
Aphex Twinがデザイン。サンプルを“別の音響的解釈で再構築する”無料マッシュアップソフト「Samplebrain」
90年代にデビューして以降、革新的な音楽性でエレクトロニックミュージックシーンに多大な影響を与えてきたプロデューサーのAphex Twinですが、近年は音楽制作機材にもその影響力が及んでいます。
Aphex Twinサウンドにインスパイアされた「AFX Mode」が追加されたNovationの人気モノフォニックアナログシンセ「Bass Station 2」や、同氏がマイクロチューニング機能のアドバイザーを担当したKORGのモノフォニック・アナログシンセ「monologue」などはその例と言えるでしょう。
そんなAphex Twinが、2022年9月末に独自に開発したサンプル・マッシュアップ・ソフト「Samplebrain」を発表し、大きな注目を集めました。
Samplebrainは、Aphex Twinのアイデアを元に、エンジニアのDave Griffithsが構築した“サンプルを別のサンプルで再構築する”ためのソフト。現在はGitLabで無料公開されています。
Samplebrainでは、サンプルを“block”と呼ばれる単位に分解し、それをさらに小さなセクション“brain”に切り刻み、類似性によってネットワーク接続。リアルタイムに再生します。これによって、あるサウンドが“別の音響的解釈”で再生されるという仕組みになっています。
Aphex Twinのブログによると、Aphex TwinとDave Griffithsは20年間にわたりSamplebrainの開発に取り組んでおり、アイデア自体はAphex Twinが「mp3が流行り始めた頃」である2002年に思いつき、同時期に登場した音楽検索ソフトのShazamにインスパイアされたものとのこと。
Aphex Twinは、当時Shazamについて、「単に楽曲を再生したりDJしたりするだけではなく、他の何かに使えるのではないか」と考えたことをきっかけにSamplebrainのアイデアを思いつき、その後、すぐにShazamの創設者に連絡を取ったようですが、当時のShazamは自動DJソフトの開発に忙しく、そのアイデアは実現することはありませんでした。そこでAphex Twinは自らSamplebrainの開発に着手。「Shazamはまだ何か信じられないくらい素晴らしいものに転用できると思うが、それまでの間、我々にはSamplebrainがある」と述べています。
またDave GriffithsはSamplebrainのネーミングについて「サンプルを送り込むことができる巨大な脳のようなものという、Richard(Aphex Twinの本名)が持っていたアイデアを反映したもの」と説明。同氏が創設したNGO団体「Then Try This」のサイトでは、Samplebrainについて以下のように述べられています。
「PC上にあるオーディオ・ファイルの一部分を使って、別のオーディオ・ファイルを再構築できたとしたら? アカペラや泡だった泥の音から、TB-303のリフを構築できたとしたら? バカげた曲を口ずさんで、それをクラシック音楽のファイルで再構築できたとしたら? “Samplebrain”ならそんなことが実行できます」
サンプルが合成により“別の音響的解釈”で再生されるという仕様は、いかにもAphex Twinらしい奇抜な発想と言えますね。音楽クリエイターにとっては、他の音楽制作機材では体験できないサウンドデザインを体験するチャンスでもあります。気になった人は一度試しにSamplebrainを使用してみてはいかがでしょうか?
Samplebrain
https://gitlab.com/then-try-this/samplebrain
文:Jun Fukunaga
【参考サイト】
Samplebrain | Then Try This
https://thentrythis.org/projects/samplebrain/
Aphex Twin launches free sample matching software, Samplebrain
https://crackmagazine.net/2022/09/aphex-twin-launches-free-sample-matching-software-samplebrain/