
「AudioLM」「Dance Diffusion」…音声分野にも進出するAI技術の波からクリエイターとの関係を考える
音源分離をはじめ、合成音声やマスタリングのほか、サンプル分類、ステムの組み合わせなど、音楽制作の分野においても現在はAIの活用が進んでいます。
そんな中Googleは、最近新たに「AudioLM」と呼ばれるAIを活用した音声合成システムを発表しました。
"AudioLM: a language modeling approach to audio generation", w/ @zalanborsos and colleagues.
— Neil Zeghidour (@neilzegh) September 8, 2022
AudioLM achieves high-quality and long-term consistency, from audio only. Meaningful speech w/o text, consistent piano w/o MIDI.
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AudioLMは、数秒間の音声で出されたプロンプト(利用者がコンピュータに文字で命令を打ち込んで操作するコマンドラインインターフェースにおいて、システムが入力を受け付けられる状態であることを示す短い文字や記号の並び)を実行した後、それに続けて自然な響きのスピーチや音楽を作り出すことができるという音声合成システムです。
MIT Technology ReviewはAudioLMについて、「ピアノ曲のような複雑な音や人の話し声など、プロンプトのスタイルに合った音声を、元の録音とほとんど見分けがつかないように生成することができ、将来的には動画向けの音楽の自動生成にも利用できる可能性がある」と評価しています。
Googleは、AudioLMがあくまで研究目的であり、現時点では広く公開する予定はないと強調しています。しかしこれが広く公開された際には、AIが生成した音楽コンテンツの著作権やその使用料についての議論が活性化することが予想されます。
AIが生成する創作物の取り扱いについては、イギリスのスタートアップ企業Stability AIが今年8月に公開したオープンソースの画像生成AI「Stable Diffusion」で生成された画像が商用利用可能とされたことに、日本でも大きな注目が集まりました。
現在の日本の著作権法においては、AIソフトウェアの生成に必要な著作物の利用行為(AIに学習させるためのデータの複製や翻案)について、原則として著作権者の承諾を行わなくても可能であるという権利制限規定が存在します。しかし、その解釈を巡ってはさまざまな議論があり、AIの活用事例が広がるにつれて、著作権の適用範囲が変化していくことも考えられます。
このことはAIの開発側にも認識されており、Stability AIが関わる「Harmonai」というプロジェクトによるオーディオ生成AI「Dance Diffusion」のベータ版が公開されたた際には、Stability AIが「Dance Diffusionの一部として公式にリリースされるモデルはすべて、パブリックドメインのデータ、クリエイティブ・コモンズのライセンスデータ、コミュニティのアーティストが提供したデータを機械学習の教材にしています」と声明を出すに至っています。
同声明では「私たちは今後もアーティストと協力しながら、さらなる許諾を得ることで学習データをスケールアップさせていきます」とも言われており、クリエイターと共存する道を模索しているように思えます。AIとクリエイターの関係と言うと「(AIにクリエイターの)仕事が奪われる」といったネガティブなイメージが先行しがちですが、今回紹介したような様々な事例を見ていくことで両者のより良い関係性を考えることもできるのではないでしょうか。
文:Jun Fukunaga
【参考サイト】
Google and Harmonai reveal their latest AI music models – Music Ally
https://musically.com/2022/10/10/google-harmonai-reveal-ai-music-models/
Google’s new AI can hear a snippet of song—and then keep on playing | MIT Technology Review
https://www.technologyreview.com/2022/10/07/1060897/ai-audio-generation/
Midjourney、Stable Diffusion、mimicなどの画像自動生成AIと著作権 | STORIA法律事務所
https://storialaw.jp/blog/8820