよね。でも双葉湊音さんのキービジュアルは、その割には自然の中にひとりでいる感じで。こうしたキャッチーフレーズはどのように生まれたんでしょうか?
まず「青春系」については、こっ恥ずかしくても良いから何か印象に残るフレーズがほしくてつけました。最初に公開したティザーサイトや今もキャッチコピーとして使っている「もう一度、あの夏を聞きに行こう。」については、自分にない感性が欲しくて外部の方とかなり時間をかけて、いろいろやり取りをしながら考えて。そもそも音声合成の企画で堂々とキャッチコピーを掲げているのもあまり多くないんですけどね。
ちなみに、これは「公式が勝手に言ってるだけ」として読者の人には聞いてほしいんですが……やり取りの中で気づかされたのは、青春というのは、どうやら本人が自覚するものというよりは、俯瞰の、第三者目線の物語を指している言葉らしい、ということで。
彼女は青春の中のひとつのアイコンなのか、いろんな人が見ている物語のひとつなのか……自分が主人公で、双葉さんはその相手なのか、相手ですらないのかもしれないけど……みたいな。彼女、双葉湊音が「青春系」だというのは、そういうことなんじゃないのかなと。
すごく面白いです。インスタとかにアップされている「エモい」写真ってまさに俯瞰視点というか、遠景に置いた人物を逆光で映したみたいな感じだったりするし。今回でいうと双葉湊音さん自身が青春の主人公というよりは、「青春」という抽象的な何かの象徴、物語の消失点にいるみたいな存在ってことですよね。
そういう言い方もできるかもしれないですね。あんまりガチガチに決めちゃいけないとは思うんですけど。
こういうソフトで、キービジュアルに背景を描いているのも珍しいですよね。
そうですね。白背景にキャラクターだけのほうが店頭にパッケージを置いた際にも目立つので、背景がないほうが普通だと思います。そもそも背景を付けると色々と世界観が出てきちゃうし、ここまで自分が言ってきた「キャラの個性を付けたくない」というのとも矛盾するんですけど……なんでか背景がほしいと思ったんですよね。

でも、背景があるからこそさっきの俯瞰の話ともつながる気がしました。双葉さんと背景をひとつの画面に収めているカメラの存在が意識されるというか。
確かに。ちなみにパッケージイラストはオンカメ(こちら側に目線を向けている)なんですけど、最初に出すキービジュアルに関してはオンカメじゃないほうがいいと言った記憶があります。何か深い理由があったとかではなく、そういうのって世の中にないよねっていうひねくれ者の発想なんですけど(笑)。

イラストレーターのひとばさんとは、どのようにつながったんですか?
企画を考え始めるかどうかくらいの段階からTwitterで、気になる絵を描く人をちょいちょいブックマークしていて。最終的にはほぼ一目惚れで、それまでは全く交流もない方だったんですけど、DMでこういう企画をやっていて、キャラクターデザインを、メインのビジュアルも含めてお願いできないでしょうか? とお願いさせていただきました。まだ全然表に出していないものも含めて、非常に細かく考えてくれて、楽しくやり取りさせていただいていますね。

ロゴもすごく可愛いですよね。
ロゴはトールミツハシさんという方にお願いしました。パッケージ版のデザインもお願いしたんですけど、こちらも素晴らしいデザインで。デザイン周りのやり取りに関しては、同人音楽をやっていた頃の経験が生きていますね。即売会でパッケージを手に取ってもらう文化が残っているから、同人音楽ってデザインもすごく凝ったものが多いんですよ。

音楽作りの楽しさの入口に
今後「双葉湊音」をどんな風に展開させていきたいと思いますか。
現状は、ほぼできることはひとりでやっている状態で。おそらく歌声ソフトの史上、最もコンパクトな人数と予算で運営しているんじゃないかな。好きだからやっているというのは間違いないんですけど、簡単なグッズとかアイテムの入稿データとかもAdobeのIllustratorを使って自分で作っていて(笑)。MMDとか3Dのモデルとかも作りたいんですけど、なかなかそこまで手が出せてないという現実があります。ちょっと歯がゆい思いもあるんですけど、今すぐ焦ってもしょうがないことでもあるので、そこはひとつずつユーザーやリスナーが楽しんでもらえるような環境を作っていけたらいいなと思っています。
差し当たっては、もっともっと音楽制作の初心者だったり、音声合成を初めて触ってみたいと思う方にフレンドリーなものにしたいなという気持ちがありますね。どの分野でも成熟してくると、クオリティの平均値もどんどん上がってくるし、初心者でもいきなりすごい映像を作らなきゃいけないとか、めちゃくちゃかっこいい曲を作らなきゃとかって思ってしまう。でもいきなりそこまでいかずとももっと気軽に触って、「よくわかんないけど文字を打ち込んだら歌いました」みたいな、単純にその楽しみを知ってもらえるようになったらいいなというのは、今回の企画の目標のひとつとしてあって。
なのでそのために、今回お試しで本当に簡単なインストのデモトラックを7曲くらい、CeVIOのエディタ上で開けるプロジェクトデータの状態で、パッケージの中に同梱していて。それに対して自由に自分でメロディを打ち込んでみて、できた曲はTwitterとかで公開するのも大歓迎だし、こっちで気が付けば紹介もしますよと。
「ビギナーズラック・トラックパック」というのがそのデータ集ですか?
よくわからない名前ですが(笑)、そうです。実際ソフトだけ渡されて、さあどうぞって言われても何から始めたらいいかわからない人は多いと思うんですけど、誰かの作ったデータを軽く見るとわかることってすごく多い。自分が音楽を作り始めた頃、今ほど情報収集が簡単にできる時代じゃなかったですけど、それでもRolandの「力作コンテスト」というMIDIのコンテストで、大嶋啓之さんとかMorriganさんのような大先輩のものすごく細かいMIDIの打ち込みのデータがウェブ上に公開されていたりしていて。それをダウンロードして、フリーのシーケンサーを開いて、実際目で見て真似してという経験が大きかったので。いま中学生とか高校生ぐらいの子とかに、恩返しって言ったらちょっと大げさですけど、今度は自分が還元する番になれたらいいなという気持ちがありますね。
素晴らしいですね。今回、個人的にもすごく感動しました。ここに至るまでのボーカロイドなり、音声合成なりの歴史があって、自然とこういうものが生まれてくるんだなみたいなことをすごく感じて。リスペクトがありつつ、オルタナティブとしての視点もありつつ、関わってくれた演者さんや使ってくれるユーザーさんへの気遣いもあって。
ありがとうございます。あとは、作り方も今回である程度わかったので、もちろんディープラーニングの技術的な中身はわからないですけど、音声合成ソフト制作に興味がある音楽クリエイターの人がもしいたらぜひ声をかけてください。やっぱりこの企画の一番のヘンテコなポイントって、なぜか作家がソフトを作っているというところだと思うので(笑)。
取材・文:関取 大(Soundmain編集部)
[1] CeVIOプロジェクト:有限会社アップ・フィールド、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント、株式会社テクノスピーチ、株式会社ブイシンク、株式会社フロンティアワークス(五十音順)による共同プロジェクト。
[2] 音楽同位体 可不やバーチャル若大将で話題に CeVIO AI開発者に聞く、“声”を後世に残す音声創作ソフトの未来(リアルサウンド) https://realsound.jp/2022/11/post-1153357.html
CeVIO AI 青春系ソングボイス 双葉 湊音
全国のパソコンソフト取扱店、オンラインストア、ダウンロード販売サイトなどにて販売予定
■価格
スターターパック(パッケージ版)
¥20,680(税込)
ソングボイス(パッケージ版)
¥11,880(税込)
スターターパック(ダウンロード版)
¥19,580(税込)
ソングボイス(ダウンロード版)
¥10,780(税込)
■特典(全種類共通)
楽曲制作や動画制作に便利な、新規収録の音声素材ファイル集「双葉湊音プリセットサウンド」
簡単、気軽に作曲デビューを応援するインスト(楽器)ファイル集「ビギナーズラック・トラックパック」
■仕様
〇対応言語
日本語(英語歌詞対応)
〇対応OS
Windows 11 / 10 / 8.1 (64bit 日本語版または英語版)
〇企画・制作・製造・販売
株式会社ガソリンアレイ(Gasoline Alley Inc.)
「双葉 湊音」公式ティザーサイト
https://www.futabaminato.com/
Twitterアカウント
https://twitter.com/futabaminato
CeVIOプロジェクト公式ホームページ
https://cevio.jp/
株式会社ガソリンアレイについて
2021年設立。音楽を中心とした制作、マネジメント業務を行っております。
https://www.gasolinealley.jp/